「で、どうする?悪魔なんだろ、侍医長」
「そうですね。事情は把握できましたし、軽く説明しましょうか」
俺はリムルに千里眼で見えた情報を共有することにした。
大元の始まりは病に冒されたこの国の父王フォウだ。
己の病に悲観した王は、己の子供二人を争わせて、勝った方の体に乗り移る計画を立てる。
その計画に乗っかりつつ、祖たる原初の紫の依代を準備しようと動いているのがグレーターデーモンである。
リムルはうーん、とこめかみをもみつつ唸った。
「なら、ひとまず悪魔を排除、でいいか。国王は…どうすっかな」
「難しいですね。現状、証拠がないので向こうもしらばっくれることは確定でしょう」
「なら忍び込んで証拠を押さえるか。ソウエイを呼び出して王宮に潜入しよう」
ソウエイがいれば闇討ちも思いのままだな、なんて悪いことを考えつつ。
ちょうどその時、来客があった。
昼間のゼノビア王女回復のことで、感謝の言葉を言いにきた第二王子であるアスランだ。
どうも妹であるゼノビア王女を大切にしていたようで、そもそもグスタフの暗躍を疑っていたらしい。
俺たちは目を合わせ、いい機会なので一部情報の開示をすることにした。
リムルが進み出て、やや緊張に硬い顔をしながら口を開く。
「グスタフ侍医長についてだが。昨日会った時、このクリシュナのスキル『千里眼』にて情報を収集できたんだ」
「……どういうことだ?何かあったのか?」
アスラン殿下が険しい顔で聞き返す。
「私のスキル『千里眼』は真実を見抜く。私の目には、グスタフ侍医長は上位の悪魔として映ったのです」
アスラン王子が息を呑んだ。
流石に悪魔が関わって来るとは思っていなかった様子。
「悪魔だと!?ヴァンパイアではなく、か?」
「ええ。クリシュナの瞳は確かです。悪魔は悪魔でも、どうやら紫の系譜のグレーターデーモンのようなのです」
「………!では、兄上は悪魔に力を与えられた、ということですか。病弱だった兄上も三年前に突然復調して、嘘のように力強くなった」
「でしょうね。悪魔側の意図は分かりませんが」
グレーターデーモンほどになれば人に偽りの回復を与えることくらい訳無いはずだ。
「なら、陛下までも悪魔の手に落ちたということか…!」とアスラン殿下が拳を握りしめる。
アスラン殿下としては、兄である第一王子がザインブラッドを投与されて吸血鬼となり、グスタフ侍医長の手に落ちたと考えていたらしい。
ようは、魔王ヴァレンタインの人類防衛圏への破壊工作の一環だ、と。
でも、ヴァレンタインといえばヴェルダナーヴァが生み出した実験狂の変人だろう?
その娘さんに連なるものが政治的な抗争を好むとは思えない。
ギィを通して話は多少聞いたことがあるが、本人はものぐさで面倒くさがりな面があるらしい。
俺が会おうとすると大抵の生物がビビり散らすため実際に会ったことはないが。
俺はアスラン王子にも一応、その件について情報提供することにした。
「ヴァレンタインはその手の工作に興味がないと思いますよ」
「……どういうことだ?」
「魔王ヴァレンタインの目的はむしろ人類防衛圏の永続にあると考えています」
疑わしげな視線が俺へと集中する。
そりゃ人類の敵であるヴァンパイアが人類を守ろうとするなんてにわかには信じ難いだろう。
「というのも、彼らがヴァンパイアであることがそこに大きく起因します」
「なに?」
「彼らはヴァンパイア。つまり餌が人間で、しかも人間が幸福を感じているほど血の味が良くなるという性質がある」
これは6000年ほど前にギィから聞いた話だ。雑談だったが、覚えていてよかった。
アスランは目を見開いた。
「ッでは、魔王ヴァレンタインの目的は人類の家畜化だということか!」
言い方が悪いが、ようはそういうことだ。
「では誰が悪魔などを召喚したのか…」と悩むアスラン殿下を尻目に、俺とリムルは視線を交わした。
父王が悪魔を召喚したという事実を公開するのはまだ時期尚早だろう。
もし言うとして、ソウエイが王宮から証拠を押収してからだ。
やや混乱したまま、その夜は遅いためアスラン殿下は去っていった。
「お前たちの情報提供感謝する!」と言って、しかしやはり拭いきれない疑念等を滲ませながら。
「お前やっぱ規模さえ人のレベルに合わせれば有能オブ有能なんだよなぁ」
「そりゃ創世神ですから。今の私は化身ですから規模の点も解決。とはいえ、あまりにこの身が矮小すぎて若干怖いです。万物が大きく見える……」
「いや今のお前でも十分強いから」
べしっとスライムのツッコミを受けながら、夜はふけていったのである。
翌日。
ゼノビア王女の容態が急変したということで、俺たちはひっ捕らえられ、牢にぶち込まれることになった。
とはいえ、動きは知っていたのでリムルは分身体で、俺の方は普通に脱走して街に紛れることにした。
リムルがスライム体で草むらに平べったくなったまま話しかけてくる。
俺も雑木林に身を隠しながら、リムルと密談した。
『ゼノビア王女の容態が急変?一体何をしたんだ、あのグスタフとか言う悪魔』
『遠目から見たところ、眠り続ける呪いのようですね。まぁ、彼女を王の依代にするつもりなら、肉体を傷つけることはしないでしょうね』
『なるほど。精神を侵す呪いをかける可能性は否定できないってわけか』
スライムボディをぷにっとうねらせ、リムルは頷いた。
『じゃあ、俺はゼノビア王女を見にいく。お前はサウザーの軍を抑えておいてくれ』
『わかりました』
気配遮断のスキルはないので純粋に街並みに紛れて近づいていく。
俺を捕えようと兵が差し向けられているようだが、兵たちの通るルートは千里眼(超越)でお見通しだ。
道中単独顕現を使って短距離ワープを繰り返し。
そのまま上手くサウザー皇太子の元に向かえば、そこは慌ただしく軍事行動をとる準備が行われていた。