姫騎士殺し   作:天野雪人

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第二十四話 クリスタ王国内戦

 第三王子バルカンの来訪は、まさに青天の霹靂と言うしかなかった。

 仲間達はどういうことだと混乱し、ついに反乱の計画がバレたと絶望する者も居る。

 

 しかしグレンザーは、冷静に冷静に現状を見つめていた。

 

「行こう。もしバレていたら、その時は――」

 

 王子を人質に、反乱を始める。

 その覚悟を持ってグレンザーは来訪したというバルカンの下へ足を運ぶ。

 

 闘技場に設立された一室で、バルカンは待っているらしい。人払いをされていて、一体どういうことかと息を呑む。

 

 しかしそれは杞憂であった。それ以上に、吉報でもあったのだ。

 

「貴様らが剣闘奴隷のマヌル人か。我に協力せよ。さすれば自由を与える」

 

 バルカンが訪れた理由は、マヌル人を取り込むためだった。

 

「……それはどういうことでしょうね。王子?」

「どういうことだと? 言葉通りだ。父が死んだ。次期王を決めずにな。ならば我がその座を得よう。いちいち説明せねばならぬか」

「なるほど。そういうことですか」

 

 端的な言葉であるが、グレンザーは馬鹿ではない。

 すぐさま事情を察し、今どうするのが最善かを考えようとする。

 

 反乱計画がバレたわけではなさそう。そしてこれはグレンザー達にとって利がある提案だ。

 

 本来の計画では反乱を起こし、この国から逃げ出すというものだ。

 しかし非常に穴の多い計画だった。

 

 国が混乱している隙を突いたとしても、戦力差は途方もない。全てのマヌル人を連れて逃げ出すなど不可能であり、犠牲を払って半分も逃げられれば大成功だろう。

 その上異国の地で安住できる保証もない。

 

 しかしバルカンの提案は、マヌル人の奴隷解放だ。住み慣れた地で人として生きられるなら、これほど良い条件はない。

 

「我々を奴隷から解放してくださる、ということですか?」

「そう言っているだろう」

 

 最後に確認を取り、グレンザーはここしかないと勝負に出た。

 

「……わかりました。我らはバルカン様に従います」

「うむ。我が支配下に入れば、格別たる幸福が訪れるだろう」

 

 バルカンは当たり前だとばかりに笑う。

 この日、バルカンとグレンザーは協力関係を結ぶこととなる。

 それはバルカンが王位を掴むことができた最大の要因とすら言えるだろう。

 

 

 ◇

 

 

 バルカンは非常にスピーディーだった。

 王位を争う第一王子と第二王子を出し抜くために、素早く計画を練り続ける。

 グレンザーもその時が来るまで、剣闘奴隷達を纏め巨大な勢力を築いていた。

 

 そして日々は過ぎ、状況は苛烈を極め、ついに内戦が勃発する。

 それは第一王子と第二王子によるものだった。

 

 王国は混乱を極め、どちらを支持するべきか世論は真っ二つに割れる。

 そんな中、第三王子バルカンはまったくと言って良いほど注目されていなかった。

 影に隠れ、どちらの陣営からも警戒すらされていない。

 故に奇襲が成功する。

 

 王子二人が争い、さあ決着がつくというその時、水面下で準備していたバルカン陣営が動き出した。

 

「さあ、自由のために立ち上がれ!!」

 

 グレンザーは奴隷だったマヌル人を扇動し、彼らの心を揺れ動かす。

 自由を求めたマヌル人は、英雄グレンザーの下に一つとなり、大きなうねりを引き起こした。

 

「我らも行くぞ。マヌル人だけに功績を与えるな」

「おお!!」

 

 当時から腹心であったレベルカとアバンも、バルカン陣営の兵を率いて戦い続ける。

 疲弊した二人の王子は、その奇襲にロクな手立ても打てずに次々と敗北していった。

 

 第二王子の陣営を打ち倒し、バルカン陣営は第一王子の首元にまで牙をむく。

 クリスタ王国内戦の最期の舞台は、王都より離れた山の麓だった。

 

「さあ――自由まであと一歩だ」

 

 王都より逃げ出した第一王子を追って、そびえ立つ山の麓までたどり着く。

 マヌル人達の士気は非常に高く、後少しまで迫った奴隷解放に希望を抱いていた。

 

 第一王子を倒せばバルカンが王になる。そうすれば長い夜が明けるのだ。 

 あと一歩だった。だから、グレンザー達は全てを出し切った。

 

