行動指針は、スリルと退屈の打破。
面白そうなことは片っ端から首を突っ込んでいく所存。
退屈したら死ぬと思っている。
デュエルアカデミア 大広間
「デュエルディスクとDPカードを配布するので、名前を呼ばれた人は取りに来てくださーい!」
万丈目とファーストコンタクトを試みて秒でシカトされた俺は、先生を先頭にドラクエ行進で移動。そしてアニメでは絶対に観たこと無かったと断言出来る大広間に来ていた。イメージとしては、バスケットのゴールも校長が長話をするステージも無い体育館と言ったところだろうか。
視界にチラチラと映る青眼の白龍の存在が、ここは絶対に海馬瀬人のデュエルアカデミアだと主張して来ているのが少し気になる。
『ねえ離人くん。DPカードと言うのは何なのかしら?』
「分かりやすく言うならば学園専用の通貨を記録するサイフだ」
『学園アリス』と言うアニメでも、放送局が教育の名を冠していた為か日本円の概念をぼかして『ラビット』と呼んでいた。それに近いのだろう。
もう少し伝わりやすくするなら『ペリカ』と呼んでも良いが……それだとちょっと負の側面が強すぎる。
「デュエルに勝つとポイントが手に入るし、寮ごとの格差で1日一回ポイントが支給される。後はテストの点数とか、教師が個人的に点数を与えることもあるらしい」
『そんな制度があったのね。
ところで、最初の「デュエルに勝ったら貰える」って言うのは何?
よく分からないから説明して貰えるかしら?』
デュエルに勝ったらポイントが貰える。
これに疑問や詳しい説明を求めたがるのは無理も無い。
なにせ、生徒同士で勝手にデュエルしてればポイントが増えると言うなら、事前に打ち合わせしてどちらか一方が負け続けてれば勝手にポイント……つまり金が増えていくことになるからだ。
「デュエルに勝ったら貰えると言うのは、DPカードを持つ生徒同士がデュエルアカデミア内で勝敗の付くデュエルをすることを意味する。
勝った方はポイントが増えるわけだが……負けた方は勝者が手に入れたポイント分がそのまま持ち点から引かれるわけだ」
『ふーん。勝者が手に入れたポイント分引かれると言うことは、形式的にはあくまでも学校が管理するサーバーがDPを分配して回収も行っているのね……』
「そうだな。
デュエルアカデミアに存在するDPは、一点の漏れも無く全てどの生徒が何点所持しているのか記録されている。
だから生徒がルールの穴を突いてポイントを増やすことは難しいし、出来たところで不正なポイントなんてすぐに抹消されるというわけだ」
ハイテクだのご都合主義だのと笑うことなかれ。
デュエルアカデミアのオーナーは、あの『海馬瀬人』だ。科学で冥府への門を開いたような男が、原理的にはたのしいさんすうでしか無い演算システムを作るくらいのことが出来ないわけがない。
「オベリスクブルー、白夜離人くん。ディスクとDAを取りに来てくださいー」
「おっと……!」
思ってたよりもずっと早くお呼びが掛かったな。
「パラライカ〜パラライカ〜♪」
「おいバカ止めろ」
山も無く谷も無くデュエルディスクとDPカードを受け取り、オベリスク特典で最初から5000DPが入っているのを確認したので取り敢えず購買部に来てみたんだが。
なんとこのデュエルアカデミアの購買部、普通に漫画が売っていた。
それを見つけるや否やこの
「まさかこんな面白みも常識の概念も棄て去っていそうな絶海の孤島に建設された学園にりぼんが置いてあるなんて……しばらくお別れだと思っていたから嬉しい」
「俺とお別れすれば絶版になるまで一緒にいられるぞ」
「嫌よそんなの。私は貴方無しじゃ生きられないカラダにされてしまったんだもの。
あの日の夜にあれだけ情熱的に誓いあったのを忘れてしまったの、酷い人……でも好きよ」
「生命を取るか蛇蝎のごとく嫌う物と契約するかの二択を選択するんだ。情も熱も上がるというものだ。ついでに我が身の哀れさに涙が出る」
「ふふふ……離人くんはどちらか一方を取ったけれど、私は図らずもどちらも手に入れられたわ。
地球誕生の瞬間からずっと封印を耐えてきた私への、神様からのご褒美なのかしらね」
