クレイマンリベンジ?
リムルは無事、覚醒魔王へと進化した。
シュナやシオンなど配下の皆もギフトにより進化して、全体的に軍が強化された形だ。
特にシオンは
シオンの料理は俺も一回食わされたが、まさにニルヴァーナが見えたと言っていい味だったからな。
あんな悪魔的な味が普通の食材から抽出されるなんて信じられない。
いやいや、あれに悪魔的だなんて言葉を使ったらディアブロに失礼か。
これに懲りた俺は、次回より権能を使って「俺へ料理を渡すと言うアイデア」自体を忘れさせることを固く誓った。
アレは酷いものだ。本当に。うん。
また、ディアブロは自らの力がアルティメットスキルへと進化したらしく、凄い勢いでリムルへの賛辞を振り撒いていた。
若干の迷惑そうなリムルも添えて。
あの悪魔は癖が強すぎるんだよなぁ。
「それで、魔王になったんならそろそろ
そう言ってギィは浴衣姿のまま屋台で買ったアイスクリームを頬張った。
ギィはハーベストフェスティバルが終わるまでこのテンペストに滞在していたのだが。
温泉に入ったり屋台で買い食いしたりと、すごくまったり暮らしていたのだ。
自国は割と氷に閉ざされているからな。こういう豊かな文明は生まれにくいのは仕方あるまい。
「どなたか承認してくれるんですか?」
「後ろ盾として俺とダグリュール、ディーノがつく予定だ。そうすりゃひとまずこの国が襲われる可能性は少なくなる」
もちろん、俺を見据えての後ろ盾だろうが、残る魔王も反対はしないと思われる。
レオン、ミリムなんかは賛成に票を投じてくれるだろう。
ミリムといえば、だ。
最近ふと見てみれば、フレイがクレイマンと共謀してミリムに精神支配魔法をかけたようなのだ。
どうも効いてないみたいだが、陰謀の全容を探るために操られたフリをしている様子。
それを知っているだろうギィに、俺はちらっと話を振ってみた。
屋台の牛鹿串肉を頬張りながら、ギィに「ミリムも老獪になりましたね。操られたフリなんてして」と声をかけてみる。
「ん、ああ。アレには俺も驚いた。クレイマンも馬鹿なことをするもんだ。ヴェルダナーヴァの娘だぞ、あいつは」
「でも今は後悔しているみたいですね」
「は?」
ギィにわけがわからない、という顔をされた。
「私がクレイマンにかけられていた精神操作を解いたからですよ。正気に返って後悔しているようです」
「あいつが精神操作を受けていた?おいおいマジかよ。気付かなかったぞ。相当高度な精神操作だろ」
「東の帝国の工作活動の一環ですね。うーん、そうですね。このテンペストへの敵対と見做して少しお灸を」
「やめろォ!?」
「冗談ですよ」
「お前が言うと冗談に聞こえねぇんだよ!!」
ギィにすごい剣幕で止められてしまったので俺も矛を収めることとする。
別にこの世界のミジンコは皆殺しダァ!なんて言ってないんだからいいと思うんだけどな。
ギィが咳払いをして話を変える。
「で、ルミナスのところには連絡したのか、呪詛の解除条件について」
「ええ。リムルと相談して書状を送りました。この書状に関することなら「欲するものの遠ざかる呪い」の効果対象外にしてあります」
「呪詛発動から一週間、か。ヴァンパイアはともかく、人間達はそろそろ限界だな。飢えのあまり書状食ったりしなきゃいいが」
シロヤギさんたら読まずに食べたってか。もう一回送るしかないな、その時は。
などと話ながら、まったり次は屋台の唐揚げを一カップ買って。
ギィに一つ分けるなどして過ごしていたのであった。
暗い室内の中。
ユウキ・カグラザカは険しい顔で俯いている。
「どうするカザリーム。クレイマンは独断でアルジュナ神と決定的敵対をしたみたいだけど」
「……馬鹿なことを。功を焦ったか、クレイマン」
