ヴェルダナーヴァの動きは迅速だった。
知性体が生まれるような土壌をポンと生み出すと、ワクワクと待ちきれないとばかりに覗き込んでいる。
そんな早くに生み出せるものでもないだろうに、と思っていると案の定。
知性体どころか動物誕生まで何十億年とかかることがわかり、ヴェルダナーヴァはしなっと萎れてしまった。
「待っているだけなのも退屈だし、時を早めてみようか。……ところで、君の方は創世はうまくいったかな」
「ぼちぼちってところです」
嘘だ。まるで進んでいない。
俺の作った地球は未だ火の玉、溶岩の雨が降る原初のそれである。
いやぁ、結局平面世界作成は諦めて俺の故郷地球を作成することにしたんだが。
あんな複雑極まりない完成系を作るには想像力が足りず。
ビッグバンからやり直す形で早回しがちに地球を作成していたらとんでもなく時間がかかってしまっている。
お!なんか原初の単細胞生物らしきものが動き出して……あぁ、炎の嵐で絶滅してしまった……。
そんなことをしている間にヴェルダナーヴァがこちらへやってきて俺のお手製地球を覗き込み出した。
難しい顔をしている。
「貴方の世界は見なくていいんですか?」
「早回ししたら同種同士で殺し合ってあっという間に滅んでしまったよ。とりあえず世界は閉じて新しく作り直そうと思う」
Oh……コロニーシミュ失敗みたいな言い方するやん。
俺は慰めるように笑いかけて、竜の肩…らしき部分をポンと叩いた。
「そう気を落とさないでください。単に早回しすると介入が遅くなりますし、お手伝いシステムみたいなのを作ったらどうです?」
「お手伝い?」
「動物達が滅びそうになったら自動で助けに入るような創世お助けシステムですよ。警告が入って早回しが解除されるのでもいいですけど」
発想はまんまシムシティ系ゲームのシステムだ。
三倍速進めていたところ急に通常速度に戻るとちょっと緊張するよな。
アドバイスすると、ピンと鬣を立てた竜は「なるほど!ちょっと行ってくる!」と言ってどこへともなく飛び立ってしまった。
数分後、戻ってきた竜はなんと。
天使としか呼べぬ何かを七体も連れていた。
光輪を頭の上に携え、純白の羽を持つ人型の存在だ。
「君に似せて作ってみた!」と胸を張って言うあたり、モデルは俺…もといアルジュナらしい。
無感動で無表情な美形が七人も直立不動だとちょっぴり怖いが、まだ生まれたてとあらば仕方あるまい。
「君の生み出した光から力の凝縮体が生まれていたから、それを元に作ってみたんだ。いい出来だろう?」
「凄いですね。それらを創造した世界の管理者として割り当てるのですか?」
「うん。君も一体いるかい?」
「いや、私はまだ創世に慣れていないので自分でやってみます」
そう返事すると、若干悲しそうに頷いて「そっか。なら必要になったらいつでも言ってね」とヴェルダナーヴァはしょぼくれてしまった。
すまんて…。
「それ、名前あるんです?」
「うーん。決めてなかったな。じゃあ、ひとまず最初に生み出した個体をリーダーにして。フェルドウェイと呼ぶことにしようか。フェルドウェイ、しっかり働くんだよ」
「御意」
フェルドウェイと呼ばれた天使の力がみるみるうちに増大していく。
疑問に思っていると、俺の疑問に気づいたらしい。
ヴェルダナーヴァは誇らしげに胸を張った。
「実は名前をつけると言う行為に力の受け渡しのシステムをつけてみたんだ。名前は素晴らしいものだからね。より特別感を出したくて」
「なるほど。いいですね」
「だろう!うんうん。この仕組みは次に作る世界には標準で搭載してみようかな」
フェルドウェイと名付けられた天使は、力の流入により今や低位の神霊にも近い力をつけている。
大丈夫かこれ……と思いつつ、まぁヴェルダナーヴァが手綱を握るならそれでも構うまい。
結局、もう一度創生を成したヴェルダナーヴァにこき使われる形で天使フェルドウェイと六人の天使達は世界の管理を任されることとなった。
新しき世界の保護、そして動植物の見守りを任されることになったらしい。
俺もそれを見習って手先を作るべきか…などと考えながら変わり映えしない溶岩玉な地球を俺はつくつくと突っついていた。
ヴェルダナーヴァ、ついに痺れを切らした!