「グレンザー! 第一王子達は馬車を捨てたらしい。後少しで追いつける」

「ああ。ならば――やるよ」

「やるのか?」

「ここで失敗したら元も子もない! 功績を挙げ、マヌル人の地位向上を目指すぞ!」

「「「おお!」」」

 

 グレンザーは空を見た。

 夜の世界を月が照らし、マヌルの血をわきたてる。グレンザーを中心に、闘技場にて生き残ってきた猛者達はその力を解き放った。

 

「奥義だ――」

 

 奥義までたどり着いたのは数名だけ。独学故に発動もままならない。

 しかし月の下であれば、安定して使用できる。

 

 最古の血に働きかけるように、グレンザーは奥義を発動した――

 

 それにより、残った第一王子の陣営は全滅する。

 王国有数の騎士達は何も出来ず倒れ、第一王子は抵抗すら虚しく捕縛される。

 それが全てを解き放ったグレンザー達がなした成果である。

 

 しかし――それが、不味かったのだろう。

 

 全てを出して成果を上げて、より良い未来を掴むその行動が駄目だった。

 

 グレンザーを追ってやってきたバルカン達は、絶句していた。

 

「グレンザー。これは」

「バルカン様。全て、終わりました」

「…………」

 

 大地に転がった騎士達は、大怪我を負って倒れている。

 聡明と謳われた第一王子は恐怖で全身を震わしており、ここに第一王子の陣営は全滅した。

 

 それをなしたのは、無傷のグレンザー達。

 その姿は――

 

「ああ。これが、かつて使い手を皆殺しにした原因か」

 

 バルカンは小さく呟いた。

 彼らの姿を見て、かつての王がマヌル人の大量虐殺を行った理由を理解する。

 

 これは、駄目だろう。

 あきらかに人外の力だ。

 これを御せる自信が、バルカンにはない。

 

 バルカンの目には、グレンザー達が途方もない化け物に見えた。

 だから震える唇を賢明に抑え、口を開いた。

 

「ああ。よくやった」

「ありがたきお言葉。我らの解放は、していただけますか?」

「無論だ。だがまずは、此度の戦勝を祝おう。祝賀会だ」

 

 バルカンの目は、とても暗かった。

 まるで何かを企むように、ドス黒いものがある。

 

 しかし歓喜に沸き立つグレンザー達は気付かない。それが転落の切っ掛けとも言えた。

 

 

 ◇

 

 

 祝賀会は、とても小規模なものだった。

 国王バルカンと、その腹心。そして功績を挙げたマヌル人達だけ。

 

 王位を取った祝い事などもっと大規模にやるはずが、それは少し疑問に思う。

 だがグレンザー達は、自由への喜びの方が大きかった。

 そんな些細な違和感、気にすることもなかった。

 

「さあ。乾杯だ」

 

 バルカンによる乾杯の音頭が聞こえてくる。

 

「ようやくだなグレンザー」

「ああ。長い冬が終わるよ」

「もうずっと奴隷のままだって思ってたから……」

「みんなで勝ち取った自由さ。今日は存分に楽しもう!」

 

 仲間達と自由の快感を分かち合い、並べられたご馳走に笑みを浮かべる。

 そして給仕に注がれたワインを高らかに掲げ、グレンザー達はそれを飲み干した。

 

「――――?」

 

 ドサっという音が最初に聞こえた。

 

 横を見れば、共に戦った仲間がビクビクと痙攣しながら倒れている。

 ふとバルカンを見れば、とても醜悪な笑みを浮かべていた。

 

「あっ――」

 

 グレンザーも急激に全身に痺れが襲ってきて、膝から崩れ落ちるように大地に倒れる。

 思考は霧が掛かったように朦朧となり、それでも何が起きたのかを理解した。

 

 グレンザー達は今、殺されようとしているのだ。

 

「ご苦労だった。マヌル人。だが貴様らは危険すぎる。故にここで死んでもらおう」

 

 バルカンの声が聞こえてくる。仲間達が次々と殺される音も聞こえてくる。

 グレンザーはその音を聞きながら、己の失敗を自覚した。

 

 ずっと上手くやっていたのに、最後の最後で失敗した。

 力を全て見せたせいで、バルカンに恐怖と危機感を与えてしまった。

 

 その結果がこれだ。

 英雄グレンザーは内戦の最中戦死したこととなり、マヌル人を導く者達は全滅する。

 バルカンは奴隷解放はしたが、家と仕事を持たぬ者は全員王都の外に作ったマヌル人隔離地区に押し込めて、最悪の地獄を作り出した。

 

 それが三十年前に起こったクリスタ王国内戦の真実である――

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