穴がボコボコ見つかって後で大爆笑だぜ……?
そんな回です。
訂正連絡。
以前、クジンシーがソーモンに渡った際、「ヌオノからロンギット運輸使ってソーモンに来た」という事を書いてましたがモーベルムに訂正します。
ヌオノって武装商船団の秘密基地やんけ。通商路に入ってないよここ。
「――あなた、私が元々何の仕事してたか知っていましたっけ?」
何処からかキャスター付きの黒板をカラカラ持って来てボクオーンが言った。
「ええと……法律家だったよな。それで何で討伐隊の軍師やってたのかスゴイ不思議だったけど。あと術法が凄い達者なのも」
「それはなんと言うか……出来ちゃったからやってたとしか言いようがありませんが。まあ、良いです」
――とにかく、絶望していたそうだ。
学んだ法律も何もかも、最後にはすべて無駄になるあの時代の行政に。
「バカらしいのがね。例えば殺人ひとつとっても平民、貴族、神官で発生する罪はぜんぜん違うんですよ。
そんな状態でも鼻で笑えるのに……ワグナスの時のこと覚えてるでしょ?結局全部ガン無視して3日で処刑決定。特例重ねた上で結局それも一部の意向で全破棄ですよ。正直、自分のやってた事ってなんなんだろうって思います。
それでもね。それをやる事で国が良くなるんだったら、国全体の利益になるのだったら、必要な泥と思って飲み込みますけども。それで続いた行政は結局どうでした?
一部の貴族や神官がとにかく生き残るために他の者を全て食い物にする、腐敗した畜生を自分の命で養う為のエサ箱を総じて私たちは『国』と呼んでたんです。
私はそれが我慢ならなくて、かつての頃よりそれを脱却できる法律をずっと思索していました」
思わず俺は大きくこくこく頷ずきながら話を聞いていた。
言う事全て同感しか出てこなかったからだ。
「……他意はないんだけどさ。貴族の人でもそう言うの、思うんだな」
「そりゃ、貴族が全部腐ってる訳でもありませんでしたしね。
……でもね。現状に唾棄はしていても、自分から下の位置に落ちる人はそうはいません。やっても意味もありませんし。
だからこそ、大抵の人は今いる地位を守る事に固執する訳です。そしてそうやって腐って行く。
――ではどうするか?
最初は、腐った部分を切除する仕組みがあれば良い……とも思ったんですが、それやると今度は切除する部分が腐ったり、腐った所と供託始めるのが目に見えていてね。
根本的なシステムを考える必要があった訳です」
「それが……『完全律』?」
「その通り。と言っても現段階ではまだ瑕疵がある事は見えていますので、まずはその前段階のようなものを流布させたい。で、何が起こるか・私の考えた理論が正しいかを検証する……つまりは『実験』を行うのが最初の目標です」
……つまりボクオーンの中では、その『完全律』が朧気ながらもう出来ている、という事で。
正直、学のない俺には夢のような話ではあった。
だってどんな法律を作っても、それを守ってない奴を捕まえる方法が無ければどうしようもない訳で。
たとえ清廉潔白だけ集めて監視機構を組織できたとしても、いざ運用となるとずる賢く立ち回る奴との永遠のイタチごっこだ。
そのうち世代交代してやっぱり腐って行くのも目に見えてるし。
大体、それをやるための国がまず無いじゃない。
何処か乗っ取って制定するのか?それとも新しく国を作るとか?
「――そんな事、出来るはず無いと思うでしょう?
まあ、国とかの法律を作る意識で考えてるとまず無理でしょうね。なぜって、その法律を監視・執行・運用するのがどうしても国に依存してしまいますから。
――理解できるか分かりませんが、結論から言いましょう。
『完全律』とは、流通による実効支配を以て流動的な競争社会を促進させる為の、国や町、集落すらをも跨る大協約なのです」
……。
……??????
