転生したら創世滅亡輪廻の神だった件   作:ラムセス_

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ワルプルギス

 

 武装した人間およそ百名が向かっていると、ソウエイから連絡があった。

 

 所属はファルムス王国。

 戦にしては少ないので先遣隊に似たものだろう。

 もしかしたら街にも既に敵の手のものが紛れ込んでいるかもしれない。

 

 そう思い街を千里眼でさらっと見てみれば、案の定。

 

 キララという名前の異世界人がSNSで見たことのある典型的痴漢冤罪を繰り広げていた。

 狂言師(まどわすもの)というスキルで周囲を巻き込み、「このゴブリンがあたしの胸を触った!」と騒いでいる。

 

 よくよく見てみれば、どうも侵略する大義名分を得るために街の魔物を挑発しているらしい。

 これに逆上して手を出してくれればよし。そうでなくとも、痴漢を大義に騒ぎを起こす心づもりだ。

 

 ようは、魔物が人間に手を出した事実が作りたいだけだ。

 

 これは俺が出るべきか。

 街の惨状を素早く判断して、俺が出ることに決める。

 もうこうなってしまっては、事実がどうあれファルムスの軍に攻め込まれるのは確定だ。

 それでも、あの異世界人が暴れた時の抑止力ぐらいにはなるだろう。

 

 テクスチャ間転移にてするりと現場へと跳躍する。

 視界が切り替わり、突如現れた俺の姿に街の住民が驚きに騒めく。

 宙に浮かびながら一言、できるだけ厳かそうに言葉を発する。

 

「そこまで。私の名において審判します。双方刃を収めよ」

 

 異世界人の瞳が驚愕に見開かれる。

 どうも俺が出現したことに気づかなかったようだ。

 周囲の民も「おお、アルジュナ様だ!」「これで安心」などと口々に騒いでいる。

 

 実は俺は今、裁判官の役職を担っているのだ。

 

 元々、司法・立法・行政の三つが全部リムル一人の元にある状況をリムル自身がよく思ってなかったのが始まりだ。

 「やっぱ健全じゃないだろ?」と現代日本人的感性で悩み。

 

 そこで、三権のうち司法を任せられたのが俺である。

 

 千里眼を含めて権能で全ての真実を息をするように明らかにできる俺は、司法を管轄するには適任だろうとされたのだ。

 だから神は仕事をしないと言っているのに。

 もっともな人選なので文句も言えず、俺はふてくされながらも街の裁判官として仕事を始めたのである。

 

 なお、検察も弁護士もいない。

 俺がただ真実と、それに伴う量刑を言い渡すだけの神権政治である。

 

 立法に関してはディアブロが担うことになった。

 悪魔として古今東西の契約には詳しいだろうと直感で一任したのだ。

 ディアブロ本人は「リムル様と同格など恐れ多い…!」と悩ましそうに悶えてはいたが。

 リムルに頼られてすごく嬉しそうなのは確かだった。

 

 ディアブロの補助には各国の法律に詳しい商人のミョルマイルが抜擢された。

 どうも、イングラシア王国で商人をやっていたところを引き抜いてきたらしい。

 非常に有能な男で、先見の明のある人材である。

 

 そして行政がリムルの担当となった。

 ベニマルを中心にシオンとシュナ、ソウエイ、などと相談しながら進めていく方式だ。

 

 ああ、そうだ。

 リムルといえば、今回の件もリムルに報告せねばなるまい。

 俺は呆気に取られる異世界人を前に悠々とリムルへと連絡を繋ぐ。

 

「リムル、少し面倒事が発生しました」

『おお、なんだよ急に。何があった?』

「百の武装勢力がテンペストに向かってます。今先遣隊らしき異世界人達と緊張状態です」

『おぉぉい!?!?どうなってんだよ宣戦布告もなしにそんなことあんのか!?』

 

 リムルは「すぐ戻る!」と言って通話を切った。

 このぶんなら30分以内には帰ってくるだろう。

 

 俺はごほん、と咳払いして異世界人達に向き直った。

 

「聞いていましたね。貴方達はファルムス王国の使いとして、この国で騒動を起こそうとした。違いますか?」

 

 キララが息を呑んだ。

 被疑者にされかけたボブゴブリンのゴブゾウがへなへなと力を失って、地面にへたり込む。

 一緒にことの次第を見守っていたゴブタがほっと息をついた。

 

「な、なによ!ウチらが嘘をついてるって言いたいわけ!?」

「不出来ですね。では、その時の映像を再生しましょうか」

 

 権能を用いて過去の映像を聴衆に見えるように再生すると、キララの顔色が青ざめていく。

 後ろの異世界人二人は面白くなさそうに鼻を鳴らした。

 

「こ、こんなの作った映像でしょ。そんなん証拠になると思う!?」

「時間軸を逆さ回しにして流しているだけなので、偽装ではないですよ」

「そんなのわかんないじゃん!?証明しろっつーの!!」

 

 あーもう不出来か???

 少しばかりイラッとするも、この異世界人も突然この世界に呼ばれて心に傷を負っている様子。

 此度だけは大目に見るとしよう。

 

「はっ、もうめんどくせー。そんなに言うんなら自力救済だ。ちょっとばかりボコして素直に喋れるようにしてやるよ」

「そうだね。この野蛮な世界ではそれがお似合いだ」

 

 ごちゃごちゃと言葉での勝負に痺れを切らしたらしい。

 異世界人二人がキララの前に進み出てきた。

 

 それを受けて、ようやく駆けつけたらしいシオンとシュナ、ハクロウの鬼人族三人が俺の前に立った。

 

「ここはワシらにお任せを、アルジュナ神」

「こんな不届きもの、私たちがボコボコにしてやりましょう!」

 

 シオンが挑戦的にニッと笑って、拳を手のひらに打ち付けている。

 この分なら任せていいか、と俺も思った途端。

 

「はっ、大層に出てきておいて女の陰に隠れるなんて、情けねぇ野郎だな」

「………」

 

 このボルボックスウザすぎか???

