ニワトリの魔術師、タマゴの墓守   作:どういうこったあ!

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ワルにコーヒー、花に風

 これでも中学時代は真面目ちゃんで通っていたはずなのだが、こうして授業を抜け出すようになったのはいつからだったか。学園に勉強をしに来ている人なんて、ほんの一握りだと思う。少なくとも私は休み時間に友達とくだらない話をしたり、BDの感想を言い合うために授業を受けている。

 

 ただでさえBDを眺めるだけの退屈な授業がほとんどなのだ。テストの点数さえ取れていれば単位を落とすこともない教科がほとんどな上、友達と関わることもなくなったのだから抜け出すのは当然とも言えた。

 

 今日の出席が必要な授業は一時限目の体育だけだったので、あとはゆっくりとカタコンベの管理室でのんびりできる。管理室へ向かう途中、見覚えのある白髪がグラウンドで波打っていた。普段、肩甲骨辺りまで垂らされた髪は後ろでひとつ結びにまとめられていた。こちらに気付いた様子はなかった。見つかったとしても話かけられることはないだろうが、放課後に持ち出されても面倒なので歩を早める。横目で見た先輩のフォームは体幹のブレがなく綺麗だった。

 

 管理室ではだらしの無い姿を晒しているが、あれでも優秀……というか、間違いなく一番の仕事量をこなしているのは先輩だった。文武両道、運動神経抜群。一個人がティーパーティーに対する牽制になってしまうくらいにその力は大きい。そもそもそんな人が管理室でサボるなという話なのだが、「適度にサボるのが一番。サボり過ぎも頑張り過ぎも、誰の得にもならないよ」とは先輩の弁だった。

 

 二年生で例えるなら誰が適当なのか。百合園さん、ナギサ、ミカちゃん、剣先さん、羽川さんはティーパーティー系列だから除外。ウイちゃんについては彼女の人嫌いの理由の全てを握っている者として、とやかく言う資格はなかった。

 

 となるとシスターサクラコかミネちゃんか……。武力的な牽制も含めてミネちゃんかな、うん。『ミネが壊して騎士団が直す』ってキャッチコピーは何なのだろうか。入学当初はてんやわんやだったらしい。(「救護ですッ!」と真面目な顔しながら怪我人を増やす新人が入ったのだからそりゃそうだ)一年生で例えるなら簡単で、ハナコちゃんみたいな存在だ。

 

 そんなわけなので、あの人も一年生の頃はひどい勧誘にあっていたんじゃないだろうか。私のように二年生から部活動に所属するのは珍しいが、ないわけじゃない。あるいはサクラコのように始めからシスターフッドに所属することを決めていた生徒なのかもしれなかった。

 

 いつの間にか落ちてしまっていた視線をあげる。舗装された歩道、植え込みに植えられた花々、錆びついた街灯。いつもと変わらない景色、のはずだった。

 

 息が詰まる。

 

 あの頃と変わらない笑顔を携えながら、その少女は手を小さく振っていた。

 

 果たしてそこには、私が捨てたはずの友達がいた。

 

 一つ風が吹いて、黄色いゼラニウムの花弁が宙を舞った。

 

 

 

 

 ウイちゃんの運動能力はいいとは言えず(唯一、射撃演習だけはトップの成績を叩き出していたが)、準備体操のランニングで死にかけということがしょっちゅうだった。最後尾で死にそうな顔をしながらも、毎回走り切るところにウイちゃんの真面目さが出ていた。走り終えると、青ざめながら、今にも吐きそうな表情でぐったりとしていた。

 

 私が当時所属していたグループは、私、ツヅカ、ヒガサの三人グループだったので、体操やペアワークはウイちゃんと一緒になることが多かった。体育は上手い人とやった方が楽しいというのはもちろんだが、相手が段々と上手くなっていく過程というのも楽しかった。(私もそこまでできるわけではないが、ウイちゃんよりはマシだった)

 

