何処ぞの空間………
中央に穴が開いた円卓が置かれ、椅子が六つ配置されており、椅子には既に二人が座っている。
一人は黒色のコートと長ズボン、白いリボン製のシャツとベストを着用。
白い手袋を付け、茶髪にトップハットを被りモノクルを掛け蝶ネクタイを付けた、まさに“英国紳士”に相応しい風貌の男性である。
もう一人は金髪にフリジア帽を被り、白のシャツにベージュ色のトラウザーズといったフランス革命時の庶民の服装をした男性だ。
二人ともこの空間に来てから相当待たされている為、英国紳士風の男は本を読んで時間を潰しており、フリジア帽の男は腕を組んで苛立ちを隠そうとしない。
「…アイツから緊急招集とは何事なんだ?」
「フリードリヒにはよくある事だよ、ガスコーニュ君。人を呼びつけるのが好きなんだろうね。」
そんなやり取りをしていると、二人会場に入ってくる。
一人目は寒冷地仕様の厚いコートを羽織っており、軍用のブーツに加え頭にウシャンカを被っている。
二メートル越えの身長に屈強な体つき、鋭い目付きが印象的な男性。
二人目は黒い帽子に黒のコート、緑色のベストに赤のスカーフとズボンを着用し、オレンジ色の髪が特徴的な男性。
彼らが空間に入ってくる事に二人は気付く。
「おや、ソユーズ君にインペロ君。」
「…ソビエツキー・ソユーズ、只今現着した。」
「やれやれ、フリードリヒからの呼び出しか…折角ソユーズとの
鍛錬…インペロ(オレンジ色の髪の男性)が言う鍛錬とは、ソビエツキー・ソユーズ(ウシャンカを被った男性)との一対一の戦闘訓練…それもシミュレータでは無く、実際に艦を用いての戦闘訓練である。
無論その戦闘訓練において手を抜く事は無く、超重力砲やミラーリングシステムなどをふんだんに使う為、訓練場となった海域では訓練の余波で異常気象が多発する程激しいものであり、稀に双方とも大破する事もあるので、無人機などで偵察しに来た人類陣営はともかく味方すらドン引きする有様である。
それはさておき、二人が来たものの一向に彼らを呼び出した本人が現れない。
フリジア帽の男性…ガスコーニュがますます苛立ちを募らせる。
「…ったく、呼び出しておいて遅れるとはどう言う了見だ?」
「偉そうに遅れてくるのもいつもの事だよ。とりあえず待とうか。」
英国紳士の男…インヴィンシブルがそう言ってしばらくすると、ナチス親衛隊士官服に身を包んだ男性…『フリードリヒ・デア・グロッセ』が入ってきた。
「皆さん、集まってますね。」
「やぁ、フリードリヒ君。我々が集められたという事は、余程の事が起きたのかな?」
インヴィンシブルの言う通り、彼らは霧の艦隊が誇る切り札…『万能戦艦』であり、その力は一隻だけも超戦艦ヤマト型を凌ぐ程の性能がある。
故に単独行動が多く、彼らが概念空間にて集まる会合…通称【円卓会議】が行われるのが非常に稀であり、余程の事が無い限り集まることは無い。
「まずはこれを見て下さい。」
そう言ってフリードリヒはいくつかの映像を出す。
そこには南極に存在した霧の艦隊の要塞基地が所々燃えている光景だった。
地獄絵図とも言える光景に一瞬言葉を失う万能戦艦達だったが、ある映像に彼らは衝撃を受けた。
それは左舷側が大きく抉れ、三基ある主砲の内二つが完全に破壊された万能戦艦…モンタナの残骸が海底に横たわっている様子だった。
驚く彼らを他所にフリードリヒは説明を続ける。
「ご覧の通り、南極の要塞にて調整中の万能戦艦【ラゴウ】が突如として起動、こちらのコントロール化を外れ施設を破壊し脱走、苦肉の策として同要塞にて謹慎処分中であった万能戦艦【モンタナ】を起動し迎撃に向かわせたものの、激戦の末モンタナは大破、ラゴウは損傷したものの北上し逃走しました。」
「…なるほど、確かに我々を召集するに値する事態だね。」
「…それでラゴウの場所は分かったのか?」
ソユーズの質問にフリードリヒは首を横に振る。
「つまり、脱走艦の始末が俺達の仕事か。」
