記憶と護れる強さを求めて   作:時代に遅れている

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第四話 果実の真実と彼岸花

攀花食堂での再会

約束通り次の日の朝攀花食堂に到着すると、熾霞が勢いよく店の中に駆け込み、大声で叫んだ。

 

「花さん!友達を連れて来たよ!小麺三つ、辛いのお願い!」

 

俺たちは熾霞に続き、席に着いた。すぐにテーブルには湯気の立つ熱々の小麺が運ばれてきた。

 

熾霞が満面の笑みで箸を握りしめる。

「だ・か・ら、朝食は出来立て熱々の小麺しか勝たん!このピリ辛、身に染みるな~!」

 

俺も一口食べてみたが、辛味がじわじわと舌を刺す。

「……ちょっと辛すぎるかな。」

 

漂白者は淡々とした声で答えた。

「そうか?ちょうどいい。好みの味だと思うが。」

 

「え?」と思わず俺は顔を上げた。漂白者がこういうものを楽しむ姿が意外だったからだ。

 

白芷の話題

食事が進む中、漂白者がふと白芷について尋ねた。

「そういえば白芷はどうした?」

 

熾霞が口元を拭きながら答える。

「白芷は昨日からずっと研究院に閉じ籠ってるみたい。データだの報告だの全部終わらないと会えないかもなあ。」

 

少し間を置いて、彼女が茶目っ気たっぷりに続けた。

「いや、超重要サンプルのアンタらなら話は別かも?研究院の入口に二人を縛り付けてさ、しばらく時間を置けば、あっという間に研究院に行列ができる!」

 

熾霞は笑いながら箸を振り回す。

「で、その列の先頭を見てみれば、二人の具合が気になって仕方がない白芷が並んでるってわけだ!」

 

漂白者が眉をひそめる。

「そうまでして来て欲しいわけじゃ……」

 

俺は腕を組みながら真剣な顔で言った。

「そうだなぁ。その案には俺も賛成する。」

 

漂白者が振り返りながら不審そうに俺を見る。

「おい……」

 

俺は漂白者を指さして宣言する。

「漂白者。貴様はモテすぎたのだ。ここで朽ち果てよ。」

 

漂白者が呆れた顔で俺に言い返す。

「作戦に乗るフリをして葬ろうとするのは辞めろ。」

 

秧秧がため息をつきながら口を挟んだ。

「もう……二人とも、それ以上はやめてください。」

 

熾霞は大笑いしながら手を振った。

「ごめんごめん。冗談だって!」

 

熾霞が箸を置き、唐突に話を振ってきた。

「そういえば昨日の話の続きで、マンゴスチンと葉っぱの方はまだだけど、飴玉と日時計についてはある程度わかったんだよね?」

 

俺は軽く胸を張りながら答える。

「まぁ俺たちにかかれば、こんなもん余裕だよ。」

 

熾霞は感心したように手を叩く。

「研究院に1回行っただけで2件も解決できるなんて……二人が冴えてるっていうか、令尹様はわざとわかりやすくしてる……?」

 

俺は返答に詰まりながら考えたが、漂白者の方に目をやると、奴は静かに葉っぱを手に取り、目を閉じて何かを感じ取っていた。

 

秧秧が漂白者に声をかける。

「漂泊者さん、次はどうしますか?」

 

しばらくして漂白者が目を開け、葉っぱを軽く撫でながら言った。

「白芷はこの葉っぱに残像の周波数が残っていると言っていた。……この葉っぱが示す場所は、祈池村だ。」

 

秧秧が驚きながらも地図を確認する。

「祈池村……中部台地の方ですね。」

 

俺は思わず呟いた。

「お前なんでも出来るんだな。」

 

漂白者は少し微笑んで肩をすくめる。

「人には得意不得意がある。お前にはお前の、俺には俺の得意分野がそれぞれある。」

「だから早期に病むな。」

 

俺は少し動揺しながら顔を伏せる。

「……なんか人間性で敗北した感がすごくて……」

 

その瞬間、頭の中で紅黒が大声で茶々を入れてきた。

『それはいつもだろ?』

『お前は黙ってろ!』

 

熾霞が俺の顔を覗き込みながら不思議そうに言う。

「どうしたの?陰風?」

 

「いや、なんでもない。」俺は苦笑いでごまかす。

 

祈池村へ行く準備

秧秧が地図を確認しながら提案する。

「じゃあまずはその祈池村に行ってみましょうか。でも……城外に出るには通行権限が必要ですが……」

 

漂白者が淡々と言った。

「それについては問題ない。令尹から通行権限をもらっている。」

 

秧秧が納得しつつも疑問を口にする。

「通行権限も何かのヒントなのかもしれませんね……城内には関所がないので、辺庭以外で通行権限が求められる場所はありません。ですが、城外に出るなら話は別です。」

 

熾霞が秧秧に手を振りながら笑う。

「なんか繋がった!?秧秧あんた凄すぎる!」

 

しかし、急に真剣な表情になり俺たちを見つめた。

「でも、城外に出るなら、あたしは一緒に行けなくなる。仕事があるからな。秧秧、二人のことは任せたぜ!用があってもなくても、いつでも連絡してくれて大丈夫だからな!」

 

