姫騎士殺し   作:天野雪人

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第十四話 祭りの時

 会議というのは得てして騒がしいものである。

 

 貧民街東地区。そこを統治するにあたって、話し合いというのは避けて通れないものだった。

 グレイやその仲間達、住人の代表達などで日々どうするべきかを話し合う会議は、月に一度程度の頻度で開催されている。

 

 そして今回の会議もいつものように騒がしかった。何ならいつもより騒がしいだろう。会議の場は非常に白熱していた。

 

 それはつまり、年に一度の祭りが始まるからだ――

 

 

 

「今回は大規模にプレゼント企画を実施するべきです――」

「安全対策は一班を総動員して当たることを検討しておりまして――」

「マヌルカ芋を使った新たな飲食の販売促進を――」

 

 皆が個々に意見を言い合い、此度の祭りを盛り上げようと議論を交わす。

 そのぶつかり合いは一時間経っても終わることはなく、皆の祭りへの情熱が伝わるだろう。

 

 祭りとは娯楽の少ない貧民街において年に一度の楽しみで、この日ばかりは(いが)()う地区もそれを忘れて協力するほどのもの。

 東地区も盛大に盛り上げるために、意見を出し合っていた。

 

「――じゃあそんな感じで行くか。個々やるべきことをやって、祭りを盛り上げていくぞ!」

「「「おおおおおおお!!!」」」

 

 二時間にわたる会議を終えて、皆がやるべきことを再確認して声を上げる。

 楽しい祭りにしようと、会議の参加者達は続々と動き出した。

 

 その中でグレイは最後まで残り、他にも数名立ち上がらない。

 

 全員が会議室を出ていったところで、グレイ。そして三名の人間がその場には残っていた。

 空気は無論、あまり良くない。

 

 ここに残ったのは、グレイの仲間でも特に近しい者達だ。

 そんな長い付き合いだから、グレイはこれから何を言われるかというのも理解していた。

 

「さてと。会議は白熱したわね」

「まったくだ。今回も楽しい祭りになりそうだな」

「そうね。じゃあグレイ……祭りの前に一度話しておきましょうか」

 

 そう口火を切ったのは、グレイと同い年であろう少女だった。

 長い茶髪に、黒い瞳。勝気な目でグレイを貫く。

 

 彼女とも長い付き合いで、まだグレイ達が孤児の集まりでしかなかった頃から一緒にいる幼馴染だ。

 

「ああ。リズリー。まあ、言いたいことはわかってるよ」

 

 少女、リズリーにグレイはそう言って(なだ)める。

 

「……ならよかったっす。兄貴」

 

 そしてその横に座っていたゴーズは、ちゃんと話ができそうだと頷いた。

 

「はっはっは。まあ楽しく行こうグレイ。別に悪い話をするわけではない」

「カストロン……まあ、そうだな」

 

 最後は一本の大剣を背負った大柄な青年、カストロンが場を和ませようと言い放った。

 

 この三人は全員グレイの幼馴染。孤児の集団でしかなかった頃から、皆を導いてきた大切な仲間だ。

 そんな三人は、全員集まれる今日この日に話があると会議室に残っていた。

 

「言いたいことは何かわかってるわね?」

「ああ……姫騎士のことだろ?」

 

 現状こんな空気になる問題は、それしか思い当たらなかった。

 

「そうよ。何か最近、仕事の後に乳繰り合ってるみたいじゃない!」

「それは飛躍しすぎだ! ただ話をしているだけだ!」

「ふーん。どんな話を?」

「それは……仕事の打ち合わせだ!」

 

 グレイは言い放った。

 リズリーはジト目になった。

 

「はっ! どうだか。一つ屋根の下で男女が二人きり。一体仕事話だけで済むのかしら?」

「変なことはしていない! それははっきりさせておこう!」

 

 姫騎士ハクアを発端としたこの尋問に、グレイは全力で否を突きつける。

 しかし勘違いされてしかるべき状況だとは理解していた。

 傍から見れば、リズリーの言う通りの状況だろう。

 

「まあ俺達もグレイがどんな恋人作ろうがそれはどうでもいい」

「いや、どうでも良くないわよ。姫騎士よ姫騎士! 王族! クリスタ人! 住む世界が違いすぎるでしょ」

「まあそうっすね。そこちゃんと事情聞いときたいんすよ」

 

