本日。
ブルムンド王国とファルムス王国からそれぞれ使者がやってきた。
街の入り口で、「久しぶりー!」とブルムンドの冒険者パーティ、エレン一行が手を振っている。
これには出迎えに来たシズさんも喜んで再会を分かち合っている。
ただし、自由組合支部長のフューズは俺をチラチラ見たまま緊張しっぱなしのようだったが。
また、ファルムス王国からはヨウムという名前の冒険者が来たらしい。
スライムボディのリムルに「スライムが国王???」と鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
スライムに威厳がないのは確かだが、侮りは即ち不出来なので心するように。
迎賓館に案内すれば、「わぁー、立派になったねぇ」とエレンが嬉しそうに足元を確かめながら街道を走った。
全て整備され、精霊工学による街の明かりが並ぶ首都の光はこの世界でも一見の価値があるだろう。
迎賓館の赤い絨毯の上を歩き、丁寧に削り上げられた職人作の木製椅子に座れば会談の開始の合図だ。
フューズがまず咳払いし、口を開いた。
「お招きいただきありがとうございます、アルジュナ神よ」
「この国の盟主はリムルです。礼ならリムルに」
「……これは失礼いたしました。盟主リムル、突然の来訪を受け入れていただき感謝します」
彼は非常に弁えた人物らしい。
丁寧かつ物腰穏やか。元は冒険者だったようだが、これなら貴族ともコネクションを作れるだろう。
フューズは少し言葉を選んでから居住まいを正した。
「我が国の目的はテンペストとの国交の樹立です。最近、我が国ではアルジュナ神への信仰が高まっておりまして。一千年の周期が近いのもありますが」
やはり先日の世界の声以来、信仰によりアルジュナ様よりの加護を獲得したものが出てきているのが大きいのでしょう。
そのようにフューズは言った。
早速「信仰と加護」システムがうまく回っているようだ。
たしかにテンペスト国内でも一部加護を入手したものも出てきている。
信仰に応じて入手できる加護も強力になっていき、聖者ほどにもなれば
信仰しがいはあるのだろう。
リムルがヒューズの後ろで立って控えるエレン達へ向き直る。
「お前らは何かスキルを入手できたのか?」
「あー、私たちはほら、己の力を信じる冒険者だから!」
「ほう、不信心ですね」
からかいがてらリムルのスライムボディを手でぽよぽよしながら笑えば、直立不動で「滅相もない!!」と3人組は叫んだ。
冗談冗談。信仰の自由はきちんと保障する神だからな、俺は。
それについてなのですが、とフューズが申し訳なさそうに眉を下げる。
「一部の意見ではありますが、アルジュナ神は人を見捨て、魔物に加護を与えるようになったのではないかと危惧しております」
「俺は上の意向なんざ聞いてないからわからねぇ。ただ、滅亡神が堕落して魔物に与するようになった、なんて噂は流れてきてたな」
ヨウムもフューズの言葉に同調した。
フューズは貴族ともコネクションがあり、上の空気感がわかっているのだろう。
ヨウムもプロの冒険者として街の生の声を聞いている実力者だ。
やはり人間国家では拭い難い不信のようなものが蔓延しているのだろう。
特にファルムス王国はソーマと接する国には珍しくルミナス教が幅を利かせていて、教義として魔物を嫌っている。
さらっと千里眼で見たところ。
ブルムンド王国に関しては、国交を開くための下準備としてこの国の調査に赴かせたという形が近いのだろう。
国交を開くことに前向きというより、俺こと滅亡神アルジュナに恭順の意を示すのが目的なのだ。
ただ、流石に表向きにはそんなことは言えないので、「同じ神を信じる同胞」ということで国民を納得させている形か。
逆にファルムス王国は敵対的だ。
魔物の国の繁栄度からどの程度脅威かを測り、「堕ちた神アルジュナを屠り、神ルミナスの偉大さを世に知らしめる」という大目的があるように見える。
若い国だからそもそも俺が何なのかもあまりよく知られていないのもあるだろう。
随分な跳ねっ返りが現れたものだ。不出来で愛い愛い。
リムルはふむ、と悩ましげに眉間に皺を寄せた。
すると、ちょうどタイミングよく「お茶をお持ちしました」とディアブロが全員にハーブティーを配り出した。
