逃げ延びてきたユーラザニアの避難民代表、三獣士の三人が目の前で胡座を描いて座っている。
場所は迎賓館の食事用大広間。
朝食後の会談として設けられた席で、三獣士の面々は難しい顔をしている。
なにせ、ミリムに町ごと滅ぼされたのだ。
事前に宣戦布告があったため戦闘までに避難は完了させていたが。
失われた家財、整えられた町並み、畑、その他破壊されたものは大きい。
ちなみに、フォビオは合わせる顔がないと辞退しようとしたのだが、「お互い前のことは水に流そう!」とのリムルの鶴の一声によりこの場に集っている。
まぁ確かに、生きていれば失敗の一つや二つあるだろうよ。
「何故ミリムは急に獣王国に攻め入ったんだ?魔王間での力関係は疎いが、急に動くには何か理由が必要だろ?」
リムルが腕を組んで唸った。
疑問は同様なのだろう、三獣士の面々も表情は暗い。
まず前後関係が読めない、というのは獣王国側にとっても不気味なはずだ。
俺はすっと話に助言がてら口を出した。
「ミリムが獣王国を攻めたのは魔王クレイマンの指示があったからですよ」
その言葉に真っ先に反応したのはスフィアだ。
「はぁ!?魔王クレイマンだと!?どうしてそいつが関わってくるんだよ!」
「どうも、クレイマンは秘宝を使ってミリムを操ろうとしたようですね。そこで、操られたフリをしたミリムがクレイマンのバックを探ろうとしている、と。そんな関係になるでしょうか」
その背後こそ中庸道化連会長の魔王カザリームなのだが、それは今回あまり関係はしてこないだろう。
なにせすでにカザリームはこの件から手を引いている。
彼女は頭の回転が早く、機を読むのが上手い魔王だ。
リムルが難しい顔をして「とすると、早いところ背後を洗ってクレイマンを叩けば万事解決ってわけか」と口にする。
「クレイマンならすでに私から少しばかり罰を与えています。この国の破壊工作に関与したわけですから」
「ちょっ、おま、聞いてないぞ魔王に手出ししたなんて!何したんだよ!」
「別に大層なことはしてません。クレイマンがここまで暴走した原因、つまりは東の帝国がかけた精神操作のスキルを解除したんです」
「は……?」
関係性がわからなくなってきたのか、隣で聞いていたシオンが疑問符を乱舞させている。
「えーっと、待てよ。つまり、ユーラザニアを滅ぼしたのはミリムで、ミリムを操っていたのは魔王クレイマンで、魔王クレイマンを操っていたのは東の帝国?」
「はい。とはいえ、その精神操作をかけた主も政治工作の一環として西側諸国の混乱を狙っていただけで。内容も被呪者が傲慢に残酷になるというだけです。つまり具体的に企画したのはクレイマンで間違い無いかと」
「あーーー」
そしてその精神操作もユガの終わりと共に消えさり、後に残ったのは被害者兼下手人のミリムと、白いクレイマンのみ。
つまり今現在、振り上げた拳の下ろし先は存在しないということになる。
「そんなの納得できるかよ!!!」
スフィアが叫んで畳に拳を振り下ろした。
そりゃそうだ。首都を滅ぼされて多くの民が不幸になって、それで納得できるものでは無い。
ワルプルギスが開催されるのは今日の正午。
ラミリスが教えてくれたところによると、ワルプルギスで交わされた協定に従い付き添いは二人までとなる。
リムルが主賓として、付き添いの片方は俺。
そして、話し合いの結果、もう片方の付き添いでアルビスが選ばれることとなった。
これは現場で直接クレイマンに文句(物理)を言うためらしい。
なんともはや、武力が全ての獣人らしい解決方法である。
なお、シズさんが何かいいたげにリムルの方を見ていたが、結局言い出すことはなかった。
シズさんも魔王レオンに一言物申したかったようだが、今回の目的がクレイマンである以上、波風を立てて迷惑をかけたくなかったのだろう。
優しい人である。
