でも大丈夫、ちゃんとわかってますよ君たちのパトスは。だからこそ私は皆様の為にキャサリンちゃんを登場させたのです。
多分もう出てこないけど、お詫びにキャサリンちゃんのとっておきの秘密を教えてあげるね!
実はキャサリンちゃんって……服着てないんだぜ!(キャー!)
マイルズは、遠かった。
とってもとっても遠かった。
左手に海を臨んで陸伝いにずっと歩けばつく所なので迷う事こそなかったのだが、それにしたって遠かった。
運河要塞以降は随分険しい山道を歩き、山が無くなったら今度はうっそうと生い茂る草木の獣道。
誰も、この道を開拓していないのである。
誰も、通ってすらいないのである。
って言うか、マイルズに辿り着くまで人里ひとつなかったのである。
迷う事こそなかったが、険しい道のり通れない道の迂回とひいこら言いながら辿り着けば、たっぷり2週間経過していた。
食料だって最初の4日くらいで底をつき、水の補充もままならず、仕方ないから出没するモンスターを吸収して突き進んで来たのである。
『吸収の法』はある意味、廃棄を出さないとってもエコな調理法だと思う。
余すことなく血肉となるので、1体吸収すれば4日は動ける。ナイフもいらないサバイバルのお供である。
――心底勘弁して欲しかった。
ヘロヘロになりながらマイルズに辿り着いて、とりあえず酒場の扉をくぐって、やっぱり第一声でミルクを頼んで、また爆笑された上で絡まれるんだろうなととてもイヤな未来予想図が浮かぶ。
そりゃもう、アリアリと予想できた。だってそうなったばっかだもん。
予想はさらに斜め上を行く。
マイルズについてとりあえず酒場で色々満たそう……と考えていた頃に、目に入った。
目に入ってしまったのだ。
船着き場の案内板……デカデカと書かれたその航路を。
「ソーモンから……船が出てただと……!?」
あまりの衝撃に、俺は膝から崩れ落ちた。
俺の2週間はすべて、すべて無駄な工程だったのだ。
@ @ @
「……ミルク……」
「あ、ああ……すぐに出すよ」
予想と反して爆笑も起きなかったし、絡まれもしなかった。
ただ会う人みんな、幽鬼を見たかのように引き攣っていた。
腹を満たしたその後は、宿を取ってそのまま2日くらい不貞腐れた。
――そして、路銀が底を突いた。
@ @ @
「……あなた、なにやってるんですか」
久方ぶりに合った仲間の顔は、もはや珍獣でも見たかのような表情で固まっていた。
俺は肩に担いでいた、小麦の詰まった麻袋を少し見て、答えた。
「……人足……お金なくて」
――これが、およそ数年ぶりに再会した仲間と交わした最初の言葉であった。
@ @ @
「大丈夫……大丈夫。俺、「金貸して」って言わないように頑張れるから」
「金の話はしてねえんですよ」
久方ぶりに合った仲間は既にキレていた。
案内されたのは船着き場の一画にある事務室兼倉庫みたいな所だった。
とりあえず人足の仕事が終わるまで待って貰おうとしたのだけれど、普通に話をつけれたらしい。この町では随分と顔が利くようである。
「ええと……その……久しぶり、ボクオーン」
「ええ、その久々に合った仲間が、知らん間に私の所轄で人足やってたのを目の当たりにした時の私の気持ちわかります???」
「ごめんなさい……」
頬杖付きながら机をトントントントンやって睨みつけてくるボクオーンが怖い。
話を聞きにやって来たのだから目的は達成できてる訳なのだが、出だしはすこぶる最悪だった。
目頭を揉んで、ボクオーンが大きくため息をつく。
「……まあ、良いでしょう。ちなみに私は、ここでは『テミウス*1』と名乗っています。七英雄の一人、ボクオーンの
「本性解放の時とで一人二役してるって事、か……?わかった、気を付ける。
……あ、俺はジークって名乗ってる」
「クジンシー逆にしてもじっただけですか。まあ、七英雄として見なければ連想されにくいですし、良いんじゃないでしょうか。
……そもそも、他の連中は偽名すら使ってなさそうな気がしますし」
「まあ、ダンターグは間違いなくそうだろうな……」
というか、ダンターグの場合は常に開放体のまま、獰猛なモンスター吸収して回って高笑いしている様子が凄い目に浮かぶんだよな。
アレ人里に居たらちょっとした事件だぞ。今どこに居るんだろう。
「……で、あなた一体何でここに居るんです?
まさか本当に金のないまま転々として人足やってたら偶然出会ったなんてオチじゃないでしょうね?」
「あ……うん。えっとな……ボクオーン、じゃなくてテミウスに会いに来たんだ」
そこから俺は、たどたどしく、いくつかつっかえながらこれまでの経緯を説明した。
ソーモンからアバロンに流れて、しばらくそこに居た事。
友達が出来た事。
ヴィクトール運河が封鎖されたのを知った事。
下手人がボクオーンだと言う噂を聞いて、運河要塞まで行った事。
そこでヴァイカーと会って、マイルズに居るという話を聞いてえっちらおっちら歩いて来たこと。
そしてやっと辿り着いてみたら実はソーモンから船で来れた事を知り、不貞腐れてたら路銀が尽きた事。
話が進んで行くと共にボクオーンの表情は苦渋と呆れで染まって行き、終わったころには頭痛に耐えるように頭を押さえていた。
「……バカですか?」
「面目次第もございません……」
「まさか運河から陸伝いに歩いてくるとは……2週間掛かったって?
