コリウスの夢、アルジュナ(アーチャー)添え。
番外:コリウスの夢①
これは、テンペストにファルムス軍が攻め込む少し前の話。
「今回も俺一人でいくの。アルジュナは留守番!」
「いや今回こそは私も絶対行きますとも、これは手段を選びませんよ!」
「お前なぁ」
はぁ、とため息をつくリムルを前に全力で駄々をこねる。
始まりはリムルがコリウス王国の調査に行くことになったことから。
どうやらその王国の第二王子が中々の強者で人望もあり、現地のギルドを乗っ取って独立してしまったのだとか。
そこで、ユウキ・カグラザカ率いるギルドは、パウロという冒険者のサポートをしながらリムルを第二王子の下に潜り込ませようと。
そういった流れであった。
熱砂の国のお家騒動!あと遠目から見える悪魔の影!そして姫様!
このアラビアンファンタジー感に惹かれない者がいるだろうか!
リムルは手で大きくバツを作った。
「だからダメ。お前手加減できないじゃんか。規模が軽率にインドだし」
「……わかりました。なら手加減できるようになればいいんですね」
俺は腹を括った。
仕方がない。ここは化身を使うしかないだろう。
化身を使うと記憶の統合が面倒でなかなか使っていなかったが、こうなれば使うしかあるまいよ。
俺はぐっと手のひらに力を込めて、権能で意識の一部を分離する。
俺の力を分割した「化身」の作成だ。
黒髪に浅黒い肌。短い髪。
姿はまんまアルジュナ(アーチャー)だ。
ツノも尾もなく、権能もほとんど発揮できない弱小な体で、ディアブロぐらいの強さしかない。
その代わり戦神の力が十全に使えるため、弓矢にも近接戦にも適性がある。
するりと姿を現した俺の化身の姿に、リムルは感嘆の声を上げた。
「おお、分身体か!つかお前、そんなについて来たかったのかよ……」
「旅行、好きなんですよ私。元々旅商人でしたし」
「……あー、そっか」とやや困ったようにリムルは頭をかいた。
俺をテンペストに縛り付けることに少々罪悪感を覚えたようだ。
まぁ、それに関しては俺が好きでテンペストを守っているので別に構わないのだが。
友の異世界転生系無双ネタを見守りたいと言う気持ちは抑えられないわけなのである。
そんなわけで。
俺はBクラスランクの冒険者「クリシュナ」として、リムルと共に不毛の大地に接する小国、コリウス王国へと出発したのであった。
旅の道中。
同行するA-ランクの冒険者パウロは、それなり程度には戦闘力のある愛らしい系お馬鹿であった。
ソーマで持ち金を使い切って金がないまま俺らに集ろうとするとは、まったくもって先行きが心配になる男である。
道中出たポイズンリザードに素手で挑んで、そのまま酸性の粘液にやられるし。
三体のポイズンリザードは仲間の一体がやられたことに腹を立て、そのままパウロへと襲い掛かった。
「やれやれ…」と首を振るリムルが出ようとしたので、俺が手でそれを制する。
「肩慣らしをしたいので、ここは譲ってください」
「いいけどやりすぎんなよ」
「勿論です」
神の弓、
これは神の炎ゆえに熱変動無効を貫通するが、それ以上の効果はない。
ランガの引く馬車に乗ったまま、立ち上がって青白い炎を纏った矢を三発。
必要最低限だけ射抜く。
それは矢にあるまじきカーブを描き、鈍重な動きのポイズンリザードの頭蓋を的確に貫いた。
ポイズンリザードはそのまま血飛沫と共に力を失って砂の地べたへと沈んだのだった。
「おー、お見事。アルジュナってそんな普通の攻撃もできたんだな」
「この化身ならではですね。力の規格の全てが凄まじくランクダウンしてますから。ギィ程度の力しかないですね」
「魔王レベルじゃん!!十分だっつの!!」
ほえー、と間の抜けた顔をしているパウロを治療して助け起こすと、「兄貴って呼ばせてくださいっ!!」と土下座された。
ちょっとよくわからないノリだったので、「間に合ってます」と断る。
「そんなぁ…」
「はいはい、馬車に戻れパウロ。行くぞ」
しょんぼりするパウロが馬車の後ろに戻っていく。
憎めない男であることは確かなんだがな。
