メスガキちゃんを命がけで助けたら右腕がなくなった   作:崖の上のジェントルメン

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23.10%の告白

 

 

 

「こ、告白したいって!?あの桃香が!?」

 

夏希ちゃんの声が、喫茶店の中で大きく反響した。

 

その声に驚いて、何人かこちらの方へ振り向く人もいるくらいだった。

 

私は慌てて「ちょ、ちょっと!静かに……!」と声をひそめて夏希ちゃんをおさめた。それを受けた夏希ちゃんは、パッと口に手を当てて、小さく「ご、ごめん」と謝った。

 

放課後の、16時過ぎ。私は友人の夏希ちゃんと沙穂ちゃんの三人で、とある喫茶店へとやって来ていた。

 

丸いテーブルを三人で分け合いながら、雑談に花を咲かせていた。

 

「い、いやでも、マジの話なの?桃香」

 

夏希ちゃんからそう問われて、私はこくりと頷いた。自分でも、今頬が赤くなっていることが分かるくらい、顔が熱かった。

 

「したいと思ってるんだけど、今のままで大丈夫かな……って。だから、二人に相談したいなと」

 

「すごいすごいすごい!え?え?相手は~、やっぱりあの中村くんなのかな!?」

 

異様にテンションの上がっている沙穂ちゃんが、私の顔を覗き込むようにして、そう尋ねてきた。

 

「う、うん、そう……。中村、くん」

 

「きゃーーー!アオハル~~~!」

 

「あ、あの桃香が、そんな顔するなんて……」

 

二人の反応は、対照的だった。

 

眼を爛々と輝かせ、甲高い声で叫ぶ沙穂ちゃんであり、私のあまりに意外な姿を見て眼を真ん丸にする夏希ちゃんだった。

 

「いやー、まさか、は~……。あの“不動の桃山”を動かすのが中村とは思わなかったな……」

 

「え、えっと、桃山って?」

 

「あんたのアダ名。いろんな人があんたに告ってきたけど、全然なびかなかった。それが山みたいに動じないってことで、不動の桃山だとさ」

 

「わ、私……影でそんなこと言われてたんだ」

 

「そりゃそうでしょ。なんせ、入学してから15人にコクられてんだから。桃香、あんたもう少し自分のことを理解した方がいいよ」

 

「うーん、そうなのかな……」

 

「ていうか、桃香はアタシらに何を相談しようっての?あんたが告白したら、どんな男子でも一発KOなんだから、何も心配いらないじゃん」

 

「いや、全然そんなことないよ。むしろ今のままじゃ、フラれちゃうかも知れない……」

 

「ええ!?」

 

「とりあえず、状況をかいつまんで話すね」

 

私は夏希ちゃんと沙穂ちゃんの二人に、私と中村くんの今までの経緯、そして中村くんと長谷川ちゃんの関係について話した。

 

私には、長谷川ちゃんという大きな壁がある。それを知ってもらいたかった。

 

そして伏兵として、最近は牧平さんも絡んできている。それも併せて説明した。

 

「……なるほどねえ」

 

夏希ちゃんは両腕を組んで、眉をしかめながら天井を見上げた。

 

「まあ、聴いた限りだと、その長谷川って子の方が仲良くはありそうかな」

 

「そうだよね……。私もそう思うの」

 

「かと言って、このままうかうかしてんのも怖いところか……。確かに、桃香が悩む理由もわからなくはない……けど!」

 

夏希ちゃんは、キリッとナイフのように鋭い眼差しを私へ送った。それを受けて、私はなんだか怖くなって、背筋をピンっと正した。

 

「桃香、あんたの弱点がひとつだけある」

 

「じゃ、弱点……?」

 

「そう。それは……」

 

「それは……?」

 

夏希ちゃんは私に向かって、びしっ!と人さし指を突き出した。そして、声高らかに叫んだ。

 

 

 

「あんたは、あまりにも“ママ”過ぎる!!!」

 

 

 

「え、えーーーー!?」

 

思わぬ指摘を受けた私は、夏希ちゃんに負けないくらいの叫びを出してしまった。

 

