転生したら創世滅亡輪廻の神だった件   作:ラムセス_

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神罰たる呪い

 

《告。神、アルジュナによる世界の再構成が完了しました。世界要素の一部組み換えが起こりました》

 

 世界の言葉が響き渡る。

 

 ギィは全速力で空を飛行しながら、そのおそるべき御技に身体を震わせていた。

 我知らず、言葉を漏らす。

 

「遅かった…!何が消された、何が…!」

 

 分からないからこそ怖いのだ。

 アルジュナ神の力による消滅は、そのものが積み重ねてきた歴史にまで及ぶ。

 つまり、アルジュナ神が消したものは時を遡り、その誕生の事実から消し去ってしまう。

 

 人の記憶からすら消す、滅びの権能。

 暗黒皇帝であるギィをして心胆を寒からしめるその力が今、振るわれたのだ。

 

 ありったけの速力で飛行し、見えてきたテンペストには炎が燻り、街には火の手の名残が見えた。

 怪我人がテントに詰めかけ、戦禍の跡が見える。

 ファルムス王国の兵士たちの死体は傍に除けられ警備のゴブリンたちがその検分をしているのが遠目に見えた。

 

 ギィは思わず青ざめた。

 この国へのアルジュナ神の肩の入れようは、創世時代より生きるギィも初めて見るものだった。

 それがこんなふうに攻め込まれて、滅亡神の逆鱗に触れたのは間違いない。

 

 人間は馬鹿だとは思っていたが、ここまで特大の馬鹿だとは思わなかった。

 ギィは背筋に嫌な汗を流して、今己と世界がある幸運に感謝した。

 

 下手をすればこの国以外の知性体全てが滅ぼされていた可能性だってあるのだ。

 「外敵がいるのがそもそもいけないのです」なんて言って、あの知性体に興味のない神が平然と世界を滅ぼす様が目に見えるようだ。

 

 恐怖は怒りへと転じ、ギィは奥歯を軋らせて唸った。

 いっそファルムスなどという愚かな国、俺が手ずから滅ぼして───。

 

 と、その時。

 

 老齢の白髪男性の首根っこを捕まえて引きずって街を歩く、ディアブロの姿が目に入った。

 

 ギィは急いで空から降り立ち、「おい!ノワール!」と声をかける。

 ノワールは心底嫌そうな顔で振り返った。

 

「ディアブロと呼べと、そう言ったはずですが」

「そうだったな。つかお前この国にいたんだろ。何があった!?」

 

 超絶不機嫌そうなノワール改めディアブロは、眉間に皺を寄せて噛み付くような視線でギィを睨みつけた。

 

「リムル様の国に手を出した不届な国が現れたのは知っていますね?」

「ああ。この軍の紋章を見たところファルムスの兵だろ、コイツら」

「ええ。アルジュナ様がそれを酷く憂慮しましてね。一千年の区切りを用いて彼の国の上層部を一掃しました」

「上層部?あの国はそもそも王も貴族もいない───ッ!?」

 

 口に出してようやく、ギィは気がつくことができた。

 王国であるのに王も貴族も居ないだなんてありえない。

 ありえないのに、それを今までギィは気づくことができなかった。

 

 否。先ほど記憶が書き変わったのだから、今までも何もないのだ。

 

「代わりに代理で王としてこの男を配置するとのことで。私はこの男をよく教育せよと、しばらく出向を命じられたのです」

 

 ああっ、リムル様!そんなご無体な!なんてディアブロは体を捻って悩ましげに悶えた。

 この悪魔、スライムに会ってから生き生きしてるな、とはギィの率直な感想である。

 

「アルジュナ神は今どこにいる?」

「それなら対策本部として正面右の青い屋根の建物で会議中です」

「助かったぜディアブロ」

 

 そのまま会議室に駆け込めば、一斉に視線がギィへと集まった。

 

 アルジュナとスライム、リムル、そしてその部下の魔物が一同に集まっている。

 リムルがポヨンと跳ねた。

 

「おまっ、ギィさん、だったか?どうしてこんなところに!」

「邪魔するぜ。一千年に一度の周期が早まったんでな。事情を聞きにきた」

 

 言葉を選び、慎重に近場の椅子に座る。

 アルジュナ神の顔を伺えば、特段怒りのようなものは見受けられなかった。

 一発かまして怒りも収まったのだろうか。

 

 リムルがスライム姿のままぺったんこになって溶けた様子を見せた。

 

「あれな。いきなりアルジュナがぶちかましたから俺もびっくりしたよ」

「びっくりで済むかよ。で、外にいたディアブロにファルムス王国の上層部が消されたって話を聞かされたが本当か?」

「それは本当。指揮官がいなくなったせいで敵兵の生き残りの処理が大変でさぁ」

 

 今は復興計画と今後の国際情勢の相談をしているらしい。

 ファルムスがしばらくの間国として体をなさなくなったため、交易の中心地はテンペストに移るだろうということ。

 西方正教会との関係が今後問題になってくるだろうことなどを話していたようだ。

 

「西方聖教会といえばだ。ルミナスは無事か?」

「ルミナスって、西方の神様だろ?無事って何がだ?」

 

 リムルが首を傾げた。

 ギィが覚えているということは、ルミナスは一応は無事なのだろう。

 

「それについてちょうど私も貴方に相談したかったんですよ」

 

