…。
…頭が痛い…
…気分も悪い…
…ここは…?
*悪魔の館―東棟ドミニクの館―
…通称:逆光の館…
「良かった、目が覚めたのね。」
懐かしく感じる声に身体が反応する。
(ガバッ)「ドミニク様!!っっ…!」
頭と腹と脇腹がギリギリと痛み、咄嗟に抑えて左を見る。
夫人がカップに口を当ててまま、
「ふふっ、元気ですね。でもまだ動き回らないほうがいいかと。」
夫人はそう言ってカップをおろす。
(なぜ私はまたベッドに…?)
「―とでも考えてるのだろうけど、」
そう言って彼女はまた口にカップを当てて、小さく啜る。
―――、一年……
ボソッとつぶやく。
「……え?」思わず声が漏れる。
カップを置き、こちらに直ってドミニク様が改めて口を開き、
「一年よ、あなたが寝てたのは。・・・長かったですね。」
前回とは少しわけが違いますので…
そう続けて席を立ち、私の方へ足早に近づく。
カンカンと鉄のような無機質な音が響く。
「どうして私は一年も眠っていたのですか」
そう尋ねる前に夫人が口を開いた。
「あなたはあの時何が起こったのかを覚えていますか?」
「一年前に起きたこと…と申しますと、…ドミニク様と歩き、炎の魔法を見せていただいたところから先は…。」
覚えてません。
…記憶からきれいに抜けている。
ドミニク様は優しく微笑み、
―――そう…、覚えてないのですね。
―で、あれば。
(…?)
「こういったことは主人の方が得意なのですが、どうか不慣れを許し下さい。簡単な検査だと思ってくだされば大丈夫です。」
…正直何の話をされているのか分からない。
一呼吸置いた後に夫人が続ける。
「一度目を閉じてください。」
夫人の指示に従い、目を閉じる。
ふわっ
わずかに風がしたと思ったら、再び夫人の声が私に目を開けるように告げる。
目を開くとそこには大量の刃が私に向かって並んでいる。
あと少し身動きが大きければ白銀の剣が鼻の先を切っていただろう。
「ドミニク様!? こっこれは…!?」
叫び声をあげて夫人に助けを求める。
瞬く間に刃が消えると、
「怖がらせてしまいましたね、ごめんなさい。確認しなければいけないことがあったので、やむを得ず。」
夫人がそう告げると私の横に立ち、続ける。
「結論から話しますが、あなたは2つの…いえ、2人の異なる人格を持っています。お2人それぞれ異なる仕事をされていたようですね。ここでは判りやすいように〈表〉と〈裏〉分けましょう。表の顔では西シュヴィルツの薬師として生きていたようですが、
裏の顔、2人目の人格では、東西の大陸でも悪名高い暗殺組織≪アシミオ≫の一員でした。毒や刃物を使用し、大変優れた暗殺者だったそうですね。」
頭の痛みが強まり、喉裏にヒヤリといやな感触と気持ちの悪い汗が額を伝う。
記憶にないはずなのに、どこか覚えのある…
私は確かにその話を知っている気がする…。
「あの日、あなたはこの館に向かっていたある人物の暗殺を命じられていましたが、就いていた護衛に気付かれ、…この後は説明せずとも良いですね。」
頭の血管が悲鳴を上げている…痛い、張り裂けそうだ。
―――、少し
そう言って夫人は私の額に手を伸ばし、やさしく撫でる。呪文のような言葉を唱えていると、頭の痛みが引いていった。
「その頭痛は、身体と脳に残っている裏の人格の残滓によるものです。あなたが目を覚ましたことを感じ、その力を増幅させようとしたのでしょう。そのままあなたが屈すれば身体を乗っ取られていたかもしれません。」
「…そのようなことが可能なのですか?」
私の中の第2の人格が身体を乗っ取ろうとしていたとは…
ほぼあり得ないことですが、と言い、夫人が続ける。
「一年前、あなたをこの館に招いた際に主人は速やかに〈
やはり魔王夫妻はとてつもないのだ!魂の分離など聞いたことがないぞ…!