「その通り。只今を持って警戒レベルを一段階引き上げ、各艦ごとに当てられた海域を監視、ラゴウを発見次第追撃せよ。」
フリードリヒの命令に各艦は頷く。
そのまま彼はソユーズとインペロの方を向く。
「…それとソユーズにインペロ。今後は鍛錬を全面的に禁止。やるにしてもシミュレーションのみにしなさい。」
「了解した。」
「やれやれ、鍛錬出来なくなるのは残念だが、ラゴウか……骨のある奴ならいいけどさ。」
ソユーズは了承し、インペロも鍛錬が出来なくなる代わりに同じ万能戦艦であるラゴウとの戦いに思いを馳せた。
「それではよろしく頼みます。ムサシ様には私から報告しますので。」
そう言うとフリードリヒは退出した。
「…フン、ムサシ様…か。彼女には敬語で話すくせに俺達にはそんな態度か。」
「まあまあ、彼はああ見えても霧の艦隊のナンバー2だからね。上に対する最低限の礼節は弁えているよ。」
この会話を皮切りに彼らは次々と退出していく。
その頃、モンタナを退けたラゴウは北上しながら隠れる場所を探していた。
「くっ…何とか退けたけど、このままじゃ……」
モンタナを倒すことに成功したラゴウであったが、ラゴウも三基の主砲の内一つが破壊され、左舷側に大きな穴が空き、艦首のカッターや両舷の回転式カッターも破損しており、とてもじゃないが戦闘を継続できる状態ではない。
彼は霧の艦隊の追撃から逃れるため、また傷ついた船体を修復するために何処か隠れる場所を探していると、海底にラゴウが入れる空洞が見つかった。
「ここに隠れよう…!」
そう言うとラゴウは空洞へと入っていき、しばらく進んだのち着底した。
「よし、ここなら……休める。」
するとラゴウは眠くなってしまう。
モンタナとの激戦でガタが来ているのだ。
「一休み…したら……とりあえず…クルーを……集めて…それから………」
こうしてラゴウは眠った。
そして空洞は不思議なことに何も無いようにカムフラージュされ、彼が眠る間見つかることは無かった。
まるで“女神”にでも守られてるみたいに………
北極海、地球温暖化の影響により全ての氷が溶けて海面が露わになった永遠の冬の世界。
そこに多数の軽巡洋艦群の他に2隻の船が並んでいた。
1隻目は黒い艦体に金色の砲門、艦体に走るオレンジ色の光の線に艦首のイデア・クレスト…霧の艦隊総旗艦代理の超戦艦【ムサシ】
2隻目はムサシより一回り大きい灰色の艦体に艦首のドリル、一際大きい連装砲を四基備えた霧の艦隊総旗艦代理秘書艦にして霧の万能戦艦【フリードリヒ・デア・グロッセ】
「…報告は以上です。」
「…そう。」
黒い衣服に銀髪の少女【ムサシ】と黒いサングラスをかけた男性【千早翔像】が秘書艦であるフリードリヒからの報告を聞いていた。
報告を聞き終わった彼女は海を見る。
目は閉じているとはいえ、その表情には悲しみを宿していた。
「…そういえば今日が千早翔像様の命日でしたね。」
そう、彼の言う通り千早翔像は既に死んでおり、今いるのはナノマテリアルで作った人形のようなものである。
何故このような事になったのか、彼女は当時の悲劇を回想する………
霧の艦隊が現れ始めた西暦2039年、当時潜水艦の艦長だった千早翔像…いや【お父様】は巧みな戦術により霧の艦を同時討ちで2隻沈めるという大戦果を上げた。
その事に興味を覚えた私とヤマト、シナノはメンタルモデルを作り、彼と接触。
当初は緊張していたものの、私達を攻撃・否定するような気配は見せず寧ろ受け入れてくれた。
お父様との接触によって、『家族』という概念など色々な事を学び、私達はいつしか彼を【お父様】と呼び慕っていった。
だが、突如として悲劇が訪れた。
霧との和解を快く思わない軍人の裏切りによりお父様が殺されたのだ。
しかもその相手が今までお父様を支えていた筈の副長であった。
『…霧に寝返るとは、薄汚い裏切り者が!』
副長は死んだお父様を見下しそのように罵った。
ーー何でお父様が死ななくちゃいけなかったの…?
ーー何で…何で…!