「受けた地獄の割にご褒美ショボいっすね。
いや、原因の半分は俺なんだが」
「そうね。貴方のせいで私はしなくても済んだ辛い思いを沢山したわ。
だから、その埋め合わせくらいしてくれるわよね。マスター?」
にっこりと笑って差し出してくるのは、少女漫画の三代誌。りぼん・なかよし・ちゃお。
「この破滅竜は、惑星誕生から人類史2004年までの封印による孤独と拘束とその他諸々の責め苦を漫画三冊で埋められるらしい。
安く済んで羨ましい限りだね」
渡された三冊の
アカデミアに入学したことで毎月買わされていた分の雑費が減ると思ってたんだがな。
今後の俺の学生生活は、毎月ごとに2000DP弱の出費に追われるらしい。小遣いの半分近くが雑誌に消えるのは、どう考えても頭が悪いな……やれやれ。
「…………どうでもいいが、漫画が読みたいなら単行本を買ったらどうなんだ? こんな将来燃えるゴミになるものを月1で買う意味が分からない」
「分かってないわねマスター。
月刊誌の魅力は掲載されている漫画だけじゃないのよ。
その雑誌ごとのターゲット層に合ったファッションやオモチャに有名人とかの情報が載ってるし、楽しい付録が付いてるわ。あと単行本では見れないカラーの表紙ね。そうよ、表紙。雑誌には表紙があるの。単行本では絶対に見れない好きな漫画のキャラクターが一枚の表紙に集合しているわ。これを雑誌以外で手に入れようとするとかえって出費がかさむのよ。あ、それと掲載順を載せている目次のページ。これも雑誌ならではの魅力よ。漫画家さんのコメントが載っててーー」
「もういい分かった落ち着け! ガンドラが月刊誌と単行本を比較した際の魅力語りするところなんて見たくなかった」
「そもそも私は一度だってこの大切な子たちを捨てたことなんてないわ。だって」
「オマエが万丈目か!!」
「ん?」
「え?」
何かデカい声が聞こえた。
怒鳴るとかではなく、うっかり動画のボリュームをMAXで再生したかのような素で音量がデカい声。
声の方を見ると、万丈目に声を掛けているオシリスレッドの二人組が見えた。
「デュエル雑誌みてたぜ! ジュニア大会何度も優勝してる記事!!」
「ちょっとアニキ。ちょっと声が大きいよ。興奮し過ぎ。
それに名前くらい名乗りなよ」
「あ、悪い翔。
オレ、遊城十代! よろしく。
でさ、万丈目。いつかデュエルしたいと思ってたんだ。
ジュニア大会で活躍していた
なんという偶然か。あのクソデカボイスで喋っているのが遊城十代か!
「これは面白い。ちょっとちょっかい掛けに行こう!」
「え、ちょっかい?
って、ちょっと待ってよ離人くん(精霊化する)」
あ、その前に支払い済ませるか。ぺいぺいっと。
《ギャース!!!!》(青眼の白龍ボイス)
「ふざけるな!!」
突然、万丈目が大声で怒鳴った。
周りの奴らも何事かと視線を集める。
「このオレの『
まあ、万丈目じゃないがハネクリボーでどうやって
「人の大事なカードをクズ扱いすんなよ!!」
それまでナチュラルに声量が大きかっただけの十代も、眉間に皺を寄せて怒声を上げた。
そして……。
『クリ〜』
バカにされておこなハネクリボーも、半透明な状態で現れた。
(!?
な、なんだ。今一瞬……!)
「それに、コイツは特例なんだぜ。
なんたって精霊が宿ってんだからな!!」
「ーー!!!!」
ドヤ顔の十代と驚愕の万丈目。そして呆れたツラの翔。
三者三様の様子がまさに好機。
首を突っ込むならここしかない。転生系デュエリストが訳知り顔でい〜れーてーするチャンス!
「よう万丈目くん。そして遊城十代くん。
いま精霊の話してた〜? 実は俺も精霊が宿るカード持ってるんだぜ!」
十代に負けじとドヤ顔でカードを持ちながら参加していく。
持っているのは当然、『破滅竜ガンドラX』。
「ーー!? き、キサマはさっきの……白夜離人!
それに、そのカードは……伝説のデュエリストキング武藤遊戯の切り札の一つ、ガンドラだと!?」
「そうそう。俺たーちトモダーチ。精霊、イッショイッショ!」
(ほら、ほら……ガンドラ! 万丈目と十代に視えるようにして! ちゃんとイラスト通りの姿して!)
