邪神になったけど推しを推す! 作:ラテラス
赤子はその後、緊急の帝王切開によりその命を繋いだ。腹にナイフが刺さり赤子を傷つけていたらしく、奇跡だと大人たちは祭りあげ、母親を喜ばせていた。
体の中で不自然にならない程度に修復はしていたので当然ちゃ当然。
しかし、ナイフが刺さった箇所の修復は怪しまれそうなのでやっていない。故に、赤子に似合わない大きなガーゼを生まれながらつけることになった。傷は顔と腕と腹に少し。成長とともに傷は薄くなるだろうと言われているが深く入った部分は怪しいと言われている。
そんな俺。もとい私。名前を西田碧、女児だった。
生まれてから知ったのだが、女、いや、母親の名前は西田美冬という。年齢が23で思ったより若かった。びっくり。
そんな母親は、時折でかいガーゼに包まれた自分の子供を見ると涙を流すことがある。何に対しての懺悔なのか、謝罪を繰り返す。見てられないので毎回子供の全然動かない指でそれを拭うと、ハッとしたかと思えば、今度はありがとうと返す。
よくわからない。
推察するに泣いてしまうのは、あの日刺されたことへ後悔なんだと思う。俺はそれをただ見てただけで、ここでなんだか可哀想と思うことはおかしなことで。
でもこの生涯で母親だけは悲しませないと決めた。
そんなことを生まれて3年目くらいのときに伝えた。
泣いてた。えぇ…なんで?
そこから普通に育ち、普通の子供になった。
中身に変な生命体が入っているからと言って、変に育つわけではないのだ。郷に入れば郷に従えである。それに、人間についての社会勉強も何十年か積んできた子供だぞ! すごく溶け込んでるぞ!
過去の話はここまでに、私は小学校に入学した。
入学するまで長かった。赤子の日常って基本的に寝てるから食べるか漏らすか遊ぶかだから、暇だったんだよね。それでも宇宙を漂っていた時よりは楽しかった。
気がつけば3年生だった。時間経つの早すぎない?
「ねぇ、アクロバットさらさらって知ってる?」
ある日も通学路を歩き、帰路に着く。
隣では噂好きな子供がまた知った噂を広めていた。近代妖怪の多くはこのような噂を元に生まれる。この時代はインターネットも普及しきっていたわけではない。なので断片的な噂が広がり、こうなら面白い、こうなら怖い、そうして噂は膨れて、また広がって都市伝説は生まれる。噂や都市伝説に対して人間のイメージが、妖怪やら怪異やらの器を作り上げるわけだ。
あとアクロバティックさらさらだろ。間違えるなよ。
そのあと、噂話を適当に聞き流す。特に自分の知っている情報と変化がなく、適当に目を遊ばせていた。
その目の先、偶然それを捉えた。
頭の上まで手を持ってきて、天に向かって人差し指をぴんと伸ばしぶつくさいいながら帰る特徴的な茶髪の子供。
「へぇあ!?」
やべ。びっくりして奇声あげた。
噂好きちゃんがそんなに怖かった!? と目を輝かせていたが、それどころじゃない。びっくりしたけど、大丈夫だ。
なんでもないと伝えて、それでもちょっと目を離せなかった。
「綾瀬ちゃんのこと見てるの?」
知っているのか雷電!? いや噂好きちゃん!
ぐるんと首を向けると、また嬉しそうに話出す。話すの好きなのかな。
「去年同じクラスだった綾瀬桃ちゃん。手をああやって帰ってるの、ちょっと変わってるよね」
実際、それを男児に馬鹿にされているのでそれは仕方ない。
けどなだんか、ちょっと小馬鹿にしたようないい草に、あれは星子さんの訓練なわけで、それに同意することはできなかった。
「どしたの?」
固まってしまった私を不思議に思い声がかかる。
ここでそれを否定することはできるが、私がする必要なんてないのだ。だって推しを見守れるだけで十分で、関わりに行く必要はない。
未だ動かない私を噂好きちゃんは肩を掴んで揺らしてくる。
ちょっと待ってほしい。いま悩んでるところだから。
これからどうするべきなんだろうか。
生まれて10年間、目を逸らし続けた議題に、やっと目を向ける気になった。
議題:ダンダダンのみんなをどうやって見守るか。
課題は主に二つ。
一つ。見守る、もとい推すためには人間、又は妖怪としてあのメンバーの近くにいないといけない。
二つ。近くにいながら、ストーリーには関与してはいけない。私はダンダダンという作品を推している。なのでストーリーラインが崩れることは許せん。
そして今の体。女では、万が一億が一にオカルンと綾瀬桃の関係に関与しかねない。万が一ね? 億が一だよ? そんなに奢ってないから。
それに人間のまま加わるということは、なにかバックグラウンドが必要だ。モブのままではあそこにいる必要もないし、何もないなら宇宙人や怪異や妖怪は見えないしそれらの領域にも入れない。
つまり、目指すポジションは人体模型の花だ。
ストーリーで太郎と花のやりとりで高倉健の背中を押した功績があるが、花はそれ以降あまりストーリーに関与していないように思う。
目指すポジションは、綾瀬家に居候できてある程度自由に動ける妖怪になること!
