謁見式が終わり、開国祭の前日。
続々と各国貴族たちが馬車に乗って長旅を終え、手配した高級宿に入っていく。
あちこちを走り回るミョルマイルやシュナ達内政担当は大変に忙しそうで、それに付く警備兵達はトップのシズさんを含めて緊張の面持ちだ。
初日はリムルの演説、その後テンペスト歌劇場で音楽隊が練習の成果を披露する手筈となっている。
ゴブリン、オーク、リザードマン、人間。
あらゆる種族の参加する混成隊の美しい音楽は一見の価値ありだ。
その次はベスター達の技術発表会。
こちらは全面的に俺は立ち入り禁止になっているので詳細不明だ。
千里眼で覗いても良かったのだが、彼らの気持ちを汲んでそっとしておくこととする。
二日目は新設したコロッセオにて武闘大会だ。
貴賓席にて俺とリムルは貴族達への対応をする予定だが、俺はこっそり化身で屋台の方へと向かおうと考えている。
三日目は冥界での安心安全が売りの狩り体験だ。
貴族たちを楽しませる安全な狩り、そして闘技場の戦士たちの訓練場として新しく整備した森を用いるレクリエーション。
貸出もしている丈夫な馬に乗って弱い動物や魔獣の放たれた森を駆け巡り、狩りを楽しむのだ。
リムルの「幽星之王」のスキルで作られた腕輪がある限り、不慮の事故が起きたとして死ぬことはない。
また、魔獣ごとに点数が付けられており、狩りのたびに配布された図鑑が自動で埋まってポイントが加算される形式となっている。
溜まったポイントはテンペストの誇る優雅な装身具と交換が可能。
また、交換可能な狩猟道具もあり、おしゃれかつ実用的なものを取り揃えている。
また貴族のいない間は戦士や冒険者たちの腕試しの場としてより強い魔物との戦闘経験を積むことができる。
点数がつくのは同じだが、こちらはポイントをクロベエとカイジン合作の武具に交換することも可能だ。
森はエリアごとに区分けしてあり、そこに放たれた魔物も強さが異なる。
これは俺の発案なのだが、俺が権能で拡大した森は50段階に区分けされて戦闘力が細かく管理されている。
ウルティマの監修の下、悪魔たちによって管理された森は歩きやすく適度に伐採されており、狩りにはピッタリだろう。
そうして狩りに疲れた体で帰宅した貴族達を迎えるのは癒しの高級旅館だ。
将来的には各国貴族たちの保養所となるように、アストラル体変換門の近くには高級旅館も多く建設した。
音楽祭の人員が定期的に高級旅館に赴き、そこに併設された小ホールでコンサートも行う予定だ。
さて、やってきた貴族たちと個別に話を進めていく。
俺も国の代表として隣に座っているが、ファルムスから国王自らやってきたラーゼンはガクガクのブルブルだった。
にっこり笑顔で「余計なことは言うな」的メッセージを送るディアブロの悪魔的なことよ。
どの貴族もその魔物の国という名前に反した予想以上の文明的な景色に賞賛しきりであった。
見事に整備された道で馬車の旅も楽だった、とか、イングラシアの王都並に素晴らしい旅館だった、とか。
やはり良いものに関して目の肥えている貴族達だ。
一流を集めたテンペストに満足してくれたようだ。
と、その時。
英雄マサユキが悪名高い犯罪組織オルトロスを壊滅した後、テンペストに向かっているようです、と伝令が入った。
伝令元はソウエイ。
マサユキイズ誰、と疑問符を乱舞させたリムルがミョルマイルを見る。
ミョルマイルが次の瞬間、高速でマサユキの武勇伝を語りだした。
誰もその剣を見たことがないほどの神速の剣技、英雄的行動の数々。
まさに真の勇者だと、ファン丸出しの様子でミョルマイルが胸を張った。
リムルが「は、はぁ」と気圧されたように苦笑した。
俺も気になってこちらに向かっているというマサユキとやらを見てみれば。
ルドラじゃん。
4000年前に謁見して以来の姿だ。随分と若々しいのは、どうやら転生したからなのか。
さらっと経緯を見てみれば、オルトロスの幹部を流れるように打倒し、本拠地のバラキアへと進撃。
無事に巨悪を打倒したのであった。
そうして奴隷として捕えられていたエルフたちを保護し、彼らの望みを叶えてジュラの大森林に連れて行こうと進軍する真っ最中。
何故か勝手に話が盛り上がって魔王討伐することになったということらしい。
うーん可哀想というかなんというか。
本人は常識人なのにノリとライブ感だけで話が進んでしまっているというか。
俺は難しい顔をするリムルを振り返り、声をかけた。
つられて隣のベニマルがこちらを振り向く。
「勇者マサユキとは話してみるのがいいでしょうね。彼はもともとヴェルダナーヴァの友人だったようですから」
「ヴェル、ってお前の友人だったっていう創生神さん?」
「ええ。あなたの前世です」
「いや俺の前世は普通のリーマンだけど!じゃなくて、そんな奴の親友ってなにモンなんだ!?」
驚愕するリムルの前に大きなスクリーンを投影し、皆が見えるように映像を拡大する。
スクリーンに映るのはテンペストへ向かう勇者マサユキ御一行だ。
「ええ。彼の前世はルドラ・ナム・ウル・ナスカ。かの東の帝国の皇帝だった男です」
「それは真ですか!?」
ざわりと幹部陣営がざわめいた。
一人でジャンプを読むのに飽きたのか、こっそりこちらへ忍び寄ってくる不審者──ヴェルドラの姿が目に映る。
「ええ。彼を抱き込んでからルドラにベタ惚れのヴェルグリンドに知らせれば、彼の竜をこちらに鞍替えさせることすら可能でしょう」
「ぶーっ!!!」
盛大に吹き出したヴェルドラが秒で馬脚を表した。
ヴェルドラの姉、ヴェルグリンドはヴェルザード同様厳しい姉で、名前を聞くだけでガタガタと震えが止まらないらしい。
「ヴェルドラ!?いやお前どうしてこんなところにいるんだよ!部屋に篭ってろって言ったろうが!!」
「ななななんのことだ我は知らぬぞ!!知らぬ!」
侃々諤々の会話はその後10分ほど続き、「勇者一行は丁重に迎えることとする」と結論が下されたのであった。