書きたい部分は決まってるのに、無理なくそこまでの流れを書くのが中々むずい。
次も遅れるかもしれない。
「……っクソ、うろちょろと飛び回りやがって……!」
ダンターグが大きく振り回す
それなりの広さがあるこの空間で空を飛ばれるというのはそれだけで厄介だ。
さっきまでクィーンの体は地上に……と言うか、壁に一部が縫い付けられていた為、行動範囲に限度があった。
だからクィーンはダンターグ達の猛攻を回避せずに捌き、ガードする事で対応していたのだ。
その
アウトレンジからの露骨な消耗戦を仕掛けてくるのである。
ただでさえ上層階からの連戦に次ぐ連戦。悪辣な寄生戦法による精神的消耗。そしてクィーンを倒したと思ったら真の姿が飛び出してくると言う想定外の戦況。
消耗が激しいのだ。
そんな状態で、クィーンは悪辣に消耗を強制してくる。
――しかも、術法でクィーンを捕らえられるワグナスとロックブーケをターゲットにして。
「ほれほれ、頑張って守らぬと仲間が死ぬぞ?」
からかうように嘲りながら両手を広げると、クィーンの纏う瘴気が雨となって降り注いだ。
触れただけで体を、命を侵す昏い雨。ロックブーケの顔が引き攣る。
「くうっ……!!」
『風』の膜が俺達の体に纏わりついて、死の雨の直撃から守ってくれた。
防護膜に弾かれ床を打った雨が闇色の瘴気を立ち昇らせる。
風術『エアスクリーン』……しかしこれは本来の使い方ではないそうだ。
しかも元来、一人に対して行う防護膜を7人分同時発動と言うとてつもない荒業を敢行しているらしい。
想像を絶する消耗率だろう。
『水』と『風』に秀でた術師だからこそ実施でき、しかしだからこそ消耗の標的にされている。
ロックブーケの額には汗の玉が浮き出ていた。
「っクソ!!どうにかしてあいつを叩き落とせねえのか!?」
「叩き落とすさ!!なんとしても!!」
吠えたノエルが中空に向かい音速の斬撃を放つ。
それは無数の真空の刃となってクィーンに襲い掛かる。
「ぐっ……」
そのうちのいくつかが回避され、しかし躱しきれずに数発被弾を許すが、クィーンは意地でも降りてこなかった。
「もはや油断はせぬぞ……?完封と行かぬのは業腹ではあるが、このままじわじわと嬲り殺してくれる!」
単発攻撃は当たらない。範囲指定攻撃であれば被弾するが消耗が大きく、そしてそれでもクィーンは降りてこない。
そしてそれだけで、ダメージソースの要だったダンターグがほぼ完封されてしまっている。これが痛かった。
どうにかして引き摺り下ろさなければジリ貧だ。
「ボクオーン、もし術酒を持っていたならロックブーケに譲ってあげて欲しい」
「……残念ながら、消耗戦になると判り切っていても用意する事が出来ませんでした。戦時特例によって流通ルートは全て王城に押さえられていましたので」
「評議会を説得出来なかったのがこう響いてくるか……!」
物資を兵站倉庫からくすねる事を本気で検討すべきだったとワグナスが歯噛みする。
俺は脳裏に浮かんだ考えをそのまま口に出してみた。
「こ、これ……通路まで退却したらダメなのか?」
「クィーンは追ってはこないだろう。そして『デブリスフロー』を連発されて終わりだ。狭い空間であれを出されたらひとたまりもない」
「ロックブーケの『召雷』クラスは連発出来ないのか?ワグナスとかボクオーンは?」
「撃つだけなら可能だ。私の『ギャラクシィ』やボクオーンの『ストーンシャワー』なら、あるいは叩き落す事も可能だろうが……下にいる私たちもタダでは済まないだろうな。半径をある程度限定させてその危険を減らす事も可能と言えば可能だが……」
ワグナスが手を翳した。無数の熱線が空を奔る。
クィーンは縦横無尽に動き回り、多少の被弾は許しても大ダメージは避けて見せた。
「……デカい体で良く動く。小規模なものはまともには入らないだろう……結局、消耗を強制させられるだけだ」
「幸いなのが『見てから動いてる』訳ではない事ですね。術法を使う枕を抑えて、動き回って狙わせない、そういう回避の仕方をしています。だから数撃てば一応、当たりはする」
「……いよいよとなったらこの部屋を埋め尽くすほど術法を撃って自爆するか?」
「ダメージは入るでしょうが仕留めきれるとは思えませんね。通路に退避した瞬間それをする……のも、ダメか。『デブリスフロー』で相打ちに持ち込まれる」
「上空で小規模な爆発を連続して起こしたり乱気流生み出して満足に飛べなくする……的なのは?あとは『足がらめ』空中版みたいな」