「あのね桃香、あんたが気遣い屋なのは長所だと思うし、あんたなりの優しさだと思う。でもそれだと、ママ過ぎるんだよ」

 

「ど、どういうこと?私のやり方……何か間違ってたかな?」

 

「先回りしていろいろし過ぎると、ただの“優しい人止まり”になんの」

 

「優しい人止まり……」

 

「いい?恋愛はね、相手の懐に入ること。これが大事なの」

 

「懐に入る?それってどうやって……?」

 

「一言で言うなら、甘えること」

 

「!」

 

「あんたは、中村に甘えたことある?中村に何か頼み事をしたことある?」

 

「た、確かにないかも……」

 

「そういうところがないと、相手と対等になんないの。甘えるってことは、こっちの弱みを晒して、オープンにしてる状態。これが相手は安心すんの。『ああ、自分には心を許してくれてるんだな』って、そう思ってくれるから」

 

「う、うう……」

 

「それがなきゃ、いつまで経っても、あんたはママ!お母ちゃん!」

 

「ああっ……!」

 

「都合がいいだけの女!」

 

「うあっ!」

 

「同級生の女の子は、なれない!恋人なんてもっての他ーーー!!」

 

「うわあーーーーーっ!!」

 

 

 

……手厳しい夏希先生のお言葉をいただいた私は、もうすっかりしょげてしまった。

 

中村くんが喜んでくれるだろうと思って、あれやこれやと世話を焼いていたけど、それがまさか逆効果だったなんて……。

 

「いやー、なっちゃんの演説、凄い力こもってたね~!」

 

沙穂ちゃんが小さく拍手を贈ると、夏希ちゃんは難しそうな顔をして「昔、ちょっといろいろあってね」と溢していた。

 

「アタシもわりと面倒見るタイプだったから、桃香とおんなじ状況になったことあってさ。向こうからコクってきたのに、『好きな人できた』つってフラれて……。あー、思い出したら腹立ってきた」

 

夏希ちゃんの額には、青筋がくっきりと浮かんでいた。

 

「そっか、夏希ちゃんも大変だったんだね……」

 

「そうね……。自分も、反省することはあったけどさ。ま、とにかく、アタシがいいたいのはそういうこと。もちろん、あんたが中村にいろいろと世話を焼くのが悪いって言ってるわけじゃない。ただ、やり過ぎるのはよくないって話」

 

「分かった、肝に命じとく……」

 

「ねえねえももちゃん、うちもね、お話聴いてて思ったんだけど~、やっぱり二人きりになる時間って大事だと思うな~」

 

「二人きりか……」

 

「長谷川ちゃんがずっと一緒にいて、なかなか二人きりになれないのは分かるからさ~、どうにかしてそこはデートの約束をしたりとか、二人きりになれる時間を頑張って作るしかないと思うよ~」

 

「いやー、ほんとにそれは沙穂ちゃんの言うとおりなんだけど、二人きりのデートに誘うって時点で、ほら、もう 50%告白してるようなものじゃない?それが私、恥ずかしくて……。それだったら、ちゃんと100%の告白をする方がまだいいかなって……」

 

「ももちゃーん!だからこそいいんだよー!」

 

沙穂ちゃんはふんふん!と鼻息を荒くして、これまた夏希ちゃんのように力説してくれた。

 

「恋愛ってね、小さい告白の積み重ねなんだよ?」

 

「小さい告白の……積み重ね?」

 

「そーそ!いきなり知らない人から100%の告白されても、『え、怖』ってなって終わっちゃうじゃん?それはももちゃんが一番よくわかってると思うよ?」

 

「!た、確かにそうかも……」

 

「ちょーとずつちょっとずつ、10、20、30%の『好き好き♡』を見せることで、相手もこっちを意識してくれる!それがあるから、女の子としてこっちを見てくれるんだよー!」

 

「う、うーん、なるほど……」

 

「大丈夫!ももちゃんはスペシャル可愛いから、きっと中村くんも振り向いてくれるよー!」

 

「そ、そうかな?」

 

「うん!きっときっと、上手くいくー!」

 