そんなわけで、いよいよワルプルギスだ。
俺は地味に今回初参加となる。
基本は旅商人としてボられたり騙されたりばっかの気ままな世界旅だったからな。
少しばかり楽しみな気がして、俺は微笑んだのだった。
クレイマンはギィの用意した椅子に座り、激しく貧乏ゆすりをして必死に気を紛らわせていた。
ここまで前回から短期間で開催されるのは初めてのワルプルギスだが、それを珍しく思う余裕などクレイマンには無い。
もはや緊張は頂点に達している。
ワルプルギス直前。
正気に戻ったクレイマンは、素早く出立済みの自軍を呼び戻した。
ユーラザニアとの戦争はまだ理解できる。
しかし、避難民を虐殺して覚醒魔王に至るための魂を手に入れようとしていたなど、自分でも正気とはとても思えない。
いや、実際正気ではなかったがそれは置いておいて。
念話で鬼電したティアとフットマンにも泣かれた。
『バカバカバカバカバカ!クレイマンのばか!!滅亡神に喧嘩売って!その挙句精神操作解除してもらうなんて!信じらんない!!』
『我々もまさかクレイマンが精神操作を受けていたなど、気付くことができなくてすみません』
『でもクレイマンが無事でよかった、一歩間違えたら思い出ごと消されてたかもしれないんだよ!?』
『ええ、ええ!そうですとも!』
駆けつけたティアにはポコポコと怒られた。
クレイマンはそれに返す言葉も持たなかったし、他に沈鬱に肩を下げているフットマンの落ち込み用も凄かった。
なお、一番深刻そうにしているのは「滅亡神の国に喧嘩売った?あかん、あかんでこりゃ…」と両手で顔を覆っているサリオンである。
話し合いは終始そんな感じなので遅々として進まなかったが、一応方針の目処はついた。
ワルプルギスで誠心誠意謝る。
真実を見通す権能を持つアルジュナ神に対してはそれぐらいしか対応策がない。
リムルとかいうスライム魔王が許したとして、アルジュナ神が許すかは別問題。
サリオンは「神に牙向いたんや。万が一の時はワイも土下座して、それでもダメならワイが身代わりになったる」と言った。
もちろん、「サリオン!君にそんなことはさせられない!」と断ったのだが。
ユーラザニアに関しては、ミリムがやったこととしてミリムに責任を押し付けるつもりである。
こちらは中庸道化連としての計画だ。
今後戦争状態になるかもしれないが、神が関わらない以上特に注意する必要はない。
まだ獣王国復興にしばらくかかるため、その間に本隊を叩くのもありだろう。
下手をすると
竜の民、獣王国ユーラザニアとに同時に攻め込まれる可能性があるが、ミリムがこちらの手にある限り問題はない。
失敗したら、責任はクレイマンが取ればいい。
………。
フレイもここぞとばかりに脅したし、ミリムはボコボコにしたし。
その状態でワルプルギスとか、怖すぎるなどと思っていないのである。
逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ…!
隣は魔王カザリームがティアとフットマンを従者として座っている。
いざという時は二人がクレイマンを死んだと見せかけて保護する手筈になっているらしい。
ギィが立ち上がり、盃を掲げた、
「俺の呼びかけに応えてくれて感謝する。今回の議題は新しい魔王の誕生と、一千年ごとの滅亡の調査結果共有だ」
ミリムはきちんと支配の宝珠が効いているのか、大人しく空虚な顔で座っている。
カザリーム様を疑うわけではないが、こうなるともう効いているのかすら不安になってくるクレイマンなのである。
ふと見ると、スライムの魔王リムルが従者を連れて入場してきた。
後ろに見えるのは片方が、神アルジュナその人。そしてもう片方が獣王国の三獣士、アルビスであった。
アルビスが凄まじい勢いでこちらを睨みつけてくる。
おお、神よ、カザリーム様よ!
クレイマンは内心ガタガタと震えた。