ディアブロから遅れること三日。
やってきたのは原初の白、ブランと原初の黄、ジョーヌだった。
なお、彼女らは俺を見た瞬間素早く戦略的撤退をかまそうとしたが、くるりと背後に回ったディアブロが「神の御前ですよ」と微笑むことで制した。
そのまま迎賓館に連れてこられたジョーヌとブランは不自然なほど反抗の様子がない。
「久しぶりですね、ジョーヌ、ブラン」
「むう。久しぶりだな、アルジュナ神。ご機嫌麗しく……は、ないだろうな」
「そうね。この短期間に二度の終末を下したのですもの。さぞお怒りでしょう」
悪魔二人が青ざめた顔で細かく体を震わせている。
うん?なにか誤解されてないかこれ。
俺がご機嫌斜めだと思っているから逃げようとしているようだが、そんな気分次第で相手を消すとか野蛮な真似は俺はしないぞ。
……ユガ回しで遠慮なく消してるって?それはそう。
少し思考を見てみれば、ユガそのものに対する恐怖──つまりは自らが根本から消滅する恐怖のようなものが読み取れた。
抗いようのない滅びと、ただ気まぐれな慈悲に縋るしかない復活。
それらに恐怖するのは長命種の特徴だとはわかっていたが、なんとこいつらもだったとは。
別によっぽどの理由がない限り俺が復活させるから大丈夫なのに、皆心配しすぎなんだよなぁ。
などと考えているうちにリムルが進み出て「よく来てくれた。俺が魔国連邦テンペストの主、リムル=テンペストだ」と名乗った。
その堂々とした名乗りにジョーヌが「ほう」とだけ言って真っ直ぐにリムルを見つめる。
リムルの存在規模が並外れていることに二人も気付いたのだろう。暴れる気配がない。
この星でここまで規模が大きいのは俺を除けばリムルぐらいだからな。
本人は気づいていないが、俺と日々訓練するうち、数ある多次元世界のうちでも有数の強者になっている。
わずかでも俺の完全性を突破して傷をつけられるのは生命体としてごくごく少数だ。
「俺に力を貸してくれないか?」と真摯にリムルが手を伸ばせば、二人の悪魔娘は予想外のことを聞いた様子でパチクリと目を瞬かせた。
神の威光を盾に脅されると思っていたらしい。
「貴方は命令できる立場だと思ったのだけれど」とブランが殊勝なことを言っている。
もし俺を盾に従属を要求したならせめて一矢報いるくらいには全力で暴れてやろうと思っていただろうに。
「そんなの同じ国を守る仲間に相応しい態度とは言えないだろ。力で押さえつけるのも効果的ではあるけれど、この場合には不適当だ」
「私達が裏切ってこの国を破壊する可能性もあるけれど?」
ブランの挑発を聞いた瞬間、これまでなんとかキレるのを我慢していたらしいディアブロが恐ろしいほどに妖気を放出した。
それをリムルは努めて無視している。
「リムル様の御前でその無礼、死にたいのですか…」などと暗黒微笑そのものな笑顔を見せているが、ついにリムルがどうどう、と馬を宥めるように微妙な表情で眉間に皺を寄せた。
「あー、もちろん気に食わないなら出ていってもらって構わない。まぁ、街を破壊されるのは困るからこっちも全力で応戦させてもらうさ」
「そう……」
ジョーヌがまず臣下の礼を取り、続いて感慨深げな様子でブランも同じく膝を折って頭を下げた。
どうやらリムルの態度がお気に召したらしい。
元々その存在の強大さと魂の輝きからして気に入ってはいたのだろうが、その最後の後押しになったというべきか。
面子が潰されたと思ってブスくれているディアブロに「いい人材を連れてきてくれたとリムルも感謝していますよ」と代わりに囁いておく。
「ですが、リムル様を試すような真似、許されるべきではありません」
「まさか。リムルはその程度のこと気にしませんよ」
「それはそうですが」
まだ収まりきらない暗黒の妖気を漏らすディアブロの目の前で、リムルが直々に名付けを行なっていく。
原初の黄(ジョーヌ)には「カレラ」。
原初の白(ブラン)には「テスタロッサ」。
また、それぞれ検察庁トップにカレラ、外交武官にテスタロッサが任命される運びとなった。
特に検察庁と警察は緊密な連携が必要とされる業務だ。
警察トップのシズとは後ほど顔合わせが行われることとなった。
まぁ、結局のところ最高裁判事たる俺の千里眼(超越)の前ではあらゆる推定・推理は無意味な物なのだが。
それ以前の段階でできる限り齟齬を少なくするという意味で、彼らの有能さは必要とされているはずだ。
また、外交武官たるテスタロッサの仕事もかなりの重要事項だ。
現在テンペストは無事評議会で最大派閥となっている。
俺に政治的なことは分からないが──というかやる気を出せば権能でその辺りなんてどうとでもなるがわかる努力もしていないという意味で──テンペストの国際間の地位は重たい意味を持つ。
最大派閥ということは、すなわち各国のバランサー役としての責が負わせられるということだ。
最近のリムルの主な業務もこれであり、地方の不満の調整に大忙しなのだ。
今のところ細かい作業は幹部陣が手分けして処理しているが、今後は外交武官たるテスタロッサに任せられることになるだろう。
並の優秀さでは務まらない重要任務だが、多くの白系統の悪魔をまとめ上げるテスタロッサならば問題なかろう。
満足げなリムルの下、新たな幹部の誕生に今夜は豪華な夕食会が行われることに決まったのだった。