そう言って、沙穂ちゃんは私の手を握ってくれた。

 

夏希ちゃんのムチと、沙穂ちゃんのアメを受けて、私はまた……なんとか頑張ってみようかなと、そう自分を奮い立たせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

……翌日の、朝8時頃。

 

その日私は、いつものように学校へと向かっていた。

 

朝の透明な空気を胸いっぱいに吸って、自分の中にあるいろいろなものを浄化していた。

 

(さて、と。どうしたものかなあ)

 

夏希ちゃんと沙穂ちゃんのアドバイスを貰って、早速今日行動に移したいのだけど……未だに、具体的にどう行動すればいいのか分からない。

 

(とりあえず、二人きりのデートに誘ってみるとか、そういうことから始めようかなあ……)

 

そんなことを頭の中で考えながら、学校へとたどり着いた私は、下駄箱で自分の靴を履き替えて、教室へと向かっていた。

 

「ん?」

 

その途中の廊下で、私は中村くんの背中を見つけた。

 

「う、いちち……」

 

彼は昨日、怪我をした左足の膝を、湿布越しに手で擦っていた。

 

そんな姿を見ていると、なんだか胸の奥がそわそわして、気がつくと彼のすぐ近くまで駆けつけていた。

 

「中村くん、足が痛むの?大丈夫?」

 

「ああ、倉崎さん。大丈夫大丈夫、ちょっとぴりってしただけだから」

 

「本当?無理してない?」

 

「うん、大丈夫だいじょ……あ、いててて……」

 

「ああ、ほら。無理しちゃダメだよ」

 

私はその場で屈んで、中村くんの代わりに膝を擦った。

 

なるべく傷を刺激しないよう、優しく優しく……。

 

(はっ!?こ、これって、昨日夏希ちゃんから注意された『ママムーブ』なんじゃ……)

 

我に返った私は、すぐに擦るのを止めて、すっと腰を上げた。

 

中村くんが申し訳なさそうに苦笑しながら、「ごめんね倉崎さん」と言った。

 

「う、うん。そうだよ中村くん。もっと自分の身体を労らないと、ダメだよ?」

 

「は、はい、気を付けます」

 

しゅん……と頭を垂れる中村くんを見て、私はまた胸の奥がそわそわした。

 

「よしよし」って、頭を撫でたくなる衝動にかられてしまった。

 

右手が前に出そうになるのを、左手が必死に食い止めていた。

 

(わ、私って……こんなに構いたがりなんだ)

 

改めて自分の行動を振り返ると、確かに夏希ちゃんが苦言を示すのも分かる。いろいろと世話を焼きすぎてる気がする。

 

(でも……中村くんって、本当になんか、気にかけたくなっちゃうんだよね……)

 

右腕を失くしてしまったというのもあるんだろうけど、どこか中村くんは……母性本能をくすぐる何かを持っているんだと思う。

 

ドジなところもあるけど、ずっと何かに一生懸命で。弱くて悲しいところもあるけど、自分でなんとか頑張ろうとしてて、応援したくなる。

 

ああ、そうだ、応援したくなるんだ。

 

苦しい現実の中を、なにくそ!って踏ん張ってるところが、いじらしくて仕方ないんだ。

 

私が中村くんのことを好きなのも、そういう頑張り屋さんで、一生懸命なところがいいなって思ったから……。そんな人を助けたいなと思ったから……。

 

「………………」

 

「えっと、倉崎……さん?」

 

「え?」

 

「どうしたの?何か考え込んでるようだったけど」

 

「あ、ああ、ううん。何でもないよ」

 

「そう?それならいいんだけど……」

 

「と、とりあえず、教室に向かおうか」

 

「うん、そうだね」

 

そうして私たちは、二人並んで教室まで歩くことにした。

 

「う、やべ、お腹空いちゃった……」

 

「ええ?中村くん、まだ朝の8時だよ?朝ご飯、食べてないの?」

 

「遅刻しそうだったから、いいやと思って……抜いてきちゃった」

 

「もう~、ダメだよ?ちゃんと食べないと」

 

