ソウエイを使者としてリザードマンの里へと派遣して。
無事、俺たちは同盟の約束を取り付けることができた。
とはいえ、リザードマンの里へ赴く前にやることは山積みだ。
此方も残していくゴブリン達が分隊に攻められないように、各種用意は必要不可欠。
この里の防衛にはリグル達ゴブリンライダーを中心に、ゴブタやシュナと言った精鋭戦力を配置。
バリケード設置と避難経路も確認したし、市民の組み分けと避難用点呼表も準備した。
なお、俺は留守番組である。
盛大に文句を言ったのだが、リムルが「俺たちが離れた後町を任せられるのはお前しかいないから」というから渋々残ることになったのだが。
絶対覗き見してやる、と固く誓いつつぶすっと神社でごろつく日々である。
現場へは牙狼族の足で七日ほどかかる道のりだが、そう時間をかければリザードマンにも少なくない被害が出てしまう。
そこで俺が即興で全員を運ぶポータルを作成、それを使って派遣する人員を送り出すことになった。
人員はリムルの他、ディアブロ、ベニマル、ソウエイ、ランガの四人と一匹だ。
ソウエイとランガはリザードマンの保護と空からの戦況把握を任せられる予定となっている。
現状、遠目で見たところ。
リザードマン首領の戦いは見事の一言に尽きる。
天然の要塞である洞窟を生かし、ヒットアンドアウェイ。
この分ならば七日でも大きな被害を出すことなく乗り切れたかもしれない。
リザードマンの首領の統率者としての力量は実に確かだ。
二日ほどの支度を終えて、リムル達を見送ることになった俺たちはゴブリンの町の外に来ていた。
俺の作ったポータルはどこでもドア風味で、なんとも気の抜けたデザインをしている。
見覚えのあるピンク色のドアが唐突に地面に設置されている様子に、リムルは思わずと言った様子で素早いツッコミを入れた。
「おぉい!?!?これってアレだよな!?完璧に猫型ロボットをリスペクトした形だよな?」
「他人の空似ですよ」
「嘘つけ!!このドラ◯もん!地球破壊爆弾炸裂マシン!」
「誰がドラえ◯んですか」
ネタがわからず疑問符を浮かべる見送りのシュナ達をそのままに。
一行はその微妙に安っぽい作りのドアを潜り、リザードマンの里へと転移していったのであった。
リザードマンの首領は、己の判断が間違っていなかったことに安堵した。
「約束通り、お前達へ助力に来た。俺はリムル=テンペストだ。よろしく頼む」
「これはよくぞ来られた!我らリザードマン一同、貴殿らを歓迎しようぞ!」
首領は玉座から立ち上がり、精一杯歓待のポーズをとって歩み出た。
若い衆は感じ取ることができないようだが、長く生き、経験豊かな首領は対面する者達の実力を肌で感じ取っていた。
凄まじい、対面しているだけで吐き気を催すような妖気。
特にリムルという主と、隣に立つ赤髪と黒髪の魔人は格別だ。
底すら見えないという言葉が相応しい、極大の魔である。
彼ら五人だけで、万軍にも匹敵する桁外れの戦力であることは疑いようも無かった。
だが、実力差を感じられない若い衆はそうでは無かったようだ。
若いリザードマンが気色ばんで槍を片手に立ち上がった。
「ふざけるな!同盟の援軍だと聞いていれば、たったの五人だと!?そんな数で何ができる!我らリザードマンを舐めるのもいい加減にしろ!」
「ほう?」
黒髪の魔人がうっそりと危険な香りを漂わせて嗤った。
まずい、と感じると同時に声を張り上げる
「鎮まれ!このワシがリムル殿を歓迎すると言ったのだ。無礼は許さんぞ!」
「ですが首領!」
「口答えは罷りならん!客人への無礼を牢で反省しているがいい!」
「首領!!」
近衛に命じて無礼を働いた若いリザードマンを牢へと連れていく。
室内には若い衆の反感と不満が満ち満ちているようだ。
淀んだ空気が滞留し、良くない空気に首領は悪態をつきたい気持ちだった。
黒髪の魔人が首領をせせら笑う。
「大変ですねぇ。弱者とはかくも愚かだ。それを統率するなど、私ではとてもとても」
「……大変失礼した、お客人」
この黒髪の魔人、あれ以上無礼があれば何の躊躇いもなく我々を皆殺しにしたであろうことは間違いない。
主人に無礼な態度を働いた、というだけで。
首領はごくりと喉を鳴らして、どっと力が抜けそうな四肢に気力を入れ直した。
主の方は穏やかな性質のようで、「じゃあ、案内してくれ。お前達も布陣があるだろうから、先に打ち合わせをしよう」と言ってくれている。
それでは此方で──そう言いかけて。
「ああ、それと」
突然、リムルは隠していた妖気を部屋中に噴出させた。
暴風竜もかくやという凄まじい魔素。強大さ。誰の目にもわかるような悍ましいほどの気配。
そのあまりの強大さに部屋中のリザードマン達は恐怖に慄き、恐慌状態へと陥りかける。
そして瞬時にふたたび妖気が収縮、首領ぐらいにしかわからないほどに隠される。
リムルは平然と部屋のリザードマン達を見廻した。
「互いの実力差は把握していた方がお互いのためだろ。これでもまだ納得できないってんなら、かかってこい」
くい、と手を曲げる動作。
しんと静まり返った室内に動くものは誰一人いない。
歯向かうなどできようはずもない。
今更になって彼我の実力差を理解したらしい若いリザードマンが青ざめて震えている。
「じゃ、行こうか。リザードマンの首領さん」
「あ、ああ」
リザードマンの首領は彼らを先導しながら、己の判断が間違っていなかったことを深く噛み締めた。
これでリザードマンは救われる。
圧倒的強者の庇護のもと、オークロードがもたらす滅びを乗り越えられる。
そのように、確信しながら。