メスガキちゃんを命がけで助けたら右腕がなくなった   作:崖の上のジェントルメン

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19.友人たちとの集まり(2/2)

 

 

……その日は、本当に楽しい1日を過ごすことができた。

 

映画を見終わった後は、ゲーセンへ行ったり、カラオケに行ったりと、とにかく遊び尽くす日だった。

 

大人数でこんなにもはしゃぐことができたのは、とても久しぶりだった。

 

長谷川も最初こそ遠慮していた様子だったけど、倉崎さんや他のメンバーたちが快く受け入れてくれたお陰で、後半の方には笑顔で話す場面も増えていた。

 

そんな彼女のことを、俺は横から微笑ましく眺めていた。

 

そして、実は意外にも、小林さんは浅井くんに気があるらしく、今日はその二人の仲を深めようという作戦も、水面下でされていた。

 

その作戦の立案者は、倉崎さんだった。

 

「みんな、沙穂ちゃんと浅井くんは、なるべく隣同士の席になるようにしてあげてね」

 

倉崎さんにそう耳打ちされた俺たちは、密かに言われたとおりに、小林さんと浅井くんが近くなるように気を遣った。

 

「あ!あ、あの、浅井くん!次、浅井くんが歌う番だけど、えっと、何にする~?」

 

誰にでもぐいぐい行く小林さんが、浅井くんに話しかける時だけは強ばった面持ちで、頬を赤らめているのが目に見えていた。

 

「え?ああ……。いや、俺は別に、歌わなくても……」

 

浅井くんの方も、いつもはお堅くてクールなんだけど、小林さんに話しかけられると緊張するらしく、時々言葉に詰まる場面が見受けられた。

 

「そんなー!せっかくなら、歌ってほしーな~!」

 

「う、わ、分かった。えーと、それじゃあ……」

 

そうして彼が歌ったのは、なんと国歌だった。

 

後から聞いた話だけど、この時浅井くんは「カラオケはみんなが知っている曲じゃないといけない」という先入観があり、いろいろ悩んだ挙げ句に国歌にしたとのこと。

 

そんな浅井くんの不器用な気遣いは露知らず、みんなが「まさかそれをチョイスするの!?」と眼を真ん丸にしていた時、小林さんだけはノリノリで浅井くんと一緒に国歌を歌っていた。

 

「きーみーがーあーよーおーはー……」

 

「ち~よ~にぃー!♪やーちーよーに!♪」

 

太く精悍な声で歌う浅井くんの隣で、小林さんはピースサインを顔の横に置いて「イエイ!」と叫んでいた。

 

それを観て、他のメンバーは声を上げて笑った。

 

おそらく小林さんは、浅井くんのことを気遣って、このように盛り上げてくれたのだろう。そんな配慮がなんとなく観て取れる。

 

非常に対照的な二人だけど、こんな様子を見ていると、なんだかんだ二人はお似合いのような気がしていた。

 

(いいなあ。なんか、青春だなあ)

 

俺は自分の膝をぱちぱちと叩いて、拍手の代わりを贈りながら、そんなことを思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……早いね、もうこんな時間なんだ」

 

倉崎さんはそう言って、スマホで時間を確認していた。

 

現在、夕方の18時。楽しかった1日も、そろそろおしまいの時が迫っていた。

 

「俺、もう帰らないと。帰りの電車に間に合わねえ」

 

「おいおい“浅井軍曹!”まだ撤退は早いんじゃないすかー!?」

 

浅井くんの言葉に、丸岡がいち早く反応した。

 

丸岡はカラオケの時以来、浅井くんのことを「軍曹」と付けて呼ぶようになった。

 

彼曰く、浅井くんの国歌斉唱をする様が、あまりにも「軍人過ぎた」からだそうだ。

 

「そうだよー!まだ遊ぼうよ浅井くーん!」

 

小林さんも名残惜しいらしく、寂しそうな顔で浅井くんを引き留めていた。

 

浅井くんは困った顔で頬を掻きながら、「すまん。でももう、そろそろ時間がない」と、そう答えていた。

 

「まあまあ、みんな待ってよ。浅井くんの言うとおり、今日はそろそろ解散しよう。今日の夜は凄い大雨になるみたいだから、帰りにくくなる前に帰ろう」

 

ここですかさず、倉崎さんがリーダーシップを取ってみんなを納得させた。

 

なんとなくだけど、倉崎さんってお姉さん感のある人だなって思った。俺のことをいつも気にかけてくれるし、今日の小林さんへの気遣いも上手い。もしかしたら、下に弟や妹がいるのかも知れない。

 

とりあえず、名残惜しくも今日は解散し、各人それぞれの家へ帰ることとなった。

 

「じゃあうち、帰る前にちょっとトイレ行ってくるね~」

 

「あ、ゆずも行っておきます」

 

「俺も行っとくかなー?なあ軍曹!連れションしようぜ連れション!」

 

「このやろ、軍曹言うな」

 

解散前にトイレへ行く流れとなり、ぞろぞろとみんな入っていった。

 

この時、珍しく俺と倉崎さんだけが残るという状況になった。今日、俺たち二人だけになったのは、ここが初めてだった。

 

トイレへ向かう通路の途中にある3人がけのベンチに、俺と倉崎さんは1人分の間を空けて座っていた。

 

「今日は楽しめた?中村くん」

 

彼女からそう問われて、俺はすぐに「うん、楽しかったよ!」と返した。

 

「誘ってくれてありがとう。またこういう機会があったら、是非呼んでほしい!」

 

「ふふふ、うん。是非呼ぶね」

 

彼女はクスクスと笑いながら、そう答えてくれた。

 

ふと辺りを見ると、そこには自販機があった。ちょうど喉が乾いていた俺は、一旦ベンチから立ち上がり、お茶のペットボトルを1本買った。

 