 その日の授業はソフトボールだった。冷たい秋風が吹き、ほとんどの生徒が長袖のジャージを羽織っていた。視界の端では色づいたイチョウの葉が風に巻き上げられていた。

 

 「こ、こんなことをしてっ、なんのっ、役にっ、立つんですかっ?」ボールをあらぬ方向に投げながらウイちゃんは言った。既に息絶え絶えだった。

 

 後ろにいたミカちゃんがボールをとってくれる。こちらに投げられたボールは銃弾もかくやというスピードだった。冷や汗をかきながら、ウイちゃんの方へ向き直る。

 

 「手榴弾投げられたときじゃない?」

 

 「そんなのっ、撃ち落とせばいいじゃないですかっ」

 

 「私にはそっちの方が難しく思えるなあ」

 

 私の投げたボールはウイちゃんの近くへと控えめな放物線を描いて飛んでいったが、グラブを閉じるのが早すぎたようで、ボールは綺麗な音を響かせないまま地面へと落ちていった。

 

 「私にはっ、こちらの方がっ、よっぽ――ぅえあっ!?」

 

 足を絡ませてしまい、ウイちゃんも地面へと崩れ落ちていった。

 

 

 

 二人の友達がウイちゃんと私をどういう風に見ていたのかは分からないが、精々「私たちの他にも仲のいい子がいるんだな」程度で、好意的でないというわけではなかったはずだ。その証拠になるはわからないが、二人からの干渉することも、ウイちゃんから二人に干渉することもなかった。好意的に映らなかったとすれば、それは徐々に二人と距離をとり、やがては捨てた私に違いないのだ。

 

 「ヨナギ、二人で悪いことしよっか」

 

 だというのに、にせものなんて微塵も感じられない笑みを浮かべて、ツヅカは言った。

 

 「程度によるかな」

 

 自分でも驚くほど、すんなりと言葉が出た。

 

 「じゃあ、とびきり悪いことしよっか」

 

 ツヅカはいたずらでもするみたいに笑った。

 

 

 

 

 

 

 『男子、三日会わざれば刮目して見よ』という言葉がある。別に男子でも女子でも性的マイノリティでも構わないのだが、私が言いたいことは人は変わるということだ。三日よりもずっと長い、六ヶ月という期間ならなおさらのはずだったが、ツヅカは六ヶ月前と何も変わっていなかった。髪型も佇まいも、性格も。まるで空白なんてなかったかのように彼女は私に接した。

 

 「授業サボって友達とお出かけとか、最高に悪いことって感じしない?」ツヅカは言った。

 

 「私、最近はサボってばっかりだからなあ」

 

 「ワルじゃん」

 

 「でしょ」と、適当に相槌を打つ。

 

 「ヨナギ、どこか行きたいところある?」

 

 「特には」

 

 「じゃ、いつもの喫茶店行こ」

 

 私はツヅカに手を引かれながら、喫茶店へと向かった。

 

 

 

 その喫茶店を訪れたのは、入学して間もない頃だった。私がSNSで見かけ、ツヅカとヒガサに行ってみたいと言ったからだった。物静かな店内にレコードの音が反響していた。以前訪れたファミレスやデパートは学園の生徒で溢れていたが、その喫茶店には私たち以外の生徒がいる様子はなかった。

 

 「いい雰囲気だね」ツヅカが店内を見渡して言った。

 

 それに同意するようにヒガサも頷いている。

 

 窓際の席に座ると、窓越しに春特有の暖かい日差しが私を包んだ。ツヅカとヒガサは、私と向かい合うようにして座った。

 

 「二人はなに頼む?」私はメニュー表を二人の側に見せながら言った。

 

 ツヅカはアールグレイとガトーショコラ、ヒガサはアッサムと紅茶のショートケーキを頼んだ。私は迷った末に、SNSで紹介されていたダージリンとチーズケーキを頼んだ。どちらもそれほど得意ではなかったが、コーヒーを頼んでしまえば二人に見放されてしまう気がしたのだ。