「ははは、長谷川にもそう言われちゃったよ」

 

「……そうだよ、そりゃ心配するよみんな」

 

「と、とりあえず、お昼まで我慢しようかな……。あ、そうだ倉崎さん。うちの学校って、購買あったよね?どんなのが売ってるの?」

 

「えーと、確か焼きそばパンとか、チキンカツパンとか、そういうのだったかな?」

 

「ふむふむ、なるほどね」

 

「もしかして、お弁当ないの?中村くん」

 

「実は俺の両親、遠い親戚のお葬式で、しばらく家にいないんだ」

 

「そうなの?それは大変だね」

 

「まあまあ、こればっかりは仕方ないよ。今は長谷川が家にいてくれてるし、俺もだいぶん助かってるんだ」

 

「………………」

 

その時の私は……いつも以上に、長谷川ちゃんへ嫉妬していた。

 

中村くんから頼りにされていることが、とてつもなく悔しかった。

 

私だって……私だって、中村くんにいろいろしたい。お世話してあげたい。

 

「……あの、中村くん」

 

私がそう声をかけると、中村くんは「うん?」と言って聞き返してきた。

 

「明日からは、私がお弁当……作ってこようか?」

 

「え?お、お弁当……?」

 

「うん」

 

「そ、そんなそんな、いいよ大丈夫だよ。親がいないっていっても一週間くらいだし、それくらいなら全然購買でも……」

 

「ね、お願い。私も中村くんに、何かさせてよ」

 

「で、でも、お弁当って結構大変だし……」

 

「いいの、私は全然いいから」

 

「ほ、ほんとに?なんで倉崎さん、そこまで……」

 

「……なんでって、そんなの」

 

 

──中村くんが好きだから。

 

 

と、そう口走りそうになったのを、舌の上でなんとか塞き止めた。

 

ドキドキと、胸が高鳴ってきた。全身がぽっぽっと火照ってきて、そわそわしてしまう。

 

「………………」

 

私は思わず、その場に足を止めてしまった。スカートの裾を、両手できゅっと握りしめた。

 

中村くんも、私に合わせて立ち止まってくれた。そして、心配そうにこちらの方を見つめていた。

 

「……倉崎、さん?」

 

「……お弁当は」

 

「え?」

 

「お弁当は、どんなのがいい?」

 

「そ、そんな、本当にいいの?」

 

「うん」

 

「あ、あれかな?何か……その、材料が余っちゃってるとかかな?」

 

「………………」

 

「それとも、えーと……何か、つまり……」

 

「……理由が」

 

「え?」

 

 

 

「理由がないと、ダメ……なの?」

 

 

 

「………………」

 

「材料が余ってるとか、そういう理由がないと……中村くんにお弁当、作っちゃいけないの?」

 

「い、いやいやいや!そ、そんなこと!ない、よ!」

 

「………………」

 

「た、ただその、ちょ、ちょっとびっくりしちゃったかなって、そ、それくらい……かな?」

 

「………………」

 

私は中村くんからそう言われて、ようやく……頭がクールダウンしてきた。

 

「……そ、そうだよね、びっくりしちゃうよね。ごめんね、中村くん……強引な感じになっちゃって」

 

「いやいやいや!全然!謝らないで!嬉しいの方が大きいからさ!はははは!」

 

「………………」

 

「………………」

 

それから私たちは、何も話すことができないまま、教室へと歩いていた。

 

でも、いつも以上に……彼が私のことを意識してくれていることが、手に取るように分かった。

 

 

 

『恋愛ってね、小さい告白の積み重ねなんだよ?』

 

 

 

沙穂ちゃんの言葉が、胸の奥に木霊していた。

 

あれは、私なりの……10%の告白だった。

 

好きだっていいたいところを、絞りに絞った形。でも、本当は今すぐに、100%を中村くんにぶつけたい。

 

(好き。好きだよ、中村くん……)

 

頭の中で、何度も彼に告白した。

 

中村くん、私、頑張るから。

 

いつか100%を、あなたに伝えるから。

 

だから、だからそれまで……。

 

 

 

 

誰のものにも、ならないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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