邪神になったけど推しを推す!   作:ラテラス

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マジで邪悪じゃんか

 

 前略。俺はとある世界、ダンダダンの世界に転生した。以上前書き終わり。

 

 さあ。この世界でも推し活するぞ!!!

 

 

 

 …さすがに許されないと思うので、少しだけ俺のことを話しておこうと思う。心底どうでもいいし、俺もどうでもいいと思うが、ある種の通過儀礼として少々のお時間をいただくこと、お目汚しを許してほしい。

 

 死んだあと、人間じゃないなにかになった自分は、宇宙を漂い彷徨っていた。

 銀河の創生と星々の死と誕生を眺めて幾星霜。案外に発狂もしない自分の精神に感心していた。しかし、人間であった記憶があるからこその苦悩に襲われていた。

 

 

 つまり、暇! なんだ。

 

 退屈なんだ。そこには意思をもった生命体は自分以外に存在せず、いたとしても…会話をすることもできない。

宇宙を彷徨い続ければ、よくわからないタコみたいなヤツにチクチク攻撃され、暇つぶしに半分ほど滅ぼしてやったり、惑星ごと食べたり、変に四角な生命体の誕生を見守ったり。

四角の生命体とは確かに会話はできるのだろう。というかできる。

 会話を、言葉を交わすことと捉えるならばできている。

しかしその言葉と知識の交換に、ちっとも満足できず、ちっとも退屈しのぎにもならなかった。

 

 会話とは、相互理解のツールであり、娯楽だ。

会話をする宇宙人連中は理解のためのツールとして使うが、そこに娯楽は発生しない。

 きっと進化の方向が人間とは違うんだろう。

 

 この時の俺はものすごく人間ラブになっていた。

だってそうだ。人間じゃなくなっちゃったんだもん。

 

 そこで俺は、自身の身体に空間の跳躍を可能にするよう改造を施し、自分の故郷・地球を探す旅に出た。

 

 幾億年を過ごして、時間という感覚をとうに失っていたため、どれほどの時間がかかったのかは分からないが、とにかく俺は地球そっくりな惑星を発見した。地球の大陸を平面地図でしか見たことがなかったので、大陸の配置に感じて自信はないが、きっとこんな感じだったと思う。

 

 とにかく地球を発見でき大興奮していた俺だったが、新たな問題が生まれた。

 今の俺、全然人間じゃあねぇ!!! ということである。

 

 今まで多種多様な生命体を見て、知っていたことだが、およそ星型の全身構造と2本の手足を持っているものが多かった。もちろんその他もいるが、多くがそうだった。

 そして自分。おそらく人間であった俺が今の姿を見ようものなら、モンスターとかクリーチャーとか、そういう分類を受けるだろう酷い姿なのだ。クトゥルーなら邪神だ。宇宙から来るし。直視したならSAN値が1d10/1d100で失うような、視界に入れたなら発狂確実な、非常にやっべぇ感じの異形なのである。

 

 しかし、今の自分は人間でないから、人間ではできないこともできる。

 まず初めに、自分の存在を変えた。

実体をもつ異形生命体から概念的な霊的生命体にジョブチェンジした。そうして小惑星ほどあった自分の身体を変換して、地球の、赤道より少し上の長細い島国へ降りた。

 

 降り立った場所は、木々の生い茂る山奥のようで、足元はコンクリートで細い道路が走っていた。生粋の日本人であった自分にはわかる。ここ…ジャパンだ!!!

 感動で震えながらも、降りてきた目的を思い出す。わざわざ霊的存在になったことにも理由がある。ずばりお勉強だ。

 

 幾億年を宇宙で過ごしたせいで、価値観なんてぶっ壊れだ。だから、人間について観察し、自分の人間らしさを磨こう。社会体制とか勉強しよう。

 そうして、日本中を巡り始めた。

山を超えて、住宅に居座り、普通なら入れないような施設に入ったり、人の家でドラマやアニメを見たり、胸糞な現場を見たり。

そこで気づいたのは、なんだか治安が悪いこと。幽霊なんかが存在すること。日本ってこんなに跳梁跋扈な国だったのか。そんな疑問を抱きながら、とりあえずそんな世界に順応しようと頑張っていた…いや、正確には途中から飽きていたけど。

 そろそろ退屈だったし、人間になろうかなと思っていた頃。

 

 俺はようやく、この世界の真実を知る。

 

 

 

 その日も適当に夜道をぶらついていた。

たまたま、眺めてる中で詳しくなっちまった女を追いかけていたことを覚えてる。

 暗がりの路地裏で、その女が複数人の男に抑えられ、刃物を向けられながら迫られているのを見て、世界は残酷だなぁとか、どうでもいいことを思っていた。

 

 

 

 そこに、背後からカツンとつっかけをわざとらしく鳴らした音がした。

 男どもが振り返ると同じく、視界をそちらに向けた。

きっとその時から、俺の退屈は消え失せて、世界は色ついた。

 

 

 いやべつに、惚れたわけでもなく、その人物は俺にとってなんといっても予想外で。

 

 

 