あ、なんかいま、うちうがみえたきがしゅる。
「……いや、これだけだと理解できないのは分かってましたけども、そのあまりに間の抜けた顔やめませんか……」
なんかとんでもない顔をしていたらしい。
「そうですねぇ、まあ考え方だけでも説明しましょうか。
――まず大前提です。
ここに、何処にでも行ける交通機関と何処の地でも使えるお金があると仮定します。その恩恵として大体どこでも物資が手に入るし、大体どこにいても世界各地の情報が入ってきます。
そして、世界各地の皆がそれを自由に使用できると考えてください」
マイルズまで来るのに物凄い苦労した俺にはとても涙の出る大前提だ。
それらはホントに、俺が欲しかった。
「……で、あなたの住んでるアバロンが、ある日を境に物価100倍に跳ね上がりました。……さあどうします?
なお、極端な例なので原因は考えず、元に戻る希望も見えない状況だと考えて下さい」
……なんか、凄く強盗やら野党やらが増えそうな過程だなと思う。
「原因を知ってる人とか、元に戻せるような人を捜して、状況回復へのお手伝いするとか」
「……あなたそう言うツテあるんですか……。
まあ、あなたのような人はとても有り難いと思いますが、大抵の人は余所に逃げる事を考えると思います。
だって何処にでも行ける交通機関と、そこよりマシに生きれる場所はどこかと言う情報があるんですから」
あ、そうか。逃げちゃえば良いのかなるほど。
「あー……でもそれって、国力の低下に繋がるから脱出禁止令とか出したりしそうじゃない?」
「ではそう言う人達から人々を守る事を商売にする、用心棒グループがやってきたら?」
「……なるほど、そういう人に依頼して逃げてく事を考えるかもしんないな。
でもさ、そう言うのって恐ろしくボッたくられそうじゃない?」
「では、その用心棒グループよりも安く良心的な値段で商売する用心棒グループBが現れたら?」
――呼吸が止まる。
そうか、情報が入って来るって事はそう言う参入もあり得るって事か。
答えは言うまでもなく、『用心棒グループBを使ってマシな土地へ脱出する』だ。
ボクオーンの口角は上がっていた。
「『競争社会の促進』とはそう言う事です。腐ったりアコギなことやったりしたら見捨てられるような状況を
結果、大衆やその土地が納得するような状況に自動的に落ち着くような舵取りを
法律による統制を行うのではなく、
ちなみにさっきの例ですが、物価100倍になったアバロンとボッたくった用心棒グループAは自動消滅する事になりますよね。別に警官だの国だのが犯罪者討伐に動いた訳でも無いのに。
そして逆に、長いこと誠実にやって来たグループは、より優先的に選択されるような信用を得るようになるでしょう。
この社会が成れば、例えばその警官システムも『治安を維持する商売グループ』が発生する事で民間の中で競争され、よりその土地にあった体制に最適化されます。
公共事業、福祉、保証、そう言ったものも競争の中でブラッシュアップされて行くでしょう。
各々の国は国力を保つために、『より良い国』を強制的に作り続けなければいけなくなる訳です」
……開いた口が塞がらない。
確かにその仕組みなら、凄い世の中になって来そうな気がする。
清廉潔白な奴集めて監視機関を作るとかよりも、よほど実現性のありそうな話だ。
ただ……
「……スゴイけど……忙しない世の中になりそうだなぁ……」
「はいその通り。この社会でうまく立ち回ろうと思ったら、
誠実な他者を見つけて身を委ねるか、自分で誠実な商売を始めるかの2択になります。
情報や物資の流通等も勿論競争させる訳ですから、膨大な情報を自らの責任で取捨選択する事になるでしょう。
詐欺や商売の供託、情報の締め出しなども起こるでしょうね。それによって抑圧されると言う事はそれがそのまま需要になる筈なので、それに反発する仕組みも自動発生する……と思うのですが。
どちらにしろ、黎明期は随分混乱すると思います。
でも、そんな社会であればいつか皆気付くんです。
普通に誠実な商売をして、自他ともに喜べる生き方をした方が、陥れるよりもよほど頭を使わなくて済むってね」
――誠実な人間に対しては、誠実に対応をしたい物ですから。
ボクオーンはそう言って、目を細めた。
腐敗やイタチごっこが続くのではなく。
誰もが自分の盾を探すのでもなく。
自動的に、人に対して誠実にならなければ消えていく社会。
「……スゴイ……確かにそれは、『完全律』だ」
少なくとも俺は、ボクオーンの語るそれが完全な夢物語だとは思えなかった。
ヴァイカーが信仰するのも分かる気がする。俺だって信仰するもんこれは。
「コンセプトは理解頂けましたね?