俺はふと拳を握りしめながら言った。

「俺の体が求めている……戦い続ける歓びを……!」

 

漂白者が呆れたように俺を指差す。

「じゃあお前だけ残像狩りにでも行ったらどうだ?その分記憶を取り戻すのが遅くなるだけだが……」

 

俺は慌てて笑いながら手を振った。

「いやー冗談だよ。冗談。」

 

漂白者は小さくため息をつき、熾霞の方を向く。

「熾霞、安心していい。秧秧のことは俺たち二人で守り抜く。」

 

その言葉に俺は吹き出しそうになったが、秧秧の反応が予想外だった。彼女は顔を真っ赤にして下を向いている。

 

「……秧秧?顔が赤いよー」と熾霞がからかうように笑う。

「そ、そんなことはありません!」と秧秧は慌てて手を振る。

 

俺はその様子を見て静かに拳を震わせる。

「……グヌヌ……」

 

漂白者が不思議そうに俺を見て言う。

「どうした?」

 

俺は低い声で宣言した。

「いつか後ろから刺されて死ぬがいい……」

 

頭の中で紅黒が大笑いしている。

『小僧。お前って奴は……ホント、笑えるな!』

 

祈池村への準備完了

熾霞と別れた俺たちは、秧秧の案内で祈池村への準備を進めた。

 

 

俺たちは城門を目指して歩いていたが、途中で耳に妙な音が聞こえた。

 

「漂白者……聞こえた?なんか……人が悲鳴を上げてる気がするんだけど……」

俺が少し警戒しながら言うと、漂白者は呆れたように首を横に振った。

「どうしたらそれが悲鳴に聞こえるんだ?あれは訓練の掛け声だろう。」

 

秧秧が少し笑いながら説明を補足する。

「あの方向は……夜帰の訓練基地ですよ。新兵たちが厳彦教官の訓練を受けているのでしょうね。」

「厳彦教官……名前からして怖そうなんだけど?」

俺が訝しげに聞くと、秧秧は少し困った顔をしながらも続けた。

「たしかに、ちょっと厳しい方ですが……お二人でしたら、きっと大丈夫です。」

 

「いやいや、俺たちは訓練生じゃないんだから参加しないだろ。」

俺はそう言いながら軽く肩をすくめる。

 

城門に到着

城門に近づくと、いつもと雰囲気が違うことに気づいた。衛兵たちの目が鋭く、門の前で誰かが揉めているようだった。

 

秧秧が驚いたように呟く。

「城門の警備が一段と厳しくなったみたいですね。前に来た時はこんな感じじゃありませんでした。」

 

漂白者が視線を向けながら指を差す。

「あれを見てみろ。」

 

揉めている道士と衛兵

門の前では、一人の道士風の女性が衛兵に何かを訴えていた。

 

衛兵が腕を組み、申し訳なさそうに言う。

「この先は北落野原です。通行権限がなければお通しできません。」

 

道士は頭を下げながらも、毅然とした態度で答えた。

「貧道は共鳴者。腕にも多少自信がある。故に城外に向かい、人探しをする所存である。一度任されたからには、見つけるまでは帰れない。そこはどうか理解いただきたい。」

 

衛兵は申し訳なさそうに首を振る。

「例え共鳴者であっても、今はお通しできません。」

 

そのやり取りを見て、俺はぼそりと呟く。

「へぇ……本当に通行権限がないと出られないんだな。」

 

忌炎将軍について

そのやり取りの中で、衛兵たちの会話から気になる名前が出てきた。

「それに、北落野原には兵士たちと共に忌炎将軍がいます。将軍であれば必ずどんな困難も退けてくれるはずです。」

 

俺はその名前に興味を引かれた。

「忌炎将軍って誰だ?」

 

秧秧が目を輝かせながら説明を始めた。

「青龍を操って軍を率い、万軍を凌駕する勢いを持つ……それが夜帰軍の旗印、忌炎将軍の象徴です。」

 

漂白者が腕を組んで頷く。

「なるほど……それなら頼もしいな。」

 

俺は少し肩を落としながら呟いた。

「はぁ~……俺もこんな虎じゃなくて龍が良かったなぁ。」

 

紅黒との会話

すると、頭の中で紅黒が怒声をあげた。

『なんだと小僧!?俺じゃ不満だと言いたいのか!!』

 

俺は焦りながらも正直な気持ちを口にする。

『だって龍の方がかっこいいし……』

 

紅黒は低く唸りながら冷たい声を返してきた。

『試験をもう一度やるか?今度は本気でいくぞ?二度とあの空間から出られないようにしてやる。』

 

俺は慌てて手を振る仕草をしながら頭の中で叫ぶ。

『前言撤回!紅黒かっこいいよーヒュー!!』

 

紅黒は深くため息をついた。

『……はぁ。二度はないからな。』

 

漂白者が先に城門へ向かい、振り返りながら言った。

「何してるんだ?行くぞー。」

 

俺は慌てて彼の後を追いながら叫ぶ。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ~!」

 

城門では、衛兵と当番の兵士が険しい顔で俺たちを見つめていた。

 

当番の兵士が口を開く。

「それに、戦場は危険だ。通行権限も簡単には手に入るものじゃない……」

 

