新宿はがんばる   作:のーばでぃ

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初めてタイトルにまともな名前を載せた男
ギリシャ神話が元ネタらしいけどどうしようもないってばよ。。。

ときに、「いいね」機能ってありますよね。
この小説ね、「いいね」が多い所を見ると一番上は詩人が「ヘエーエ エーエエエー」ってやってる所で、
後は大体クジンシー君がイジられて絶叫してるシーンなんすよね。

読者にすらイジられるのか、うちのクジンシーは……(困惑



ヘクターは思索する

――ヘクターだから話したんだ。ここでのこと全部、誰にも言わないでくれよ。

 

そう言って、ジークは帰路に就いた。

去って行く背中を見て、立ちつくすしか出来ない。

 

半ばだまし討ちのような流れではあったが、それでもジークは誠実に答えてくれた。

本当にどうしようかとため息をつくが、モヤモヤは欠片も晴れなかった。

 

ジークは良い奴だ。背中だって預けて良いと思っている。

アイツと一緒にレオン帝の下で仕官できたら随分楽しいだろうなとも思う。

あいにくとその想像は実現しなかったが、それでもあのバーで駄弁る時間は楽しい物だった。

 

……顔見知り同士の傭兵が、就いた勢力に分かれて剣を向けあう。

戦場の(なら)いだ。そこまで珍しくも無いし、いざとなれば覚悟もしよう。

だが……ジークは、傭兵ではない。

 

「かなうなら……戦いたくねえなぁ……」

 

実力云々は置くとして、そもそもジークに剣を向けるのはきっと後味が悪すぎる。

だが、話を聞いていて思った。

ジークはきっと、その時になったらボクオーンの方に就くだろう。

 

ヴィクトール運河の封鎖……あそこはバレンヌとロンギットを結ぶ重要な航路だ。

この二つの海がまだ北と南に分かれていた頃、バレンヌが相当な金をかけて人足を雇い掘り抜いた人工水路である。

故に、あそこを封鎖されるのは普通に帝国への利敵行為だ。

今はまだ噂にもなっていないが、航路封鎖によるダメージは今に市場へと影響してくるだろう。

帝国がこれを座して見ているなんて事はあり得ない。

 

ジークは……どうするのだろうか。

やはりヴィクトール運河に向かうのだろうか。

千年祭はもうすぐそこ。区切りとしたらそこだろうが、別に千年祭や好景気に興味があるようには見えなかった。

 

……つまりは明日、この時間が終わるかもしれない。

話をしない方が良かったのだろうか。

そんな考えが過って、振り払うように首を振った。

 

ジークには誠実でいたかった。そして、レオン帝にも。

 

結局、何を聞いてもボクオーンを名乗る首魁を見極め、討伐する事は変わらないだろう。

両方に対して誠実な選択。

それはこの話を墓まで持って行き、そしてアバロンの傭兵として最後まで戦い抜く事だけだ。

 

 

@ @ @

 

 

「ヘクター、少し良いか」

「皇帝陛下」

 

レオン帝に呼び止められて人払いされた時点で、何の話かは大体察せた。

 

「お前が進言してくれた帝国大学の件だがな。千年祭終了後を目途に着手が出来そうだ」

「それは……良い報告をしてやれるかも知れませんね」

 

レオン帝が視線を泳がせて苦笑した。

 

「タイミングが厳しい自覚はある。……しかし、さすがに千年祭を後回しにするのは経済の打撃が強かろうしな。……しかも、ここにきて頭の痛い問題が、な」

「ヴィクトール運河ですね」

 

学のない傭兵でも、アレがすこぶる頭の痛い問題だと云うのは理解できる。

「うむ……」と頷くレオン帝の表情は暗かった。

 