……では、本題に入りますが」
「え、これが本題じゃなかったの!?」
思わず声を上げた俺に、呆れた溜息を返すボクオーン。
「……あなたね。『計画』の話がまだでしょ」
「あ」
そう言えば黒板も使ってなかったな。
ボクオーンがその黒板に、おおざっぱな世界地図をさらさらと書きなぐった。
「……さて、この完全律の流布を行う際に、最も邪魔になるものがあります。それは『国』という要素です。
『国』は自分が消える事を許容出来ないため、必ず自分だけは生き残れるようにする要素を作ろうとします。
なのでこう言う協約を作ろうとすると、必ず主要の立場なりスポンサーなりの形で噛んでくるんです。少しでも意見が言えるようにね」
なるほど、これは良く分かる。
そしてそれが叶わなければ絶対潰そうとしてくるだろう。
だって不利にしかならないもん。
「さらに、完全律を広める為にはまず前提として、流通を掴める力が必要になる。それ故に実効支配圏というか、『生存圏』という地盤の作成が必要でした。
……さて、ここで意外な事実があります。
現在『国』という体裁を保って運用出来てる国、どうやら3つしか無いようなんです。
それが『バレンヌ帝国』『カンバーランド王国』そして『ヤウダ王国』ですね。
国交については位置的に『ヤウダ王国』がほぼ締め出されている状態であり、『バレンヌ帝国』と『カンバーランド王国』はオレオン海を通した航路で繋がっています」
ボクオーンがバレンヌとカンバーランドの航路に当たる部分に線を引いた。
「ここでさらに、オレオン海とロンギット海において輸送路で繋がっている主要個所を書き足してみます」
ソーモン、フォーファー、マイルズ、モーベルム、トバ、マーメイドの位置が地図に書き足された。
そして最後に、ヴィクトール運河がマークされる。
「……わかりますかね?ヴィクトール運河さえ押さえておけば、ここマイルズを除き2国の海運の影響をほぼシャットアウトできるんです。
つまり、ロンギット海に『生存圏』を作る事が出来るようになる」
「……おおお!?」
というか、実質ロンギット海って国の実効支配圏じゃなかったのか。
ヴィクトール運河があって初めてバレンヌが管理出来てただけで。
陸路だと険しい山脈が多すぎで、コストを掛けないと実効支配が出来ないんだこれ。
「もう大体わかったでしょう?
まずはロンギット海に生存圏を作り、流通に深く食い込んで力を得ます。そしてそのまま『完全律』のひな型となる輸送、共通通貨、情報と言った商材を浸透させます。
帝国は躍起になって運河要塞を取り返しに来ますが、地理的な理由でこの浸透を止めることは出来ないでしょう。後2年はね。
――その後、帝国に奪い返された運河要塞が解放され、ロンギット海周辺に浸透したルールがオレオン海にばら撒かれます。
アバロンとカンバーランドはもう食い込める時期が過ぎているため、同調か排他の選択を迫られるでしょう。
排他を選んだ場合、両国は海から締め出されるような状況になる訳です」
……で、後はそのまま『完全律』を陸路に浸透させると。
なんだこれ、スゴイ背筋が寒くなる。
ロンギット海への浸透前に対抗しないとその時点で全部手遅れじゃん。
「ある程度浸透したら、そこからやっとスタートラインですね。
我々がまず商材として護衛だの産業だのと出して成功して行けば必ず追従する者たちが出てきますから。
後はうまい事手離れさせて方々の投資に回って行けば、万一の為の影響力を残したまま競争社会を樹立させられると言う算段です。
ただ、最初の方はやはり武力がモノを言ってしまうでしょう。何か新しい事をやろうとしても、それを外敵から守る力は必要になる訳で」
「……つまりそれ、戦争煽っちゃうことになるのか……?」
「そうですか?
国が締め出されている状況での個々の武力なんてたかが知れています。
なら、もっと民衆が擦り寄りやすい、国以外の『力』があるでしょう?