俺と漂白者は、瓢箪型デバイスを取り出し、通行権限を見せた。

もちろん、俺は悪い笑顔を浮かべながら。

 

当番の兵士は目を見開き、慌てて確認する。

「は、はい……確認しました……。」

 

衛兵が続けて尋ねる。

「三人で……間違いありませんか?」

 

漂白者が即座に否定する。

「いや。」

 

俺は道士の女性に向き直り、瓢箪を振って見せた。

「そこの女性、えっと……道士だっけ?とにかく、こいつの分も入れてやれ。」

 

女性は驚いたように目を丸くし、すぐに深く頭を下げた。

「ありがとう!この恩は決して忘れない!」

 

彼女は胸を張りながら名乗った。

「私は鑑心。どうぞよろしくお願いします!」

 

当番の兵士が混乱したように呟く。

「え……?」

 

俺は余裕の笑みを浮かべながら兵士に向き直る。

「どう?大丈夫だろう?」

 

衛兵はしばらく言葉を詰まらせてから答えた。

「最高レベルの権限なら……はい……大丈夫です。」

 

当番の兵士は小声で呟いた。

(というか、軍を率いていてもおかしくないレベルだな、これ……。)

 

冗談を交えた会話

俺は兵士の言葉を聞き逃さず、心の中でニヤリとした。

『軍を率いてもおかしくないか~。それなら俺も何人か兵を集めて軍でもつくろっかな~!』

 

すると、紅黒がすぐに否定する声を上げた。

『それは無理だろうな。』

 

続いて漂白者が冷静な声で言う。

「お前は突き進みすぎて兵を無駄に消耗しそうだし、誰も寄ってこないだろう。」

 

俺はムッとして声を荒げる。

「お前ら打ち合わせでもしたのか?」

 

紅黒は呆れたように笑った。

『お前がどれだけ変な奴かってことだ。自覚しろ。』

 

俺は深くため息をつきながら、ぼそっと呟く。

「俺の何がいけないんだよ……」

 

漂白者は微かに笑みを浮かべながら前を向く。

「全部だろうな。」

 

俺は悔しさを噛み締めつつ、無言で歩き始めた。

 

城門を出発

こうして俺たちは無事に城門を抜け、祈池村を目指して歩き出した。

 

鑑心は嬉しそうに俺たちに感謝の言葉を繰り返していたが、その道中も漂白者と紅黒の「俺いじり」はしばらく続くこととなった。

 

俺は密かに心に誓う。

『いつかこいつらを黙らせる方法を見つけてやる……』

 

 

城外へと向かう途中、鑑心が探している人について話してくれた。

 

秧秧が眉をひそめながら確認する。

「それってつまり……あなたは石崩れの高地にある夜帰の駐屯地で、退役した軍人のお孫さんを探したい、という事でしょうか?」

 

鑑心は軽く頷きながら答えた。

「秧秧殿の言う通りだ。」

 

俺は少し首を傾げながら問いかけた。

「その人とはどんな関係?」

 

漂白者がすぐに突っ込む。

「お前の聞き方、何か別の意図を感じるが?」

 

「気のせい、気のせい!」俺は軽く手を振りながら笑った。

 

鑑心は淡々と話を続ける。

「『致遠』という人物について、貧道もよくは知らない。ただ、山から降りる途中で彼の家族、宗業爺さんと出会ったのだ。当時、彼はお孫さんを探して道に迷っていた。」

 

彼女の話に秧秧が感心したように声を上げる。

「知らないお爺さんをわざわざ安全な今州城に連れていくなんて……道士さんは、やはりいい人ですね。」

 

鑑心は少し照れたように笑った。

「いや、宗業爺さんと今州城まで来られたのも、優しい人たちの助けがあってこそだ。」

 

俺は少しガッカリした気持ちになった。

「……そうか。」

 

漂白者がニヤリと笑いながら皮肉を飛ばしてくる。

「恋人か何かだとでも思っていたのか?そういうところだぞ。」

 

「うるせぇ!」俺はムッとして言い返した。

 

話が交錯する中での決断

秧秧が少し申し訳なさそうに言う。

「鑑心さんの人探しをお手伝いしたいところですが、私たちも自分たちのやらなければならないことがあって……」

 

鑑心は手を振りながら笑顔で答えた。

「心配ご無用!私は共鳴者だ。これ以上何かしてもらうわけにはいかないよ。」

 

俺は少し考えた後、大きく頷いた。

「じゃあ、俺が鑑心の人探しに付き添うから、お前らは二人で祈池村に行きなよ。」

 

漂白者が意外そうに俺を見る。

「いいのか?」

 

「嗚呼、今俺は散々お前にダメ出しされて疲れてるからな!少し離れたい!そこの秧秧と二人でランデブーしてこい!!」

 

秧秧が驚いたように俺を見つめ、小さく頭を下げる。

「陰風さん……ありがとうございます。」

 

漂白者は焦ったように振り返る。

「何がだ!?」

 

鑑心は俺に深く礼をしながら言った。

「ありがとう。また助けられることになりそうだ。それに君は気配りが出来るようだな。」

 

