町はだいぶ発展してきている。
まだまだ通りは剥き出しの土のままだが、家々は立ち並び、小さいながら畑も整備された。
現代日本の感覚で言えば、難民キャンプに毛が生えたぐらいか。
毎日少しずつ進んでいく街の拡張を眺めつつ。
今日は改めてシズさんから時間圧の凄い仮面を受け取っていた。
最近は境内を掃除しにきてくれているので、俺もずいぶん彼女には助けられている。
「いいの、私が好きでやっているだけだから」とシズさんは言うが、それでは俺の立場がない。
お礼に今日も「夕飯が美味しく食べられる」ささやかな加護を授ければ、ずいぶんと喜んでくれた。
料理がなぜかうまくいったり、美味しい食材を狩ることができるかららしい。
さて、本題の仮面に入ろう。
じろっとよく見てみれば、二千年前からやや未来に向かって幾重ものループが仮面を取り巻いていた。
始まりは、仮面の持ち主の少女が二千年前の基軸世界に召喚されたことから。
その後、未来に向かって再召喚、過去に向かって逆行を繰り返し、ぐちゃぐちゃの毛玉のように絡まった時間が複雑に交差している。
鍵となるのはリムル=テンペストの存在だ。
少し未来、東の帝国にリムルが暗殺されてから事態が急転する。
キレた俺の『
帝国としては、西への進出の足掛かりにジュラの大森林への侵攻を目論んでいるらしいのだが。
俺のいるジュラの大森林ではなるべく争いは起こしたくないらしい。
そこで、あらかじめリムルを暗殺。
散り散りになった魔物達を掌握する形で侵略をしたかったようだ。
どっちにしろヴェルダナーヴァの転生体を殺されて俺がマジギレするのは分かりきってるのに、ルドラも耄碌したか?
……いやこれルドラじゃないな。
ルドラに宿っていた権能に宿る意思、
ルドラ本人はすでに魂が擦り切れて死亡、転生の輪に乗っているらしい。
ルドラよ、自分のスキルくらい自分で管理しろよな。
ま、そんなわけで鍵となるリムルを中心にループは成立しているのである。
え?鍵になってるのはリムルではなく俺?
そう言う意見も…あるね……。
俺はなんとなく手慰みに時間的な変遷を解きほぐし、那由多の先まで演算して未来の可能性を見ていく。
リムルの死の運命を変えるには、大きく分けて二つの方法が存在する。
一つは、俺が加護をもりもりにしてリムルを守ること。
もう一つはリムル本人が強くなることだ。
リムル自身の性質からして、俺にただ守られるのは好みではなかろうよ。
それにリムルが強くなればその後の問題も解決しやすく、話がスムーズに進みやすい。
よし。
「というわけで、リムルを私直々に鍛えようと思います」
「どういうわけだ」
シズが帰った後、連れ出したリムルに木刀を持たせて俺はリムルと相対した。
いっちに、と準備体操をする俺に事情を把握し切れないリムルがなんとも言えない困り顔を披露している。
「今度はどう言う余計なことを思いついたんだ?」と嫌そうな顔で肩を落とす。
「リムルはもう少し強くなるべきだと思いまして。今みたいに貧弱だとすぐ死んでしまうじゃないですか」
「貧弱いうな!!俺だってやるんだぞ!!」
「なので、私が権能を使い本気でスライム肉体改造を企画したのです」
「人の話は聞こうね創造神さんや」
すっとホワイトボードを創造して、その横に大判の用紙を貼り出す。
模造紙に手書きの計画。この手作り感がいいのだよ。
「まず、これから一ヶ月は基礎訓練ですね」
「ほう」
「私が権能でリムルをボコボコにしますので、その生死の境からスキルを身につけてもらいます」
「鬼かよ!?」
「期間は百年を1セットとして、時間圧縮の権能で休憩を挟みつつ一日20セット繰り返すこととします」
「精神的に死ねとおっしゃるか」
ダメらしい。
模造紙に大きく赤字でバツを描かれてしまった。
「つか、俺だってハクロウに鍛えられてるんだ。それじゃだめなのかよ」
「いえ……それは……」
俺の煮え切らない答えに何やら事情があることを察したらしい。
俺の元に近寄ってきたリムルが肩を組み、「正直に言えよ。なにがあった?」と真剣な表情で囁いてきた。
「実は。あなたが死ぬ未来を予知しました」
「どの程度の確度で?」
「私が介入しなければほぼ100%、あなたは死ぬでしょうね」
「うげー」
リムルが舌を出して嫌そうな顔をした。
「んー、なら時間圧縮なしで普通に訓練するとかどうだ?」
「……仕方ないですね。時間圧縮は無しで。ですが、私が全力を出す分戦闘用空間は展開させてもらいますよ」
「おう」
修行の間は俺が作ったコンパクトな戦闘用空間を展開して、そこで手合わせすることになるだろう。
戦闘用に権能を組み直して全力で戦うとなると、通常空間ではあっという間に崩落してしまうからな。
そしてリムルも塵になる。
戦闘用空間なら魔素一片すら残さず消し飛ばされたとして蘇生が可能だ。
完璧。さすが俺。
「なんか嫌な予感がする…」
「気のせいですよ。では、戦闘用空間を展開するための少し広めの空き地へ移動しましょうか」
と、ちょうどその時。
工事用の木材を運ぶベニマルが通りかかった!
リムルの目がギラっと光る。
「おーベニマルくん!ちょうどいいところに来た!」
ガッと肩を組んでニヤリと笑う。
どうもともに地獄に堕ちるための仲間を手に入れたらしい。
仲良きことは良きことかな。
なお、俺が一緒にいることに気づいたベニマルが「ひっ」っと小さく悲鳴を上げた。
鬼人勢には俺、基本的に遠巻きに見られてるんだよな。
シュナはシズと一緒に境内を掃除してくれているけど。
「り、リムル様!?」
「お互いまだまだ未熟者同士!ちょいと俺と一緒に創造神様に揉まれるとしようぜ!」
「!?!?!?」
「では二人とも修行ですね。全然問題ありませんよ」
塵になるまでほんのゼロコンマ秒伸びるので
むしろやりやすいまである。
大丈夫、死に覚えなローグライクみたいなもんだ。
死ぬたびに飛び散った魔素が集積し、スキルの獲得と成長を促すシステムにもなっている。
無限に自分を食ってるようなものだ。
はっはっは、と死んだ目で笑うリムルがベニマルの腕をむんずと掴んで引きずっていく。
すっかり鬼人達も村に馴染んだようだ。
やや涙目に見えるのは気のせいである。
そんなこんなで、ガビルという名のリザードマンが現れる、三日前のことである。
・戦闘形態(アルジュナ主)
無数にある権能全てを戦闘用に組み直した形態。
武神や戦争の神の力を存分に発揮できるが、「悪を滅する程度、創造神形態で別に十分」という理由で滅多に使われることがない。
後、権能の組み直しが面倒臭い(ものぐさ)。