三日目はついに、冥界での狩り体験の発表会だ。
各国貴族達を集めて、闘技場の隣にある狩猟会館で説明会を行う。
会場は狩猟会館の広い宴席用のホールだ。
舞台の前面に大きなスクリーンを広げる。これは新開発した魔法で、遠くのものを写したりアニメーションを見せるといった役割を果たす。
今回はそこに「狩猟における注意点」「貸し出し防具の身につけ方」「図鑑の扱い方について」などがアニメーション形式で流している。
物珍しげに付き添いの婦人達が画面を見ている。
子供もアニメーションに映る可愛らしい獣人のキャラクターに興味津々のようだ。
メイド達は貴族お一人につき一人付き、注意点などを詳しく説明していっている。
ちなみに、まず全体説明は貴族相手の商売に慣れているミョルマイルから行っている。
対応にあたるメイド達も元ドワルゴンの貴族で大臣たるベスターにしっかりと教育されている万全の体制だ。
そして皆の準備が整った最後に、リムルから
軽い挨拶と感謝の言葉を述べる。
リムルのスキル「幽星之王」のスキルで生み出した腕輪を配りマイクと拡声魔法で案内をするのだ。
「安全のために狩猟中は絶対に腕輪を外さないでください!もし事故が起こった時、この腕輪が皆さんを守ってくれます!」
本格的に事故って腕輪もなくどうしようもなくなったら、俺が死んでしまった人を復旧する手筈になってはいる。
だがそれ以外…つまり腕輪をしている限り、狩り体験者の安全は保証されるのだ。
無論この狩り体験中でしか腕輪は使えないと繰り返し伝えることも忘れずに。
大きく分厚い、しかし重さを感じさせない不可思議な図鑑が腕輪と共に参加者全員に配られていく。
付き添いの子供が興味津々でそれを開いて、超精密かつ写実的に描かれた獲物の絵──魔法的に再現された白黒写真だ───にキャッキャとはしゃいでいる。
図鑑には森の中に放たれている狩猟対象の生息域、習性、急所や弱点、そのほか生物学的知見が浮かび上がるようになっている。
最初に配られた状態では一部雑魚魔物が白黒で描かれているだけだが、狩りを成功させるごとに図鑑は埋まっていく。
図説の横には狩りの頭数と個体サイズ、そしてポイントが乗るコーナーが設けられている。
と、周囲を見るとどうやらガゼル王もこの催しに参加していたようだ。
お忍びなのか、腕を組んで会場端で図鑑を眺めている。
狩りのたびに図鑑の内容は自動で記録されていき、合計ポイントはこの狩猟会館の景品交換コーナーで様々な物品と交換可能だ。
一通り説明が終わったところで、ミョルマイルが最後の説明と質問を募る。
「弓矢、投げ槍などは初期装備から変更したい場合狩猟ポイントを用いて好きな装飾、効果のあるものと交換が可能ですぞ!」
「少しいいだろうか。鷹や犬の貸し出しは行っているのかな?」
貴族の一人、品のいいカイゼル髭の老紳士が歩み出て口を開いた。
「もちろんですとも。鷹狩りを楽しみたい方はこの後鷹小屋へ案内いたしますわい!」
「なるほど。それは上々」
老紳士が頷いてもといた場所に戻っていく。
つかみは上々のようだ。
貸し出しの装備品は特段の能力や装飾などはないものの、クロベエとカイジンの作成した上質なものだ。
特に注目を集める図鑑についてはスキルと魔法、そして俺の権能の合作品となっている。
「初心者の方は、この後狩りをスムーズにこなすための初心者講座を開催予定です。是非ともご参加ください!狩りに覚えのある方はこちらへ。会場までご案内いたしますぞ!」
ミョルマイルの案内に従ってぞろぞろと貴族達が歩いていく。
向かうのは闘技場地下にある転移門だ。
石造の大きな門は両開きで、貴族の使用を意識して美しい装飾と雄々しい鷹の彫刻を施してある。
こちらは基本俺の作った門だが、装飾についてはドルド・ミルド・ガルド三兄弟の作品だ。
繊細かつ力強い作風は実に貴族ウケしそうで、実際「ほう!」「実に見事ですなぁ」と貴族達がまじまじと扉の装飾を見ている。
ゆっくりと扉が開いてゆく。
扉には肉体をアストラル体へと変換する機能がついていて、その先には俺が昔半物質界として作り替えた冥界が広がっている。
貴族達には門の向こうにただ森が広がっているだけのように見えるだろう。
しかし、その向こうの大気中の魔素濃度の高さに気付いたのか、ガゼル王が片眉を釣り上げた。
冥界は基軸世界であるここと違って魔素濃度が段違いだ。
そのためにアストラル体である悪魔が自由に活動できるほどだからな。
その分強い魔物が生まれやすいということにもなるが……そこはあれ。
俺の管理下にあるので心配しなくてもいいわけだが。
こそこそとガゼル王がリムルに声をかけた。
「リムル。大丈夫なのか」
「ああ、大丈夫大丈夫。魔物の発生はアルジュナがガッチリ管理してるから、あとは落馬とか事故とかだ。そっちも腕輪があれば防げるし、安全性はバッチリだよ」
「ならいいが……」
なんとなく納得がいかないような、「こいつらの無茶苦茶は今に始まった事ではないか」みたいな表情でガゼル王が己のこめかみを手で揉んでいる。
さて、あとはドライアドの皆様が管理している森で自由に狩りを楽しみ、ポイントを稼ぐのみ。
広い森を区画分けして貴族達がかち合わないよう振り分ける。
そのまま狩猟体験は無事開催。
狩りに応じて浮き出る図鑑に「おお!!」と歓声を上げた。
一応貴族一人一人に付き人である獣人をつけているからな。
もし危険なことが起きたら救助の役も果たすし、付き人として荷物を持ったり獲物を保管したりする役も負っているのだ。
そして貴族が狩りで点数を取ったら一緒に喜んだりほめそやしたり、結構重要な役どころだったりする。
時間いっぱい楽しんだ後、大満足で森から出てくる貴族達が自らの図鑑を見せびらかしたり、その記録された獲物の大きさを自慢しあったりしている。
今回は弓矢での参加が多かったが、犬でしか狩れない獲物、鷹で狩りやすい獲物等も実装予定だ。
「いやぁ、これはいい!至れり尽くせりで、地元の山でこれができたらどれほどいいことか!」
「ですなぁ!見てくだされ、こんなに大きな金色の獣を狩ることができました。帰ったら毛皮を執務室に飾る予定ですとも!」
「おお、これは素晴らしい!ところで、ワシはソーマのメルスン地方の領主をしておりますガストン・アトリーゼ伯爵というのだが、貴公の名をお伺いしても?」
「これはこれは失礼した。イングラシア王国中央書記官メルゼス・ソロフルネ伯爵と申します。どうぞお見知りおきを」
などと横のつながりを育む貴族もいるようで、男の社交の場としても十分機能することだろう。
リムルが実に順調そうな狩猟体験現場を見て、ニカっとイタズラげに笑った。
「結局お前にも頼ったけど、成功して良かったよ。ありがとな、アルジュナ!」
「いえ。ほとんどこれはリムルの発案です。私はほんの少し力を貸しただけだ。……ですが、力になれたようなら何よりですよ」
「謙遜すんな。じゃ、俺ら二人の成果だ」
拳を突き出し、リムルが煌めく瞳で俺を見る。
俺はそっと拳を合わせ、同じように微笑むのであった。