私は、目が覚めると草原で横になっていた。快晴だ。目にいの一番に飛び込んできたトンネルに目を向けると、そこには商店街が存在していた。いつもは見かけない、少なくとも自宅の周りでは見られないような処であった。どうやら人がいるようで、大勢の会話の声が聞こえるのであった。見慣れない周囲に一抹の不安を覚えつつ、私はそのトンネルへと歩を進めた。
トンネルに入ってみると、外から見た印象と打って変わって、煌々とした明りが辺りを照らしていた。ワクワクしながら奥に進んでいくと、一見普通の成人女性に見える人が屋台らしきものの準備をしていた。しかし、普通の人間、つまりホモ・サピエンスには存在しない獣の耳が、その頭の頂上に一対存在していた。たびたび動く様子から、それがコスプレとは違う、本物の耳であることをこちらに伝えてくる。ああ、ここは元居た世界とは違うのか、はたまた違う星なのか、それを思う事しかできず、のぞいたまま固まっていた。悪い癖である。しかし、今回は逆に良かった。その女性がこちらに気付き、手招きしているのだ。行く当てもなさそうだし、とくにすることもないので、私は従うことにした。
やはり、近付くにつれてその耳の存在感というものをますます強く感じるようになっていった。私は動物を愛しているというほど好いてはいないが、人並みに関心はあるし、癒されるものだ。それが人の形をしていても、少ないが若干緊張がほぐれていく。ああ、拒否せずにいてよかった。そう強く思ったのである。
「なにかお困りですか?」
そう問いかけられてしまった。当然と言えば当然である。一人で突っ立っている者が、自分を凝視しているのだ。だが、それに反し私は驚いて、変な声が出てしまった。
「は、はいいい、えっと、」
そういったものの、何を聞こうか思いつかない。頭が思考できない。無理やり考え、何とか質問してみる。
「今おなかを空かせていて、食事をしたいので、何か手軽に食べられるお店があったら教えてください。」
我ながらちゃんと聞いたつもりである。女性は、
「そうねえ、すぐそこの小さい食堂とかどうかしら?あの緑の扉のお店よ。値段もそこまで高いわけじゃないし、小ぶりだから落ち着いて食事ができると思うわ。あとは、そうねえ、その隣の赤い食堂も、野菜が多くて、食べやすいお店かしら。」
彼女は、そう答えてくれたので、お礼を言って店へ向かうことにした。
「教えてくださりありがとうございます。早速行ってみたいと思います。」
そう言って立ち去ろうとしたが、彼女は
「ちょっと待って。名前教えて頂戴。私はキャシーよ。よろしく。」
と質問してきた。まあまんざらでもないし、答えよう。
「私はアキ。アキです。こちらこそよろしくお願いします。」
そう返すと、彼女は微笑んで、握手をしてきた。もちろん返したが。
「いつもはここの道具屋をやっているから。何か困ったらおいで。」
なんと、そこまでも行ってくれたのである。ああ、なんとうれしい。
「ありがとうございます。必ずまた来ます。」
そういって、今度こそ教えられた店へ向かった。去り際に道具屋の看板を見たところ、「道具屋キャシー」と書いてあった。覚えておこう。近いうち必ず立ち寄ってみよう。そんなことを思いつつ、食堂の前に着いた。とりあえず、緑の食堂に入ることにした。こじんまりとし、落ち着いて食事できると思ったからだ。
私は、その扉を開け、中に入った。