……なんの為に私が『ボクオーン』を名乗ったと思ってるんですか」
「あ、ああああああああッッッ!?!?!?」
七英雄が帰って来たことを知れば、他の七英雄だって帰って来てるって当然思う!
つまり、七英雄がそのまま『武力』としての派閥の種結晶になるのか!
……まあ、皆が派閥の神輿として動くかはまた別の話だけど、少なくとも仲間内であれば変な戦争も起きないだろうし交渉だって普通にあり得る。
……待て?この計画、他のメンバーとぶつかるのもやむ無しって話だった??
七英雄を武力派閥の種結晶にするなら、俺らがある程度不仲って事にしといた方がよりやり易くなるな??
そりゃ、アバロンが嫌いなら同列のソーモンより別口のカンバーランドに行くもんな!?
で、後は俺たちが集まった奴らを都合の良いように掌でコロコロしてやれば良い訳だ!?
クッッッッッソこわいんですけどこの人!?!?!?
「……おみそれしました。おみそれしましたボクオーン様……」
「何クッッッッッソ気味の悪いこと言い始めてるんですかあなた……
まあ、これはすべてうまく行った場合の話ですし。実際にやるとなったら色々問題が出て来るでしょうから、しばらくは方々との頭脳戦でしょうね。あなたの出番は皆無です。
……そう言えばあなた、アバロンに出来る学校に行きたいそうで?
良いですねえ、ぜひとも色々学んで来てください。
頭脳働きが出来るなら色々押し付け……ゲフンゲフン、任せても良くなりますからね(ニッコリ)」
……あれ。
なんかおなかの方がキュウって言ってきた。
まるでかつての会社時代のように……
「……でもさ。思うんだけど、これ海路はともかく陸路に浸透させるの難しくないか?移動結構キツかったぞ?」
「競争社会の中で輸送技術も発明・発展してくるのを見込んでいるんですが……まあ、いよいよとなったらポータルを解禁ですかね」
「……ポータル。その手があったか……」
そうだよな、ポータル使えば良いんだ。
ワグナスが技術的な所は抑えている訳だし、アレで流通網作っちゃえばホントに『完全律』が加速する。
この世界でもポータルが使用可能な事は俺がすでに証明している訳だしってああああああ!?!?!?
今更ながら肝心な事を想い出し、俺は雷を受けたように立ち上がった。
あまりの剣幕にボクオーンの肩がビクッと跳ね上がる。
「どっ……どうしました?何か不安要素でもあったんです?」
ぎぎぎぎぎっと、油の切れた機械のように首を動かしてボクオーンを見つめる。
お腹の奥底からガッタガタ震えるのを抑えきれず、それでも何とか俺は声を絞り出した。
ジワリと滲む涙が染みる。
「……生きててごめんなさい……」
「本当に何!?!?!?」
@ @ @
やっと思い出した紫のクソヤバタームの事を伝えたら、それが先だろとゲンコツを落とされた。
本当に、大変申し訳ありませんでした。。。
ボクオーンの『完全律』構想。本人も瑕疵の存在を認めていますが、実際穴があります。
これ、コンツェルンとか組まれると非常に弱いんですよね。
最悪アーマードコアみたいに、企業による資本の奪い合い戦争に発展する恐れのある構想です。
あと、資源の食い潰しがかなり加速すると思う。
ただ、最初の内は七英雄が種結晶になり得るので、ある程度のコントロールは出来るんじゃないかなと考えてる感じです。
というか、何が起こるかをまずこの計画で見定める、本当に『実験』の性格が濃いイメージです。
麻薬の事書けなかったな……
ここで捕捉すると、アレはボクオーンにとって資金集め兼バカ除外装置です。
身体依存が無く後に響かないので、うまく付き合えばただの嗜好品になりますが、そのコントロールすら出来ない奴は自動的に有り金全て献上して破滅します。
計画を立てる上で最も除外したい不確定要素は損得度外視して突き進み周りに迷惑振り撒いて自爆するバカですからね。そう言うのはフェードアウトして欲しい訳です。そのための麻薬。
現実世界では人権だの倫理だのが邪魔して絶対に出来ない一手ですね。
原作本編の構図を作るために大急ぎででっち上げた構想なので、細かい瑕疵については勘弁してください……(汗