ジュラの森林に生える薬草を使った一品で、香りも味もよく、胃腸の調子を整える効果がある。
「これはこれは、実に素晴らしい!」とフューズがお茶の出来を褒め称えた。
ヨウムも「なんつーか、本当に魔物の国なのかってレベルで文明的だよな」とぼやいている。
するりと人間形態に変身したリムルがハーブティーを口にして俺を流し見る。
「どうするアルジュナ」
「私の存在がある以上、オークロード討伐を人間の功績にするのは効果が限定的でしょうね。むしろ舐められるだけかと」
「だよなぁ。あー、でも同じ宗教の仲間みたいな繋がりがあるのはプラスだな。文化交流を地道にしていって実績を積み上げるしかないか」
ブルムンドやソーマ、そのほかソーマ周辺の小国などは俺を通して比較的気軽に文化交流できるはずだ。
問題は魔物を敵視するルミナス教国だろう。
神聖法皇国ルベリオス、イングラシア王国、ファルムス王国の三つがルミナス教国だ。
ファルムス以東は魔王領が多いから無宗教に近いが、どちらかといえば俺を崇める国が多い。
リムルはラファエルと相談しているのかしばし黙ったあと、うん、と一つ頷いた。
「まだまだ俺たちテンペストへの疑念を抱く国は多いと思う。だから、お前達は存分に視察して、その結果を国に持ち帰ってくれると嬉しい」
「そしてあわよくば他の国にもそれを流してくれると嬉しい」とリムルは言葉を締め括った。
旅人や商人を通じて細々と情報が流れてはいるが、それでは足りないからな。
フューズとヨウムもそれに力強く頷いて、同意を示してくれた。
「ええ。この目でしっかりと確かめて、国へ持ち帰らせていただきます」
「しばらく世話になるぜ」
さて、その夜。
ミリムは仕事があると言ってどこへなりと帰って行った。
「もう少し頻繁に連絡を取って良いのだからな!!」と俺に念を入れるのを忘れずに。
どうでもいいが、ミリムがいると何故かディアブロが巧妙に気配を消すんだよなぁ。
よほど前に20年間お世話した記憶が黒歴史だったのだろう。
風呂上がりに神社の畳敷きスペースでまったりしながら、シズさんがリムルを見た。
「私もそろそろソーマに戻ろうと思うんだ」
「ソーマ?」
リムルがスライムボディを捻って首を傾げる。
「って、たしか西側有数の大国だったか。誰か知り合いでもいるのか?」
「私の教え子がいるの。召喚者の子達で、アルジュナ様に頼んで助けてもらってたんだけど。私もそろそろ様子が気になったから」
「いくら無事とはいえ、自らの目で見たくなるのは当然の気持ちですからね」
「へー、教え子かぁ」とリムルが口にして、同時に疑問が浮かんだのか俺に向き直る。
「召喚者を助けたってどういうことだ?召喚者って、転生者とは違ってこの世界の術者に呼び出されたやつのことだよな」
「ええ。ただ、拙い召喚システムを使っているので不具合もありまして。10歳以下を呼び出した場合自らの能力に押し潰されて死んでしまうんです」
「まじ、か……そりゃ酷いな」
しかもそれに国が関与しているんだからタチが悪い。
国ぐるみの拉致と言って過言ではないからな。
「助けたってことは、もう無事なのか?」
「ええ。遠隔で力を制御する機構を取り付けたのでもう大丈夫だと思いますよ」
「そうか。それならよかった」
ほっとした声にシズさんが嬉しそうな顔をする。
「それで、その子達に会いに行こうと思ってるの。悟さんも一緒にくる?……いや、王様が国を離れるのはだめかな」
「うーん。基本はテンペストにいたほうがいいのは間違いじゃないんだが。噂のソーマって超大国を正式に視察できるのはいいな」
ソーマは西方国家随一の大国だ。
ハイエルフも住まうだけあってその歴史も長く、その歴史は六千年ほどはあるだろう。
シュンッと影から唐突に現れたディアブロがリムルへと大福を差し出す。
「風呂上がりの甘味です。どうぞ」
「サンキューディアブロ!美味そうじゃん!」
「おお!!お褒めの言葉恐悦至極…!」
当然のように受け取るリムルと、歓喜に悶えるディアブロ。
この一連の流れにも慣れたものだ。
多分そろそろシオン辺りも突入してくる頃だろう。
リムルはぽよんと跳ねて、大福を頬張りながら大きく頷いた。
「よし、ソーマに行こう!」
ラミリスの霊圧が消えた…だと……