豚頭族の軍勢、約二十万が進軍しているらしい。
豚頭族達の最終目標はリザードマン達が棲家としているシス湖に向かっているようだ。
ソウエイの報告により急遽集まった俺たちは、大きな机を囲んで軍議を開いていた。
地図は毎度お馴染み、俺が映し出す立体投影だ。
俺の作った木板にも同じ機能があるが、小さくて見づらいのがネックだったからな。
大きく山々の高低差も反映した3Dで森を映し、進軍中の豚頭族をアイコンで表示する。
また、各勢力の位置と進行状況も映し出せば完成だ。
引き続きゴブリンの集落を巡っているガビルの位置もきちんと表示されている。
これにはカイジンも驚いたらしい。
「こんな詳細な地図、ドワルゴンの王宮でも取り扱ってねぇだろうぜ」と驚愕の表情だ。
「まぁ、私は全能ですので」
「本当になんでもできるもんな、お前……あんま能力安売りしすぎるなよ。変なやつにたかられても知らねーからな?」
リムルの心配そうな声色にますます心が上向くのを感じながら、俺は鼻高々で胸を張った。
というか、この地図に関しては正直ほんとに褒められるようなレベルのことはやっていないからな。
いくつかの権能をちょろっと稼働させただけの小手先技だ。
もう少しスキルが揃えば、リムルの「
リムルが何気なく地図上の豚アイコンをタップすると、画面がスッと変遷した。
「おっ!?」とリムルが驚いた声を出す。
変遷先はオーク進軍の中継映像だ。
兵站や人数、武装状況等の詳細、スキル発動状況その他が見やすくグラフやイラストを多用してデザインされている。
これは俺が機を見て公開しようと思っていた機能だったのだが、先に見られてしまったようだ。
まあいいか。時間の問題でもあったし。
「もし他に知りたい情報があったら右上の虫眼鏡マークをタップしてください。音声検索できますので」
「至れり尽くせりじゃん?」
《………》
リムルがほへぇー、といった風体でぴこぴこと画面をいじっている。
なおラファエルがまた何かいいたげにしているが、俺は何も言わんぞ。
なぜかこちらを恨みがましげに見ている気配すらする。
はっはっは、究極能力程度に負ける俺ではないのだよ。
さて、それらの情報から察するに。
豚頭族の目的は、飢餓者というスキルでリザードマンやゴブリン、大鬼族といった各種族の力を取り込むことらしい。
弱者なりの知恵、といったところか。
「ま、今の俺たちなら敵じゃないな。そうだろベニマル!」
「ええ!どんな大群だろうと豚頭族程度、目にもの見せてやりますよ!」
二人の目が死んでいるが、声だけは元気だ。
ディアブロが同調するように「どこまでもご一緒させていただきます!」と気勢を上げた。
実際、この3人がいれば豚頭族二十万とオークロード程度ものの数ではない。
アルジュナズブートキャンプの効果が出ているからな。
なお、リムルがお前もどうだ?とディアブロを誘ったところ。
「大変光栄なお言葉なのですが、私には取り急ぎこなさねばならぬ仕事がありまして…ああ、リムル様とご一緒できぬこの身をお許しください!」と涙ぐみながら早口で喋り切った挙句素早く身を隠した。
見事な保身と言わざるを得ない。
汚いさすが悪魔汚い。
「やっぱりずるいですベニマルばかり!」とシオンがブンブンと腕を振ったので、ベニマルが能面みたいな笑顔を浮かべる一面もあった。
「お前もやるか?本当に?」と泥人形みたいなトーンで喋るベニマルは不気味の一言であった。
そんなわいわいとした軍議の中。
ふと、耳をすませばギィが念話で話しかけてきたことに気がついた。
特殊なスマホ(神器)の子機を渡しているのでいつでも念話できるのだが、その機能を使っているらしい。
『ちょっと今そっちへ行っていいか?』とのことだったので、別に特に問題ないと返答する。
全員揃っているし、リムル達にも紹介したかったからな。
「今から客が来るのですが、少し良いでしょうか?」
「お、おう…?客って、唐突だな」
「魔王の一柱にして最古の魔王なのでリムルとしても顔をつなぐのは利になると思いますよ」
魔王、の言葉にざわりとシズさんの気配がざわめき立つ。
ディアブロが嫌そうな顔で眉間に皺を寄せた。
「ギィですか。この忙しい時に何の用ですか?」
「おいおい、そう冷たいこと言うなよノワール」
しゅるりと俺の影から出現したのはギィ・クリムゾンその人だ。
「って、ノワールはどうしてこんなとこにいるんだよ」
「その名は好かないと伝えたはずですが。今はディアブロと名を頂きましたから、そちらで呼ぶように」
「名前?」と意外そうな顔をするギィをよそに、リグルドがディアブロへと問いかけた。
「お知り合いですかな?」
「彼は魔王の一柱にして原初の悪魔の
その言葉に真っ先に反応したのはカイジンだ。
「おいおい、えらいビッグネームじゃねぇか!」との言葉通り、やはり文明人ならピンと来る名前らしい。
ギィはニヤリと笑って部屋の人員を睥睨した後、改めて俺へと向き直った。
「聞きたいことはいろいろあるけどよ。まず、お前の怒りを買った大馬鹿野郎はどうなったんだ?」
「はい?」
ギィは首を傾げた俺に詰め寄った。
「はい?じゃねぇよ!あんなふうに気配をモロ出しにしやがって。よっぽど腹に据えかねることでもあったんだろ」
「心当たりがないのですが」
うーん、マジでなんの話なんだ?
ギィの思考から逆算して…該当の疑問が生じた時刻はこの辺り…で、その時の俺の動きは、と。
ああ。
ベニマル率いる大鬼族が俺たちに突っかかってきた時のことか。
ようやく分かったところで俺は首を振った。
つまりギィの心配するようなことは何もない、と言うことを伝えることとする。
「本当になんでもないですよ。というか、対象人物は今は私の弟子になってます」
「弟子ィ!?!?」
ばっと視線を部屋中に滑らせたため、ベニマルを前へ押し出す。
ベニマルが強者の出現に警戒しながら進み出る。
「おお、なかなかの強者じゃねぇか。というかお前と戦ってどうしてこいつ消し飛んでねぇんだよ」
「消し飛んでますよ?」
ギィが「は?」と間の抜けた声を出した。
ベニマルが重苦しく頷き、「はい。毎日数えきれないほど消し飛んでますね。ハハハ」と合成音声みたいに平坦に笑った。
しばし、沈黙が部屋を支配する。
ぽん、とギィがベニマルの肩を叩いた。
「辛かったな。相談があればいつでも乗ってやるよ」
「ありがとうございます……」
謎の和解が成立し、深い理解で繋がった二人はぐっと硬い握手をした。
リムルが切ないような嬉しいような顔で「ベニマル、良かったな…」と言葉を漏らしている。
なんだこの空気。