ヴェルドラがようやく復活したらしい。
あの引きこもり竜がこの度、「そろそろ俺の中から出るべきだろ」とリムルに説得され、重い腰を上げたようだ。
封印の洞窟で「わーはっはっは!我こそが!暴風竜ヴェルドラである!!」とやけくそ気味に叫んでいるのが千里眼で見えた。
これには、迎賓館に滞在中の流石の獣王国のメンツもかなりびっくりしていた。
彼らはミリムとの戦争で避難民が大量に出てきた中で、それを守護する形でテンペストへ逃げ延びてきている。
まだまだ交流もままならぬ中の暴風竜復活には度肝を抜かれたらしい。
所在なさげにしていたフォビオも目を見開いて驚愕していた。
さて。獣王国以外の国についても話をしていこうと思う。
ブルムンド王国から自由組合支部長フューズ、武装国家ドワルゴンからはガゼル王。
魔導王朝サリオンからは大公爵エラルド・グリムワルトがそれぞれテンペストに赴いてきている。
タイミングの関係でなぜか迎賓館近くの林で一堂に会することになってしまったが、これも何かの縁である。
ひとまずリムルが迎賓館に案内して、順に会合を開くことに決めたらしい。
ゾロゾロと林から出る姿はなんとも奇妙だが、エラルド公爵はチロチロとリムルの姿を片目で確認してはため息をついている。
「どうかしましたか、エラルド公爵」とリムルが言葉を投げかけた。
「いえ。エレンちゃ──いえ。娘のエリューンがリムル殿についてよく話していたものですから」
「エリューン?……ああ、あの冒険者三人組の!公爵令嬢だったんだな!」
意外!と驚くリムルを横目にエラルド公爵を見てみれば、どうも娘を誑かした疑惑で今すぐにでも核撃魔法をぶっ放したいが、俺こと滅亡神アルジュナの手前、努めて自制しているらしい。
聞きたいことも山積みで、つい先日検出された暴風竜の気配はなんだとか、機のずれた千年毎の創世滅亡についてとか、ファルムス王国の処遇とか。
策士らしく脳内をのぞくと目の回るような速度で思考が回っていた。
椅子を引けば、いつもとは異なりシュナがお茶を持ってきた。
ディアブロが出張中だからな。それもまた仕方あるまい。
ようやっと一息つけた、という様子で茶を啜るガゼル王が、「それでだ。リムルよ」と重厚な声で問いかけてくる。
「ファルムスから兵を差し向けられ、それを撃退したらしいな」
「ああ。一応一部は捕虜にしてるけどな」
「この後かの国をどうするつもりだ。まさか黙ったままというわけでもあるまい」
ガゼル王の言葉に「あー……」とリムルは悩ましげに母音を垂れ流して頭をかいた。
既に敵はいないが、それを覚えている人間も同じくいなくなってしまったからな。
ガゼル王の言葉に同意するようにエラルド公爵も頷いている。
「それについては私から」
尻尾をゆらりと振って、俺はゆっくりと口を開いた。
部屋に緊張が走る。フューズが「……まさかとは思いますが」と言葉を漏らす。
「伝承のように、ファルムス王国を不出来として消した……なんて言いませんよね?」
「今回は王国ごと消しはしませんでした。リムルが無辜の民を手にかけることを望みませんでしたので」
「さ、左様ですか。では……」
私が双眸をもってフューズをまっすぐに見つめる。
フューズは固唾を飲んで肩を強張らせたようだった。
「ええ。ですから代わりに、上層部丸ごと、消えてもらいました」
「───!!」
三者三様に息を呑む音が聞こえる。
エラルド公爵が喘ぐように立ち上がり、「馬鹿な、いやこの記憶の齟齬は、まさか…!!」と言って腰を抜かしたのか椅子に崩れ落ちた。
「私の庇護する国、ひいては神たるアルジュナに刃を向けたのです。不出来なりしは世界に不要」
そうでしょう?