そして、また席に座り、蓋を開けようとした時。

 

「あ、中村くん、私代わりに開けるよ」

 

隣に倉崎さんがやって来て、俺の持っているペットボトルに指をさした。

 

「ああ、いいよ。大丈夫」

 

「でも、片手だと開けにくくない?」

 

「平気平気!これくらいなら……」

 

俺はペットボトルを自分の太ももに挟んで固定し、左手で蓋を回した。

 

プラスチックの蓋は、パキッと音を立てて、開栓することができた。

 

「ほら!」

 

俺は倉崎さんへ、得意気にそう言った。

 

「最近ね、やっとコツを掴めたんだよ」

 

「コツ?」

 

「うん。いつも長谷川に開けてもらってて、めっちゃ申し訳なかったからさ。1人でも開けられるようにって思って、頑張ったんだ!」

 

「ああ、そうなんだね。それは、よかった」

 

倉崎さんは微笑みながら、少しだけ眼を伏せた。

 

「………………」

 

不思議な感覚だった。

 

これは、直感的に感じたもので、何も理屈はないのだけれど……この時、倉崎さんは異様に、“寂しそうに”見えた。

 

口許は緩く上がっていて、眼も細めていて、声色も柔らかい。一見しただけなら「優しく笑っている顔」なんだと思う。

 

なのに、言葉にし難い寂しさが、彼女から放たれているように感じた。寂しいなんて一言も言っていないはずなのに、何故か手に取るように分かった。

 

「………………」

 

この時になって、ようやく俺は、彼女がいつの間にかすぐ隣に座っていることに気がついた。

 

さっきまでは1人分の間を空けていたのに、今はその隙間が詰まっていて、少し肩を揺らしたら、すぐ倉崎さんの肩と触れ合うくらいの距離感だった。

 

「……倉崎、さん?」

 

俺が恐る恐る声をかけると、彼女はこちらへ顔を向けずに、「ねえ、中村くん」と言った。

 

俺はごくりと息を飲んで、「は、はい」と答えた。

 

 

 

「中村くんは、私のこと嫌い?」

 

 

 

「…………え?」

 

「嫌なのかな?私からいろいろ言われるの」

 

「……え、えっと、どういう、こと?」

 

倉崎さんの言葉には、目に見えない刺が生えているように思えた。

 

俺の心臓に、ちくりちくりと、その言葉の刺が当たって、ズキズキと傷んでいた。

 

「私が何かしようとしても、中村くんは……みんな断ってしまうから。ポップコーンのこととか、今のこととか」

 

「………………」

 

「だから、私、邪魔なのかなって」

 

「い、いや、そんなことないよ!全然そんなつもりじゃなくて……」

 

「………………」

 

「俺、みんなに迷惑かけるのが本当に申し訳なくて……!それで、1人でなんとかしようとしてて」

 

「………………」

 

「なんか、ごめん。せっかくの倉崎さんの好意を、無下にしちゃって……」

「………………」

 

倉崎さんは、右手で髪を耳にかけた。そして、音も聞こえないくらいのため息をついた。

 

静かな時間だった。ピンと張り詰めた空気が、俺の全身を覆っていた。

 

奇妙な緊張感に、俺は思わず背筋を伸ばした。

 

倉崎さんの顔には、もう何の表情も浮かんでいなかった。まさしく無の表情で、何も考えていなさそうであり、逆に何かを深く考えこんでいるようでもあった。

 

「……ごめん、中村くん」

 

倉崎さんは、不意に俺へ謝った。そして、すっと眼を閉じた。

 

「私、めんどくさかったよね」

 

「い、いや、そんなこと……」

 

「ちょっと、どうかしてた。上手くいかないから、やきもきしてたの」

 

「上手くいかないから?」

 

「うん」

 

「それって、何が?」

 

「………………」

 

倉崎さんは、俺の質問には答えてくれなかった。ちょうどそのタイミングで、丸岡と浅井くんが帰ってきたから。

 

「ちーっす!丸岡さんじょー!」

 

「この、静かにしろってば。周りの人に迷惑だろ」

 

それに続くようにして、長谷川と小林さんも戻って来た。

 

「ごめーん!二人ともお待たせ~!」

 

「先輩、すみません。遅くなって」

 

そうしてみんな、また集まった。それからしばらく談笑した後に、解散することになった。

 

 

 

「……今日は、楽しかったです。ゆずも混ぜてくれて、ありがとうございました」

 

帰り道の途中で、俺は長谷川から礼を言われた。

 

「すまんなかったな、長谷川。いきなり先輩組の中に入れてしまって」

 

「いえ、みなさん優しい方ばかりでしたので、居心地よかったです」

 

「……そっか、それならよかった」

 

「映画、面白かったですね。ところどころ、ゆず泣きそうになっちゃいました」

 

「………………」

 

「でも、小林先輩が号泣してたのを見て、ちょっと涙引っ込んじゃいました。あの泣きようはびっくりしちゃいますよね。ふふふ」

 

「………………」

 

「……先輩?」

 

「え?」

 

「どうしたんですか?何か、考え事ですか?」

 

「そうだな、考え事っていうか……」

 

「………………」

 

俺は長谷川のことを、じっと見つめた。長谷川はきょとんとしていた。

 

 

『ちょっと、どうかしてた。上手くいかないから、やきもきしてたの』

 

 

(……あれは結局、どういう意味だったんだろう。いや、そもそも倉崎さんは、なんで俺に対してあんな……)

 

「先輩?大丈夫ですか?何か困ったことがありましたか?」

 

「ん?ああ、いや……」

 

俺は長谷川に向かってにこっと笑いながら、「なんでもないよ」と告げた。

 

 

 

 

 

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