 

 

 

 「ヨナギは何にする?」

 

 「いつものかな」反射的に口に出していた。

 

 ここで言う「いつもの」とは、ダージリンとチーズケーキのことだった。私は初めてこの喫茶店に来て以来、ずっと同じメニューを頼み続けていた。この店に来る機会は多かったので、なるべく一つの味に絞って舌を慣らそうと思ったのだ。

 

 「私はコーヒーにしようかなあ」

 

 ツヅカはコーヒーが飲めなかった。その気遣いを感じ取れないほど、私は鈍感でなかった。

 

 「やっぱりアメリカーノだけ」

 

 少しの逡巡の末に私が言うと、ツヅカは満足気に目を細めた。

 

 「嘘つくの止めたんだ?」

 

 頭を撃たれたときのような衝撃が私を襲った。心臓の鼓動が変に早かった。テーブルの下で手を痛いくらいに握りしめ、なんとか気丈に振る舞う。

 

 ツヅカの細められた目が、真っ直ぐにこちらを見ていた。思わず、サッと目を逸らしてしまいそうになるのを必死に堪える。彼女に拒絶されるのがたまらなく怖かった。『今までごめん』の一言が頭を埋め尽くすが、それは声にならない声となって、喉の奥につかえた。

 

 「うん」

 

 長い沈黙の末に絞り出したのはそんな台詞だった。

 

 「最初はね、気のせいかと思ったの。でもやっぱりヨナギの言葉とか仕草の節々に、嘘を感じることがあった。特に古関さんかな。古関さんの前でのヨナギの笑顔は私たちと過ごすよりずっと多かったし、ヨナギの表情に違和感もなかったから」

 

 私は口を一文字にキュッと結んだまま、言葉を発さない。発せない。昔の私から変わったのだとどれだけ言い聞かせても、人にほんとうを見せるのが怖いという性根はそうそう変わってくれない。

 

 以前までの私を表現するのなら、身の程知らずと言うのが一つの正解なのだろう。小さな世界でしか生きられないというのに、世界の外側の住人にも嫌われたくないと思ってしまった馬鹿な少女。身の程知らずな人間の結末は古今東西、どこも同じだ。私のつけていた仮面は剥がれ落ち、私はあっさりと限界を向かえた。

 

 私から溢れ出た負の感情はその原因である人たちに向くはずだったが、嫌われたくないと思うような人間が彼らに矛先を向けることなどできるはずもなかった。必然的にその矛先はツヅカとヒガサへと向いた。お門違いもいいところだった。

 

 あまつさえ私は、ツヅカとヒガサを世界の外側の住人と同一視するようになった。私は二人のことすら信じることができなくなってしまったのだった。そうやって二人を失って初めて、私は一人でいることが楽で、多数の人と関わるのには向いていない人間なのだと気が付いた。

 

 『いつだって気付くのは失ってからだ』、なんてよく聞く後悔が私を襲っていた。

 

 「別に怒っているわけでも、友達をやめようってわけじゃないんだよ。ただ少し、悲しかったし、申し訳ないなあって思っただけ」

 

 ツヅカが私を責めているわけでないのは、彼女の仕草や表情、声色からも容易に理解できたが、頭では分かっていても、怖いものは怖かった。

 

 いつまで経っても適切だと思える言葉が見つからなかった。たった一言「ごめん」と言うだけでいいと分かっているが、このままでは返事をしないまま、無為に時間が過ぎていきそうだった。焦燥に駆られ、ツヅカにモモトークでもいいかと聞くと「いいよー」と間延びした軽い返事が返ってくる。ありがたくポケットからスマホを取り出し、集中する。

 

 「自分を見せるのって怖いもん。自己紹介でよくある、好きな食べ物とか趣味とかでも言いたくないって思っちゃったり。ちなみに私の好きな食べ物は食用ホオズキで、趣味はゆで卵の殻むき」