そのように言えば、ガゼル王が静かに俺を見つめた。
「では、此度の機がズレた大滅亡も、かの国に神罰を与えるためだったと」
「そうです」
「ファルムスも馬鹿なことをするものだ。もはやあの国の支配者を俺も覚えていないが。余程の愚か者だったと見える」
ガゼル王は嘆息し、腕を組んで黙りこくった。
それから二、三、俺たちは情報共有をした。
ヴェルドラが復活して、この国の守護につくこと。
そしてそのヴェルドラ本人の紹介。
現在ユーラザニアの避難民を受け入れていること。
リムルが魔王に覚醒したこと。
特に隠す必要がなかったので、腹芸も無くフルオープンにリムルが説明したのだが、各国の重鎮三人はどっと疲れたような顔をして顔を覆ってしまった。
フューズが片手で目を覆ったまま肩を落とした。
「……アルジュナ神の情報だけでも我々の抱えられる大きさを超えておりましたが。暴風竜復活、新たなる魔王誕生、ユーラザニア崩壊。もはやどれから対処していいのやら」
「まぁ俺はまだ次のワルプルギスまで自称魔王だからさ」
「まさに手を出せば命はない火薬庫だ。我々の関与できる国ではない」
そう結論づけたエラルド公爵をリムルが「まぁまぁ、そう言わずに!」と宥めている。
こちらとしてはどんどん友好国を増やしていきたいのだから、火薬庫扱いされては困る。
「まあそんなわけで、もう既にファルムスに対応する必要は無くなったんだ。俺もこの後魔王になったことを公開するつもりだ」
「妥当だな。新興の魔王の出現は話題にはなるが、それ以上にアルジュナ神と暴風竜の影響がデカい。それに、まだ戦争もファルムス軍百騎を潰しただけだ」
「うん。もし本隊と全面戦争になってたら、人間国家も恐れの方が大きくなってしまったかもしれないからな」
「あくまでこれは神の怒り、国に手を出さなければ問題ない、というわけですか」
政治的な話になると俺は蚊帳の外だ。
暇ではあるが、一応真面目そうに聞いているふりをする。
ここでどのような結論が出ようが、俺のやることは変わらないからな。
話題は今後のファルムス王国の処遇に移っていった。
ガゼル王が眉間に皺を寄せて机に手を置いている。
「今後のファルムス王国はどうする。上層部が一斉にいなくなっては国として体を成すまい。俺には以前よりこの体制だったように思えるが…」
「それについては問題ない。あの国の重鎮だったっていうラーゼンという人を残しているからな。補佐に俺の部下も付けてある」
「傀儡国を作るつもりか」
リムルは「言葉は悪いがその通りだ」と言い切った。
そしてポータルを通して一時的にこちらに帰還させたディアブロが、後ろから進み出て優雅に一礼する。
流石に今後ラーゼンが一人で全ての政治を取り仕切るのは人手が足りなさすぎるからな。
実質属国と言っても差し支えないが、それでも国として存続できるだけ十分だろう。
また、ヨウムにはいなくなった騎士団長を任せるつもりとのこと。
ヨウムは国民からの人気が高いからな。
その辺りのサポートになるだろう。
「なるほど。よくわかりました」
エラルド公爵が頷き、深々と目を見開いた。
リムルがやや首を傾げてエラルド侯爵の方を見る。
「何かあったかな、エラルド公爵?」
「アルジュナ神、あなたの目的を聞きたい」
彼の真摯な、真剣な瞳が嘘は許さないと語っていた。
・エラルド侯爵
「なぜ全能神がテンペストに肩入れする…?長い歴史において、アルジュナ神が人に肩入れしたことは無かった。一体何故…」
・ガゼル王
「神に意図を問うても無駄だろうよ。だが、我らが今この場でテンペストと友誼を結べたのは何より幸運だった」
・フューズ
「何をおいても早くテンペストとの友好関係を強化せねば!早く王にご報告を…!」