 アルジュナがぷらぷらと尻尾を暇そうに振りながら頬杖をついた。

 

「今、西方聖教会の上層部へは神罰たる呪いをかけています。今回の件に加担した罪への暫定処置になりますが」

 

 呪い。しかもこの基本的にスケールの違う神の、本物の神罰。

 嫌な予感を覚えながら、念のためギィは確認する。

 

「呪い、というと?」

「具体的には『欲するものの遠ざかる呪い』です。水を欲すれば水が、睡眠を欲すれば睡眠が、何をしようとも手に入らなくなる呪いです」

 

 エグい、というのがまずギィが初めに出た感情であった。

 リムルが目を見開いて「おいおい聞いてないぞ!つか死ぬじゃんそれ!!」といきりたっている。

 

 言われてようやく気づいたのか、「そう言えばそうですね。では呪い中は被呪者は死なないようにしましょう」と指を一鳴らし。

 意図せずエグさが三倍になってしまった。

 

 ギィがドン引きしていると、アルジュナ神が気怠そうに瞬いて伸びをした。

 

「これは暫定処置なので、次の千年周期が来るまでに正式な処置を決められればそれで構いません」

「悪魔より時間感覚がおかしいのはお前本当になんとかしたほうがいいと思うぞ」

 

 アルジュナはきょとんとしている。

 こりゃだめだ、とギィはチラリとリムルを見てから肩を叩いた。

 スライム体なので正確には肩らしき部分、ではあるが。

 

「あー、なんだ。リムル。今ならなんでも西方聖教会に要求できるぜ?」

「いやぁ、……アルジュナを盾に虎の威を借る狐になるのは気が引けるというか」

「テメーが何か要求しないと、千年間水も飲めない呪いにかかった哀れな人間がほったらかしにされるだけだ」

「う、そうだな」

 

 リムルは周りの魔物たちを見て、うん、と一つ頷いた。

 

「やっぱり、西方聖教会には魔物を排するという教義は撤廃してほしい。人の心はすぐには変えられないだろうが。それでも、いつの日か魔物と人間の手を取り合える日が来ると信じたい」

「なるほどな。あくまで融和を目指す、か」

 

 ギィの言葉に、リムルはゆっくりと頷いた。

 恐怖による支配ではなく、利益による融和を目指す。

 その姿勢はギィのこれまでの人間管理にはなかったものだ。

 鼻高々のアルジュナが優しく微笑んでリムルを見る。

 

「では、この後正式に西方聖教会に通知するとしましょう。呪いを解きたくば不適切な教義を変更しろと」

「なんというかなー、脅してるみたいでしっくりこないけどな、俺は」

「いいんですよ。ベニマルもそう思うでしょう?」

「ええ、今回の件で我が国には負傷者も出ましたし、怖い思いをした市民もいました。この程度の要求、ささやかすぎるくらいです」

 

 見れば見るほどアルジュナ神がリムルのことを気に入っていることが分かり、ギィは内心そっと息をついた。

 

 話の流れを聞く限り、今回のことも大雑把なアルジュナ神が国ごと消さなかったのはリムルの嘆願の成果だ。

 もしリムルに何かあれば、今度こそ世界ごと不出来として消されかねない。

 

 ギィは腹を括り、スライムをおもむろに持ち上げた。

 

「うん。お前、魔王になれ」

 

 「はぁ!?」というリムルの喚きを無視し、持ち上げたまま隣にいたアルジュナ神にリムルを渡す。

 アルジュナ神はスライムを抱えて若干嬉しそうだ。

 リムルは未だモゴモゴと喚いている。

 

「魔王って、魂が必要とかいうあれだろ?そんな物騒な真似俺はしないぞ」

「適当にファルムスをぶっ潰せばいいだろうが」

「いや、俺の国にはほぼ被害はなかったし、そもそも上層部が悪いだけで兵士は、」

「あーーー、この甘ちゃん野郎!!」

 

 ギィは痺れを切らして懐から魂を取り出した。

 「これは貸しだからな」と言ってリムルのゼラチン質の体に二万の魂を突っ込んでやる。

 

「ええ!?ラファエルさんマジでコレ魂なの!?うお、これどっから、いやいやいや急に渡されても!」

「お前が単なる魔物でいられるとこっちが困るんだよ。今回の件でどれだけ肝が冷えたかお前にわかるか、あ???」

 

 ギィが全力でメンチを切れば、リムル「お、おう、なんか悪いな」とタジタジと小さくなった。

 本当に慰謝料を請求しても許されるぐらいには肝が冷えた。

 

「じゃあ取り込めばいいんだな、これ」

 

 むぎゅり、とスライムが何かを飲み込むような仕草をして。

 次の瞬間、配下の魔物たちに世界の声が響いた。

 

《『魔王への進化(ハーベストフェスティバル)』が開始します》

 

 そのまま眠りについたスライムを横でマジマジと観察し、ギィは少しだけ破顔した。

 ギィという部外者がいる中で、豪胆なスライムである。

 

 いや、ここには配下とアルジュナ神がいるのだ。

 スライムがなんの心配もしないのも当然だろう。

 

 

 そのまま眠りについたリムルを大切そうに抱えたアルジュナは、進化の終わりまでその弱っちそうに見えるスライム体を見つめていたのだった。

 

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