呆れられてしまった。
「あなたねえ……術法は何でも出来る訳じゃないんですよ?さすがにそんなカードは持ってません」
「――いや、発想だけは買おうか。その役目をやるには不十分かもしれないが」
ワグナスが動いた。
沸きあがるのは『火』と『風』の術力。それが両手に渦巻いている。
クィーンが警戒して距離を取ったが、「これは避けられるものではないぞ!」と両手を掲げて解き放った。
――熱波が広がる。
高熱の風がクィーンに向かって吹きすさび、空を燃やして広がった。
「があああああッッッ!!!!!」
さながら、オーブン釜に放り込まれた気分だ。
高熱は空に上がって行く。
地表でこれならクィーンのいる場所はさながらマグマの中だろう。
――カウンター。
『冥』の気配と共に地獄の爪が、薙ぎ払われるように飛来する。
それを『金剛盾』で受け止めるボクオーンの表情はしかし、険しかった。
やはり消耗が色濃く浮かんでいる。
そしてクィーンは、やはり降りてこなかった。
「――『熱風』の中は熱かろう。降りて来たらどうだクィーンよ!生命の限界を超えた姿とやらの名が泣くぞ!?」
「ぬかしおるわ
貴様らのような
ひときわ大きくクィーンが羽ばたく。
その動きに連動してつむじ風が巻き起こった。
乱回転する風の奔流が俺達に向かって吹き下ろされる――上空の、
「まずいっ!?」
「俺が相殺する!!」
飛び出したのはスービエだった。
「――『サイクロンスクィーズ』ッッ!!」
すくい投げるように降りぬいた先に『水』と『風』の渦が吹きあがる。
水を纏った冷たい渦と熱を伴う渦がぶつかり、空気がメチャメチャにかき混ぜられた。
熱風が水の渦を瞬く間に蒸発させ、それによる急激な空気の膨張が風の爆発とも呼べそうな暴風を呼ぶ。
「おおおおおお――ッッッ!!?」
まさかの事態だった。受け身もとれずに吹き飛んだ。
殴りつけてくる暴風は、辛うじて軽い火傷レベルで済みそうな程度まで冷却されていたのが唯一の救いか。ダメージは無く、致命的なスキを晒した程度だ。
――って言うか、転んだのは俺だけの様だった。みんな体制を崩すものの踏ん張って耐えていた。
「ぶ、」
そして俺だけ、バギンッ!と裏拳の追加ダメージをうけた。
見上げた先にロックブーケの白が目に入ってしまったからだ。
ぜったい俺は悪くない。
そして、もう一つの思わぬ副次効果があった。
急激に膨張した熱せられた空気が、凄まじい勢いの上昇気流を巻き起こしたのだ。
それは上空に居たクィーンをからめとり、かき混ぜ、体勢を崩して叩き落す。
「ぬ、おおおおおおっ!!?」
錐揉みしながら墜ちてくるクィーン。
チャンスは、ここしかなかった。
「でかしたぞスービエええッッッ!!!!」
フラストレーションの溜まっていたダンターグが、落ちてきたクィーンをさらに上から叩きつけた。
「絶対に飛ばすなよ!ここで決める!!」
「オオオオオオッッ!!!」
ワグナス、ノエル、ダンターグ、スービエ。
4人の繰り出す物理的な暴風が再び荒れ狂った。
ダンターグの
ワグナスとノエルはクィーンの
そして巧みにクィーンの逃げ道に回り込みながら再び飛ばれるのを防ぐスービエは、また飛ばれるような事があれば再び『サイクロンスクィーズ』を仕掛けようと術力を励起させ続けているのが見て取れる。
「――なめ、るなあっ!!」
クィーンが離脱を諦め、迎撃に意識を切り替えた。
棘のついた節足が地面を踏みしめ、4本の黄金の腕を振り回す。
ダンターグの槌撃をはじき、ノエルの剣を受け止め、ワグナスに捻りの効いた強烈なパンチを打ち込み、スービエには振り被った爪の一撃を見舞う。
その立ち回りには知能の無いモンスターのそれではなく、まるで人間の体術のような術理が見えた。
ロックブーケの水術がワグナスとスービエを同時に癒す。ボクオーンの足がらめがクィーンの踏み込みを沈ませる。
クィーンの反撃を許したとしてもチャンスが続いているのは間違いない。
攻撃を途切れさせてはならないと、強引にでも攻撃を繋いで行った。
俺は攻撃に加わらない。それよりもあるいは、嫌がらせになりうる手札がある。
手の中に励起させる『冥』の術力。
これほど近く、これほど余裕があるなら容易に当てる事が出来る。
そして肝心の傷は、ワグナス達が作ってくれていた。
――効くとは欠片も考えていない。
だが……『抵抗』はしなければならない筈だ。
「『ライフスティール』……!!」
クィーンの傷口から侵入し、その生命力を奪い取る!
