新宿はがんばる   作:のーばでぃ

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 3話続けて主人公が名前しか出ない小説があるらしいっすよ。


おわりのはじまり(後編)

 アバロンで一番強いのは誰か、と戯れ程度に耳にする事がある。

実際には対人や対モンスター、単体か複数か、距離や地形とシチュエーションによって随分と変動が大きくなるが、そう言った会話をする者は特段そんな細かい事は考えておらず、ただ単に会話の種にしているだけな訳だが。

 

 一応、模範解答はある。レオン帝だ。

実質的には違うとなったとしても、そう在らなければならない。

それに実際、剣が達者で天術も使えるレオンはオールマイティーに戦えるアバロン有数の強者である。

 

 だが。

 

 ――ヘクターだろうな、とレオンは思った。

 

 一緒に戦っているとそれが顕著に分かる。

陣形を組んでいる関係上ジェイムズと同じ遊撃の位置にいるが、それでもその働きが突出していた。

 

 とにかく素早く、的確で、そして一撃が重いのである。

どんなモンスターも大体両断している。乱戦になりかけても近く、そして展開しようとしている者から即時に斬って捨てて行くので乱戦にならない。

 

 弱点は遠距離だけだ。

しかしそれは攻撃手段がないだけで、弓矢程度なら躱し、切って落とせるほどの技量があった。

そして逆に言えば、その遠距離をこちらでカバーしてやれば無双が完成するのである。

 

 特に今日のヘクターは冴えていた。

運河要塞の完成に責任を感じているようで、今回の攻略戦においては何時になく思いつめたような顔をしていたが。

それはどうやらヘクターにとってはその実力を後押しする要素になっているようだ。

 

 レオンは戯れに、『盾』はお前より強いのかと聞いてみた事がある。

『アバロン最強』の声と同じく細かい事は考えない、ただの会話の種であったが。

帰って来たのは斜め上の回答だった。

 

「――ガチの()り合いなら俺が瞬殺されます」

 

 そんなバカなと思わず声を上げた物だ。

 

 曰く、戦士としての技量で負けるつもりはないが、種の分からない即死攻撃を持っているそうだ。

海の中で泳ぐ姿の見えないモンスターを事も無げに葬ったそれは、おそらくそれ故に防御も回避も意味をなさないだろうと云う。

人足仕事をやっている最中での遭遇戦だった為、事前の仕掛けによるものでも無いだろうと。

本人曰く『ただの隠し芸』だとか。

 

 冗談ではない。射程によってはアバロンの防衛ドクトリンを見直さなければならない話である。

『盾』が善性に寄った人物でなければと思うとゾッとする。

世の中は全く広いものだ。

 

 世の中は広いが、幸いにしてこの運河要塞にはそんな無法過ぎる攻撃を持つものは居ないようで、数の多い賊とモンスターの波状攻撃にも実に安定して戦えていた。

 

 

 ――そんな折である。

ある程度進んだ所で、その波状攻撃がぴたりとやんだ。 

 

 

「……なんだ……?」

 

 敵を倒しきった、訳では無い。

気配は普通にしているのである。

ただこちらの浸透を防ぐのではなく、こちらの動向を偵察し衝突を避けるような動きにシフトしたのだ。

遠巻きにこちらを眺める姿を見つけてはテレーズが弓を射るが、すぐに壁の向こうに引っ込み逃げ去ってしまう。

 

「ああー……これは……どういう事ですかね?陛下」

 

 流石のヘクターも困惑しきりだった。

 

「……我々の浸透を止めるのは無理と判断し、戦力の消耗を抑える選択をしたように見えるが……

だが、それだけではこの要塞を攻略されてしまう。

ならば何らかの仕掛けなどを以て罠に嵌めるのが定石なのだが、我々をそこに誘導しようという動きすらない。

 

ならば考えられるのは……

 

我々が絶対に衝突しなければならない要塞のトップが罠のある場所で待ち受けているか、あるいは……」

 

「確実に我々を倒せるという自信のある実力者か、ですか……」

 

 ジェイムズが続けたそれに、レオンは「うむ」と頷いた。

 

「しかし後者の場合、部下と一緒に襲い掛かってくれば良いのに相手は待ち受ける方法を選択している。何らかの仕掛けが居るのか、その規模から部下と一緒に戦うのを嫌うタイプなのかもしれない。

