本日。
天気は良い。昼の日差しが燦々と木々を照らす今日この頃。
悲しいかな。
リムルは夏場のアイスクリームのようにドロドロと溶けたまま「死…死ぬ……つか死んだ……」と呟くナマモノと化してしまった。
ベニマルは形は保っているようだが、白目を剥いて泡を吹いたままピクピク動くだけだ。
俺とリムル、ベニマルの修行は実に順調に進んだ。
シヴァ神の権能をメインに、カーリー、ヴィシュヌ、インドラ、スーリヤ。
各神の権能を武装として転換し、空間占有するように魔素を展開。
戦闘用空間のテクスチャを傷つけないように丁寧に手加減したワールドエンド系の粛正攻撃を、0.008秒ごとに炸裂させるだけの簡単な訓練だ。
その結果、リムル達は一時間で精神攻撃無効、刺突耐性、斬撃耐性ほか八つのスキルを獲得した。
見事な成果だ。
死んだ自身の魔素を取り込む機構もうまく動いており、死と生の間で加速した思考がスキルをどんどんと拡張している。
この調子なら、一年後ぐらいにはシマリスぐらいの強さにはなっていることだろう。
………うん?
精神攻撃無効はなんでだ?精神干渉系の攻撃はしていないのに。
まぁ、それはいいとして。
ディアブロも流石にこの成果には驚いて、ベニマルへ「リムル様のおそばに似合わぬ雑魚とばかり思っていましたが……これは見違えました」と正直に称賛したぐらいだ。
この三日で集積した魔素とスキルはリムル達に進化を促し、リムルなどはアルティメットスキル「
また、いくつか俺の攻撃を喰らって捕食者スキルが「
恐るべきガッツと言って良いだろう。
主の進化に感動のあまり涙ぐむディアブロとかいう謎情報が視界の端にちらつくが、それは丁寧に無視することにした。
「おいたわしい…リムル様……最悪の独裁神などに目をつけられたばかりに…」と涙をハンカチで拭う悪魔とかなんなんだホント。
俺と修行をしていると聞いて、シオンが「私もぜひ!」と言い出したのだが。
ベニマルが「やめろ死ぬぞ」と真っ平らな無の表情でそれを止めていた。
まさに迫真と言って良い気迫に、流石のシオンも「べ、ベニマルがそう言うのなら…」と尻すぼみになったほどだ。
うむうむ。
俺の修行はちょっとだけ厳しいからな。
と、そんな昼のこと。
ソウエイから「リザードマンの一群がこちらの集落へ向かってきている」との連絡が入った。
トカゲにトカゲが乗っている…などと余計なことを考えつつ。
俺たちはリザードマンの一群を迎えることとなったのである。
ガビルと名乗ったリザードマンの使者は、長々と話していたが。
ようは、豚頭族の侵攻を止めるため、戦力として俺たちを配下に加えたいらしい。
加えて牙狼族を従えた者は幹部として取り立てると、そのように高らかに宣言した。
リムルが「それ、俺なんですけど」と手を挙げれば、ガビルとやらは鼻白んだようだった。
「下等なスライムがぁ?ジョーダンを言うでない」
「むかっ!」
リムルがむっとして口をへの字に曲げる。
おん???俺の親友を下等なスライムとか言ったか?
あんな矮小なるものが???
カッと目を見開けば、柔らかなスライムボディが俺の顔面に衝突してきた。
「どうどうどうどう、落ち着けアルジュナ。ベニマルも!シオンも!ディアブロも!皆冷静になれってば!!」
リムルが俺を含めてあっちこっちに反復横跳びしている。
よく周りを見てみれば。
綺麗な笑顔で「こいつ、殺していいですか?」とか言ってるベニマルとか、陰鬱に微笑んで「この雑魚に自らの分というものを弁えさせましょう」と目を爛々と光らせるディアブロ。
手に持ったリムルの分体を雑巾みたいにねじってるシオンなど、場は混沌としていた。
シオンはリムルが可哀想だからやめてやれよ。
うーん、皆やる気のようだ。
俺はポヨンと腕の中におさまったリムルに囁いた。
「どうします?流石にこれと同盟を組むのは私としても遠慮したいんですが」
「うーん。でも俺たちとしても、豚頭族の対応のため戦力が欲しいのは本当なんだよな」
「なら直接リザードマンの首領にコンタクトを取ればいいでしょう。ソウエイならできますよね?」
「リムル様のご命令とあらば」
「ならいっか」
結論をまとめたらしい。
リムルが前へ進み出て、リザードマンの一群に高らかに宣言した。
「すまないが、お前達の提案は受け入れられない!帰ってくれ!」
「なに、どういうつもりだ。吾輩の慈悲を無下にするとは、不遜なスライムめ」
リムルはうーんと少し考える仕草をしてから、人型に化け直した。
ざわりと「スライムが人に化けた?」「どういうことだ」と驚愕の空気がリザードマンに流れる。
「リザードマンとの同盟自体を拒否する気はない。だが、お前と同盟は結べない」
ちらっとリムルに目配せされたディアブロが一礼し。
瞬間、凄まじい轟音が響き渡った。
ディアブロの軽い手の一振りで、リザードマンの一群を掠めるように森に凄まじい亀裂を刻んだのだ。
あんぐりと口を大きく開けたリザードマン達へ、「我々の主人は寛大です。今すぐ去れば命の無事は保証しましょう」とディアブロが笑う。
「───いくら下等なリザードマンとは言え、言っている意味くらい、分かりますよね?」
原初の黒の本気の脅しかけに、リザードマン達はハッと顔を青ざめさせた。
そんなわけで。
「撤退!」「至極当然!」などとピューっと逃げていくリザードマンの姿は、なんとも言えずコメディチックなものであった。
・修行
死に覚えゲーというか死にゲー。
ワールドエンド系粛正攻撃がコンマ秒刻みで毎回違う形式で空間を埋め尽くす。相手は死ぬ。
「友人の死を回避するために友人を殺すのはアリなのか」。
リムルはそんな哲学的な問いに悩まされている。