日々暇にあかしてゴロゴロしている俺であるわけだが。
その暇つぶしで一番よく行うのは、千里眼による各国旅行地観光地を眺めることだ。
風光明媚な景色を見るのは楽しいし、そこで売られている土産物屋や屋台も楽しそうで旅行心をそそられる。
それだけでなく、偉い人々の会議は世情を見るのに便利だし、宮廷の人間関係なんかは昼ドラ代わりに見るのにはちょうどいい。
ちなみに、今見ているのはシルトロッゾでの会議である。
ロッゾ一族の本拠地にして小国、シルトロッゾ。
工芸も盛んで貿易の中間地点としてよく取引が行われている。
小さいが、西側最高の諜報機関シルト対外情報局によって守られており万全。
ネズミ一匹通さないとの触れ込みだ。
しかし千里眼の前にはこの通り、聴き放題見放題であるからして。
どうやら今日はシルトロッゾにお客さんがやってきているようだ。
客の名はユウキ・カグラザカ。笑顔の裏で食えない御仁である。
まぁ「それはそれ、これはこれ」の精神でテンペストの開国祭に呼ばれた際は目一杯楽しんで行かれたようだが。
ユウキとグランベル、そしてマリアベルの三人で行われた秘密の会議を俺はしげしげと眺めた。
後ろでウルティマが「アルジュナ様、お茶と団子が用意できたよ!」とルンルン声で声をかけてくる。
「少し待ってください、なにやらロッゾ一族が密談をしているので」
「ああ、この間の開国祭の時も変なちょっかいをかけてきてたよね。ボクがちょっと行って吹っ飛ばしてくる?」
「それはリムルに怒られそうなのでやめておきましょう。ウルティマも見ます?」
「うん!ありがとうアルジュナ様!」
花が飛びそうな様子のウルティマの頭を撫ぜて、視界を接続する。
「わお!」と開けた視界にウルティマが声を上げた。
視線を会議に戻せば、どうも議題は魔王リムルのようだ。
グランベル老はユウキに期待しているらしい。
本気を出せば魔王リムルを倒せるのではないか?と何回も聞かれてユウキ・カグラザカが内心で苛ついている。
そりゃ「リムル相手に勝つのは無理」って言ってるのにあんだけしつこく聞かれたら嫌になるわな。
ああ見えてリムルは俺が指導しているだけあって、シマリス程度には強くなった。
戦闘感覚、状況判断など総合してみても、ユウキに負けるなどあり得ないところだ。
というか、全盛期の三位一体となったダグリュール相手だって問題ないだろう出力はあるのだ。
ここに俺が根源へと改造した「虚無崩壊」のスキルを加えれば、少し弱っちいが前々世たるヴェルダナーヴァに近しい出力に仕上がることだろう。
シマリスから人間の小学生ぐらいには成長できるはずだ。
まぁ、どちらにせよ今は取らぬ狸の皮算用か。
視界の先でマリアベルが黙ってことの成り行きを見守っている。
仮にリムルを押さえても俺がいる限りロッゾによる世界征服は成り立たない。
どうやら
ぎり、とひっそりと奥歯を噛み締めて屈辱に肩を震わせている。
まぁ、彼女が俺との力の差を感じられなくとも仕方がない。
ユガの巡りを感じるには特殊なスキルや野生の感覚が必要だ。
魔物であれば研ぎ澄まされた野生としての感覚。人間であれば戦士としての戦闘感覚や思考加速、森羅万象などの特殊なスキル。
……とはいえ。
彼女がもし俺との力の差を分かっていたとしても、同じように俺の支配と世界の掌握とを目論んでいたことだろう。
なにせ彼女は
これくらい強欲でなければグリードのスキル保持者として務まらないからな。
もっとも、リムルを支配しようとするなら俺がそれを解除するが。
操られるふりをしているユウキも、その腹の中で
お、彼らが席を立って移動している。
ふと見ると、隣のウルティマが「プークスクス」と哀れな短命種を嘲笑う顔をしていた。
俺の見ている程度の内容なんてウルティマにはつまらないんじゃないかと心配していたのだが、どうやら杞憂だったようだ。
彼らが移動したのは大会議室だ。
続いて行われるのは西方諸国会議らしい。
部屋には既にルベリオスの聖人ヒナタを始め、多くの重鎮が集まっている。
眠くなるような結論の無い騒がしいだけの会議だが、いくらかこの間の開国祭に参加した貴族たちの姿も見える。
開国祭を存分に楽しんだのだろう。
これからの旅行地としての期待なのか、比較的好意的な意見も散見された。
それ以外だと、立地的な観点から東の帝国対策にテンペストの力を期待している言葉も見受けられた。
どうやら早いところ東の帝国がテンペストに攻め入り、それによって俺が帝国へと神罰を下すことを期待しているようだ。
俺を人の都合で使おうとは不敬極まりないが、まぁ思うだけならタダだからな。
お、議会の思惑とは別の方向でイングラシアの第一王子エルリック某が何やらたくらんでいる。
なになに……ロッゾより仕入れた「支配の宝珠」で俺を支配下に置こうと。
………。
たまげたなぁ。なぜ効くと思った。
でもこの支配の宝珠を手に入れるまでになかなか苦労したみたいだし、サービスでちょっとだけ効いたフリでもしてあげようか。
なんて考えていたら、隣でいつのまにかキレ散らかしていたウルティマが手の中に核撃魔法を装填して立ち上がっていた。
「御方を虫ケラの都合でいいように動かそうなんて…まとめて滅ぼされたいのかなぁ?」
「ウルティマストップ。こういう時は逆に考えるんですよ」
「ぎゃ、逆…?」
「愚かで可愛いな、と。前もあったんですよこういう事。人質取っていうことを聞け、とか。可哀想に、人質の回収なんて時軸操作でなんとでもできるのに」
むっすー、とくしゃくしゃの顔でウルティマが手の中の核撃魔法を散らせた。
「アルジュナ様はおおらかすぎるんだよ。舐めた真似をする奴らは早めに潰さなきゃ」
「まぁ、今回に関してはリムルに報告しておきましょうか。内心の自由は尊重しますけど、実害があってはいけませんからね」
「……うん」
ウルティマは我慢をするように頭を俺の胸に擦り付けて甘えたようだった。
それをやさしく撫ぜてあげて、リムルに報告に俺はのっしりと畳敷の部屋から出たのだった。