妖怪になるというか、ちょっとした幽体離脱をして関わるだけだ。やろうと思えば意識や魂は二分できるので、同一人物として疑われても大丈夫。
なるほど。結構簡単じゃんか。
先ほどから動かない私に、とうとう水筒の水をぶっかけてきた噂好きちゃんに言葉をかける。水をかけるな。水をかけたくせにオロオロするなよ。
これからやることは、うまくいけば妖怪を産む行為だ。
それに差し当たり、様式美としてこう話出してみよう。
「こんな噂話は聞いたことがあるかな?」
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噂話の広がる真髄は、曖昧であることだと思う。
曖昧でわかりやすく、盛ろうと思えば盛りやすい。そんでもってちょっとした身近な恐怖が混ざれば完璧。
噂話で語られ、そのイメージが器を作る。
この器にあった魂が流れ着くことで、アクロバティックさらさらや、ターボババア、邪視などが生まれたわけだ。
そうして、私の広めた噂はうまいこと広がった。
いや全然うまくは行かなかった。うまくいかないから電子体になりネットに多くの噂を語り、写真を偽造したり。とにかくテコ入れを結構やった。
しかし、実際に器ができたので私の噂話は一定数支持を得ていたのだろう。
妖怪の名前は、亡鎧。
これでなきよろいと読む。かっこいいな?
噂に語られたのは、錆びた鎧姿で、悪行を働くと表れ、代償として命を削り取られる。正しい心を持てば、命が延びる。また夜道で遭遇すると「墓はどちらに」と聞かれ、答えられなければ近々悪いことがおきる。答えられたら近々良いことが。
つまりは勧善懲悪が中心となった妖怪。になったらしい。
私が語ったのは最初の姿と後半の墓のくだりだけで、勧善懲悪は尾鰭がついた結果だろう。これ大丈夫かな。居候できる?
とにかく、器を手に入れた。
慣らし運転として、毎日夜中に徘徊することとする。
これでいつダンダダンが始まろうと大丈夫。気になるのは、いつ介入するかぐらいだろうか。
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また、登下校の帰り道。
綾瀬桃を見つけた。まだ続けているようだった。噂好きちゃんが小馬鹿にしたように語ったことから、少しだけ排斥されてしまっているのだろうか。一人で歩いている。
追いかけることにした。
誤解しないでほしいが、日常的に行っているわけではない。この日本は治安が世紀末しているから、一人で帰るなんて危ないんだ。だからこうやって追いかけている。
追いかけれない時は魂の一部を引きちぎり、人魂として家に着く手前くらいまで見守っている。家までついていったら星子さんにバレるし。くそ、早く家に上がりたいよ。星子さん推したい…。
そういえば、私の考えた妖怪が広まった原因はテコ入れ以外にもある。
勧善懲悪がテーマなんて、つまらない妖怪が広まったのはなにもテコ入れが原因ではなく、原因はこの世界の治安だ。
治安が悪く、ニュースで事件を見ない日はなく、聞くだけで腹の底がムカムカするような惨劇もそこらに転がる世界では、それはある種救いのようなテーマなんだ。
つまりさ。日常に恐怖が潜む故に、救いがあればと願ってしまう。
子供達の中で噂が広まるのも、同年代の悲惨な話をよく聞いてしまうからだろう。
「 きみ ひとり ? 」
一人の男性が、一人の少女に声をかけた。
見れば、目はギョロギョロと動き片手は包丁。もう一方は何も持たず、その手を相手によろよろと向けながらゆっくりと一歩一歩近づいていく。
声をかけられたのは綾瀬桃。
一瞬体が硬直したかのように見えたが、すぐに踵を返して逃げ出した。がすぐに男は逃げる肩をつかみ転ばせる。
「 ひどい なあ にげちゃあ さ 」
逃げるだろうが、と悪態をつきながら、男を蹴る。男はしゃがみ、それすらも喜ぶように目を細めて、見つめ続けていた。
「くそ、このバカっイカ! タコ! っざけんな!」
蹴りにも力が入っていない。言葉には出ていないが、目尻には涙が溜まっていた。
そんな様子を、建物の死角から、私は自分の身体を全力で抑えながら、ただ見ていた。
これは助けるべきだ。常識的にそうだしそうしたいし、何より推しなんだ。今すぐ駆け寄りたいッ! 思念体の一部を出してぶん殴ってやる! そう体は動き出そうとするが、必死に止める。だって、ここで助けるのは自分でいいのかと疑問に思ってしまったから。
あの異常なまでの高倉健推しは、こういうときに助けられて発症するんじゃないかと、疑ってしまっているから。
原作じゃこんな場面はない。過去はあまり語られていないのだから。でもどうすればいいのか。いやするべきことは分かっているのに。
「くそ」
小さく悪態をつく。
もう限界だからな。待ってやれねぇぜ王子様。お姫様救う役割は私がもらうぞこのやろう!!
防犯ブザーを鳴らし、男の目線はこちらに向いた。そこへ走り込み、ランドセルで男の顔面目掛けて遠心力をつけてぶん殴る。小学校の置き勉禁止とかいう謎ルールにより、重たいランドセルは簡単に男をよろめかせた。
その隙に綾瀬桃を立たせて、手を引いて走る。
「くそ、クソ、クソ」
もし原作をこれで破壊してしまったのならと、震えが止まらない。やっちまった後悔がついてくる。
その日はその子の手を引いて、どこへ行くもなくただ走った。
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評価に色がついててクソビビったぞこら(豹変)
一話目を投稿後、設定がダメじゃねってところを色々考えてしまいまして、上手い言い訳を自分の中で探すのに手こずりました。
基本的に書きたい場面と展開だけ考えて、辿り着くまでプロットも無いものですから。こんなことになるのです。
プロットは大事ですわ(戒め)
※子供の名前が変更しました。原作既存の名前と被るとなんか扱いづらいので。