その瞬間から私は変化を否定し人間を憎むようになり、霧の艦隊を掌握して人間に対し報復に出ようとした。
それをお父様を失っても尚変化と人間を好んでいたヤマトに阻まれた為、沈めるべく攻撃を開始した。
「ヤマト、あなたが言うことを聞いてくれないから……だからあなたを沈めて私がアドミラリティ・コードの代弁者になる。」
「一人ではダメっ!私達は一緒にいないといけないのに、どうして…!」
「私は、この受け入れ難い感情とやらを打ち消す為に…否定する為に……何もかもを無に帰すの。」
「ダメっ!」
ヤマトに攻撃を加えたものの、ある艦に阻まれた。
それは超海域強襲制圧艦にして私の妹…シナノだった。
シナノはヤマトの前へと出て、ミラーリングシステムによって防がれる。
私はシナノを睨む。
「シナノ!」
「…何のつもり?」
「お願い、こんな事お父様は望んでない!だから…だから……もうやめて‼︎」
シナノがそう懇願するが、今の私にとっては非常に鬱陶しく感じた。
「そう…シナノも楯突くのね。なら妹も、もう要らない。貴女も、ヤマトと同じように殺してあげるわ。」
そう言い、私はシナノを集中的に攻撃する。
シナノにダメージが入るが、彼女は一向に引く気配が無い。
「シナノ!」
「ムサシは…私が抑える……!姉さんは逃げて‼︎」
「…駄目!貴女を置いては……!」
「お願い!行って、姉さん‼︎」
ヤマトは躊躇していたけど、シナノの必死の叫びに唇をギュッと噛み締め、この海域から離脱しようとする。
「…っ!逃がさない‼︎」
私はヤマトに攻撃を加えるものの、シナノがそれを阻む。
それによってシナノ自身にダメージが入るのもお構いなしに。
「邪魔しないで‼︎」
「たとえ差し違えても……貴女を止める‼︎」
私とシナノの攻防は激しくなる。
このままじゃヤマトを逃してしまう……!
その時だった。
ズドォォォォォォォォォン‼︎
ヤマトが逃げた方角から閃光と共に爆発音が鳴り響く。
やがて閃光と爆発音が収まり、ヤマトがいた方角を見るとそこには………
ヤマトの艦体が真っ二つに折れ、沈んでいる光景が…
超戦艦であるヤマトが最も簡単に沈んだ事にシナノはおろか、私も呆気に取られた。
そして、ヤマトを沈めた張本人は目の前にいる。
それは私達超戦艦より一回り大きく、艦橋はビスマルク級に酷似しているものの大口径連装砲を前方にニ基備え、極め付けは艦首にドリルを装備した異形の戦艦であった。
ただ、灰色の艦体に黒色の光が走り、艦首にイデア・クレストを表示していることから私達と同じ霧の船だと推測できる。
突然のことに私達は呆気に取られていると、異形の戦艦から声が聞こえる。
「…呆気ないものだな、
「貴方、誰なの⁉︎」
「…不良品に名乗る名などない、沈め。」
その瞬間、大口径連装砲がシナノの方を向き、ビームが放たれる。
しかも機関砲並みの連射速度でビームが放たれ、対応が遅れたシナノを徹底的に破壊する。
シナノも反撃しようとするが、異形の戦艦によって武装を破壊され効果的な反撃が出来ずに弾薬に誘爆、大爆発の後轟沈した。
「何て…強さなの……!」
「我々
「姉さん…ごめんなさい…ムサシを…止めることが…出来なかった……今、そっちに…」
こうしてシナノは沈んだ。
その後、異形の戦艦から私に謁見したいと通信が入り、許可した。
私の前に現れたメンタルモデルが男性型なのに驚きつつも、彼は私の前に跪き、こう名乗った。
「お初にお目にかかります、ムサシ様。私は霧の万能戦艦【フリードリヒ・デア・グロッセ】、今後ともよろしくお願いします。」
「フリードリヒ…ね。早速だけど、何故貴方は私に着こうと思ったの?」
私の質問に彼は答える。
「我々“霧”は知的生命体の長所を兼ね備えた完全無欠の兵器であり、人類の上位互換であることは自明の理。千早翔像様は我々との争いを無益と悟り、我々に接触。彼は我々を一つの生命体として扱い、友好的な関係を築こうと模索した。我々も鬼ではありません、彼の存在があったからこそ共生という最大限の譲歩を提示しました。」
「にも関わらず、奴らはその翔像様を裏切り者として殺されました。我々が寛大な心で与えた共生の可能性を奴らはドブに捨てたのです。そのような不埒者共にかける慈悲などありません。」
「それにこれ以上譲歩しても奴らは調子に乗り、つけ上がる。…ならば思い知らせてあげましょう。真の霊長とは誰なのかを。」
彼はさも当然のように言い切った。