 

 「独特すぎる……」スマホを取り出したというのに思わず口をついた。

 

 『自分の内面を見せて、嫌われるのが嫌だったから逃げた。ごめん』そんな文字列が液晶に映し出される。うだうだと悩み続ける醜い感情も、澱のように積み重なった言葉も、吐き出してしまえばこの程度。ちっぽけなものだった。

 

 矢印ボタンに触れると、今までの時間がにせものだったかのように滑り出した。ツヅカのカバンの中で、スマホが震える音がした。彼女はそれを一瞥すると、自分のスマホをカバンから出すのが面倒くさいのか、私のスマホを奪った。彼女の碧眼が文字を追って揺れ動く。

 

 私は怯えながら反応を伺っていたが、私を待っていたのは「いいよー」という軽い返事だった。私が待ち合わせに三時間遅れたときや、ツヅカを誤射したとき並の軽さだった。いやそれは軽くで赦したらダメだろ。危うく感覚が麻痺するところだった。

 

 「なんであれ、ヨナギがまだ友達やってくれるみたいで安心したよ」ツヅカはあっけらかんと言った。

 

 『私はツヅカがまだ友達やってくれるみたいで安心してる』

 

 「ホントに疎遠されたらどうしようかと思ってたんだよ?」

 

 「その説は大変ご迷惑をおかけしまして……」スマホをテーブルに置き、机上に三つ指をついて頭を下げると、今度もまた軽く赦される。それでいいのか我が友よ。そんな、呆れたような、懐かしいような視線をツヅカに向けた。

 

 「どうかした?」

 

 「優しい友達持ったなあって」

 

 「知らなかった? 私とヒガサってね、ヨナギが思うよりも優しいんだよ」ツヅカは鼻を鳴らして言った。

 

 

 

 

 

 

 喫茶店を出て学園に戻る頃にはお昼を回っていた。ちょうど昼休みだったこともあり、校外にも人が溢れていた。ツヅカは「温泉入ってくる」と言って、学園とは反対方向に走っていってしまった。

 

 喫茶店を出る前にヒガサに送ったメッセージには既読の文字が付き、グッと親指を立てたプリンのラッパーのスタンプが返されていた。ツヅカに負けず劣らずの軽い反応だった。というかどこで見つけてきたんだ、そんなスタンプ。気になってタップしてみると、スタンプの販売ページへと飛ばされる。名前から察するに、第五弾らしかった。そんなに売れてるのか……。

 

 ウイちゃんに送ったメッセージも見てみるが、既読の二文字は表示されていなかった。ブロックされているのだろう。衝動的に送ってしまったメッセージたちは削除され、大量の『このメッセージは削除されました』が並んでいる。それらをスクロールした先に、『ウイちゃん』という呼びかけだけがあった。既読を確認するために残したものだった。

 

 私の脳内辞書に適切な言葉は登録されておらず、未だにかけるべき言葉は見つからない。文字を打つ手が空を切る。あるのは何を言ってもダメなのだろうという諦めだけだった。深いため息が漏れた。

 

 十分ほど歩くと、本来の目的地であったカタコンベの管理室に着いた。今日はまだ先輩も来ていないらしく、部屋の様子は昨日と変わらなかった。微かにアメリカーノの匂いが残っているような気がした。

 

 棚から書類や筆記用具を取り出し、机の上に広げる。昨日の作業の甲斐もあり、残っているのは四分の三ほどだった。ロッキングチェアに腰を下ろすと、喫茶店までの道のりを歩きで往復したせいか、軽い疲労感が私にのしかかった。多少の疲れはあったが、飲んできたアメリカーノのおかげで眠気はなかった。

 

 積み上げられた書類から一番上のものを手元に寄せ、一つ一つこなしていく。左から右へと書類が流れていく感覚が、憂鬱な作業を少しだけ楽にさせてくれた。

 

 

 

 

 

 