あれから幾度も世界を作っては壊しを繰り返したヴェルダナーヴァは、ようやく悟ったらしい。
「知性体が発生するのを待つぐらいなら、直接世界に創造した知性体を投入した方が早い」と。
神祖トワイライト・ヴァレンタインと名付けた個体を世界へと放流し、「多様な知性体で地を満たせ」と至上命題を与えたらしい。
俺はちょっと物申したくてヴェルダナーヴァに話しかけた。
「あの……知性体に増えて欲しいんですよね?なのに送り出すのが一人なのは…どうなのかと」
「???一人だと何か問題があるのかい?」
「……いえ。なんでもないです」
ヴェルダナーヴァは首を傾げている。
一万頭は必要だろ。せめて雌雄一組とかさ、と思ったが。
創世神に雌雄なんて概念は無いから、きっと生み出された神祖とやらも単細胞生物のごとく分裂して増えるのだろう。
ちょっとどころではなく不気味だが仕方あるまい。
ちなみに、俺の地球は今やっと植物が地上へ上陸したところである。
動物の出現はまだまだ先だろう。果報は寝て待て。気長に待つのみである。
そういえば。
私の生み出した光から光の大精霊が生まれ、そこからヴェルダナーヴァが天使達を生み出したのだが。
それと同時に周囲の闇から闇の大精霊が生まれ、そこから悪魔が自動発生したらしい。
今はヴェルダナーヴァが悪魔達の居場所として冥界を作成したとのこと。
片手間だったので特に何も無い空間だが、力ある悪魔達なら自分で何かを作れるようだ。
雑だなぁ、と思ったので後で何か暇つぶしになるような変化を創造してやろうと心に決める。
悪魔達は気性が荒いらしいので少し心配だが、近いうちに冥界を訪れることとしよう。
地球作成も盆栽みたいなもので、ほぼほぼやることがなくなってきたからな。
ヴェルダナーヴァが竜体を器用に折り曲げて椅子に座ると、俺の方へと向き直った。
「ところで、ボク実は昨日全知全能を捨てたんだけど、気付いた?」
「は……はい?」
ジャーン!!!とでもいいたげにヴェルダナーヴァがにんまりと笑う。
確かにその力が激減していることに今更気付いて、俺はぶっと口の中の紅茶を吹き出した。
「いやいやいやいや、何やってるんですか貴方は!?力はどこへやったんです!」
「君を見習って権能ごとに整理してから放出してみた。これでボクの権能のかけらを持った子達が世界に生まれてくるはずだよ」
「何かのテロですか???」
創世神の権能を細分化して世界に放出するなんて、ヤバいやつが生まれる前振りにしかならんぞ!
どうもヴェルダナーヴァは世界に多様性を望んでいるようだが、性急というか雑過ぎというか。
というか、俺に黙って創造神を降りるなんて酷い……。
と、そんなことを思っているのが分かったのか、ヴェルダナーヴァは穏やかな声で俺へと語りかけた。
「アルジュナはボクの作った世界に万が一があった時のため、創世の神として世界を見守って欲しいんだ」
「ずるいですよ。自分だけ全能を捨てて世界を冒険する気でしょう」
「バレたか。でもこんなこと頼めるのは君くらいのものだから」
甘えるような声で竜が笑う。
……仕方ない。無の時代からの俺たちの仲だ。このくらいなら受けてやらねばなるまい。
「仕方ありませんね。その代わり、世界を探検したら私にも何があったか教えてくださいね」
「勿論。土産話は楽しみにしていてよ」
竜は満面の笑みと弾む声で俺に返事をする。
きっと楽しみなのだろう。
隣についたフェルドウェイは相変わらず無表情だが、なんとなく主の上機嫌に微笑んでいるような気がする。
そういえば、フェルドウェイ以外の六人にもヴェルダナーヴァが名前をつけたんだったか。
いずれ挨拶に行こうか、なんて考えながら。
俺は自分の創造した地球世界をそっと撫ぜた。