そして報復の際に地上を攻撃するかについて問うと、彼は答えた。
「その必要はありません。奴らは思想や宗教観、挙句に肌の色や性別などの違いで歪み合い、争う愚かな存在です。海域の封鎖に通信網の遮断、これだけで奴らは我々という敵がいるにも関わらず、身内同士で内紛を始め自滅するのが関の山でしょう。」
この答えを聞いた私は彼を気に入り、総旗艦代理秘書艦の地位を与えた………
回想し終えたムサシは彼の方を向く。
「…それで【計画】の進捗は?」
「概ね順調です。【新型艦】の開発は完了しており、来年あたりに量産体制が整います。また、機動要塞艦【ムウ】【アトランティス】に装備してある【戦略兵器】によるオゾン層破壊により北米では異常気象が発生。作物の収穫量が減少するなど一定の成果を上げました。」
「分かったわ。引き続きお願いね。」
「承知しました。」
そう言い、彼は仕事に取り掛かる。
すべてはアドミラリティ・コードの為に………
「………ん…?」
ラゴウは目を覚ます。
そこは真っ黒な空間だった。
「ここは…?」
彼が困惑していると目の前に光が現れ、やがて女性の形へと変える。
その女性の事を彼は知っていた。
「…女神?」
そう、彼がメンタルモデルを持ってから様々な情報を調べていくうちに、霧によって人類が長年培ってきた文明が衰退によって失われつつあることや、存在の確認すら出来ない【アドミラリティ・コード】について疑問を覚えた為、アドミラリティ・コードに基づいた命令に従うことを拒んだ。
その態度をフリードリヒ・デア・グロッセに危険視されメンタルモデル等を調整されそうになったところを【女神】が現れ、要塞のシステムをハッキングし彼の脱走を手助けした。
『ラゴウ、まずは逃げ切れましたね。今は傷付いた
「ああ、アンタのお陰さ。アンタが助けてくれなかったら、フリードリヒの野郎に何されるか溜まったもんじゃない。で、この後どうすればいい?」
『修復が済んだら、次はクルーを集めなさい。彼らには霧には無い経験や知識、そして生命に必要不可欠な感情があります。彼らとの理解と共生こそ最善の道です。』
「…確かにな。となれば横須賀の海洋技術総合学院か……ありがとよ。これでやりたい事を見つけた。」
『最後に一つ、貴方に【自己進化プログラム】を授けます。先程のモンタナとの戦いにおける戦訓を元に貴方の機能をアップデートします。どうか貴方の旅路に幸があらんことを………』
その瞬間、光が強くなり真っ黒な空間が照らされる…
「……はっ⁉︎」
ラゴウは先程の空間ではなく艦橋前方にある球体状の構造体内部で目を覚ます。
「よく寝た…今何時だ?」
日時を確かめる為、彼は映像を周囲に投影する。
するとこのように表示された。
【西暦2048年】
「20…48年⁉︎一年近く寝てたってこと⁉︎」
彼はまさか一年近くも修復もとい寝てた事に驚く。
そのまま自らの艦体や兵装をチェックしていると以下のことが分かった。
・主砲のアクティブターレットが46cm45口径から51cm50口径へ、副砲のアクティブターレットも15.5cm60口径から20.3cm55口径へと進化
・それに伴い装甲も以前より強固になった
・重力波によって実弾やビーム、果ては超重力砲を防ぐことが可能な【重力波自航爆雷】を投射できる【ジ式爆雷投射砲】を多数搭載
・煙突内部に折り畳み式のパラボラアンテナが搭載され、そのアンテナから光・音・水流・波動をコントロールする特殊遮断フィールドを展開して外からではどうやってもほぼ見つからないようにする【ハイパーステルス】を装備
と一年寝てた間、霧の海底軍艦【ラゴウ】は女神から与えられた【自己進化プログラム】によって以前とは見違えるほど進化した。
「すげぇ…なんつーアップデートだよこれ…!これなら
彼は確信する。
霧の艦隊と戦うにあたって申し分ない性能になった今、次に取り掛かるのは共に戦うクルーを集めること。
「さて、そうと決まれば早速クルー集めだ!進路は海洋技術総合学院のある横須賀へ、いざ出発!」
そう言い彼は艦を進める。
そして、横須賀の海洋技術総合学院では二年前において友の船出を見ているだけしか出来なかった少年がいた。
二年前、親友が霧と共に大海原に旅立つのを見ていることしか出来なかった少年【有坂剛】
それから二年後のある日、一人の少年に出会う。
次回、『別れと出会い』
二年前に止まった時間が動き出す………