貴族達の狩りが終わった後、彼らの連れてきた騎士や傭兵達が参加したのは冥界での高難易度ハンティングクエストだ。
貴族達のバージョンはまったりとした催しで、収集要素を強く出したものだったが。
逆にこちらはどちらかというと競技としての難敵討伐、速度重視のまさにモンスターハントと言った風体の狩りだ。
傭兵たちの狩りの様子は中継で映され、闘技場に四つの大スクリーンと中央の立体映像で観客たちが楽しめるようになっている。
中央広場の3Dの立体戦闘映像は大迫力のモンスターと傭兵たちの戦いを映す。
大スクリーンには戦闘解説や位置情報などなど解説を入れている。
これも意外と人気が出たようで、公式で賭け事を開催すれば胴元としてガッポガッポと儲けることができた。
複数人で行う大型魔獣との戦い、モンスターハントは貴族たちにも人気で、市井の者も賭け事に興じる目的で日参し始めたのだ。
もちろんモンスターにやられる者も多いが、アストラル体に変換された彼らはリムルのスキルにより即座に登録されたキャンプ地で復活。
悔しさに地団駄を踏んだり他の脱落者と実況を見ながらワイワイ騒いだりと和やかな様子だ。
画面の向こうでは巨大なブラックスパイダーを十人1チームの冒険者達が大勢で囲いなんとかぎりぎり猛攻を受けきっている。
賭けはモンスターの難度と冒険者達のランクで初期オッズが決まる仕組みだ。
全員敗退したら冒険者側の敗北。討伐完了したら勝利。
魔物の素材の剥ぎ取りは冒険者の自由。
ポイントを使ってその素材を工房へと持ち込めば、専用の装備を作ってもらえる制度もあり。
実に順調な滑り出しだ。
今回の件で高級保養所としてのテンペストの地位は不動のものになったからな。
予定を延長して長く滞在する貴族もいて、この盛況はしばらく続きそうだ。
賭け事あり、ファッションあり、狩り等のレクリエーションあり、美食あり、音楽あり。
開国祭はここに終了。
貴人たちのエンターテイメントの聖地として、テンペストは出発を果たしたのだ。
午後。
おみくじを売って得た金で食べ歩きを堪能して戻ってきたあたりで、青ざめた商人たちがゾロゾロと迎賓館から出てきたのを目撃する。
どうやらドワーフ金貨でなければ支払いに応じない、と言い張っていた商人たちが今後の取引を停止させられたらしい。
そりゃあ敵対行動をすればブラックリストに入れられるぐらいはするわな、と串焼き魔獣肉をベンチでもぐつきながらしょぼくれた後ろ姿を見送っていく。
随分とリムルも厳しい態度をとったみたいだがこれもまた策謀のうち。
これでグランベルもマリアベルも計画の失敗を悟ることだろう。
しばらくはこちらにはノータッチでいてくれるはずだ。
「あ、アルジュナ!お前どこ行ってたんだよ。昨日も闘技場から抜け出してたよな」
廊下をベニマルと共に歩いていたリムルがこちらへ声をかけてきた。
訝しげな顔は俺が昨日中ずっと姿が見えなかったが故か。
「ちょっと屋台を出してました。思ったより売れたので売り上げを国庫に入れたいのですが」
「………、な、何を売ったんだお前!?」
「ただのおみくじですよ?」
絶対「ただの」じゃねぇ、という疑心に満ちた顔で睨め上げられ、俺はうっとたじろいだ。
ちょっと文量多めだけど、ほんとにただのおみくじなのに。
商品の一つをリムルにうやうやしく献上すればリムルは眉間に皺を寄せながらそれを恐る恐る開いた。
ぱらりと開いた紐綴りの冊子に墨による文章が浮かび上がっていく。
手に取ったものが一番読みやすい文字が浮かぶようになっていて、今回の場合は日本語になったらしい。
大吉。願事、首尾よく叶う。
実に順風満帆な言葉がずらずらと並び、リムルはくしゃくしゃな表情でこちらを見た。
「変に忖度してくれなくてもいいんだが」
「忖度はしてません。これ、私の権能で一年の運気を占うシステムになってますので」
「本当かぁ?すごい調子のいいことばっか書いてあるけど」
ベニマルが「ですが、これが本当ならテンペストは安泰だということですから、良かったじゃないですか」と微笑んで言った。
その通り。この運気であればテンペストは安泰だ。
さすがはリムル。この豪運スライムめ。
そのまま三人で会議室へと入れば、そこには先に着いていたのか数人が既に着席していた。
執事兼立法府の長であるディアブロ、軍部の長であるベニマル、内政担当たるシュナ、司法担当であり冥界狩猟区管理担当者であるウルティマが部屋には集まっている。
立法府所属で財務省を兼ねるミョルマイルは、他の商人と祭りの後片付けのため不在だ。
冥界の管理は順調だ。
狩猟対象たるモンスターにもあらかじめ腕輪をして使いまわしているし、システムもよく回っている。
しかし今回の商人たちの支払い問題で揉めてしまったのはマイナスだった。
上手くあしらいはできたものの、貴族達によくない噂が立つ恐れも否定できない。
見たところ、転生者マリアベル、ひいてはロッゾの企みだったと思われるが。
もし何かあれば評議会にディアブロを派遣する、という方向で話がまとまると、ディアブロが憂鬱そうな顔でため息を飲み込んだ。
本当にこの男はリムルのお世話が大好きなんだな…。
何か思うところがあるのか、するりと目を細めて考え込むディアブロに「どうしました?」と俺の方から話をふれば。
うげっという顔をしてディアブロが顔を上げた。
一応ディアブロも俺の特訓で強くなったのだが、俺への苦手意識はどんどん強まっているようで、何故なのかさっぱりわからない。
ディアブロは咳払いして姿勢を正した。
「いえ。なんでもございません」
「……なるほど、リムルのそばにいられるように小間使い要員を探したいと思っているんですね」
「思考を読むのはやめてください」
俺を前に隠し事など無駄無駄ァ。
考えていることを当ててやれば、さらにしょっぱい顔をされてしまった。
お前俺のこと嫌いすぎか?
とはいえ、ディアブロの考え自体は中々名案である。
特に財務省兼立法府の仕事もしてもらっているミョルマイルには負担が集中しすぎているからな。
「いいんじゃないですか、勧誘。黄も白も跳ねっ返りですが、話のわからない子達じゃない。ですよね、リムル」
「おー、誰か知らないけど有能な人材は大歓迎だ。ディアブロは心当たりあるのか?」
「!ええ。しばしお時間をいただければ、私が勧誘をいたします」
「というか態々ディアブロが勧誘に行かずとも、私が呼べば」
「それはやめてください。交渉が難航します」
ベシッと俺の案はディアブロによって撃ち落とされてしまった。
何故……。
ウルティマは「僕以外を呼ぶなんていい気分じゃないけど、僕が一番アルジュナ様のお側にいられるならいいんじゃないかな」と批判もありつつ賛成の構えだ。
シュナとベニマルも賛成。
そんなわけで、ディアブロはしばし外へ出て、残りの原初たる黄と白を呼びにいったのであった。