カリオンとの交渉はかなり上手くいった。
やはり初手交流試合が効いたようで、部下の三獣士の面々も「先程は悪かった。お前達は同盟に値する強者だ!」と気持ちのいい笑顔で俺たちを受け入れた。
やっぱり頭サイヤ人なんだよなぁ。
そして締結された同盟の結果も実りあるものだった。
技術交流でユーラザニアの農業ノウハウが入手できたのは、テンペストの食糧事情の改善に大きな影響を与えることになるだろう。
最近は食糧生産も落ち着き、俺が創造した食事を配給することも無くなったとはいえ。
もし大規模な不作でも起これば、まず飢えるのは数が多く農業に頼る豚頭族達である。
それだけは避けねばなるまい。
そのため、農業大国であるユーラザニアから農作物の輸入も予定している。
代わりにテンペストからは酒や絹織物等の工芸品を輸出予定だ。
特に最近開発された果物の蒸留酒は絶品で、これは新しいテンペストの名物になりそうな勢いである。
さて。
ユーラザニアとの交流が終わったあと、もう一つビッグイベントがあった。
それはドワルゴンと二国間友好宣言の発布である。
これは珍しくリムルの他に滅亡神アルジュナたる俺も呼ばれることとなった。
会談では今後の交易と国際情勢について話し合われ、ガゼル王は幾度も度肝を抜かれたようだ。
なにせすこし目を離した隙にリムルがミリムとカリオンという二人の魔王と交流を始めたわけだからな。
特にユーラザニアとの交流は交易地としてのテンペストの地位の向上に大きく寄与した。
これでガゼル王も腹を括ったらしい。
正式に武装国家ドワルゴンはテンペストにつくことに決めたのだった。
そして本日。
この同盟を祝し、俺直々にテンペストの民とドワルゴンの民双方に加護を与えることとなった。
そのために俺の姿も国民の前に晒すこととなっている。
これはテンペストがこの俺、アルジュナの庇護を得ていると示す各国へと向けた宣伝でもある。
加護の内容はシンプルに「病の快癒」だ。
両国民が現在罹っている、未病も含めたあらゆる病を消し去り健康体とする加護。
これには遺伝子疾患の類も含まれる。
実は初案として「故人との再会」という加護を提案していたのだが。
これは「今を生きる両国民で、かつ故人と生者双方が強く会いたいと願っている」場合は、俺の用意した幽体を核に一夜限り復活できる、というものだ。
奇跡としてはなかなか手がこんでいてこういう場でも見栄えがすると思ったのだが、「これは流石に混乱を生む」ということで議論の末却下された。
俺の「病の快癒」の加護が国中に染み渡り、町に歓喜の声が響く中。
王宮でも俺の効果からか「肩の痛みが消えた!」とか「おお、持病の胃痛が!」とか聞こえてくる。
貴族は貴族でやはり心労もあるのだろう。
すれ違う貴族達が口々に感謝する。
「これはこれは偉大なるアルジュナ神よ!ご加護に感謝を!」
「床に伏せっていた我が子の病が完治しました!心より感謝いたします!!」
「……それはよかった。これからも善く生きることだ」
リムルに「よかったな!」と囁かれ、思わず笑みが浮かぶ。
ミジンコがどうであろうとさほど心は動かされないが。
親友の力になれたのなら嬉しい限りだ。
ガゼル王は廊下をどんどんと進んで行き、俺たちを密談に向いた離れに案内する。
道中、ガゼル王とリムルが貴族に隠れてこっそりと会話した。
「しかし、本当に規格外よな」
「だよな…普段あんなだけど、やっぱ神様なんだよなあ」
その言葉を聞いて俺も鼻高々である。
今回は俺も頑張ったったからな。
病を治癒ぐらいどうとでもできるが、「テンペスト、もしくはドワルゴンの国民だけ」という条件付けが非常に手間だった。
水槽で特定のみじんこだけ掬い上げるに等しい難易度で、かなり難しい試みだったからな。
会話もそこそこに到着した宮廷の離れは、実に優美で美しいものだった。