「そのようなことが可能なのですか!!」
「彼であれば可能です。」
夫人は微笑み、今度は私の頬を撫でる。
「彼によると、今のあなたの精神はとても不安定だと。少しすればあなたも本来のあなたを取り戻せます。」
どうやら一度目の施術後から私自身の記憶が混濁しているため、話し方や表情がまとまってなかったという。
さらに目覚めた後頭を打ったせいで、人格裂壊が加速。
施術後しばらく時間を置かないといけなかったそうだ。
…ところで、
「私の別の人格はどちらに…?」
そう尋ねると夫人は少し目線をずらし、
「別に隔離してあります。」
簡単には抜け出せないところへ――と。
少し場に沈黙が流れ、私は夫人を見つめる。
「話は変わりますが」
私の方に直り夫人は続けた。
「はい、ドミニク様」
「あなた…いえ、タンジェロ・バチェス。
…私に仕えませんか?」
「え、え?…仕える!?い、良いのですか…?」
「ええ、あなたに任せたいのです。」
「必ず!必ずやドミニク様のご期待に応えられるように、私、精一杯お勤め致します!!」
トントン拍子に話が進み、グリム様が戻られた後―というよりかはすぐに―私はドミニク様の正式な侍者となった。おそらく私にはそれ以外の道はなく必然の選択であったのかもしれないが、後悔はしていない。
私は、此の御二方に就いてゆくことを心に決めたのだ。
第一章 -終-
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*悪魔の館―
…特定指定犯罪組織及び組織犯罪共謀に於ける罪
罪状:殺人及び殺人未遂(暗殺未遂),指定毒物所持もとい薬品の悪用等
個体番号07,タンジェロ・バチェス,♂,32歳
刑:
※隔離した魂のみ
概要:
世暦1741年7月16日、西大陸
世暦1747年9月2日、ビアトー町立学校へ入学。フラウス6歳。
世暦1752年8月8日、家族と東大陸のサント・シュヴィルデ王国モンド州の郊外に移住。同年9月11日、モンド州立第一学園に編入。11月20日に国立
世暦1755年3月8日、同級生のリタ・コルトヒア・モイツェンと交際開始。フラウス14歳。
世暦1757年5月15日、妹リリゥ・モーテがアシリアを発症、闘病するが同年10月9日に死亡(享年14歳)。フラウス16歳。
世暦1758年8月31日、リタ父による反対を理由に破局。交際期間3年5か月23日。フラウス17歳。
世暦1759年7月25日、モンド州立第一学園卒業。父の薬局で兄とともに薬師として働く。フラウス18歳。
世暦1760年6月3日、西大陸全土で【
世暦1761年4月9日、兄と薬局を開業する。フラウス19歳。
世暦1762年5月2日、当時狩猟組合と称していたアシミオへ入会する。フラウス20歳。
世暦1767年5月6日、組織から複数の仕事を受けていたが同年8月5日に兄ボルド・モーテが事故により左足に重傷を負ったことで兄の介護及び薬局の経営に専念する(依頼を反故にしたことで組織員数名から敵視される)。フラウス26歳。
世暦1768年10月19日、某組織員の画策により兄が殺害される(享年30歳)。その組織員に復讐するが運悪く警備兵に見つかりキータから西大陸東側パヌエ共和国へ逃亡。以降はタンジェロ・バチェスを名乗る。タンジェロ27歳。
世暦1773年8月10日、デヴィニア・ミラ・マリアンヌ卿の暗殺依頼を受注。10月15日組織の援助なしで独りで任務にあたるが失敗。同年11月9日ドミニク様によって入館。11月11日、グリム様による聖霊分解を受ける。タンジェロ32歳。
世暦1774年12月25日、ドミニク様の侍者となる。タンジェロ33歳。
引用:タンジェロ・バチェス(フラウス・モーテ)記録簿
編纂:テリーヌ・ルーシェン
皆様お久しぶりです。
待ってる人はいないでしょうがお待たせしました。
これからはかなり暇ができるはずですので、ちゃんと更新できると思います。
最後にずらりと書いてますがこれをあと云十人分は書くことが決まっておりますのでお楽しみに。
それではごきげんよう。
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