俺は肩を竦めてそっけなく答える。

「俺の気まぐれだ。気にするな。」

 

二手に分かれて

漂白者と秧秧が祈池村へ向かう道を進むのを見送りながら、俺は鑑心に向き直る。

「さて、じゃあ致遠ってやつを見つけに行くか。」

 

紅黒が俺の心に話しかけてくる。

『小僧、珍しくカッコつけてるじゃねぇか。でも……あの二人だけにしておくと、色々進展がありそうだな。』

 

俺は心の中で紅黒に言い返した。

『お前も思うか?あいつら、案外いい感じになりそうだよな。』

 

紅黒が笑い声を上げた。

『フハハ、今度はお前が茶化す側かよ。まぁ、御者さんには妻みたいな奴いるけど……さて、それよりも……道士の付き添い、しっかりやれよ?』

 

『ああ、分かってるよ。』俺は紅黒の言葉に少し疑問を抱いたが深く息をつき、気を引き締めて歩き出した。

 

 

俺たちは鑑心とともに偵察装置のある地点へと向かっていたが、道中で出会った夜帰兵士から、鑑心が探している人物「致遠」についての情報を聞くことができた。

 

「致遠……あいつは正規の軍人じゃないのに、戦場に参加したがる厄介なやつでな。去年から密かに輸送隊についていったことが何回かあった。で、伏波営の軍需官に連れられていったんだ。今、城内にいないなら、おそらく伏波堂の駐屯地にいるはずだ。」

 

だが、夜帰兵士は険しい顔で言葉を続けた。

「そこから先は戦場だ。それ以上は行かないでくれ。一般人を危険にさらすわけにはいかない。」

 

俺たちは礼を述べ、偵察装置の確認も頼まれたため、そちらに向かうことにした。

 

偵察装置の異常と不審者たち

偵察装置に近づくにつれ、人影が増えてきた。妙に落ち着かない様子の平民たちが何かをしているのが見える。

 

鑑心が一歩前に出て問いかける。

「失礼、ここで何をしている?戦場の近くは危険だ。」

 

平民たちは顔を見合わせるが、落ち着かない様子で言い訳を始めた。

「お、俺たちは何も……ただ、城内に戻ろうとしてたところだ……。」

 

俺は眉をひそめ、冷たい声で指摘する。

「とぼけるな、俺が気づかないとでも?」

 

 

その瞬間、不審者たちは目を見開き、突然逃げ出した。

 

「逃げるぞ!」

 

「おい!待て!」俺は声を上げ、漂白者と秧秧を振り返らずに追いかける。

 

平民たちの告白と盗賊の襲撃

追い詰められた平民たちは、ついに観念したように立ち止まり、疲れ切った様子で地面に座り込んだ。

 

「もう……無理……お腹ペコペコだ……。」

「許してくれ!でも、俺たちにはもう盗むしか方法がなかったんだ!」

 

鑑心が静かに問いかける。

「何があった?」

 

平民?たちはしどろもどろに説明を始める。

「最近、北部の戦況が厳しいんだ。物資が減って、生きるのもやっとだ。俺たちは腹が減りすぎて……たまたまここで備品を見つけて、それを金にしようと思って……。」

 

鑑心は険しい顔で偵察装置を指差した。

「偵察装置が機能を失えば、ここに残像潮が発生する可能性が高まるぞ。それがどれだけ危険なことかわかっているのか?」

 

「知ったこっちゃねえよ!」平民の一人が吐き捨てるように言った。

「残像潮が来る前に死んじまいそうだったんだよ!」

 

鑑心は静かに手を差し出した。

「盗みは許されない。だが、今州城までまだ距離がある。この鍋魁と食べ物、少しの金を渡そう。それで城までたどり着け。」

 

平民たちは目を丸くし、やがて震える声で礼を言った。

「これ……全部?あ、ありがとうございます……!」

 

だが、その場を立ち去ろうとした時、平民?たちが後ろから迫った。

 

「危ない!」俺は迅刀を抜きながら叫んだ。

 

 

平民を装った盗賊が武器を手にこちらに襲いかかってきた。

 

鑑心は冷静に構え、太極拳と風儀拳の構えを取る。俺は迅刀を片手に盗賊たちを迎え撃つ準備をした。

 

盗賊のリーダーらしき男がニヤリと笑う。

「なかなか手強そうだな。だが、こっちは数が多い。貴重品と食べ物、全部置いていけ!」

 

鑑心は鋭い声で答えた。

「不義にして富み目つ貴きは浮雲の如し。義理を通さぬ者に未来はない。」

 

盗賊たちは一斉に襲いかかってきた。だが、鑑心の拳は驚異的な速度で相手を叩き伏せ、俺も敵を圧倒した。

 

リーダーの盗賊が息を切らしながら後退する。

「降参だ……もうやめてくれ……!」

 

鑑心は構えを解き、冷静に見下ろした。

「貧道は食べ物も金も渡した。それなのに、なぜこのような真似をする?」

鑑心がじっと彼らを見つめる。

「それにしても……今の動き、そしてその服装……あなたたちは本当に一般人なのか?」

 

