徹夜続きでおかしくなった先生、窓を開け放って生徒への愛を叫ぶ。 作:竜田揚げ丸
なので色々とアレな部分はあると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。
この作品は、Pixiv様にも投稿させていただいています。
……………頭が回らない。視界が霞む。
そもそも、なんで私はこんなことをしているのだろうか。
いや、答えはわかってる。すべては生徒たちの為だ。この書類も、あの書類も、全部全部生徒たちの為だ。あの子達の為なら、幾度の夜を眠らずに超えてすべて処理するなんて容易いことだ。
自分の否定的な心はゲマトリアたちの姿を取ってここまでやる必要がどこにあると囁いてくることがあるが、必要とかではなく私がこうしたいからやっているのだと私は脳内で負けじと言い返す。
だけど、私はふとしたタイミングで思った。思ってしまった。
「思いの丈くらいは全力で吐き出してもいいよね…?」
不平や不満はないけど、彼女達に対して好意だけは人一倍ある。であれば、それを叫んでしまっても誰にも迷惑はかからないだろう、と。
そう思った瞬間、私の身体は無言で窓を開けていた。そして、数時間ぶりの新鮮な空気を思いっきり吸い込むと。
「……ユウカぁぁぁぁぁあぁぁ! いつもありがとぉぉぉぉぉぉおぉぉ!」
ふと脳に浮かんだ生徒の名前と感謝を思いっきり叫んでいた。それはもう、キヴォトスの外まで聞こえるように全力で。あぁ、もうこうなってはダメだ。流れに身を任せよう。
「至らない私をいつも支えてくれてありがとねぇぇぇえぇぇ! いつも助かってるよぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ! 厳しいようで優しいところが大好きだぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!」
……まずい。思ったよりも気持ちがいいかもしれない。私の精神と肉体にはもはや理性と言う名のブレーキは利かず、更に脳裏に浮かんだ生徒の名前を思いっきり叫んでいたのであった。それもノリノリで。
「ヒナぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! いつもお疲れさまぁぁぁあぁぁ! 責任感が強くて真面目な君が大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁ! でもたまにはしっかり休んでねぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇ!」
……あ、これ、すごくいい。なんというか、心の中の何かが溶けていくようだ。日頃溜まっている何かが、声と一緒に吹き飛んでいく。けれど、まだまだ足りない。睡眠が足りていない頭で、またも浮かんだ顔に向けて思いっきり叫ぶ。
「シロコぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ! いつも頑張ってるねぇぇぇえぇぇぇ! クールに見えて誰よりも皆が好きな君が私は大好きだぁぁぁぁぁぁあぁ! もう一人のシロコも、勿論私は大好きだよぉぉぉぉおぉぉ! 気が向いた時にでも、いつでもおいでぇえぇぇぇえ!」
よしよし、まだまだイケるぞ。この際だ、胸につっかえた何かをこのまま全部吐き出してしまおう。
次は…よし、あの子にしよう。
「カンナぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁ! 今日もお疲れ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 自分にできることを責任もってやり遂げるカンナは、すごくかっこいいよぉぉぉおぉぉおぉ! 皆は怖いって言うかもしれないけど、私は君の笑顔が大好きだぁぁぁあぁぁぁぁぁ!」
ふぅ、ふぅ…。まだまだ、こんなものじゃ足りない…! 私が更に口を開こうとしたその刹那、どたばたと足音が聞こえた後にばん、と思いっきりシャーレの扉が開かれた。
「せ、先生…! 一体なんですか、どうしたのですか! あんなに大声をあげて…!」
リンちゃんが入ってきたな。…よし、次のターゲットは決まった。私は開け放たれた窓に再び顔を向けて、再び全力で息を吸い込み……そして、今までよりもさらに大声を出して叫んだ。
「リンちゃぁあぁぁぁぁぁぁぁん! いつもお疲れ様ぁぁあぁぁぁぁ! 立場上無理をすることがあるだろうけど、私にできることがあるなら言ってねぇぇえぇぇぇぇぇ! 私はいつも君の味方だよぉぉぉぉおぉぉ!」
「や、やめてください! 本人がここに居るのだから、せめて普通の声量で直接言ってください! 恥ずかしいですから!」
そう言ってぐいぐいと私を窓から引き剥がそうとするリンちゃん。だけど私はまだまだ止まらない、止まれない。だって私の感謝の念はまだまだたくさんあるのだから。
次は、そうだな…。
「セリナぁぁあぁぁあぁぁぁっ! フウカたぁぁぁあぁぁぁぁん! 2人とも忙しい中、私を気遣ってくれてありがとぉぉおぉぉぉぉぉぉっ! いつも言ってくれてるのに体調管理を疎かにしてごめんねぇぇえぇぇぇ! でも、気持ちはしっかり届いてるからあぁぁぁぁあ! いつもありがとぉおぉおぉぉぉっ!」
「先生、休みましょう! 一旦書類のことはいいですから! 後日また期限を提示しますから、今は一旦休みましょう!?」
「まだまだ、こんなんじゃ収まらないよ! リンちゃん、離して!」
「駄目です! くっ、このままではまた先生が叫んでしまう…! 応援を呼ばなくては…!」
リンちゃんが危機感を孕んだ声でそう言うと、
「…主席行政官。手伝います」
という、よく聞いた声が聞こえてきた。その声に私達が振り返ると、そこには先ほど私が思いの丈を思いっきり叫んだ生徒たちの姿があった。その様子は様々で、顔を赤らめて私を睨みつける子、おなじく顔を赤らめて視線を合わせてくれない子、そしてふんすという擬音が似合いそうな表情でこちらを見つめる子と実に十人十色であった。
姿を認識した瞬間、とびかかってきたみんなにもみくちゃにされて…。その先は覚えていないが、気が付くとベッドの上に寝かされ、しばらくの間休みをもらえることになっていた。
その特別休暇が終わった後、私は各方面に謝罪しに行った。今回私によって辱めを受けた生徒の内大体の子はしばらく口も利いてくれなかったのだが、誠心誠意込めて謝り倒したところ何とか許してくれることになり、みんなの懐の深さに感謝する毎日を送ることになったのだった。
こんな具合に私の暴走とその後処理が終わって数日後。いつも通り私がシャーレで業務を行っていたところ、突然シャーレの扉が乱暴に開かれた。そこに居たのは、たくさんの生徒たち。
「あ、あれ…? みんな、どうしたの…?」
「…先生」
「う、うん…。なにか、あった…?」
いつもと比べてちょっとだけ目が怖いみんなの口から飛び出してきたのは、私がここ最近で最も恐れていた言葉。
「「「「「「私の事、どう思ってるんですか!?」」」」」」
「「「「「わたしのこと、どう思ってるの!?」」」」」
「えっ、ちょっ…。待っ…!」
…………この後色んな意味で大変なことになったのは、もはや語るまでもないだろう。