目の前でカリオン&アルビスとクレイマンの激しい戦いが繰り広げられている。
ワルプルギス開始早々、「落とし前をつけていただきましょうか!」と喧嘩を売ったアルビスだったが。
そこにフレイに保護されていたカリオンが追加参戦。
主の生存に涙ぐむアルビスだったが、そのまま流れるように戦闘へ移行。
獣王国がいかに戦闘民族であるかを知らしめる流れであった。
ちなみに「お前もだからなミリム」と鬼の形相でカリオンに睨まれたミリムは、下手な口笛をヒューヒューと吹いていた。
早くも操られたフリがボロボロなのは、俺がこの場に姿を現したからなのか。
思いっきり喧嘩ふっかけられたクレイマンは、大慌てで連れていた部下のヤムザをアルビスへと差し向けた。
また、マリオネットを取り出してカリオン相手に立ち向かった。
俺たちはそんな魔王同士の戦いを見学しているのだが。
意外と強いな、クレイマン。
マリオネットをうまく操って冷静に攻撃へと対処している。
また、自身をマリオネットに見立てて要所要所で動き、攻撃を避けて距離を取る立ち回り。
さすがは魔王を名乗るだけはある、と言ったところか。
リムルがふふん、と言う顔で余裕そうに二人の戦いを見守っている。
まぁ俺との訓練に比べたらあくびが出るような攻撃の応酬だからな。
リムルもかなり強くなり、俺の攻撃も十万回に一回くらいかわせるようになったし。
瞬時に消し飛ぶんじゃなくて消し飛ぶまでコンマ数秒ほど抗うこともできるようになった。
これにはラファエルの解析鑑定による演算能力向上と、リムル自身の戦闘経験と状況判断力の著しい成長が寄与している。
最近なんかだとシズさんも稽古をつけてほしいと言ってきたのだが、シュナとゴブタに死ぬ気で止められていた。
なんでや。俺はいい先生やで。
と、そんなことを考えてるうちに決着がつきそうだ。
やっぱり戦闘畑のカリオンと政治戦が多いクレイマンではカリオンに軍配が上がるようだ。
打たれ弱いクレイマンが体勢を崩した隙にボコボコにされ、顔を腫れ上がらせている。
クレイマンには超速再生があるはずだが、「回復するなら回復以上の速度で攻撃し続ければいい」の脳筋理論で拳を振り下ろしている。
もはやクレイマンは半べそだ。
ついに倒れ伏したクレイマンをカリオンが掴み上げる。
「すみましぇんでひた……」
カリオンは無言で猫の子を掴むみたいに俺とリムルの前にクレイマンを持ってきた。
「テメェらも迷惑かけられたんだろ。ほらよ、一発どうだ?」
「お、おう……どうもです……」
ドン引きのリムルが縋るように俺を見た。
「どうしますリムル。私としてはもう神罰を下した後ですし、特に執着はないんですけど」
「俺もほとんど被害受けてないしなぁ。操られてたって言うし。むしろ分かっててやったミリムもミリムだろ」
リムルの言葉に、ついに化けの皮が剥がれたミリムが「あっあっあっ!!」と慌てて立ち上がった。
「ワタシはクレイマンに操られてて仕方なくやったのだ!本当なのだ!!!」
「嘘つけテメェ!部下がアルジュナ神から詳細聞いてんだよ!さっき報告受けたのお前も聞いてただろうが!!」
「う、ううー!アルジュナ!酷いのだ!!!ワタシは裏を探ろうとしただけなのだぁ!!」
カリオンの怒声にバタバタとミリムが暴れている。
ごほん、とリムルが咳払いした。
「あー、俺はクレイマンに責任を求めるつもりはない」
「ほう?今なら賠償でもなんでも自由に要求し放題だろう?」
面白そうにギィが問いかける。
「むしろ、広く国交をもてる方が流通の要としての座を狙うテンペストとしてはありがたいんだよ」
リムルの明るい声色にクレイマンも希望の光が見えてきたらしい。
よろよろながらもったいぶった口調でクレイマンが両手を広げる。
まぁ、カリオンに首根っこ掴まれたままなので格好はついていないが。
「なるほど。私も貴方をスライムとみくびっていました。我が国傀儡国ジスターヴは工芸品とマジックアイテムの輸出に秀でています。貿易はいい考えだ」
隣でミリムがカリオンの威圧的笑顔にさらされている。
これは彼女の自業自得なので、涙目で助けを求められても対応しかねる。
さて、そんなわけで戦闘の見せ物が終わったら食事会だ。
ユーラザニアのブドウを使ったブランデーやギィのメイド達が作った料理など、贅を尽くした料理にリムルが舌鼓を打っている。
いいなぁー、と俺が物欲しそうな顔をしていると、ギィがため息をついた。
「本来従者には与えられないが、特別にな」と前置きして特別席での食事を指を鳴らして瞬時に用意してくれた。
流石ギィ、優しい男である。