年長の追放者は苦笑を浮かべながら手を振った。

「立派な一般人だよ。ただの追放者ってだけだ。街を出て巡尉から逃げようとしたが、北部での戦闘があんなに激しいなんて知らなかった。」

 

「結局、ボスの貯金も空っぽだ。食い物も尽きちまって……だから街に戻ろうとしてたんだが。」

 

臆病な追放者が話を引き継ぐ。

「でも、その途中で食い物も金も尽きて……それで、仕方なく盗みに走っちまった。」

 

「駐屯地に誰もいなかったから、軍の物を盗む度胸もついたってわけさ……でもな、これ以上どうしようもねえんだよ!」

 

俺が少し前に出て言う。

「物資なら少しあるが……」

 

だが、鑑心が手を挙げて俺を制した。

「待て。先ほど貧道が渡した物資で、今州城まで持ちこたえられるはず。人数を考えても、最低限は足りる。」

 

年長の追放者が不満げに声を荒げた。

「なんだよそれ!お前ら、物資に困ってるわけじゃねえんだろ!もっとくれてもいいじゃねえか!」

 

鑑心は目を細めながら静かに言葉を紡ぐ。

「欲は苦しみをもたらし、満足は富をもたらす。貧道ができるのは、あなたたちが無事に街へ戻るための最低限を渡すことまでだ。」

 

臆病な追放者が苛立ちをあらわにする。

「嬢ちゃん、知らねえだろうけど、今じゃ金も稼ぎにくいんだ。もし街に行って仕事が見つからなかったら、マジで大変だぞ……!」

 

鑑心の提案

その言葉に、鑑心が微笑みながら返す。

「貧道も似たようなものだった。山を下り、辛うじて今州にたどり着いた後、一から勉強し仕事を学んだ。それでも何とかなったんだ。」

 

「あなたたちには、経験も知識もある。だからきっとできる。」

 

「それでも生活に困り、仕事を求めるのなら、六義茶屋を訪ねてくれ。貧道を頼ってきても構わない。」

 

追放者たちはしばし沈黙していたが、やがて年長の追放者が頭を掻きながら言った。

「……ああ、わかったよ。もうこれ以上、こんなことはしねえよ。」

 

臆病な追放者が小声で続ける。

「ありがとうよ……」

 

盗品の返却

だが、鑑心は鋭い目で彼らを見据える。

「待て、盗んだ物を返すんだ。」

 

年長の追放者が苦笑いを浮かべながら荷物を返す。

「覚えてやがったか……はいよ、これでいいだろう。」

 

「街へ戻るまで、どうか気をつけてな。」

 

追放者たちは足早に立ち去っていく。その背中を見送る俺たちの中で、鑑心がぽつりと呟いた。

「貧道は説教をするつもりはなかったのだが……」

 

俺は肩をすくめた。

「まぁ、説教だと思うなら、それだけで十分伝わったってことだろ。」

 

俺たちは足を揃えて歩き出し、伏波堂の駐屯地を目指すことにした。

 

 

駐屯地に着いた俺たちは、鑑心が指差した先にいた駐屯地の管理人らしき人物に近づいた。目の前では物資が忙しなく運ばれており、指示を飛ばしている女性が見える。

 

管理人との会話

 

鑑心が声をかける。

「失礼、ここで何かお困りのようですね?」

 

管理人は少し苛立った表情で振り返る。

「どちら様でしょうか?もしかして、増援の方ですか?」

 

俺はデバイスを見せ、通行権限を証明する。管理人はそれを見て目を細めた後、軽く頭を下げた。

「申し訳ありません、疑ってしまって……最近の状況が状況なもので……」

 

鑑心は首を振る。

「気にすることはない。我々は突然現れたのだから、当然だろう。」

 

その時、管理人のポケットから通信機が鳴る。

「失礼。」

 

彼女は通信機を耳に当てて話し始める。

「オーバークロックした共鳴者がいる?……わかりました、すぐに向かいます。」

 

通信を終えると、彼女は俺たちに視線を戻した。

「すみません……急なお願いなのですが、負傷者たちの世話を手伝っていただけませんか?」

 

負傷者の世話を頼まれる

 

「負傷者?」俺は聞き返す。

 

「はい。私は今からオーバークロックした共鳴者の対応に向かわなくてはなりません。その間、到着した負傷者たちの安全を確保していただけると助かります。」

 

鑑心は少し考えてから頷いた。

「具体的に何をすればいい?」

 

管理人は簡潔に説明する。

「治療は医療担当者が行います。あなた方には、混乱を防ぎ、彼らの安全を確保することをお願いしたいのです。」

 

俺は少し考えた後、心の中で紅黒に問いかけた。

『なぁ、怪我って……空間の時間操作で治せたりしないか?』

 

紅黒は短く答える。

『出来なくはないが、やめておけ。その力を使えば、目つけられてお前はここに縛られることになる。その能力は大事なお仲間にだけ使え。』

 

……やれやれだ。

「わかった、安心して任せろ。」

 

管理人はほっとした表情を浮かべ、軽く頭を下げた。

「ありがとうございます。」

 

負傷者の世話を始める

 

負傷者が到着し始める。何人もの兵士たちが担架に乗せられ、次々と運ばれてきた。中には血にまみれた者もいる。

 

