ハッピーエンドをお求めですか? 作:私のせいです
エリートオペレーター。それはロドス・アイランド製薬会社における、読んで字の如くエリートなオペレーターに与えられる役職。彼らは武力行使の作戦における特筆すべき戦力であったり、各分野の専門家であったりする。かくいう私もエリートオペレーターの区分に名を連ねている1人であるのだが⋯⋯。
「*サルカズスラング*! この書類の山は一体全体なんなんだ!?」
机上に建設された紙のハイタワー群に悪態をつく。減っても減らない書類の山。足元には使い物にならなくなったペンがゴミ箱を満たしている。
「Orderさん、これもお願いしますね」
「…………」
「まだお仕事が残ってますよ」
積みに積まれた机の僅かな隙間も許されず、また1棟建った。我らがCEOはこれはこれは素敵な、花のような笑顔で仕事を渡してくる。幼いながらCEOとして頑張っているのはこのロドスに所属する者の共通認識だが、仕事の振り方は些か苦言を呈さずにはいられない。
「アーミヤ……この仕事は本当に俺じゃないといけないのだろうか?」
「……はい、この仕事を任せられるのはOrderさんしかいません」
各国政府が統治に利用した鉱石病の根本的治療を目指すのだから、差別で利権を得た輩にとっては不都合極まりない存在だろう。どの政府にも属さない我らにとって経営というのは普通の企業のそれとは難易度が異なる。難易度に附随して処理すべき書類が膨れ上がるのは必然と言えよう。……しかし、しかしだ!
「エリートオペレーターにもこのような書類仕事があるのは承知している。しかし、しかしだアーミヤよ。俺は本来、前線で敵を無力化するのが主な役割であってな……」
「こちらの書類もお願いしますね」
「アーミヤさん?」
「頑張ってください!」
無慈悲、かの少女は見目に似合わず鬼畜であった。絶句していてもペンだけは止めてはならない。今日こそ、今日こそ全ての
「今日も相変わらずだな、Order」
凛とした声と共に誰かが入室したようだ。この部屋によく出入りする声に白く美しいコータスの姿を連想して彼女の名前を口にする。
「フロストノヴァ、助けてくれ」
「それはお前の仕事だろう?」
こちらのコータスも無慈悲であったか。ロドスが配布するコートを着た白いコータスは呆れたように軽く笑う。相も変わらず美麗な彼女は、かつて西北氷原のプリンセスと呼ばれたのも頷ける美しさだ。しかし、さすがにこの量の書類を片付けるのは骨が折れるどころじゃない。彼女の手は是が非でも得たい。
「では、なんでも一つ願いを叶えよう」
「……ほう」
ありきたりなねだり方だが意外と食いついた。フロストノヴァは口角が上がっているのは無意識なのか、滅多に見ない顔になっている。この様子だと何か要望があるらしい。
「何でもいいんだな?」
「二言は無い。何でも言え」
このやり取りで再確認してくると途端に恐怖が滲み出てくるのは何故だろうか。コートの首元を直して、ペンを置いて答えを待つ。手元の空になったマグカップには珈琲の色素がこびり付いていた。
「では今から私のことは名前で呼べ」
「それは……いいのか?」
そんなことでいいのか。コードネームではなく本名を自分が口にしていいのか。彼女の性格から気軽に名前を呼ばせることはないと思っていたのだが。むしろ、高い酒を要求しないのが少し驚きだ。
「私はお前と飲む酒に特に拘りはない。ロドスの艦内は快適だからな。酒で体を温める必要はない。それに、お前に呼ばれるなら構わん。……なに、一つの信頼の形と捉えてもらっていい。お前には色々と世話になってるからな」
顔に出ていたのだろうか。揶揄うように笑うフロストノヴァ。彼女がレユニオンだった頃から知人であったが、何かと付き合いが続いている。こういった手助けや愚痴を聞いてくれたりと、自分としてもフロストノヴァは中々得難い存在だ。そんな彼女に信頼されていると言われて嬉しくないわけがない。
「そういうことなら、これから君をエレーナと呼ぶよ」
「……慣れないうちはまだ少し恥ずかしいな」