美食といえばやっぱりギィのところと、黄金郷エルドラド、そして東の帝国が最高だろう。
特に東の帝国の中華っぽい独特の味わいはクセになる。
ギィのところは悪魔メイド二人が転生者から入れたフランス料理が売りだ。
無論、リムルのところの日本的ファストフードな感じも実にグッドだ。
そういえば、ルミナスもロイ・ヴァレンタインもいつも通りに振る舞っているが、どうやら解呪の術式で一時的に「欲するものの遠ざかる呪い」を無効化しているらしい。
流石に外出なんかもあるだろうし常時呪い状態は可哀想だから意図的に解呪できる隙を作ったが、上手く術式の穴を見つけ出せた様子。
無論完璧な解呪ではなく、膨大な魔素を使って一時的に効果を退けられるだけだが。
それでも、一息つける時間を確保できるのは大きいだろう。
俺もトワイライト・バレンタインの子供を無闇に苦しめたいわけじゃないからな。
チラリ、とこちらに従者のふりをして直立不動を保つルミナスの目線が向く。
それと共にリムルと俺に念話が奔った。
『後ほどお話をさせていただきたいのですが』
リムルと目を合わせてから、目を合わせたまましっかりと頷いた。
神聖法皇国ルベリオスは、未曾有の危機に陥っていた。
ヒナタは自室で体を蝕む呪いに呻いていた。
時折ルミナスの対抗術式によりわずかな水、食事をとることができている。
それで満たされたことにより、なんとか聖人たるヒナタは己の精神を統一し、欲を遠ざけることで呪いをできるだけ非活性化できている。
しかし、聖騎士団長以上の地位は皆例外なく呪いの影響下にあり、今現在ルベリオスは機能不全に陥っていた。
あの日。
書状が届けられてようやくこの前代未聞の呪いの理由を理解して、ルミナス・バレンタインは激怒した。
「ニコラウス!!あの馬鹿者がぁぁああ!!」と憤怒の表情を見せる姿はヒナタをして初めて見るほどの怒りようであった。
ルミナスはその秘儀を全力で使うことで、呪いを一時退けることができる。
しかしそれはただひとときの夢であり、満たされたことにより飢えと渇きはさらに加速する。
解呪を望むが故にまた呪いが組み変わり、ルミナスが救えるのは片手で数える程度のものに過ぎなかった。
ロイとルイ、そしてヒナタに、一部の七曜。
ただそれだけがこの地獄絵図で自意識を保っていられるのだ。
それ以外の者は例外なく恐怖と絶望、苦しみの中にいる。
光が満ち、ポータルがヒナタの前に出現する。
どうやらワルプルギスが終わったらしい。
対抗術式がヒナタの体を走り、呪いがわずかに遠ざかる。
「……ありがとうございます、ルミナス様」
「この程度しかできぬのは妾の力不足よ。いや、アルジュナ神が妾程度に解呪できる呪いをかけるなどありえぬ。敢えて解呪できるよう呪詛を弱めているのだろうよ」
ルミナスはヒナタを慈しむように微笑み、「アルジュナ神にこちらの意向を伝え、書面も交わした。まもなく解呪されるであろうよ」と言った。
ヒナタは未だ体に残る強大な呪詛を見下ろし、呆然と口を開く。
「これほどまでに強大かつ悍ましい呪詛を用いるとは。アルジュナ神というのはどのような神なのですか?」
「………妾をもってして爪の先程度にも至れぬ極大の神、多次元規模の世界を支える本物の創造神よ」
「ッ!」
ルミナスは知っている。
神祖、トワイライト・バレンタインより概要を聞かされていたところによると、この世を含めた多次元世界の管理者であり、遍く世界を産んだ双神の片柱なのだという。
もっとも、それをルミナスが実際に身をもって知ったのはもっと後の話だが。
「そもそも、魔物を敵視する風潮は妾の決めた教義ではない。故にこの条件を飲むのは特に問題もなかった」
「しかし、今後ルミナス神の格が軽んじられる可能性がありますが」
「よい。そもそも唯一神を名乗っているのも、妾も尖っていた頃があったと言うだけの話。それが浸透して、かつアルジュナ神も特に知性体に興味を示さぬゆえにそのままにしていたのじゃ」
ルミナスが今は聖職者達全員が家に篭っているが故に伽藍堂の聖堂を見下ろし、自嘲した。
「今回の一件はニコラウス枢機卿の独断であり本部の決定ではない。だからこそ我らへの要求も教義の変更だけで許されたのじゃ」
場に沈黙が満ちる。ヒナタは強大で無慈悲な本物の神を思い目を伏せた。
「……今後はテンペストと国交を結ぶ、ということで良いでしょうか?」
「そうさな。彼の国の発展の速度は天使の侵攻を早める可能性が高いが。そもそもあそこはアルジュナ神の治める地。天魔大戦を見据えるならば、むしろ与していた方が良いと言うもの」
「かしこまりました」とヒナタは言って、膝をついた。