 三人はワイワイと言い合って、事情がこじれていることにグレイは冷や汗を掻く。

 あくまでハクアと二人の問題と見ていたが、その範疇に収まることはなかった。

 両者が立場のある者である以上、二人だけの問題にはしていられない。

 

 仕事の話をしている、ではもう誤魔化せないだろう。

 これはちゃんと、話さないといけなそうだ。

 

 とはいえハクアのことをどこまで話すべきかは問題だ。

 本来は姫騎士なんてやれる少女ではなく、もっと脆くて儚い存在だという事実を告げて良いものか。

 しかしそれを言わないと話が拗れる。

 

「まあ――ここだけの話にしとけよ」

 

 少し迷ったグレイは、信頼できる幼馴染たる三人にのみ告げることにして口を開いた。

 

 

 

「――なるほどね。グレイはお姫様の愚痴係。そういうこと?」

「そういうことだ」

「ま、なら安心ね」

「安心すかね?」

 

 リズリーは叶わぬ恋をしていなかったことに安心し、ゴーズは果たして安心かと首を傾げる。

 ハクアとの繋がりは間違いなく大切なものだが、だからと言って愚痴を聞くほどの関係になっていいものか。

 

 あまり関係を深めすぎると思わぬ事態に巻き込まれるだろう。元々住む世界が違いすぎるのだから。

 

「まあ良いじゃないか。グレイが変なことに巻き込まれてなくて俺はほっとしたぜ」

「カストロン、だとしてももう少し距離を取った方がと俺は思うっすけどね」

「そうねー。でもこいつ、もう見捨てられないでしょ」

「…………」

「姫騎士のことを、助けたいって思ったんでしょ、グレイ」

 

 そう言うリズリーとは長い付き合いだから、隠し事なんてできるはずがない。

 苦しそうなハクアに共感してしまい、その話を聞いた瞬間から他人事ではいられなかったのは事実だ。

 もう今更関係を断てるものでもない。

 

「あいつは……悪い奴じゃないからな。ただの運命に翻弄されてる女だった」

「わかってるわよ。クソみたいな騎士と、姫騎士だけが違うって」

 

 その言葉通り、ハクアは騎士とも王族とも思えぬ子だ。

 貧民街に何度も訪れているのに、一切嫌な顔も差別もしなかった。前回訪れた時は子供達に飴を配ってたりもしていた。

 それは王国騎士としてあり得ぬ姿だろう。故に姫騎士には好感を抱く。

 

「ウェンデル達を殺した騎士は嫌いだけど……姫騎士は……まあそんな嫌いじゃないわ」

「……あの人だけが墓参りに来てくれたしな。困ってるなら助けたいよな。わかるぜ」

 

 騎士が殺した五人の人を、ハクアだけが唯一謝罪して彼らの家族へ償いをした。その姿を見てるから、騎士が嫌いな彼らも受け入れるのだ。

 

「まあ……バレないようにすれば大丈夫っすかね」

「やっぱバレると不味いか?」

「そりゃそうっすよ。クリスタ人のお姫様が、マヌル人の平民と会うなんて国が許すはずがないっす」

「まあ……顔は隠せと言ってあるし大丈夫か」

 

 ハクアもこの関係を言いふらす気はないだろう。あくまで秘密の関係だ。

 

 たまに訪れて、愚痴でも吐いて。深い関係になるつもりはなく、どこまで行っても友達以上にはならないはずだ。

 根本的な解決にはならなくとも、ハクアのためにグレイができる小さな手助けを続けていきたいのだ。

 

「で、グレイは、姫騎士のことどう思ってるの?」

 

 そして最後に、リズリーはそんな問いかけをする。

 

「っ……。そりゃまあ、普通に良い奴だと思ってるぞ」

「…………そう」

 

 そう少し慌てたように言うグレイに対し、リズリーは目を細めた。

 それはリズリーの求める答えじゃなかったかもしれないが、それ以上は何も言わない。

 

「……まあ。あっちとも話しとかないといけなそうね」

 

 そしてグレイに聞こえぬほど小さな声で呟いた。

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