フロストノヴァは椅子を持ってきて俺の隣に置くと、肩を並べて書類仕事を始める。こうしてなんだかんだ仕事を手伝ってくれるのは本当にありがたい。自然と近くなった彼女の顔はとても端正で、多少の戦士の証が残るものの、長い白い睫毛に伸ばされた髪に幻想的な魅惑を感じる。
「アーミヤはこいつにまだ用事があるのか?」
「あ……いえ、ここで失礼しますね」
懐かしむような、悲しむような顔をしながら退室したアーミヤに何かあったのか思いつつも、下手に踏み込むべきではないと躊躇う。
アーミヤだけじゃない、ケルシーやドクターにも時折あのような顔をする瞬間がある。現在、このロドスでは
「書類仕事を押し付けられているなんて微塵も思ってないから……」
「なに恍けている。手伝ってやってるんだから手を動かせ。今日はお前の奢りだからな」
「結局一緒に飲むのか」
「なんだ? 私とは飲めないのか?」
「まさか、こんな美人に誘われて断る奴が何処にいるよ」
少し照れくさそうに微笑むフロストノヴァを見ながら今日も俺は書類の山と戦うのだった。
夢……その一言であの光景を説明するのは難しい。ドクターを救出した日、レユニオンはチェルノボーグで暴動を起こし、それから龍門も巻き込んで戦争を起こそうとしました。
でも、今目の前で繰り広げられている光景は全く違う。レユニオンはチェルノボーグの市民を殺したりしなかった。スカルシュレッダーさんも、ミーシャさんも、メフィストさんもファウストさんも……フロストノヴァさんも、誰も死んでない。そもそもの争いが起きていないので当然ですが。
レユニオンは
全て、
エリートオペレーター、Order。
黒い角を持つオペレーター。ケルシー先生と昔から共に行動していたと聞きました。彼があの日、私に向けて言った言葉を覚えてます。
『ハッピーエンドを求めるか?』
ドクター救出作戦でAceさんやScoutさんなど多くの犠牲が出た時に、彼は私にそう言いました。もし、今度は彼らを助けることが出来るとしたら、お前は迷わないかと。
私は頷きました。
『契約は成った』
そう言って彼は自らの剣で首を跳ねました。噴き漏れる大量の血、転がり倒れる死体。呆気に取られた私は何が起きたか理解するのに数秒を有しました。
『⋯⋯え? あ、なんで⋯⋯』
その時駆けつけてくれたケルシー先生が必死に何も考えるなと言ってくれましたが、私はあの光景が忘れられずに中々眠れませんでした。ようやく意識を手放した時、私は
『アーミヤ、お前の指示に従おう』
これが、全ての始まりでした。
レユニオンとの衝突は多くの犠牲を生み、多くの血を流す出来事となりました。でも知ってしまったんです。悲劇を無くす方法を⋯⋯。
『Orderさん⋯⋯⋯⋯』
『⋯⋯ああ、任せろアーミヤ。契約があるのだろう。俺に記憶が無くとも、君なら上手くやれるはずだ』
『え⋯⋯待ってください。それはどういう⋯⋯』
多くの悲劇をOrderさんの力で無くすことに成功しました。何度も、何度も何度も彼に自害を強要し、都合良く彼を使って⋯⋯。この行為は彼だけでなく、覚悟を持って作戦に臨むオペレーターのことも汚辱している気がした。だけど、私は頼ってしまいました。私が弱いばかりに、Orderさんを使うことに慣れてしまった自分に吐き気がします。
そして、次に目覚めた時に
『久しぶりだな、Order』
フロストノヴァさんがロドスに入社した時、彼女は真っ先に彼に会いに行きました。彼女の目を見て気付いたんです。彼女も同じだと。一人に気付いて見渡せば、多くのオペレーターが彼を
今、意識がある
『夢と現実の差なんて、本当は無いのかもしれない。苦痛で満ちたものを人が現実と呼んでいるのは、夢に希望と温もりを大切にしまっておきたいからかもしれない』
いつかの彼はそう言った。もう、彼を傷付ける訳にはいかない。ケルシー先生とドクターも同じく、彼から戦場を取り上げることに決めた。彼が剣を取る日が二度と来ないように⋯⋯
「ごめん⋯⋯⋯⋯なさい⋯⋯⋯⋯」
弱くてごめんなさい。