「……下手人が七英雄のボクオーンだという事の真偽はさておいて、だ。

モンスターと兵の混合部隊に電撃的に制圧されたという部分が気になっている」

「相手はモンスターを従えられる奴だと」

「それもあるんだが。……こういっては何だが、ヴィクトール運河は確かに通商の要ではあるが、その運用は誰もが必要としている為に仮想敵がいない。

早い話が、そこまで厳重な警備を置いているわけでは無いのだ。そんな場所を攻めるのに、モンスターとの混成部隊などという運用が難しそうな武力はあまり適切ではない。

……故に、その後何らかの動きを起こす事が予想される」

「つまり、運河を押さえた目的の事ですよね。……拠点を作って()()()()料を取るとか?」

「それもあるかもしれんが、それが主目的では流石に仕出かした動きに見合ってないな。海賊やれば良いだけの話だ」

 

自由に動き回れる海賊行為とは違い、拠点を決めて防衛するのは逃げ難い為難しい……と言う事だろう。

もし本当に首魁の目的が運河の奪取であるならば、そこを守り続ける必要が出て来る。

 

「まさか、要塞化……?」

「下手人のバックヤード次第だがな。十分あり得るだろう。――そして当然、帝国としてはそれを座視する事は出来ん。出来んのだが……」

「……タイミング、ですか」

 

この辺りなら俺にもわかった。

 

元来、これほどの事件であればいつものようにレオン帝を含めた精鋭部隊で討伐しに行く場面だ。

しかし千年祭が控えており経済のかじ取りが重要なこの局面において、流通にダメージを入れる事件が発生した。つまり、さらに経済的に微妙な舵取りが要求される。

 

これが何を意味するか。

――レオン帝は、舵取りで動けないという事だ。

 

今までレオン帝が出陣する際はヴィクトール皇太子が王城に控えて護りとしていた。

ヴィクトール皇太子も一緒に出陣する事はあったが、その時は大体すぐに戻って来れるような近場が相手だった。

そして南バレンヌに位置するヴィクトール運河は、なかなか遠い。

 

「……アバロンの盤石は、勇猛たるヴィクトール様と聡明なジェラール様でしょう?お二人揃っても無理ですか?」

「さすがにまだジェラールに実務はさせておらんからな……内相ともなれば関係各所との調整もある。いくら宰相がいると言えど、行き成り任せるには聊か以上に重すぎる荷だ。

……いつだったかヴィクトールにもその辺りを仕込もうとした事があったのだが、「私は『武』で、ジェラールの『知』を支えようと存じます!」とやたら元気よく返事して脱兎のように逃げて行ったな」

 

皇太子の気持ちが大変に良く分かる一幕だ。

肩を竦めて軽口が飛び出す。

 

「――賢い御子息ですね。俺も同じ選択をするという意味で」

「くくっ、ぬかせ……まあ、あの時に無理して勉強させていたとしても、この局面を任せるのは難しかっただろう。故に、いずれも痛し痒しだが、大体取れる手段が3つになる訳だ。

1. 千年祭終了まで経済調整だけで乗り切る。

2. ヴィクトールを運河に派遣する。

そして3……長くなったが、これが本題だった」

 

何を言いたいか、解ってしまうのが頭が痛い。

 

「……ジークに頼めないか、と」

「断っておくが、勅令でも強制でもない。まずはそのセンが期待できるかを確認したいのだ。

――私は、『アバロンの盾』を追放した貴族とは違うのだと身を以て示す事は出来ても、貴族を辞める事までは出来ん。そして傲慢のまま振舞う貴族も知っている故、関わりたくないと言う『盾』の意思は最大限尊重したいと思っている。

これは他国と言えど、貴人である我々の負うべき責でもあるからだ」

「存じています」

 

そう、よく存じている。

……こんな厳しい考え方をする皇族など、滅多にいないだろうなという事も含め。

 

「故に、形としてはお前にその(めい)を与え、お前が個人で『盾』を雇う……と言う形式になる。これなら王城と関わる事にはならないだろう。

彼が接触したくないのなら、私もそれを尊重して接触するつもりはない」

 

