千客万来とはこのことで。
ギィも帰らぬうちに、もう一人の来客がこの集落を訪れた模様。
第三者がこちらへと接触してきたとソウエイから連絡があったのだ。
シズさんが大きな机も含めてぎゅうぎゅうの部屋を見廻し、苦笑した。
「ちょっと狭くなってきたね」
「だな。次はもうちょっと広い会議室を作るか」
ギィは勝手に物質創造のスキルで椅子を作って座っている。
どうやら次の客が来ても居座るつもりらしい。
「名付け親は誰だよ」とか軽率に聞いていて、カッと目を見開いたディアブロに若干引いていた。
「よくぞ聞いてくれました!リムル様の素晴らしさをあなたも知るべきだとは常々、」
「おう。もういいわかった」
「なんです、自分から聞いておいて」
始まりかけたマシンガントークをバッサリ削ったあたり、付き合いの長さが窺い知れた。
リムルが気配を消して知らぬ存ぜぬを貫き通している。こちらはこちらで潔い。
もはや軍議のかけらも残っていないまったりとした空間だ。
ここに客を入れるのか…?と若干不安な気持ちになりながら。
哀しきかな。
ふわりと現れた森の妖精ドライアド、トレイニーはまずどこから突っ込むべきか思案しているようだった。
ギィはずっとこの陣営にいましたみたいな顔をしてディアブロと雑談しているし。
ちょっと困ったような顔をして、ひとまず俺に挨拶することにきめたらしい。
「お初にお目にかかります、原初の神よ。創造と滅亡の担い手、アルジュナ様。私はトレイニー。この森の管理者を任されております」
深々と頭を下げて平伏し、トレイニーとやらは俺へと恭順の意を示した。
とはいえ、平伏するほどの場所もないのでコンパクトに体を縮こめてはいるが。
なんとなく収まりの悪い気持ちになりながら、俺は椅子をずらしてトレイニーと向き合い、鷹揚に頷いて見せた。
「頭をあげてください。用件を聞きましょう」
「あなたの庇護を受けし魔人、リムル=テンペストとその配下の魔人たちに、オークロードの討伐を依頼したいと考えております」
「なるほど」
森を食い荒らすオークロードは、森の管理者にとっても好ましいものではないのだろう。
ギィは面白そうな顔をして、改めてリムルに話しかけた。
「お前がさっきノワールの言ってたリムルって奴か。ノワールの名付け親でアルジュナ神の弟子。まさに超大型新人だな」
「…そう持ち上げられても困るんだよなぁ」
リムルが明後日の方向に目を逸らして口をへの字にした。
数日の特訓で究極能力を二つ手に入れたとはいえ、ギィの長い長い戦闘経験を加味すればこの二人の戦いで軍配が上がるのはギィの方だ。
それをラファエルを通じて理解しているのだろう。
リムルは苦々しげな表情をしている。
トレイニーがリムルへと嘆願した。
「魔物を統べるもの。リムル様。この依頼、受けてはくださいませんでしょうか」
「……どうせ相手が森を食い尽くす気なら、俺たちも戦うことになるんだ。受ける事に異議はないさ」
「…!ありがとうございます」
トレイニーのその態度は落ち着いた態度に見えるが、その実冷や汗も震えも隠しきれていなかった。
こちらを意識している、というか酷く恐れているらしい。
俺をとらえようと揺れる視線が動揺を隠しきれていない。
そんな怯えることはないのになぁ。
ギィがパン、と手を打って満足げに笑う。
「お手並み拝見だ。お前達が無事オークロードを蹴散らしたら、俺が魔王としてお前らをワルプルギスに招待してやるよ」
にやっとワイルドな笑みを浮かべるギィは実に悪魔らしく、魔王達の管理者と呼ぶに相応しい貫禄に満ちている。
俺はちょっとだけ瞬きした後、恐る恐る切り出した。
「ですがギィ、リムルは魔王種を持っていませんし、覚醒魔王でもありませんよ?」
「……はぁ!?そんだけの存在規模でまだ魔王種ですらねぇのかよ!」
ギィが信じられないと言ったように目を見開いてリムルを凝視した。
アルジュナズブートキャンプで己の余剰分の魔素を取り込んだだけだからな。
ある種閉じた成長を遂げた、と言っていいだろう。
進化はあるが拡張はない、故に別種の進化ルートである魔王種の獲得もない。
「まぁ、どうせオークロードを取り込んでしまえば魔王種は問題なく開花するかと思いますよ」
「…ならいいか。つかここから進化って、どうなっちまうんだよ。成長性ありすぎだろ」
じろっとしたギィの視線を取り込み、たじたじのリムルが所在なさげに辺りを見回す。
そして何かを思いついたように俺に縋り付いてきた。
「な、なぁアルジュナ!こんだけ強くなれたんだし、そろそろ特訓は終わりに…」
「もう一段階ギアを上げても良さそうですね。スキルは成長しましたが、二人共技能が伴ってないので。今後は威力抑えめの技量重視でいきます」
もっとも、一撃でも喰らえば消し飛ぶのは据え置きだ。
全範囲攻撃の代わりに戦神の権能を使った近接戦を主体で行く。
そうすれば技能も身につけられ、一石二鳥というわけだ。
それにそろそろラファエルが俺の権能の解析をいくつか終えだして僅かながら耐性も獲得し出す頃だろう。
耐性にかまけているようじゃ攻撃は防げない、ということを教えねばなるまい。
俺の言葉を聞き、リムルはどろっと体を溶けさせた。
ああ、また溶けたアイスクリームみたいになっていく……。
ギィが静かに冥福を祈っている。何故。
「が、頑張って悟さん!私、応援してるから…!」
「シズさん…!」
真摯な応援に涙ぐむリムルと、立ったまま失神しているベニマル。
話についていけてないトレイニーさんが「わ、たしはこれで失礼しますね!」とそそくさと立ち去っていく。
オーク20万とオークロード程度、リムルとベニマル、ディアブロがいれば適当に蹴散らすことぐらい楽勝だ。
一応、リザードマン達はこちらで保護すればいいだろう。
そんなわけでなぁなぁに軍議は進み、オークロード討伐に向けて一同は作戦を開始するのであった。