転生したら創世滅亡輪廻の神だった件   作:ラムセス_

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幕間:カザリームの苦悩

 

「カザリームはん、ワイは反対や」

 

 魔王カザリームはその言葉に、仮面で隠した顔を顰めさせた。

 

 ここは超魔導大国ソーマ。

 大陸でも有数の歴史を誇るエルフの国であり、精霊工学においては他の追随を許さない技術大国でもある。

 

 そこの王である魔王カザリームは玉座に座り、側近を含め退出させた冷たい玉座の間にて思索にふける。

 その隣で玉座に寄りかかって片手を上げるのは魔導王朝サリオンの天帝エルメシアの父、サリオン・グリムワルトその人である。

 

 軽妙な口調と、どこか風来坊のような雰囲気を持つ自由人だが、その実魔導王朝サリオンの生粋の貴人である。

 サリオンはため息をついて首を振った。

 

「今、ジュラの大森林にはあの滅亡神アルジュナがおるんや。しかもどこに地雷があるかもわからへん。近寄るんはバカのすることに違いあらへんで」

「見てきたのでしょう。オークロードの確認のために」

「あくまで見ただけや。実際の作業には関わらん約束やからな」

 

 おどけたように言うが、それとは裏腹に瞳は鋭い。

 サリオンは老獪だ。

 勇者として活動した年月と、魔導王朝の貴人として生きた経験。

 それらは魔王カザリームをして舌を巻く計算高さにつながっている。

 

「ワイがあの時、ソーマの郊外で野盗にやられてボロ雑巾になっとるカザリームはんを拾ったんや。責任は取るし、面倒も見る」

「……ええ。あなたには感謝しています」

「が、ワイの行いでエルメシアの国に迷惑かけることはできへんのや。もし罷り間違ってワイだけでなくエルメシアの国まで『不出来』なんて判断されたらかなわへん」

 

 その言葉にしょんぼりとした二人のデスマンに、カザリームは顔を綻ばせた。

 ティアという名をつけた少女のデスマンの頭を撫ぜる。

 彼女はかつてカザリームの侍女だった人だ。

 

 父母は心労ですでに亡く、今生きているのは己のみ。

 それに思うところがないと言えば嘘になる。

 悲しみだけでないごちゃ混ぜな感情に悩まされた日もあった。

 

 「カザリーム」という呪いを受けてから、カザリームは国を出て当てもなく彷徨った。

 そこでサリオンに拾われて。

 

 しばらくして、王が正気に戻ったと風の噂で耳にした。

 あのジャヒルと名乗って悪逆の限りを尽くしていた父を思い出せば、今更戻る気にもならず。

 

 しかし、ある折にソーマに偶然訪れる機会があった。

 その時見た街は活気が戻り、人々の顔に笑顔が溢れていた。

 あの陰鬱な空気に包まれていた街を知る身としては随分驚いたし、素直に嬉しかった。

 

 しかもあの時のことを知る側近と再会して、連れ去られるように流れのまま王宮へと案内されて。

 涙目で喜ぶ側近達にカザリームは手を引かれ、呆然としたままかつての己の自室へと連れらていった。

 

 そこで見た事実は、残酷な時の流れを感じざるを得なかった。

 

 すでに父は亡く、母は病にふせって弱々しく、意識もない状態であった。

 父の遺言のみが手元に残されたカザリームは、それをただ黙して読むしか無かった。

 

 謝罪と、謝罪と、謝罪と、「自分が自分では無かったようだ」という独白。

 この国を頼むというカザリームへの遺言で締められたそれに。

 

 カザリームは、言いようもない激情に苛まれた。

 まず憤怒。今更どの口で、何故ワタクシはこのような目に遭わなければならなかったのか。何故自分だけ。

 どうして、もっと早く正気に戻ってくれなかったのか。

 

 激情でぐちゃぐちゃになった頭でも。

 カザリームはそれでも、この国を滅茶苦茶にしてやろうという気にはなれなかったし、見捨てることもできなかった。

 

 それは優しかった父を覚えていたからだし、その後の父が国の維持と繁栄に必死だったことは疑いようも無く明らかだったからだ。

 

 その後、カザリームは国を継いだ。

 やれることは何でもやった。

 この国を何者にも侵されない楽園にするため、今度こそ絶対の安寧を手にするために。

 

「それなんだけど。本当にそんなにやばいのかい、アルジュナとかいうのは?」

 

 玉座の間の隅で話を聞いていた自由組合総帥(グランドマスター)、ユウキ・カグラザカが首を傾げて言った。

 彼はこの国に拠点を置く自由組合のトップで、カザリームにとりいって甘言を囁く、蛇のような男である。

 

 しかし短命種の例に漏れず、ユウキもアルジュナ神の強大さを知らないらしい。

 カザリームはピシャリと打ち据えるように当たり前の事実を返答した。

 

「アレは神です。逆らうという発想自体が間違いの、全能の存在よ」

「せや。魔王ですらアルジュナ神には不干渉の掟を結んどる。もしもがあれば…」

 

 サリオンが言葉を切る。

 雰囲気を出すようにどすの利いた声で演劇じみた様子で言い放つ。

 

「アルジュナ神が気分を害す前に、下手人を排除する。そう言う盟約もあるんや」

 

 もしアルジュナ神が生命体そのものを『不出来』と考えるようになってしまったら世界は終わりだ。

 そうでなくても種族単位、国単位で滅びが起こる可能性も十分にあり得る。

 そして、その滅びを一握りの強者以外誰も気づくことができない。

 

 ただ千年ごとの滅びで歴史ごと抹消され、無かったことにされてしまうのだ。

 

 話を聞いたユウキは「うーん」としばし悩ましげに首を捻ってから口を開いた。

 

「なら、別の手を考えた方がいいのかな。けどジュラの大森林という立地は東の帝国を見据えたら外せないことには違いない」

 

 次はどの一手を打つべきか、ユウキは考え込んでいるようだ。

 彼の目的はソーマを中心とした全世界の掌握。

 カザリームの目的とも一致するため、今は一時的に協力関係となっている。

 

 ……父が正気に戻ったあの日。

 アルジュナの一撃があった時と一致していることを、カザリームは理解していた。

 祖国が元の優しき姿に戻ったのも。

 

 けれど、カザリームのことは救ってはくれなかった。

 

 カザリームはゆるゆると首を振って玉座の背に体を預けた。

 くだらない感傷だ。

 サリオンが「じゃ、ワイはそろそろ帰るか」と大きく伸びをした。

 

「ワイはエルメシアの国に戻るから、なんかあったらそっちに連絡してや。それと、ジュラの大森林の件ははよ考え直しぃや」

「わかったわ。ありがとうサリオン」

「ええってええって。カザリームはんもきぃつけてな」

 

 ゆらっと体を起こしてサリオンは足取りも軽く去っていく。

 その後ろ姿に優しかった父の姿を幻視しながら、カザリームは瞳を閉じた。

 

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