美しく手入れされた庭園が広がり、清流が中央を流れる。
見通しがよく隠れられる場所も少ない造りは警護の観点からもよくデザインされており、会談の場として最高の出来であった。
二人が席に座ると、ディアブロがスマートに二人に用意した酒を提供した。
テンペスト名物、リンゴの蒸留酒だ。
まぁ、俺は権能で神酒を創造できるからあまり飲まないが、味は確かだ。
ガゼル王はちらり、とディアブロを目で追った。
やわらかに漂うような緊張が場に満ちる。
どうやらディアブロの正体をわかっているらしい。
その上で何も言ってこないのは、「アルジュナ神の統制下にあるなら無問題」と判断したのだろう。
正確には俺は統制してないが、リムルの言うことなら絶対遵守の悪魔だからな。
問題は特になかろう。
なお、この場に呼ばれているのは俺とリムルの他、外交儀礼をベスターに叩き込まれたシュナ、ディアブロとなにかと張り合うシオンがいる。
シオンは毎度ディアブロに上手くあしらわれており、涙目になっている。
今回もディアブロに張り合ってついてきた形だ。
リンゴ酒を一口含んだガゼル王は「こいつは美味い!」と驚きに目を見張った。
そう皆楽しんでいると俺も飲みたくなってきたな。
そしてもう一度リンゴ酒を飲み込んだ後、ゆったりと本題に入った。
「友好の証とはいうが、今回の件はテンペストがアルジュナ神の庇護下にあると世界に向けて発信したも同然だ。商人や旅人を通じてこの噂は各国に広がることだろう」
「ですね。この一度限りとはいえ、本物の神の加護が遍く国民に行き渡るとは。さすがはアルジュナ神だ」
ガゼル王の言葉に、部下であるペガサスナイツの団長ドルフが頷いた。
こう持ち上げられると恥ずかしい気持ちになる。
難しい顔をしてリムルが慎重に口を開く。
「俺としては、これを機に他の人間国家とも国交を結びたいと思っている。特にアルジュナを戴く国家とはやりやすくなるだろうからな」
「そうだな。他の人間国家としても人間が排斥されているわけではないことはドワルゴンを見ればわかる、と。だがリムルよ」
にやり、と意地悪そうにガゼル王は笑った。
「魔物の国であるお前達と同盟を結んでやるから、加護をよこせと。そう強請る連中も出るやもしれん」
「それはこっちからお断りだ。アルジュナは善意で加護をくれているんだ。それに集るようなマネはしないし、俺たちを軽んじる奴らと取引はできない」
「ふん。なるほどな」
実際、西方諸国の間には俺のことをよく知らない若い人間国家がいくつもある。
その中には神に懐疑的な国家も出てくることだろう。
ガゼル王がリムルの隣で席に座る俺をチラリと見た。
「ところで、今回の加護の案に出ていた死者蘇生についてなのだが。本当にそんなことが可能なのでしょうか、アルジュナ神よ」
「可能ですよ。私が輪廻システムのため管理する孤立世界『あの世』に死した魂達が保管されておりますので。そこから魂を取り出すだけのことなので」
ヤマ神の権能を使って、知性体が発生した頃にヴェルダナーヴァと相談して作ったシステムだ。
一旦死した魂を集めて、罪に応じた罰を与え、魂の修復・浄化を行う機構だ。
死者蘇生するには、一時魂をそこから汲み上げるだけだ。
わずかに目を見開いて、ガゼル王が呆然と口を開く。
「それはつまり、死後はある、ということですか」
「はい。悪しき魂はそれなりに苦しみ、善なる魂は割と幸せに過ごせる、そんな感じのシステムですね」
「なるほど」
ドルフと目配せし合ってやや苦い顔をしてガゼル王が黙りこくった。
まぁ、権力者は時折悪しきことをせざるを得ない時があるからな。
その辺、やはり気になるものなのだろう。
そうして会談は夜まで続いた。
実りある話し合いは書記のもとまとめられ、厳重に公開不可の書架に保管されたのだという。