 「オッパイ吸わせてやるからよォ、イチモツしゃぶらせろ」

 

 

 だれもがババアの容姿で言われたなら嫌悪感を抱かずにはいられないようなセリフを、鬼気迫る様子で言われたなら、きっとそうなってしまうんだろう。

 

 男どもは一も二もなく、転びながらも逃げ出した。

 

 ターボババアの前で走り逃げ出す。つまりそこからは、ご想像通りに。

 

 

 これが、俺がこの世界を「ダンダダン世界」であると気づいた瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 「ダンダダン」。

これは少年ジャンプ+で連載されていた作品。

前世でアニメ化の話題から気になり、アプリで少し読んでから本を大人買いして超エキサイティン! しながら読み漁っていたので、よく知っていた。

 

 アッパー型陰キャオカルトオタク高倉健…もといオカルンと幽霊の存在を信じる口悪高倉健限界オタク綾瀬桃が怪奇現象と戦うオカルティック怪奇ハートフルラブコメディバトル漫画だ。

 

 この漫画、登場人物全員が一癖二癖あるキャラクターで、オカルンは良くも悪くもオタク気質の強い内向的な性格のやべーやつ。

基本的に人に話しかけるのが苦手で人間関係を築くのがドチャクソ下手で、仲が良くなると途端に距離をつめて引かれるタイプ。

綾瀬桃との出会いだって、助けられた際に彼女がUFОや宇宙人に興味があると思い話しかけて、喧嘩になってそのままなし崩し的につるみ始めたってもんで、人との距離感の縮め方に問題がある。

なかなかリアリティのあるオタクくん。だけれど、こいつのギャップはえぐい。そんな性格なんでいじめられてるのに性格が捻くれずまっすぐでお人よしなんで、そして何より変身だ。ターボババアにより変身できるようになって、変身状態のオカルンのかっこよさは異常。口調が変わり髪も逆立ち白く染まる。

個人的には一日に2回の本気がカッコ良すぎる。「本気出すぜ」から見開きで敵の貫かれた絵が書き込みマックスでお目目に迎えられた時の衝撃。脳汁どっばーですわ!! 

それに芯があるってのがやっぱりいい! 好きだから誤解したくないしてほしくないってのをまっすぐ伝えられるやつなんていないんだ。本当にすげぇんだオカルンは。

あ、もういい? そう…。

 

 じゃあまあとにかく、オカルンは芯があってクソかっこいい陰キャオタクってことだけは覚えてほしい。

 

 

 あー、なんの話だったかな。とにかく。俺は推しが存在する世界に転生したわけなんだ。

 

 俺は、ターボババアの存在を知った。

白くボロボロな髪に赤い肌、黄色い目をギョロつかせて、姿は漫画のババアそのまんまだ。間違いない。

 

 そうして、ここが「ダンダダン」の世界だと知ったわけだ。

 

 そうと知ればわかる部分も多い。

 作中では犯罪者が多いように見えたし、何よりそれほど治安が悪ければ妬み嫉み憎しみ苦しみをもつ霊も現れる。なによりターボババアもここまで走り回らないだろう。

 

 さて、ここからどうすればいいか。

俺にはもうわからない。

 

 だいたい、推しと同じ空間に生まれただけで幸せだ。できるならば推しの全てを見守りたいけどどうすればいいか。霊的実体のまま眺めるでもいいが、もうすでに飽きてきているんだよこの生活。

 だいたい、幾億年を生きる生命体だぞ。長年を生きたせいで効率のいい考えも、論理的思考も何もできないよ。

 

「…う、けっほ…」

 

 足元の方で、うめく声がする。さっき男どもに迫られていた女だった。男どもは狡猾に、逃げる際に刃物を刺して逃げたらしい。浅く体から生えたそれは、根本を赤黒い液体で染め上げていた。

 

 なにを思うこともなく、それを眺める。下腹部に刺さったそれを見て、女は顔を顰めて、目を細めて泣きそうになっていた。

 

「…っ」

 

 女を見てなにか違和感があると思えば、なるほど。この女。腹に子供がいたんだな。既に腹には魂はいなくなって、そこには器になる身体だけが残されていた。

 

 「う、うぁあ」

 

 腹に刺さった刃物などどうでもいいようにうめき出した。

腹にいた子供は命が亡くなったことを察したのだろう。抜け出した魂は追いかけることもできないのでもうそこまでだ。

 

 やがて人が来て、救急車もやってくる。

 

 眺めてる中で、いろんなことを知ってしまうことがある。人の生活を覗き込んで過ごしてるんだから、それは仕方ないが、最近ずっとこの女に付き纏っていた。

 

 この女は、夫に逃げられた。

ある日、仕事に行ったきり帰ってこなくなり、会社に聞けば退職してどこかへ行ったのだとか。女は腹に授かった子供だけは、産んでやりたいとそれだけを頑張った女だった。

 ただそれだけ。

 

 このときから俺は血迷ったのかもしれない。ただの自己満足で、自分にとっても都合が良かったから。思えば気持ち悪いことこの上ないけど。

 

 俺はその赤子に宿った。

 

 

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