到着したコリウスの首都、ハーバリアの空は青くギラギラと輝いている。
紹介先たるこの国の貴族、バラク・アマディ侯爵は俺たちを豪華な居間に案内し、歓待してくれた。
……残念ながらパウロだけは別室に摘み出されたが。
どうやら粗暴すぎた模様。
冒険者なんて大概粗暴なものだから、少々可哀想だがしかたあるまい。
ギルドからの依頼内容を話せば、快く情報を提供してくれた。
第一王子と第二王子の対立が激しくなっていること。
ゼノビア王女が床に伏せっているらしいこと。
「ゼノビア王女殿下に一度お会いしていただけませんか?リムル様は高名なお医者様なのでしょう?」
そう縋るように言う侯爵の妻シフォンの言葉に、俺たちは顔を見合わせた。
どうも紹介状の偽装身分を医者にしたようだが、実際のところ俺たちは医者でもなんでもない。
念話でこっそりリムルが話しかけて来る。
『なぁアルジュナ、お前今は医療系のスキルって使えるか?』
『使えませんね。千里眼はありますので病状の把握程度ならできますが』
『そっか、悪いな』
『構いません。どうせここの王女の病状はリムルだけでなんとかできるものですから』
『!分かるのか!?』
『私の千里眼は全てを見通しますから。褒めても構いませんよ?』
ふふん、と胸を張ればゲンナリした様子でリムルが肩をすくめた。なんでや。
ちなみに、現在の俺は基本はアルジュナ(アーチャー)にスペックを合わせているが、千里眼(超越)と単独顕現だけは据え置きの状態だ。
千里眼はリムルの様子を見るためだが、単独顕現はなぜかついてきてしまったものだ。
どうも人類悪案件のようだが、まさかこの制度を作った俺が自分で認定されてしまうとは思わなかった。
せいぜい人類悪顕現しないよう注意せねばなるまい。
閑話休題。
ゼノビア王女殿下に会うと言っても、後宮は当然男子禁制だ。
俺は化身を変化させて女性化させて、女性化アルジュナとしてリムルと共に後宮を進むことになった。
シフォンが「まぁ!お二方とも綺麗ですわ!」と褒めてくれたが若干微妙な気持ちである。
リムルなんかはまったく可憐なシズさん2Pカラーみたいな感じだったので、シズさんがみれば恥ずかしがることだろう。
薬売りに扮して廊下を歩いていけば、途中侍医長とすれ違った。
まぁ、やっぱりどう見ても悪魔であったが。
念話を繋げてリムルに報告する。
『先ほどのグスタフという名の侍医長、グレーターデーモンでしたよ』
『はぁ!?!?なんで王宮に悪魔なんてもんが入り込んでるんだよ!』
『あれは紫の系譜ですね。原初の紫、ヴィオレはああいう策謀を好みます。戯れの類でしょうね』
『原初?』
そういえばこれまで、原初についてリムルに話す機会がなかったな。
『……あー、凄く強い悪魔です。七人いる悪魔王ですね』
『雑!!いいけどさぁ』
そうして話しているうちに王女のいる部屋の前へと到着した。
扉を開けば、安らかに目を瞑るゼノビア王女の姿が見える。
「………あら」
俺の千里眼と視線が合う。
どうやらこの王女様、魂を見ることができる模様。
俺が幸運にも化身であったためゼノビア王女は無事だったが、もし本体で来ていればスキルが潰れていただろう。
そのまま案内に従い、リムルが王女の額に手を当てて解析鑑定を行っていく。
現在のところ、その原因は不明と出るはずだ。
これは継続的に呪詛をかけられ、解除されてを繰り返されて起こった極度の衰弱が原因だ。
同時に、魂を見るユニークスキル「夢想家(ネガウモノ)」の負担が重くのしかかった結果でもある。
うーんとしばし悩んでから、リムルが俺を流し見た。
繋がった念話に声が流れ込んでくる。
『なぁアルジュナ。何か案はないか?栄養失調みたいだから何か滋養にいいものをあげたいんだけど』
『ヒポクテ草から作ったフルポーションを少しばかり弄れば栄養剤を作れると思いますよ』
『マジで?ならやってみるよ。ラファエルさん!』
リムルの作ったヒポクテ栄養剤を王女に投与しながら。
一日目のコリウス王国滞在の日は過ぎていったのである。