『…………もう、都合のいい時ばっかり頼ってくるなんて。酷い人……♡』
ハネクリボーが十代の頭らへんに生えてきたように、破滅竜ガンドラXは俺の背後に威厳と迫力大放出で現れてついでに咆哮まで上げる。右手にカード。左手に三冊の少女漫画雑誌。
フフッ。良い演出だ。あとで雑誌の全員サービスの付録買ってあげちゃう。
「ば……馬鹿な」
「ほらーアニキ。万丈目くんが引いてるよ……。
あと……そこのオベリスクブルーの人はどちらさま?」
「やあ丸藤翔くん。俺は今年オベリスクブルーに特別編入したなんか天才っぽい雰囲気コンビの一人、白夜離人くんだ。
因みにもう一人は万丈目くんだな」
「そ、そうなんだ。
って、ボク自己紹介したっけ?」
「していないな。だが俺はなんでも知っている。何故なら精霊が宿るカードを持っているからだ!」
もちろん、精霊付きカードにそんな力は無い。
「へえ〜離人って言うのか。
ガンドラもめちゃくちゃカッコイイぜ!」
「ありがとう十代くん。キミのハネクリボーも頼りがいのあるチカラをしている!」
「へへっ! サンキュー離人」
「さてさて、こうして会えたのも何かの縁だ。
せっかくだから交流を深めるべく四人でお茶でもしようじゃないか」
「な、何を勝手なことを言っているんだキサマ……!」
「まあまあ良いじゃないか自分だけが選ばれし者だと思っていた万丈目くんよ! デュエルって1人じゃ出来ないんだぜ?」
逃さないぜ万丈目。俺はこの世界に騒動とスリルと娯楽を求めてやって来たんだ。面白そうなことは全て首を突っ込んでいく。
アニメでハジケキャラしてた万丈目準がシリアスな立ち振舞いしているなんてもう、それだけでオモシロ案件だからな。
多少予定が違ったが問題なんか何も無い。俺はこの漫画版遊戯王GX世界で、エンジョイ勢として生を全うしていくまでだ。
レッツパーリィ。
「さあ、取り敢えず食堂にでも行って互いにデュエル談義に花でも咲かせようじゃないか!」
「へえぇ~万丈目以外にもいるんじゃん〜!! 精霊使い!」
「ん?」
甲高い声がした。アニメ声と言う方が伝わりやすいだろうか。
男四人が雁首揃えて声のした方を向く。上だ。エリック。
「よっと」
同時に何かが飛び降りて来た。太ももとピンクのレースの下着が惜しげも晒されて……。
「ぶぎやっ!?」
翔の顔面に着地した。
ひでぇ。
「万丈目にぃ〜えっとぉ、誰だっけぇ?」
翔の顔面から軽やかに降り立って、煽るような笑みで俺達三人を見比べてくる声の主。
ピンク髪のツインテールに、八重歯、童顔。低身長。
あとイメクラとしか言いようのないアカデミアの制服で見てもはっきり分かるまな板…………と。
「お前こそ誰だよ。いきなり現れて」
友達の顔面を踏みつけにされた十代が、訝しむような声で反応する。
「えぇ〜何その顔〜怒ってる? ねえ、もしかして怒ってるぅ〜?? きゃ〜〜♡」
「な、何なんだこのわけのわからんガキは……?」
万丈目が嫌悪感と戸惑いを同時に零した。わけのわからんは同感だ。
あとイチイチ煽るように顔覗き込んでるのはなんなんだ。
「あー……そこの友達が殆どいなさそうなキミ。
キミも俺達と一緒に遊びたいのかな?」
「うんっ! 学校なんてゲロつまんなそーだったけど、ちょっとは楽しそーじゃん。
精霊持ちが三人もいるなんてさぁ〜♡」
「そうかそうか。
それじゃあ、キミのことはなんて呼べば良いのかな?」
「そんなに知りたい〜? んもう仕方ないな〜じゃあ教えてあげよっかな」
そう口にすると、胸元から1枚のカードを取り出して誇示するようの表情で口元に添え……。
「アタシはルナ。
それからアタシの精霊のぉ〜」
『……………………!!』
喚ばれた精霊がルナの背後に姿を表す。
黒く、禍く、甲殻を纏う蜘蛛のような姿。
その名は……。
「『トラゴエディア』でぇ〜す。マジ可愛いっしょ♡」
ああ、どうやら俺の願いは入学初日で完遂されるらしい。
本当に……。
「とことん、思ってたのと違うな……!(歓喜)」
ピンク髪、八重歯、童顔、低身長、ちっぱい。メスガキ。
好きなもの。人を煽ること。
精霊 トラゴエディア