「鑑心、行くぞ。」俺は声をかける。

 

鑑心は周囲を見回しながら呟く。

「軍隊というのはこんなにも忙しいのか……。息をつく暇もない。」

 

管理人が立ち止まり、振り返る。

「物資、医療、点検、人手、管理……後方の綿密なサポートがあって、ようやく前線が機能しているのです。」

 

鑑心は頷いた。

「なるほど……戦場というのはこれほど厳しい場所だったのか……知らなかった。」

 

管理人は少し微笑んだ。

「それを知る機会がないのが普通です。気にしないでください。それに、人々が心配や恐れを抱かず安心して生活できるようにするのも、軍隊の役割ですから。」

 

次の行動へ

 

負傷者たちの世話が一段落したところで、管理人はオーバークロックした共鳴者の対応に向かうため、俺たちに短く礼を言い、去っていった。俺と鑑心は、一旦その場を離れ、次の行動を話し合うことにした。

 

 

 

負傷者たちとの交流

強がりな負傷者:穂禾(スイカ)

 

目の前では、腕に深い傷を負った男――穂禾が、衛生兵に押さえつけられながらも暴れ回っていた。

 

穂禾:「だからこんなのかすり傷だって言ってんだろ!俺は戻る!」

鑑心が落ち着かせようと声をかける。

鑑心:「穂禾殿、出血が止まっていません。無理をしないでください。」

 

しかし、彼の態度は変わらない。

穂禾:「大したことねぇ!俺の共鳴能力は自分で傷口を癒すんだ。ただ今回は少し時間がかかるだけだ!」

 

衛生兵が俺たちに助けを求める。

衛生兵:「お願いです、この人を押さえてください!」

 

鑑心が手を伸ばそうとしたが、穂禾がさらに暴れ始める。仕方なく俺は素早く近づき、首筋に軽くチョップを入れた。

 

穂禾:「……なん、だ……と……。」

 

彼はその場で崩れ落ち、静かになった。衛生兵がすぐに駆け寄り、治療を始める。

陰楓:「強がるのもいいが、体を壊しては意味がねぇだろうが。」

 

病弱な負傷者:昕字(キンウ)

 

別の担架に横たわる昕字のところに足を運ぶ。彼の呼吸は荒く、顔色も悪い。

昕字:「……はぁ……はぁ……少し、息苦しいだけで……。」

 

俺は眉をひそめる。

陰楓:「全然大丈夫そうには見えないぞ。」

 

鑑心も心配そうに彼の顔を覗き込む。

鑑心:「医者を呼んでくる。」

 

衛生兵を連れて戻ってきた鑑心が、昕字の状態を説明すると、すぐに治療が始まった。

 

衛生兵との会話

 

負傷者の治療が一段落ついた頃、衛生兵が俺たちに礼を言う。

衛生兵:「本当に助かりました。ありがとうございます。」

 

鑑心が負傷者たちを見渡しながら言う。

鑑心:「酷い怪我だ……これが戦場の現実なのか。」

 

衛生兵は苦笑しながら答える。

衛生兵:「今の夜帰軍はずっと良くなったんですよ。忘将軍が制度を改正してから、負傷者の数も大幅に減りました。昔はもっと酷かったそうです。」

 

彼女の言葉に耳を傾けながら、俺は静かに呟いた。

陰楓:「皆、讃えるべき英雄だ。」

 

衛生兵:「そうですね。一つ一つの傷が、たくさんの敵を倒した証なんですから。」

 

軍需官の居場所を尋ねる

 

話が終わりかけた頃、鑑心が衛生兵に質問する。

鑑心:「一つだけ伺いたい。軍需官はどこにいる?」

 

衛生兵は少し考えた後、指を差した。

衛生兵:「軍需官なら、ここの上層部で調度品の配給をしています。そこのエレベーターを使って上に行ってください。」

 

鑑心が持っていた小さな紙片を渡す。

鑑心:「これは道観で使われている栄養補助のレシピだ。負傷者の回復に役立つかもしれない。」

 

衛生兵は驚いた表情で受け取った。

衛生兵:「ありがとうございます……!」

 

軍需官を探す

 

エレベーターに乗り、上層部へと向かう俺たち。到着すると、忙しなく指示を出す人物が目に入った。

 

伏波駐屯地軍需官:「在庫の確認は?備品リストは?消耗品の集計は終わったのか?……通信経路の点検もまだだろう!」

 

部下たちは必死に応えながら作業を進めているが、彼の苛立ちは収まらない様子だ。

軍需官はこちらに気づき、少し訝しげな顔をする。

 

伏波駐屯地軍需官:「あんたたちは何者だ?何か用事でも?」

 

俺は軽く頷いて答える。

陰楓:「ああ、少し話を聞きたいだけだ。」

 

次は軍需官との対話だ。彼が探している情報が俺たちに何をもたらすのか……。

 

 

 

 

鑑心が人探しの件を説明する間、俺は伏波駐屯地軍需官の話に耳を傾けた。

 

伏波駐屯地軍需官:「今州は瑝瓏の関所……そしてここ『石崩れの高地』は今州の二番目の関所です。ここを守るということには、それ以上の意味があります。」

 