 俺では手加減ができないからシオン達に任せようとしてんのに。

 気遣いのわからない微生物である。

 

 さて。その瞬間。

 

 突如、二重の結界が街を包み込んだ。

 どうやら戦いの火蓋が切られたらしい。なら俺も遠慮はいらないだろう。

 

 するり、と結界に視線を向ける。

 視線を向けた途端、その存在圧に負けて二つの結界が崩落した。

 

 少しばかり術者に警告を向けようとしただけなのに、なんだこのへぼい結界。

 

 片方の結界の術者はミュウランのようだ。

 クレイマンとやらの命令のようだが、これはテンペストに対する明確な敵対行為だ。

 

 今クレイマンは魔王達の宴(ワルプルギス)中で、何やら緊急招集されたみたいだし。

 今のうちに話を聞くべきだろう。

 

 

 

 

 

 数百年ぶりの魔王達の宴(ワルプルギス)が開かれている。

 

 ギィによって用意されたそこは静謐と静かな緊張のみが満ちている。

 今回、カリオンとミリムの姿がないが、それを指摘するものはいない。

 

 何故なら、ギィのビリビリとした怒気の気配に、魔王達は困惑していたからだ。

 

 「どうしたんだよギィ。これじゃ寝心地も悪ぃんだけど?」と眠れる支配者(スリーピングルーラー)、堕天使のディーノが苦言を呈する。

 ギィは目を伏せてしばし沈黙し、ようやく口を開いた。

 

「お前、餌の管理ぐらいしっかりしたらどうなんだ?」

「なんだと」

 

 話しかけられたのは神聖法皇国ルベリオスの魔王、ロイ・ヴァレンタインだ。

 メイドのふりをしているルミナスがぴくりと肩を跳ねさせた。

 

 ギィはいつになく真剣で、かつ、苛々とした様子でロイを睨みつける。

 

「古い盟約だ。アルジュナ神に下手な手出しをしようとするなら俺たちで対処する。覚えているな」

 

 その言葉に驚いたのはロイの方だ。

 

「馬鹿な、アルジュナ神に手を出す輩が出たと言うのか?」

「そうだ。それもテメェらの子飼いの暴走だぜ?」

「!?!?」

 

 ロイが目を見開いた。

 そこにいたり、ようやく魔王達はギィの心中を理解する。

 ギィは苛ついているのではない。キレているのを、必死で押さえているのだ。

 

 アルジュナ神に人間が手を出した、と聞いたダグリュールは心底理解できないと言う顔で「馬鹿なのか、そいつら」とポツリと呟いた。

 レオンはただ瞳を閉じただけで、何か言う気配はなかった。

 ディーノは「冗談じゃない。そんなアホに巻き込まれて世界ごと滅ぼされるのはごめんだ!」といつになく焦った様子で立ち上がった。

 

 若い魔王であるフレイとクレイマンは情報が足りず、黙ったままことの次第を見守った。

 

 ロイが額の汗を拭うこともなくギィへと質問する。

 

「調べはついているのか」

「ああ。ファルムス王国だ。国で正式に宣言してたらしいぜ?神ルミナスの名の下にテンペストを誅するってな」

 

 同時に、バキリと石を割る鈍い音が室内に響く。

 足元を踏み抜いたのはメイドに扮した魔王ルミナスだ。

 しかしすぐに「失礼しました」と言って一礼する。

 

 ロイは立ち上がり、長い法衣を翻し足早に入り口へと向かう。

 背後にはルミナスも伴い、ロイはしばし立ち止まってギィへと言葉を投げかける。

 

「少し私は失礼する。急がねばなるまい」

「急げよ。かの神の逆鱗に触れればこの世界は終わりだ」

「分かっている」

 

 去り行くロイの後ろ姿を見ながら、クレイマンが訝しげに片眉を吊り上げた。

 

「それほどまでに脅威なのですか?アルジュナ神とやらは」

「………本気で言っているのか?」

 

 ダグリュールが困惑の顔でクレイマンの質問に答えた。

 古い巨人族であり、ヴェルダナーヴァに喧嘩を売ったこともあるダグリュールは、このメンツの中ではディーノやギィと同程度にアルジュナ神の力を理解している。

 だからこそ、自明の理である事を聞くクレイマンのことが理解できないのだろう。

 

 ギィは肩をすくめて首を振った。

 

「ま、もうすぐいやでもわかる。千年の区切りはすぐそこだしな」

「だな。あの感覚は何回味わっても慣れねーよ」

 

 ディーノが陰鬱そうに机に突っ伏す。

 始まりの熾天使の一人たるディーノがもう一度眠りにつこうとして。

 

 恐るべき気配が、世界中に広がっていくのを感じた。

 

「外の、空を映せギィ!」

「ッ!」

 

 思わず叫んだディーノの言葉に会場の壁を透過させ、ギィは外が見えるように建物を作り替えた。

 そうして見えた空は。

 

 

 終末の色、どこまでも続く黄昏色に染まっていた。

 




ギィ「(白目)」
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