西方諸国評議会からの帰り際のこと。
暗躍のため配置されていた評議会の闇、五大老の使いである傭兵をソウエイが捕らえた。
捕虜にした傭兵、グレンダ・アトリーは召喚者の魂を縛る呪言を解呪すると、立板に水という勢いで喋り出した。
なんでも、自分は使えるから雇って欲しい、もう西方諸国では顔が売れ過ぎて他に雇ってもらえるところがない、と。
リムルはうーんと難しい顔をして腕を組んだ。
「どうする、アルジュナ。こいつは信用しても大丈夫なのか?」
「言っていることに嘘はありませんね。どうも本心から鞍替えしたいようです」
悪どい連中に買い叩かれるぐらいなら今のうちに次の就職先を探さないと、ということらしい。
どうもマリアベルに口封じに殺される警戒もしている模様。
そりゃ必死になるわ、と俺は頷き……ついでに一応、元の世界に帰還するかどうか聞いてみることにする。
「私の力ならば力を失う代わりに元の世界へと帰還することができますが。どうしますか?」
「!…………、止めとくさね」
「何故?」
「あたしなんて所詮、どこへ行っても命を安売りする傭兵にしかなれない。今更一兵卒に戻ったところで、どこぞの戦場で野垂れ死ぬしかないさね」
「そうですか」
「ま、この世界の前時代な不便なトイレやら変わり映えしない食事やらは不満といっちゃあ不満だけど、戦場だって似たようなものだし」
この言葉ににやり、としたのはリムルである。
その辺の現代的豊かさ、便利さを追求したのがまさにテンペストであったからだ。
より詳しいことを聞き出そうと連れてきたテンペストの中央にて、西方最強の聖人と名高いヒナタも太鼓判を押したラーメンと餃子をお出しする。
口の滑りを滑らかにするために出した料理だ。
傭兵として粗食には慣れているであろうグレンダとしても、美食が嫌いなわけではないだろう。
十分ほど。
グレンダは無言で完食した後、曇りない瞳でリムルを見た。
「アタシは命令に忠実ないい傭兵さね!!今なら五大老の内情もついてくる!お買い得さね!!!」
「予想の10倍ぐらい口が滑らかになった件」
そのまま流れるようにソウエイのもとで部隊に組み込まれることが決まった。
その後夕食会では、俺の要望でフランス料理風のおしゃれなホタテの貝柱のソテーが出されることになった。
美しいプリプリの身は角切りにされているが、元になったホタテ貝が巨大なのかステーキ肉みたいなサイズがある。
美味に舌鼓をうちながら。
この食事会での話題は今回の西方諸国評議会の顛末と今後の行動指針である。
俺のぶちかましの件についてはリムルだけが「やりすぎだったんじゃね?」という姿勢だったが。
他のメンツは「皆殺しでも良かったのでは?」「俺キレ過ぎて途中から意識飛んでました」「けしからんと言わざるを得ませんな!」と俺のユガ回しに概ね好意的だ。
というかシオンなど今からでも遅くはないとばかりに殴り込みに行きそうな怒りだったからな。
やはり舐められるということが魔物にとっていかに致命的かということである。
実質ヤクザか何かだもんなぁ。
次は新しく仲間に加わったグレンダから。
ユウキ・カグラザカが支配されてる、という旨の話と、目的は西方諸国のみならず世界の経済的支配である、という話が展開されている。
ちなみにディアブロは本食事会の給仕係である。
この世の春と言わんばかりの上機嫌さでリムルへと給仕しており、こいつこんな表情豊かだったんだな、とN万回思うなどする。
ちなみに、ディアブロにはリムル以外の有象無象の姿は映っていないので俺たちへの給仕はシュナが行っている。
この悪魔自由かよ。
おとと、一応俺もこの辺で口を挟んでおかなければ、誤った情報が伝わってしまう。
「ユウキですが、洗脳支配はされてませんよ?」
「え?……そ、そんなはずないさね。間違いなくあれは
慌てた様子のグレンダが弁明する。
「確かに、あれはグレンダが勘違いしても無理はありません。なにせ、ユウキ・カグラザカは支配されたフリでマリアベルすら欺いているのですから」
「嘘!?」
グレンダは心底驚いたようだった。
スキル所持者に欲望に対する絶対的な支配を約束するが、そのかわりに己より強欲な者へは無力になる。
と、そのようにスキルの説明をすれば、驚きを持って皆は納得したようだった。
そんな裏付けもなく皆俺の言葉を信用しすぎだろ…などと思えど、確かに俺嘘とかついたことないしな…と思い直す。
「マリアベルより強欲だなんて、あのグランドマスターもとんだ食わせ物さね」
「しかし支配されたフリをしているってことは、今回の件の首謀者はマリアベル単体ってことか」
リムルの言葉にディアブロが頷いた。
「次にかの自由組合総帥が動くとしたら、マリアベルとやらが総帥を切り捨てようと動いた時。その致命的瞬間を狙うでしょうね」
「つまりそれまではどこで動くかはわからない、と。厄介だな」
ベニマルがホタテのソテーの最後の一口を名残惜しそうに口に押し込んでから、味噌汁をすすっている。
俺は若干左右に視線を逸らしてから口を開けた。
「まぁ、なんにせよしばらく先になるでしょう。その前に私としてはレオン・クロムウェルの件を進めておきたいと思っています」
「レオン?魔王の?それが俺たちとなんの関係が…」
リムルの言葉にやっぱり伝えるのを忘れていた、などと確信してぺこちゃんみたいな表情になる。
しまったしまった。てへぺろ。
ごほん、と咳払いするとリムルからじっとりとした視線を貰った。
すまんて。
「クロエ・オベールはレオン・クロムウェルの最愛の幼馴染です。妹的なものですね。シスコンとも言える重い愛で生き別れのクロエのことを探してるので、慎重にクロエのことは伝えないと下手するとテンペストに攻め入ってきます」