軍需官の表情には厳しさが宿り、まるでその重責を背負った者特有の疲労感を感じさせた。

伏波駐屯地軍需官:「残像は人間とは違う。やつらに交渉や休戦は通用しません……だから、残像が存在する限り、戦いが終わることはないでしょう。」

 

鑑心は少し神妙な顔をして頷く。俺もその言葉の重さを感じながら、話を続ける。

 

陰風:「果てしない戦争か……。それを支えるのがあんたたちの仕事だってことか?」

 

伏波駐屯地軍需官:「その通りです。果てしない戦争を前にしたとき、それに相対する軍隊を支える――それが我々の役割です。補給、物資の管理、そして負傷者の治療……。すべてが戦場の生命線となります。」

 

軍需官の話を聞きながら、俺はふとポケットに手を入れて例のマンゴスチンを取り出した。

 

陰風:「少し話はズレるかもしれないが、このマンゴスチンについて何か知ってるか?」

 

俺の言葉に、軍需官は少し考え込むような仕草を見せた後、答えた。

 

伏波駐屯地軍需官:「その果物について直接的な知識はありませんが……もし関係があるとすれば、手榴弾の話をしてもいいでしょう。」

 

陰風:「手榴弾?」

 

伏波駐屯地軍需官:「数十年前、悲鳴によって全世界が技術劣化と資源不足に陥ったとき、古い兵器が多く使われていました。手榴弾もその一つです。当時は黒石武器の開発も進んでいましたが、人々の黒石に対する認識がまだ不十分だったため、過去の兵器と黒石を融合させたものがたくさん作られたのです。」

 

伏波駐屯地軍需官:「今では黒石武器の研究が進み、こういった古い兵器の出番も大幅に減りましたが……戦場では何が起こるかわかりません。古いものが突然役立つこともある。」

 

俺はマンゴスチンを見つめながら、軍需官の言葉を反芻した。果物と手榴弾……直接的な繋がりがあるわけではなさそうだが、どうやらこの果物にも戦場にまつわる過去が隠されていそうだった。

 

鑑心が話を戻すように軍需官に尋ねる。

鑑心:「軍需官殿、致遠という人物について何か情報は?」

 

伏波駐屯地軍需官は頷き、少し考えた後に答えた。

伏波駐屯地軍需官:「ああ、その名前には覚えがあります……」

 

話は、致遠の行方を追う方向に移っていく。

 

 

鑑心に人探しの進捗を聞くと、穏やかな笑顔で語り始めた。

 

鑑心(カンシン):「致遠殿を見つけました。彼は伏波の物資輸送隊に同行し、これから城内に戻って宗業爺さんのところへ帰るつもりのようです。」

 

陰楓:「……でも彼は、本当に帰りたかったのか?」

 

俺の問いに、鑑心は少し間を置いてから答えた。

 

鑑心(カンシン):「致遠殿は純朴な心の持ち主です。祖父である宗業爺さんの影響を受け、彼もまた軍のために何か力になりたいと考えているのです。」

 

鑑心(カンシン):「ですが、漂泊者殿や秋秧殿と道中見聞きしてきたからこそわかる。今この瞬間も目の前に広がる戦場は、これまでに見たどの光景よりも過酷な場所だ……。」

 

鑑心の瞳には、戦争の悲惨さに対する深い憂いが映っていた。

 

鑑心(カンシン):「『下の道は、森にある。中の道は、街にある。上の道は、戦にある』……容文師匠はそう教えてくれました。致遠殿の考えも、理解できるのです。」

 

陰楓:「……けど、時にはその純粋な思いが他人の負担になることもある。彼の居場所は、ここじゃない。」

 

鑑心は静かに頷き、続けた。

 

鑑心(カンシン):「致遠殿は夜帰に加わるために訓練や試験を受けるべきではない、戦場では共鳴者かどうかは関係ない……そう言っていました。」

 

陰楓:「なるほどな。それでお前はどうしたんだ?」

 

鑑心(カンシン):「貧道は、師匠の教えを思い出しました。貧道が道観で学んでいた頃、師匠は試練としてよく組手をしてくれたのです。」

 

陰楓:「おいおい、殴り合ったのか?意外とお前って拳で語るタイプなんだな。」

 

鑑心(カンシン):「いえ、殴り合いではなく……師匠が組手を通じて教えを説いたように、貧道も致遠殿にその意味を伝えたかったのです。」

 

少し苦笑いを浮かべながら鑑心が続けた。

 

鑑心(カンシン):「陰風殿、貧道は勝つべきだったのでしょうか。それとも負けるべきだったのでしょうか?」

 

陰楓:「勝利こそ正義だ!」

 

鑑心(カンシン):「『虚にして屈せず。動けばいよいよ出づ。多言なればしばしば窮し、中を守るにはしかず』……確かにその通りですね!」

 

鑑心は笑みを浮かべたが、すぐに少し落ち着いた表情で話を続けた。

 

鑑心(カンシン):「ですが、貧道の意図はすぐに見破られてしまいました。」

 

鑑心(カンシン):「組手の後、致遠殿は共鳴者と一般人の差を身をもって理解しました。自分が戦いで役に立つという理想が机上の空論だと悟ったようです。」

 