カザリームは嘆息したようだった。
玉座に座り、物憂げに息を吐く仮面姿は怜悧ですらある。
しばし沈黙した後、カザリームはユウキを流し見た。
「だが。あの滅びと創世の光を受けてもクレイマンは消滅しなかった。それはつまり、かの神はクレイマンを敵対したとは見做していないと言うことだろう」
「はぁ?あんな派手に動いたのに?」
「かの神に比べれば、全ての物事が些事だ。虫に拘うような酔狂な真似はしない、ということでしょう」
ユウキは思わず押し黙った。
あの滅びの前なら馬鹿な神だと笑っただろう。
しかし、今や侮る気持ちは皆無に等しい。
ユウキはかの滅びに立ち合い、己が持てる全力で滅びに抗った。
しかし無意味だった。アレほどの力を前に、ユウキの全ては無意味だった。無価値だった。
そして己の力をなんてことのないように再生するその御技は、まさに神と呼ぶに相応しい。
アレがいる限り真の意味で世界征服は不可能だ。
なぜなら、滅亡神アルジュナこそが世界の全てを握っている真の意味での支配者だからだ。
ギリ、と我知らず歯軋りをする。
それをカザリームが見咎めた。
「下手なことを考えるのはやめることだ。この国を絶対唯一のものにするためにあなたとは協力関係を結んでいるけれど。神に反抗する気はないわ」
「わかってますって!そんな畏れ多い!」
笑って、パタパタと手を振って、ユウキは牙を研ぐ。
神に食いつくにはまだ己に力が足りない。
いつか必ず、神を排して己こそが頂点に立つ、と。
そう決意して。
ユーラザニアがミリムに滅ぼされた、と部下から連絡が来た。
そこに住むものは傀儡として使い捨てられる魔の国、傀儡国ジスターヴ。
絶望と諦観、暗い負の感情が国中に漂うそこにあって、幽然とした佇まいを見せる王城。
その最上部、王の自室にて。
クレイマンは一人、昇天していた。
「わ、私はなんということを、カリオンに真正面から喧嘩を売って?ミリムを操って?ははは、というかもうこれどうしようもないな!」
もはやヤケクソである。
あれほどカザリーム様に独断専行はするなと言われていたのにこのザマである。
ミリムへ使った支配の宝珠は魔王カザリームの作った絶対の力だが、何事にも例外というものがある。
なにより、こんな戦力クレイマンでは持て余すに決まっている。
というか、己はミュウランに対しても家臣に対してもなぜこんな酷いことができたのだろうか。
クレイマンは頭を抱えた。
分からない、ああ分からない。
もう針の筵である。
人望はゼロ、各地でヘイトを溜めまくり、真の目的──魔王カザリームの国ソーマと同盟を組んで世界を支配する──どころの話ではない。
「ああああぁぁぁ……どうするどうするどうする…!」
いや、原因が分からないわけではない。原因自体十分に分かっている。
あの滅びと再生の一瞬で、クレイマンにかけられた精神操作が解けたのだ。
己は神アルジュナと決定的な対立をしたというのに。
かの神はこちらを無感動な、路傍の石でも見るような目でクレイマンを見た。
《あなたにかけられた精神操作を解除します。それを以て敵対の罰としましょう。───悔いることだ》
神の声が耳の中で反響する。
あの絶対の力を持つ神が嘘やハッタリを言う必要がないことぐらい、クレイマンはよくよく分かっていた。
精神操作には、おそらく東の帝国が関与している。
東の国の商人と取引するようになってから記憶があやふやだ。
まず間違いなくその時に精神操作をかけられたのだろう。
それでも、それでもだ!
あのアルジュナ神の庇護を一身に受ける国に喧嘩を売ってしまった!
功を焦って、どころか見下して慢心して!
ああ、カザリーム様に見捨てられる。
それが何より怖くて、クレイマンはガタガタ震えて王城でただ体を丸めて震えるのだった。