転生したら創世滅亡輪廻の神だった件   作:ラムセス_

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皇帝ルドラの歓待

 

 男の名はルドラ・ナム・ウル・ナスカ。

 この東の帝国を治める、輝かしき皇帝である。

 

 ルドラはかつて全知全能の力を失ったヴェルダナーヴァを友とし、魔王ギィ・クリムゾンをライバルとして夢を追いかけていた。

 

 その夢とは、世界平和の実現。

 人間が平和に暮らせる世界を作るため、魔王ギィを仲間にすべく世界の趨勢をかけたゲームを行っていた。

 

 しかし夢は脆いもので。

 友ヴェルダナーヴァと妹のルシアを失ってはや二十余年。

 人間に希望と夢を抱いて世界平和を謳ったと言うのに、それが人間の醜さで失われる日々を噛み締めるのみだった。

 

 千年周期に訪れる世の終わりはもうすぐそこにきている。

 ヴェルダナーヴァのことも、その影響で人心が乱れているとヴェルグリンドには慰めの言葉をもらっていた。

 

 それでも夢がいかに夢でしかないのかと、ルドラは空虚な日々にふと突きつけられる毎日であった。

 

 鬱々と皇帝としての責務をこなし、それでも夢を諦めきれず邁進する。

 たとえそれが千年先であろうと二千年先であろうと、諦めはしないと決意して。

 

 

 

 

 そんな、ある年のことだ。

 帝国の経済が異常に上向き出したのは。

 

 人々は明るく、購買は激増。街は活気付き、行き交う人々の表情は明るい。

 飢えて死ぬ者も随分と少なくなり、国庫は過去類を見ないほど潤った。

 

 しかし、その景気に理由がないのが問題だった。

 戦争による特需も災厄の討伐も無く、ただただここ数年で不自然に上向いていく金回り。

 

 それをはじめに疑問視したのは帝国の財務官たちだった。

 ルドラもその異常さに疑問を抱き、ヴェルグリンドに相談することとした。

 

 調査は皇帝の命のもと迅速に行われた。

 その結果、どうも町でユニーク、あるいはルドラがヴェルダナーヴァから授けられたのと同じ、究極能力(アルティメットスキル)級のスキルが使用されていることが確実視されるとの報告が出た。

 

 つまり、この帝都にルドラと同等の力を持つ超級の実力者がいると言うことだ。

 それは看過できないと同時に、この能力の持ち主を帝国へと引き込むまたとないチャンスでもあった。

 

 丁重にもてなすように命じてそのスキルの持ち主の到着を待っていると。

 

「ルドラ!!!」

 

 バタン!と慌ただしく扉を開け放ち、妻たる竜種ヴェルグリンドが玉座の間に駆け込んできた。

 両膝をすっかり砂で汚れさせて、顔色を土気色に青ざめさせた尋常でない姿で。

 

 これにはルドラも驚愕して、己の妻の肩を抱いた。

 

「どういうことだ!ヴェルグリンド、何があった!」

「件のスキルの持ち主はアルジュナ様よ!破滅の神!千年周期の滅びそのもの!手を出すのは危険だわ!」

「………、なんだと?」

 

 思わず聞き返して、ルドラは眉間に皺を隠した。

 

 アルジュナとは。

 はるか西のエルフに治められた超魔導大国ソーマでは一般的な神だ。

 同時に、種族は人間がほとんどである帝国ではほとんど認知度のない謎の多い神である。

 

 それは千年周期の滅びに対する種族の認識の違いが原因だ。

 

 千年周期で、ありとあらゆるものが一瞬にして滅び去る終末。終わり。痛みなき一瞬の死と再生。

 帝国では御伽話のように語られているものの、長命なハイエルフはそれを己のものとして記憶して、一度の生の内幾度もそれに晒されている。

 

 だからこそソーマではアルジュナ神は絶対的な神として恐れられるのだ。

 

 そんな神がなぜこの国に。

 どうして全能神が人間の国で金回りの操作など小さなことをやっているのか。

 様々な可能性が浮かんでは消え、脳内で目まぐるしく交差する。

 

 もしかの全能神と敵対することになれば、この国は終わりだ。

 闘いにすらならず蟻のように潰されるだけ。

 青ざめた顔で妻ヴェルグリンドを見れば、彼女もようやく落ち着いたらしく息をついて服の汚れを払っていた。

 

「安心して、ルドラ。かの神は帝国に敵対するつもりも、世を乱すつもりもないそうよ。それは本人の口から確認済み」

「……そうか」

「けれどかの神の慈悲がいつまで続くかはわからないわ。一千年の終わりはもうすぐそこまできているのだもの。不出来として次に消されるものの選定をされていても不思議じゃない」

 

 千年ごとに来る滅びには不明な点が多い。

 なぜ滅ぼされるのか、何故そのままの姿で再創造されるのか。

 

 しかし、一部の頂点に立つ能力者の力によって解析された結果、「滅ぼされた一部の存在はそれっきり再創造されず、歴史から消し去られる」ことが分かっている。

 