鑑心(カンシン):「自分にできることがあったとしても、それはただ自分に言い聞かせるための暗示に過ぎない、と。敵を倒すには、まず自分が強くならねばならないと。」

 

鑑心は深く息をついてから微笑んだ。

 

鑑心(カンシン):「陰風殿、後ほどお時間があれば、六義茶屋を訪ねてください。貧道はあなたに助けられたこと、生涯忘れません。」

 

陰楓:「お前、ちょっといい奴すぎるぞ。」

 

鑑心(カンシン):「そんなことはありません。ただ、道観の教えに従っているだけです。」

 

鑑心はそう言って、深々と一礼をした。その礼儀正しさに俺も思わず背筋を伸ばす。

 

鑑心と別れた俺は考えを整理させていた。

陰風……

残像との戦争、マンゴスチン、そして今州の歴史……いろいろと見えてきたな。

 

紅黒『だが、小僧。御者様と別れてから、お前妙におとなしいよな?暴れねぇなんて、らしくねぇじゃねぇか?』

 

陰風『あのな~俺だって空気を読むんだよ!セーブする奴らがいない時には真面目にもなるんですゥゥゥ!』

 

紅黒『……そうかい。まぁ、その調子で頼むぜ。』

 

俺は心の中で紅黒を軽くあしらいながら、ふと立ち止まった。

 

陰風『さてと……そろそろアイツらのランデブーも終わった頃じゃないか?漂白者と秧秧、何やってんだろうな。』

 

デバイスを取り出し、漂白者に連絡を取ってみる。

 

――ツーツー。

 

陰風『あれ、出ない……』

 

再びデバイスを操作し、もう一度コールする。

 

――ツーツー……。

 

陰風『……おいおい、どうした?お前が俺の呼び出しを無視するなんて珍しいな。』

 

3度目のコール。しかし、またしても応答はない。

 

陰風『……嫌な予感がするな。』

 

俺の胸の奥に、嫌な感覚が湧き上がる。漂白者が連絡に応じないなんて、普通じゃない。

 

紅黒『おい、小僧。さっきまで散々ヘラヘラしてたくせに、急に真顔になってどうした?』

 

陰風『紅黒、すぐに俺たちで動くぞ。漂白者に何かあったかもしれない。』

 

紅黒『……お前、やけに素直だな。分かった、ついていくぜ。』

 

俺はデバイスを握り締め、漂白者と秧秧の向かった祈池村の方向に全力で走り出した。

 

 

俺は祈池村に近づくにつれて、残像の数が徐々に増えてきているのを肌で感じたが、そのたびに迅刀を振るい、敵を次々と切り伏せていった。

 

紅黒の力を使うまでもない――それに、あまり人目につく場面で見せたくないのもある。だから俺の剣だけで十分だった。

 

だが、倒しているうちに違和感を覚えた。

 

陰風「……なんだコイツら?なんでこんな連携してくんだ?」

 

意思も理性もないはずの残像たちが、妙に統率された動きを見せる。互いに補い合うように攻撃してきたのだ。

 

陰風「……面倒くせぇ!!」

 

考えを振り払うように、俺は周囲に誰もいないのを確認し、空間操作の能力を発動させた。歪ませた空間が辺りの残像を一掃する。

 

陰風「雑魚が何体いようが、一緒だっつーの。」

 

剣を収め、再び走り出そうとしたその時だった。

 

倒れた残像の一体に目を奪われた。

 

陰風「……彼岸花?なんだよコレ……残像にこんなもんが?」

 

倒した残像の身体から、赤い彼岸花が生えていた。

 

「まさか、面白そうな役者がここにもいたなんて……」

 

突然、柔らかい声が響いた。

 

咄嗟に声のした方を振り返ると、そこには赤い衣服を纏い、手に彼岸花を持つ少女が立っていた。彼女の雰囲気は異様で、まるで残像そのもののような不気味さを纏っている。

 

陰風「おい、漂白者たちはどこだ?」

 

彼女は少しだけ微笑み、彼岸花をゆらりと揺らした。

 

???「彼は今、私の同僚と祈池村で遊んでるわ。私はその遊びを邪魔させないようにするのが役目なの。多分、あなたの一緒にいた女の子は彼を助けようとしてるでしょうけど……力が足りなくて困ってると思うわよ?」

 

陰風「……そこをどけ。命は取らない。」

 

彼女は軽く肩をすくめ、笑いを含んだ声で言った。

 

???「残念だけど、それは無理な相談ね。あなたにはもう少し私と踊ってもらわないと困るわ。」

 

そう言うと、彼女は持っていた彼岸花を掲げた。瞬間、辺りの地面から無数の残像が湧き始めた。

 

湧き出した残像たちは、一斉に俺を取り囲むように配置を取り、薄暗い空間の中で異様な存在感を放っていた。まるで理性を持った生物のように、じりじりと距離を詰めてくる。

 

陰風「……なるほどな。踊れって言ったのはそういうことか。」

 

俺は剣を握り直し、目の前の赤い衣服の少女を睨みつけた。

 

 

――この戦いの先に何が待っている?漂白者たちは無事なのか?そして、この赤い衣服の少女の目的は?

次回に続く

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