……瞠目する。

あるいは、ジークは受けるだろうか。()()()()()()()()()()()()()()()を。

 

――俺は、俺はもういい。

例えばこの話を持って行ってジークに了承貰えて、二人で運河に行って離反したジークと戦い――死ぬ。

そう言う結末になったとしても、この流れなら俺は納得する。

納得できる。

 

別の結末も十分あり得る。

例えば二人で行って、ジークがボクオーンを説得する。

うまく行けば交渉まで引っ張れる可能性はある。……「俺が交渉事?」と自分で訝しむ部分もあるが。

 

だが可能性だけで言うなら、かなり高い確率でアバロンにとって良い結果にはならないだろう。

 

「……そうか。話を持って行くのも憚れる、か」

 

長考する俺の顔を見て、レオン帝が眉根を下げた。

 

「いえ……話すのも俺から雇うのも、それは良いかなと思います。ただ……」

「ただ?」

「……その任務で、俺は死ぬ事になると」

 

自分でも不思議なくらい心穏やかなままそれを口に出来た。

斜め上の返答をしてしまった為にレオン帝が目に見えて引き攣る。

 

「それは……どういう意味だ?相手の事を知っているのか?」

「話せません」

 

きっぱりと言い切る。

例えこの件で何らかの咎を受けようと構わなかった。

これは、俺の矜持に関わる話だ。

 

レオン帝が首を振る。

 

「――いや、良い。ヘクターにも横の繋がりがあり、そして義を守っている事は分かっている。話さぬ事を以て裏切ったとは思わんよ。

そして、ヘクターを切る選択肢も問題外だ」

「……ヴィクトール様と出陣せよ、と仰るならば従いますが」

「話さぬ件が負い目だから、だろう?ヴィクトールは親の贔屓目無しでも確かに強い。強いが……まだ『兵』としての強さだ。『将』としての強さには届いておらぬ。

……そう、仮にも七英雄の名を謳い、モンスターを従えこのタイミングで運河を抑える者が相手。力押しだけでは通らぬ可能性が高い。

リスクだけで考えるなら、やはり千年祭が終わるまで見送る他はない、か……」

 

――状況がそれを許すならば、だが。

 

レオン帝の目が虚空を睨む。

きっと胸中では、俺が考える以上の深慮が渦巻いているのだろう。

 

 

@ @ @

 

 

この時のレオン帝の決断が、結果的に良かったのかどうかは俺にも分からない。

ただ、経済調整のみで乗り切る決断をした帝国に待っていたのは、堅牢無比な要塞がヴィクトール運河に作られたという報告だった。

 

――俺は傭兵だ。あくまで主のために戦うのが仕事。

だが……この件においては少なからず、責任を感じずにはいられなかった。

 




この件でヴィクトールを派遣して原作のような流れに……と思ったんですけど、レオンがそういう風に動いてくれませんでした。
レオン視点で考えてみれば、ヘクターは責任感じてるけどまず間違いなくMVPです。「自分はこの任務で死ぬ」と言ってなかったら多分かなりヤバい状況になっていたと思います。

レオンの挙げた対応手段と発生するリスクはこんな感じ。

1. 千年祭まで経済調整だけで乗り切る … リスク:要塞の建造。以後攻め難くなる
2. ヴィクトールを運河に派遣 … リスク:ヴィクトールの死亡。場合によってはヘクターやその他の精鋭も死亡
3. クジンシーへ依頼 … リスク:ヘクター死亡。その場合まず間違いなく情報がアバロンに届かない

どれが一番マシ?って言われたら間違いなく1でしょう。敵の規模も確認できます。
そんな風に考えてレオンは1を選びました。

3はボクオーンの意図を探れる可能性がありましたが、レオン視点ではそんなの考えよう有りませんし、その可能性だって随分低そうですしね実際。


……一番困ったのはレオンでもボクオーンでもなくて、まず間違いなく私だよ。
どうやってここから伝承法まで持って行こう……
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