戦後処理が始まった。
今後敗北した豚頭族をどうするか。リムルたちとリザードマンの関係をどうするか。
決めることは山積みだ。
俺としては後ろで糸を引いていた中庸道化連が気になっていたところだが、どうやらこの件からは手を引いたようだ。
クレイマンとやらはまだ諦めていないみたいだが、他の奴らはすでに撤退して証拠も処分した模様。
……ん?
このクレイマンとかいう妖死族の魔王種、精神操作を受けているのか。
長い精神操作に性格も歪み、悪性が強くなってしまっている。
とはいえ。
この手の操作を勝手に解除したらまたリムルに怒られてしまうかもしれないしな。
まぁ、ミジンコに毛が生えたみたいなもんだし。
特に気にする必要はないか。
さて。
本命の戦後処理だ。
一応リムルと各種族との会議前に話し合いを済ませている。
俺の千里眼から見た公平な目線での各種族の状況をリムルに共有したのだ。
要は雰囲気感、種族SNSのバズ系意見をいくつかピックアップするような感覚だろうか。
各種族が何を考えているのかの生の声、という奴だ。
俺の千里眼(超越)EXの賜物である。
二人っきりの会議室で俺とリムルは膝を突き合わせて話し合っている。
膝を突き合わせて、というが片方はスライムなので膝とかないけれど。
ぽよん、とリムルが体を揺らしてわずかに視線を上へ向けた。
「そうか。豚頭族の壮絶な飢餓、か。天の恵みは人にはどうしようも無いとはいえ、やるせないな」
「リムルが早期介入したので、リザードマンは被害が少ない。そこまで強い対応を取らずとも比較的反発は少ないと思いますよ」
「後の種族は…まだ被害なし、か。あとはベニマル達にどう納得してもらうか、だな」
一応リムルの持っていき方としては「豚頭族はオークロードの影響で正気を失っていた」として無罪放免にしたいらしい。
現代日本で言うなら心神喪失状態が当てはまるだろう。
しかしそれで殺されたものが納得できるとは限らない、とリムルは危惧しているのだろう。
大鬼族は滅ぼされていて、そこには拭いきれない悲劇があった。
とはいえ、ベニマルたちは元傭兵として感情を割り切る術がある。
リムルという絶対盟主の力があれば、手を取り合うことが可能だと個人的には思っている。
「そもそもなのですが、元々魔物の精神構造が人とは若干ずれているんですよ」
「そうなのか?」
「ええ。弱肉強食として長く生きてきたからこそですね。強者への恭順、弱者の被害を仕方ないとする考え方が種族全体に染み付いています」
俺の解説にふぅむ、と難しい顔をした。
糸目のスライムなのでちょっと表情の変化を読み取るのが難しいが。
「なるほどな。死んだのは弱かったからだ、ってやつか。楽ではあるが、なんというか殺伐としてるな」
「こんな森の中では死が身近になりますからね」
リムルの豚頭族の処遇方針を肯定すれば、リムルはほっと安心したようだった。
これで森は安寧を取り戻し、魔物たちをまとめる大同盟が成立するのだ。
とはいえ、リムルが強者の盟主として絶対権力を発揮することが必要条件だ。
「盟主ぅ?やだやだそんなの祭神であるお前の仕事だろ!?」
「いや神は仕事とかしませんので」
きっぱりNOと否定すれば、スライムはぐにゃりとへにゃけてしまうのだった。
そんなわけで、大同盟が成立し。
新しく国として再出発した今日この頃。
労働力が激増した影響で、深刻な食糧難となっていた。
森の恵みはいつも通りなのだが、人口の増加に食糧供給が追いつかないのが原因だ。
俺が大地を肥沃にしたとはいえ、豚頭族15万の住処までの帰りの食糧、俺たちの街に残る豚頭族の食い扶持を用意するのは至難の一言だった。
仕方ないので一部俺が食物を創造して配給も行ったのだが、やはり食料の増産は急務だろう。
この人数では狩りによる維持はとても不可能だ。
森の恵みを食い尽くすとトレイニーさんも困るしな。
しかし、その分だけハイオークたちは勤勉で真面目だった。
初めての狩りから道路工事、建築まであらゆる分野で八面六臂の活躍を見せた。
男女ともに力も強く、理想的な労働力そのものだ。
最近はその労働力を活かして急ピッチで森を開墾、畑を耕している。
そんなある日の昼のことだ。