 先輩が管理室を訪れる頃には、書類の四分の三が片付いていた。ツヅカとヒガサとの仲直りができたおかげか、調子が良かった。

 

 「相変わらずヨナギは仕事早いねえ」

 

 「授業出てませんしね」

 

 先輩は背負っていたカバンを仮眠室のベッドへ投げ込んだ。木枠の軋む音が小さく響いた。

 

 「紹介したい子がいるから、今週の日曜礼拝は来なね」

 

 「了解です」

 

 「あら素直」まあいいか、と一人納得したらしい先輩は心底嫌そうに言った。「エデン条約、あるじゃん」

 

 ゲヘナが嫌いというより、エデン条約に関わっての仕事が嫌なのだろう。

 

 「ありますね」

 

 「あれのETOとしてシスターフッドが出る可能性ってどのくらいだと思う?」

 

 「次のホストがよっぽどでない限り、ほぼなくないですか?」

 

 ETOとして最も重要なのは中立性だ。それも現在の中立性ではなく、ETOが設立されたあとの中立性。トリニティの救護騎士団やゲヘナの救急医学部はその基準を満たしているだろうが、絶対数が少ないのが現状だ。ETOに回せる人員はないと言っていいだろう。

 

 ではシスターフッドはというと、これ以上影響力を大きくするのはよろしくなかった。そこから学園間の諍いまで発展しようものなら本末転倒だ。恐らくはETOの中で派閥争いの縮図を作るような形に落ち着くのだろう。

 

 「エデン条約が調印されたらヨナギはETOになるの?」

 

 「それで地下カタコンベが見られるなら喜んでなりますけど、違うならなりませんね」

 

 「ちゃんと考えられてるね。それでこそ私の正統後継者の片割れだ」

 

 「片割れ?」今まで聞かなかった言葉に思わず聞き返す。

 

 「そう、片割れ。ヨナギは事務とカタコンベの管理担当で、もう一人の子は実務担当」

 

 私としてはこのカタコンベさえ好きにできるのなら異論はなかった。

 

 「さて」と前置いて。「そんな事務担当のヨナギには、これからシスターフッドの限りなく黒に近いグレーな部分を受け継いでもらいます」

 

 私の視線の先では、黒やグレーなんて似ても似つかない、ウエディングドレスのような白髪が揺れていた。

 

 

 

 「とまあ、これだけマンパワーと生徒との繋がりがあれば、色々なことができるわけ。たとえば喧嘩別れしてしまった友達と仲直りできたり、喧嘩の理由を知れたりね?」

 

 シスターフッドの情報網や実働部隊など、一通りの説明を終えたあと、先輩はそう締め括った。私は開いた穴にぴったりの物がストンと落ちるような感覚に襲われていた。『仲直りできたからまあいいか』が六割、『それはそれとして腹が立つ』が四割だった。道理でツヅカが授業を抜け出してあんなところにいたわけだ。先輩が糸を引いていたのなら納得だった。

 

 先輩は目を細めて私を見つめた。言われなくとも先輩の言いたいことは分かっていた。使えるものは全部使えとその視線が物語っていた。彼女は私がどんな選択をするのかを見定めていた。できることならそれは取りたくのない選択肢だったが、ここで選ばなければ私はこの先きっと、前と同じ選択をしてしまうのが自分でも分かった。その選択の先で割を食うのはいつだってツヅカやヒガサのような善人だった。

 

 「ヨナギ、先輩からアドバイスをしてあげよう」

 

 「なんですか」私は不機嫌そうに返した。

 

 「そんなに怖い顔しないでよ」先輩は苦い笑みを浮かべた。「人を疑ってしまうのはね、人を信じたいからだよ」

 

 「知ってますよ、そんなこと」

 

 「じゃあ、大丈夫だ。頑張れ、ヨナギ」屈託のない笑顔で先輩は言った。

 

 出会った頃から、毒気が抜かれるようなこの人の笑顔が苦手だった。私はため息を一つ吐いた。

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