術力のラインを通して簒奪を始める。抵抗が強くて容易に持ってこれないが、それで良い。その分クィーンの意識を削る事が出来るのなら。
剣撃の嵐の中で暴威に耐えるクィーンと目が合い、そして――
意識が、
「――いい加減にしなさいよアンタはっ!!!」
顔面をグーで振り抜かれた強い痛み。
鉄のタライか何かで思い切り頭を叩かれたような、強く響く衝撃が脳の中を突き抜ける。
気付けば、クィーンがいなかった。
目に入るのは、腕から流した血を庇いながら、それを天術で癒しているワグナス。
上空を警戒するスービエとボクオーン。
峰を返した剣を構えて俺に向けているノエル。
ダンターグは壁に背を預け忌々しく呻き、ロックブーケが拳を振り抜いた状態で息を荒げている。
「…………え?」
ズキズキとした傷の痛みが、それでもまだぼんやりとした頭に希釈されて現実感が出てこなかった。
目線を降ろせば、俺の握っている剣に血がついている。
――クィーンのそれとは違う、赤い血が。
「…………え?」
なんなんだこの現実感の無さは。
なんなんだ、この頭に掛かっていた霧は。
なんなんだ、この光景は。
「クハ、アハハハハハハハ!……なんだ、もう起きたのかえ
可哀そうに、鼻から血が流れておるではないか。ハハ、ハハハハハハハ!!!」
上空でクィーンが高らかに嘲笑っていた。
あれほど意地でも逃すまいとしていた、上空で。
まさか……
まさか……!
「俺……俺が、斬ったのか……?俺が、ワグナスを斬ったのか……!?」
手には記憶にはない、しかし確かに肉を切ったような後味の悪い感触が残っていた。
さあっと自分の血の気が引いていくのが分かる。
まるで背筋に氷のツララを捻じ込まれた様な感覚に歯の根が鳴り、手が震える。
「――『フェロモン』だ。非常に強いものは人の精神すら侵すと聞いた事はあったが、なるほど厄介なものだな……!」
ワグナスが自らの治療を終えつつ歯噛みする。
「手癖の悪いゴミに与えるにしては寛大過ぎる取り計らいであろう?淡雪のごとき短い時とは言え、わらわに仕える至上の喜びをくれてやったのじゃ。
ほれ、そのまま塵芥に剣を向け続けるなら、おぬしの命だけは助けてやっても良いぞ……?
アハハ、アハハハハハハハハハハ!!!!!」
「あ……ああ……ッ」
最高のチャンスを、そしておそらく最後のチャンスを、他でもない俺の手で潰してしまったのか。
襲い掛かる恐怖と後悔で自分の手の動きが制御できない。
握る剣先が地面を掻いてカタカタと音を立てた。
「……ふりだしか。何とか、もう一度あいつを叩き落とさなくちゃな」
――誰も、俺を責めなかった。
誰も責めてくれなかった。
いや、唯一ロックブーケが忌々しいものを見る目で俺を睨む。それだけだ。
そしてその睨んだ目線も、次の瞬間には別に向いた。
「……かくなる上は、ワグナス様。一時あれの動きを止める事が出来れば、再び上空から叩き落とせますか?」
「何?……そうだな、止める事さえ出来るのであれば」
覚悟を決めたようにロックブーケが踏み出す。
「奥の手を切ります。……ただし、これを切ったら私はもう、ほとんど術が使えなくなります」
「正真正銘、次が最後のチャンスという訳か……十分だとも。信じよう、ロックブーケ」
「ダンターグ、動けるか?」
「へっ……不意を突かれて足滑らせただけだ。関係ねえ……ッ!!」
英雄たちが再度構えた。
その眼からはまだ、希望の光は消えていない。
「……クジンシー、あんた下がってなさい。震える事しか出来ないなら」
そう口にするロックブーケの背中が、恐ろしいほど遠く見えた。
「愚かよなぁ……哀れよなあ……!先の光景は不可抗力から湧いて出た、万に一つの幸運じゃ。
もはや如何なる術をもって空を搔き回しても、わらわが空から墜ちる事はあり得ぬと知れ」
「墜ちるわよ……なぜならあんたは……ッ!
次の瞬間、ただ浮かんでるだけのデクの棒に化けるんだから……ッッ!!!」
広げた両手から濃縮された術力が輪のように広がった。
まるで常識が書き換えられて行くかのように術力の光が周囲を奔る。
それは本当に人間が起こしている所業なのか。
「流れるる水の深奥を知れ――『クイックタイム』!!!」
瞬間、詠唱と共に解放された術力の領域が空間を塗り潰すかのように広がった。
当たりを漂う土埃が、空気の流れが、急ブレーキを掛けたかのように遅くなりそして――
――そして、ヒビが入り、砕け散った。
「小賢しいマネを。その術は私には通用しない」
女王が
全術力をつぎ込んで発動させたロックブーケの奥の手を破却して、
「理解したか?……ならば、死ぬがよい」
立ち尽くす英雄たちの目に、希望の光は――
第2形態はフェロモン使わないみたいなんですけどね実は。
感想で色々教えて貰った時、毒霧とフェロモン挙げて頂きまして、これは凄くタームの女王っぽいので使いたいなと思ってました。
ってか、システム的な攻撃テーブルに乗ってないだけで、第2形態の決めポーズしてる際に絶対撒き散らしてるよフェロモン。
けして感想で指摘されたからクジンシーの評価を下げたかったとかそう言うのじゃないです。
言及すると良い訳に聞こえるかもしれないけど本当にそう言う訳じゃないです。