 千年ごとに誰からも何からも忘れ去られ、消え去ってしまうものが相当数あるという厳然たる事実のみがそこにあるのだ。

 

「ひとまず話を聞こう。もし一時の気まぐれだとしても、帝国に経済的な加護をもたらす存在を無碍にはできん」

「ええ。そうねルドラ。礼を失するわけにはいかないわ」

 

 ルドラは頷き、覚悟を決めた。

 

 昔とはルドラ自身随分変わってしまった。

 口調も落ち着いたものになったし、一人称だって子供っぽかったあの頃とは違う。

 

 それでも、魂が擦り切れようと世界平和という野望だけは変わらず持ち続けるのだと、ルドラはそう決意していた。

 

 

 

 

 

「ようこそ、良くぞ参ってくれた。滅びの神、至高神アルジュナよ。余こそがこの国の皇帝、ルドラ・ナム・ウル・ナスカである」

 

 セットアップした客室にて、腹を括ったルドラは客人を歓待した。

 先に部屋で待ち、立ち上がって迎え入れ、上座に案内する。

 上位の国を相手にするこの辺りでは一般的な作法だ。

 この地域の外交儀礼をどこまで神が理解しているかは知らないが、少しでもやれることはやるべきだろう。

 

 ゆっくりと扉から入室してきた神は、やはり知識の通り底が知れない存在であった。

 

 長い角、浅黒い肌、黒い髪は滅びを映す。

 金の装飾と青い布が交差し神聖さを醸し出す。

 長い竜の尾がゆったりと揺れ、彼が人間ではないのだということを示していた。

 

 目を開きこちらを睥睨する、ただそれだけで全身が鉛にでも変わったかのように動かなくなる。

 魔素量は終わりすら見えない、ただただ孔のように黒々とどこまでも渦巻いている。

 それらは機械的に歯車の如く噛み合い、なんらかの力が今も稼働していることが確認できた。

 それは間違いなく、何万何億という夥しい数の究極能力(アルティメットスキル)

 

 創造神たる所以の、全能としか呼べぬ恐るべき力であった。

 

 世界を滅ぼすことができると言われたら、それはその通りだろうとルドラは納得した。

 

 口が渇く。冷や汗が背筋を流れる。

 緊張に思わず息を呑んだが、そのようなルドラの様子に全能神は気付いた様子もなかった。

 

「これはご丁寧にありがとうございます。皇帝ルドラよ。私はアルジュナ。この国に住んで3年になります。住みやすい、良い国ですね」

「………、っお褒めに預かり光栄だ。せっかくきてもらったのだ、貴殿のためにこの国一番の海鮮料理を用意しておいた。どうだろうか、少し一緒に味わわないか?」

 

 そう慎重に言葉を選んで問い掛ければ、ぱあっと神の表情に喜色が浮かんだ。

 

「一番と言うと、南の魚市場にある王宮御用達の名店から取り寄せたエビやカニを使ったものですね!美味の極みだと商人として噂は聞いていましたよ」

「そうだ。ホタテのすり身をソースに仕立てて焼き上げた王類エビのムニエルは余も大好物でな」

「素晴らしい!是非ともご一緒させてください」

 

 ひとまず食事で釣るのはヴェルダナーヴァにも効いた最高の手だ。

 神を相手するには一番効く、というルドラの経験則が生きた形だ。

 

 ちなみに天使には論理的な話し合いと利益供与、そしてヴェルダナーヴァとの土産話。

 悪魔には全力の死合が一番効く。

 

 隣で正装のヴェルグリンドがハラハラとことの成り行きを見守っている。

 

「ああ、そうだ。忘れていましたが」

 

 アルジュナ神がふと顔を上げて微笑んだ。

 止める間もなくするりと手を振れば、なんらかのスキルが帝国中を覆ったことが感覚で分かった。

 

「加護です。この国には世話になりましたから。これで永劫、この国において流行病で壊滅的被害が出ることはないでしょう」

「っ!」

「通常の病はまぁポツポツ出るでしょうが、そこは医者の仕事を奪うのもなんですので」

「あ、ああ。なんと、実にありがたい!」

 

 こともなげに言うが、それこそ国の運営において絶大な利益となる加護だ。

 病はあらゆる生産活動を停滞させ、人命を奪い、国力を低下させる。

 外傷と異なり魔法による治療も難しいとなれば、これは天啓とも呼んで良い加護だろう。

 

 ヴェルダナーヴァいわく。

 

 創世神アルジュナは穏やかで良い神だと、千年周期の滅びも世界を想ってのことだとルドラは聞いていた。

 きっとそれに間違いはないのだろう。

 

 ルドラは頷き、精一杯緊張を隠して神の歓待を続けていく。

 美味しいはずなのにまるで味がわからない食事会、宴の舞、急遽開いた音楽祭を終えて。

 

 上機嫌のアルジュナ神を帰すまで一瞬の気も抜けぬ時を過ごしたのであった。

 

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