……そうですね。途中の難所とか通ったルートとか、地図に書けるならその情報買い取っても良いですよ。1000クラウンくらいで」
「助かりますう゛ぅ゛ぅ……!」
ちょっといい武器が買えるぐらいの金額だ。友達価格としても破格だろう。
あんまり遠かったから、未練がましく何度も現在地と地図を睨めっこしてたのだ。頑張って細かく思い出して行く所存である。
「……それで?つまりあなた、その友達と事を構えたくないから私を止めに来た感じですか?」
「そう言う気持ちが無いったらウソになるけど……まずは目的とか計画とか、聞けたら良いなって。ヘクターと敵対するのは悲しいけど、それでも俺はボク……テミウスを取りたいって思ってる」
そう伝えると、ボクオーンは瞠目して長い溜息をついた。
「単刀直入に言います。突き放したような言い方になってしまいますが、別に他意はありませんよ。
――正直言って、私はジークを必要としていません。アバロンに帰った方がよろしいでしょう」
本当に単刀直入に、バッサリと切られた。
ウグッと詰まった俺の目を頬杖付きながら眺めつつ、ボクオーンが後を続ける。
「――そもそもあなた、隠し事も腹芸も出来ないでしょう?今私がやってるのは100%知恵働きですよ?ヘタに話して目的と計画をアバロンに匂わせられる事の方が私にとってリスクです。
ヴァイカーだってそのあたり、話さなかったでしょう?
……まあ、友達と別れてまで手伝いたいって言ってくれるのは嬉しくはありますけども」
最早ぐうの音も出ない。
隠し事も腹芸も出来なくて、ヘクターに手玉に取られて七英雄である事がバレてしまった身としては、特に。
「というか、これは私個人の信念と考えで動いている物です。ついでに大神官探しにも使えるようには展開してますけども、正直個人的な理由の方が大きいですよ。
だから他のメンバーにも共有していません。そしてその結果、ぶつかって妨害されても止む無しぐらいの気持ちでいました。
だから例えば、あなたがアバロン側として動いて運河要塞を制圧したとしても、私としては何も言うつもりは有りませんでした」
「……」
「ここであなたを無理に使って、あなたの友達と敵対させてなんて話になる方がよほど私の後味悪いですよ。なら、仲間に剣を向けるのが怖いならこの場できっぱり許可しますから、あなたはアバロンに戻って私と敵対するべきです」
……押し黙る。
ボクオーンの言う通りにする自分を想像してみた。
アバロンに帰って、ヘクターに情報渡して、そのまま運河要塞でヴァイカーに『ソウルスティール』したり
そちらの方が……そちらの方が、よっぽど度し難い。
「俺さ……『納得』したいんだ」
俯きながら、ぽつりぽつりと口に出していく。
「俺、アバロンにいたから。
今んとこ、テミウスがやってる事が『ヒドイ』を振り撒いてるようにしか見えなくて……でも、実際にやってるのは絶対そんな事じゃない筈で。絶対そんな浅くはない筈で。
このまま仲間を、ボクオーンを理解できないままで居るの凄く嫌なんだ。
だから納得したいんだよ……目的とか計画とかちゃんと聞いて、ボクオーンを手伝ったりして、『納得』したいんだよ。
……どこまでも……俺のワガママで喋っちゃってるけど……」
途中から『テミウス』が『ボクオーン』に変わってしまっていた事に後から気付いて、「えっと……ごめん……」と声が小さくなりながら謝った。
ボクオーンは、腕を組んで瞠目していた。
「……どうしてもというなら、条件があります」
「え……」
「3年……いえ、2年。アバロンと運河要塞に近づかない事、それが話す条件です。あなたは秘密を守ろうとしてもどうせ匂わせてしまうので、それだったらむしろ離れて貰った方が良い。
……でもね。私にそのつもりはありませんけれど、それはあるいはあなたの友達が、知らない内に死んでいるかもしれない……そういう選択になりますよ?」
ボクオーンは、最大の譲歩をしてくれているのだと思った。
俺は、無理を言っている。言ってしまっている。
それでもボクオーンは、俺の気持ちを汲んでくれているのだと思った。
ボクオーンには、仲間には、誠実でいたかった。
「……わかった。その条件で良い」
「確認しますが、『話す』条件ですよ?『使う』条件ではないですよ?
そっち方面の仕事なんて、今の所本当に雑用しかないんですから。それだって他にやらせたい所なんです。人を使うためのデータとして必要なので」
「……うん、わかった。それで良い。
でも、言ってくれれば雑用するよ?俺、そっちのが得意だし……」
ボクオーンが苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……あなた、ほんとその小物っぽさどうにかして下さいよまったく。
ともすれば、七英雄最強だって名乗れる力持ってるんですよ?今のあなたは」
「いや、完全特化型を指して『最強』は無いだろ……言わんとしてる所は何となく解かるけどさ」
確かに『ソウルスティール』は無法過ぎる力だけども。
無法っぷりならボクオーンだって他の皆だって、別に負けちゃいない訳だし。
諦めたように両手を上げられた。
「……良いでしょう、分かりました。お話ししましょう。
――私が目指す『完全律』の制定と、その計画について」
明日は多分お休みです。