「はぁ!?お前を洗脳して支配下に置こうとする奴らがいる!?!?」
リムルは驚愕してやおら立ち上がったようだった。
現在は毎日のリムルとの特訓の合間である。
休憩中についでに先日千里眼で観察したことを報告したのだが、想像以上に驚かれてしまった。
別段実害のないことだし、そこ迄驚かなくとも、と思いながらボコボコになった演習場を大地の権能で直していく。
最近ではラファエルの演算が未来予知の領域まで向上したからな。
すばしっこく避けるので必中の概念を備えた矢を打ち出し、
危うくブラフマーストラの火が森に延焼しかけてちょっと慌てた一幕もあり。
ちなみに、この様子を見て民の間でも修行が盛んになり、全体的なテンペストの武力は上昇傾向にある。
市民も気軽に使える演習場も開放しているし、自己鍛錬に余念がないのはいい事だ。
特にゴブタとランガは竜を祀る民のところへ修行へ出ていて、その仕上がりが期待されているところ。
修行へ出た、というかミリムに引きずられていったような感じがないでもないが、それはそれ。
強くなれるならなんでも良いのである。
いや、今は修行の話はいいか。
本題は俺の支配を企む連中の話である。
「大問題じゃないか!?おいおい、どこの馬鹿だよそいつら!」
「唆したのは西方諸国評議会の闇、ロッゾですね。実行犯、というか馬鹿な企みを企てたものはイングラシアの第一王子エルリックです」
「イングラシア……あそこの王様はまともな人だと思ったんだけどな」
頭の痛そうな顔で沈鬱にため息をつくリムルに対して、「まぁ優秀な人間の息子が不出来なのはままある事ですから」と慰める。
典型的なダメ息子っぽかったからからな、エルリック第一王子。
「一応俺の方でもソウエイに言って注意してみるよ。場合によっては支配対象を俺に変更してくるかもしれないしな」
「あまり心配はいらないと思いますよ。支配の宝珠の強制力なら私はもちろんリムルの方でも簡単に弾ける程度のものでしかありませんから」
「へ、そうなの?まぁでも俺が外交武官として送ってる幹部が操られたりしたら事だからな。注意して損はないか」
やや煤けた頬を擦り、リムルは思いっきり伸びをした。
パチパチと溶岩化した大地の残るそこを一息に修復して、リムルの折れた刀を権能で元通りに直してやる。
サンキュ、とリムルが一言言って刀を鞘へと戻した。
今日は手加減の練習、というか現実空間での戦闘に慣れておくというコンセプトでの戦いだったからな。
威力としては控えめなものが多かったが、出力制限にお互い気にかけねばならずいい訓練になった。
「じゃ、帰ろうぜ。そういやお前の新しい服ができたとかでシュナが呼んでたぞ」
「………、私もう服とか要らないんですけど…着せ替え人形じゃないんですから…」
「まあまあ。貴族は二度は同じ服を社交場に着ていかないんだろ?」
「いや私貴族ではないので。王様であるリムルと違って世俗に関わらない神なので!」
うーんとぶすぶす膨れ散らかしていれば、リムルは「あれ、結構辛いよな。わかるぞー」と同意だけして助けない構えを見せた。
この人でなし!同志だろ、俺が可哀想じゃないのか!
地味にテンペスト国内では服の作成も盛んになってきている今日この頃。
流石に流行の最先端たるイングラシアには及ばないが、豊かなファッションが市井には溢れている。
大通りのショーウィンドウには幾つものおしゃれ着が並び、美しいネックレスやイヤリングなどの専門店が軒を連ねる。
俺のところにも献上品の服なんかがよく送られてきており、インド系のなんとも言えない神っぽい服がいくつか箪笥の中に眠っている。
着物も数点、スーツも一着。公式の場に出るための式典用の服も何着か用意済みだ。
何を着てもベタ褒めのウルティマは、最近は神社の掃除をしに来ているシズさんやシュナと仲良くなってきたようで。
中身はかなりのやんちゃっこであるウルティマが、こうして友人を作れたのは嬉しい限りだ。
と、そんなわけでお互い着せ替え人形として沈鬱に皆がいる本館に戻れば。
そこに噂をすれば影か、ソウエイが待っていた。
「あれ、ソウエイどうした?なにかあったのか」
「ミューゼ公爵が殺されました」
「!」
ミューゼ公爵とは、この間の商人たちのドワーフ金貨騒動に首を突っ込んできた貴族のことのようだ。
恐らくは今回の件の黒幕と繋がっていたと思われるため、口封じのため殺されると分かってはいた。
ただ、それをソウエイが防ぎきれないのは意外だった。
リムルが腕を組んで悩ましげに首を傾げている。
「誰が下手人かお前ならわかるか?」
「ええ。グレンダという名前の召喚者で、ロッゾによる異世界召喚の被害者ですね。魂に呪詛を刻みつけられて逆らえないようにされていますので、解呪すればこちらに引き込むことは可能かと」
「また召喚者か…人道的に問題も多いし、なんとか禁止にできないかな」
「世界間の繋がりを私の方でシャットアウトしてしまえば可能ですね。自然な転生や転移は防がないようにもできますよ」
「うーん。ひとまず十歳以下の転移だけでも防いでおきたい」
「わかりました………はい、完了です」
「早いな!?」とリムルが目を剥いた。
いやこのぐらい実行に0.5秒もかからんよ。
「あー、なら本題はその召喚者がどうやってソウエイの目を盗んでミューゼ公爵を殺したか、か」
「それは…なるほど。短距離の極小ワープと狙撃を組み合わせたものになりますね。銃弾を敵の急所にワープさせるんです。実に無駄がない暗殺狙撃だ」
「へー、そんなこともできるのか。だけどそいつがミューゼ公爵を殺したって証拠がないのがな」
「別にそのくらいいくらでも作れますよ?」
「作っちゃダメでしょうが、証拠は」
リムルはすげなく俺の意見を却下した。別に偽造するわけじゃないのに……。
それと一応西方評議会での議会内容を伝えておいた。
テンペストの議会入りが承認されるだろうということ。
立地的に、東の帝国への対処を求められているということ。
「向こうにはヴェルグリンドって名前のヴェルドラのお姉さんがいるんだったよな。うーん、できれば戦闘は避けたいところだ」
「ヴェルグリンドに関してはマサユキを当てれば問題ないと思いますよ。あくまで彼女が好いているのは帝国ではなくルドラなので」
「ああ、前もなんかそんなこと言ってたな。そんなうまくいくか?前世なんて向こうが知覚できるかも分からないし」
「試してみる分には問題ないと思いますよ。全面戦闘でも私にかかれば特に問題はありませんが、戦わずに済むならそれに越したことはないでしょう」
「……ま、そうだな」
今後の方針は決まった。だが問題は山積みだ。
西方諸国評議会は近いうちに開催され、俺たちはそこに呼ばれることになる。
ロッゾの件もあるし、東の帝国という潜在的な敵も存在する。
それらを前にもう一度対処の詳細を固めるべく、俺たちはテンペストの幹部を招集するのだった。