ペガサスに乗った一団が現れたのは。
隊列の中央を走る赤く装飾された豪華な軍馬に乗るのは、武装国家ドワルゴンの英雄、ガゼル・ドワルゴだ。
急いで現場に駆けつけたリムルへ、ドワルゴは厳かに問いかけた。
「前置きは面倒なだけだ。問おう、スライム。貴様の背後にいるのは本当にかの滅亡神、アルジュナなのか?」
急激な拡大と名付けの増産に、流石に近隣の人類国家としてその脅威を確かめざるを得なかったのだろう。
ドワルゴンでもおそらく遠見の術か何かでオークロード討伐は確認していたはずだ。
神社から動かず遠目から見ているだけだったが、呼ばれているのが俺なら動かねばなるまい。
「私を呼びましたか」
「!!」
テクスチャを引き込む要領で短距離転移をすれば、ざわり、と、ドワルゴンの騎士達がざわめいた。
その顔には困惑と、やや好奇心のようなものが見える。
「また会いましたね、ガゼル・ドワルゴ。250年ほど前にあったばかりですが」
「……お久しぶりでございます、神よ」
ペガサスから降りたガゼルが片膝をつく。
「王!?」「なんと!」と王が頭を下げた様子に動揺を見せた。
ガゼルと前に会ったのは彼が修行の旅に出ていた時だ。
彼もなかなかガッツのあるドワーフで、俺に剣技で勝負を仕掛けてきたんだったか。
流石に剣なんて全く使えなかったので戦神の権能で使えるようにしたが、あれは全くフェアではなかった。
瞬きの間に80回ほど死ぬことになった若きガゼルは、それでも折れることなく突っかかってきた。
さすが、若いっていいなと思った瞬間である。
「貴方様がこのスライム、リムルの国を庇護しているとは真でしょうか」
慎重に、地雷原に踏み込むような静かさでガゼルが俺に問いかける。
「相違ありませんよ。私はこの国に加護を与え、守護するでしょう」
「それは………いえ。そうなのですか」
「ルミナス教とは衝突せざるを得ませんが、仕方ないことだ」
西方の国々、特にルミナス教周りとソーマがガゼルは心配だったようだが、それに関しては織り込み済みだ。
リムルが首を傾げる。
「ルミナス教?」
「神ルミナス…というか、魔王ルミナス・ヴァレンタインを崇める一神教ですよ」
「魔王を崇めてんのかよ!?」
リムルだけでない、一緒に来ていたベニマルたちも驚きを隠せないようだった。
彼らもルミナス教に関しては知っているらしい。
が、魔王ルミナスはそこまで有名ではないのか?
少し前までかなり大っぴらに魔王をしていたのだが、時間の流れは早いものだ。
首を捻っていると、ガゼルが眉間の皺をもみほぐしていた。
「それは、俺も初耳なのですが。アルジュナ神よ」
そんなもんかねぇ。と思いつつ、俺はふと思いついて口を開いた。
「ふむ。考えたことがなかったですが、信仰に応じて力を与えるのもシステムとして悪くないですね」
「えー、大丈夫かお前、また何か変なことするんじゃないだろうな」
「大丈夫ですよ。それに、せっかくこの国の祭神になるんです。信仰には自動で加護を与えられた方が楽じゃないですか」
「楽ってお前」
リムルがスライム体をぽよんと弾ませて俺の頭の上に乗った。
シオンが「ああっ、リムル様が行ってしまわれた…」と悲しい顔をしている。
さっきまでシオンに抱っこされてたもんな。
つか、リムルもいつも女性の胸と触れ合う位置にいるのは良くないと思うのだが。
俺はぷにぷにとリムルをつついてから言葉を続ける。
「世界の言葉で信仰システム導入の通知をするので、特に混乱は起こらないと思いますよ」
「いやお前、世界の言葉を私的利用するなよな」
「別にいいじゃないですか。このシステムは元々私たちが知性体に一斉通知するために作った仕組みなんですし」
「え、そうなの?」
「大体40万年前ぐらいにヴェルダナーヴァが作った古いシステムですよ。でもあの駄竜、いい加減でメンテナンスもしないんですよね。定期的に不具合が無いよう修正してるのも私ですし」
「規模の違うシムシティの話をしてる…」
結局ぐだぐだの会話になってしまった。ガゼルがごほん、と咳払いする。
結局、ガゼルは来賓として迎賓館──という名のついたただのほったて小屋──に案内して、改めて会談することが決まったのであった。