――どちらであっても私たちの選択肢は変わらん。各自、気を引き締めて行くぞ。

道中も、むしろ危険度が上がったと考えろ」

 

「「「「は!」」」」

 

 

 全員の脳裏に、ひとつの過程が浮かんでいた。

要塞の中を快進する我々を前にしてなお、我々を倒せる自信がある者。

 

 ――七英雄 ボクオーン

 

 それが、この先に居るのだと。

 

 

@ @ @

 

 

 ヘクターは、この先にクジンシーが待ち受けるのならば斬るのは自分の役目だと覚悟していた。

あるいは、真っ先に死ぬのが自分の役目だと。

それがアバロンの傭兵として仕える責務なのだ。

 

 幸いこの中に、彼の顔を知る者は誰も居ない。

左目に籠手という特徴はあるものの、名さえ呼ばなければ『アバロンの影の盾』という彼の名誉は守られるだろう。

 

 遠巻きにこちらを眺める奴らをちらりと確認する。

……なるほど、本命をぶつけて消耗した所にあれらを突っ込ませ乱戦に持ち込まれたらかなり危ういかもしれないと、ヘクターは敵の動きの効果に内心感嘆した。

 

 少なくとも相手は将として優秀だ。そしてまともに戦わない狡猾さもある。

去年、運河が制圧された時に戦力を派遣しなかったレオン帝の過剰な警戒は確かにあっていたのかもしれない。

 

 ひと際大きな扉を開く。

それは運河要塞の屋上に繋がる搬出入口だった。

開け放った先、広い屋上で待ち構えていた物は2つの檻と僧兵だろうか、鎧に身を包んだメイスを持つ男。

そして、緑の衣を纏ったように見える、まるで枯れ木のような見た事も無いモンスター。

 

「……お前がボクオーンか」

 

 レオン帝が、男に言った。

 

「来たか、皇帝」

 

 メイスを持った右手が上がる。

 

 後方に控えていた2つの檻の前面が開くように倒れ、中から這い出て来たのは2体のモンスター。

あちらは知っている。リザードとパイロレクスだ。

中々厄介なものを手駒にしている。

 

 そして、クジンシーの姿が見えない。

2年間アバロンに戻れないと言うからここで缶詰でもしているかと思ったが、どうやらそうでもなかったらしい。

ヘクターの中から憂いが一つ消えた。

 

「一応勧告しておく……投降しろ」

 

「フンッ、まるで勝てるつもりのような物言いだな。

様式も良いが、ここまで至ればもはや言葉は不要であろう。

 

――押し通して見せるがいい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の瞬間、ヘクターの大剣がレオン帝の首を刎ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

ヘクタアアァァーーーッッッ!?!?!?

 

 刎ねた自身も信じられない表情で凍り付くヘクター。

そしてそのまま流れるように、自らの心臓にその大剣を突き立てる。

 

「な゛……な゛に、が……」

 

 血を吐きながら、驚愕の元に倒れ込むヘクター。

胴と分割され、薄れゆく意識の中でレオンは見た。

 

 ヘクターに繋がっている、非常に見えにくい術力の糸。

それが男の傍に控えていた、枯れ木のごときモンスターの手に繋がっていた事を。

 

ま、マズい……これは……ッ!?

 

 地面に落ちる首と血しぶき。

墜ちた衝撃と暗転する視界。

 

 ――レオン帝は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 男のメイスが降り上がる。

 

やれええぇぇいッッッ!!

 

 凍り付いたパーティーに、リザードとパイロレクスが襲い掛かる。

 

 

 

 そして搬出入口から、遠巻きにしていた大勢の賊とモンスターも駆け込んでくる。

 

 

 

 最悪の状態から最悪の挟撃。

彼らはもはや、動転した頭で迫りくるそれらを見つめる事しか出来ない。

 

 

 ――かくして、アバロンの誇る最強精鋭部隊は殲滅された。

ただの一人も、例外なく。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 血に染まった屋上に、もはや物言わぬ骸となり果てたそれらを見てボクオーンが歯噛みした。

 

「‥…ヘクター?ヘクターだと……ッッ!?よりにもよって、お前が来るのか……ッッ!?!?」

 

 特に突出していた優先警戒人物。

ゆえにこそ、ボクオーンの『マリオネット』の標的となった男。

 

 

 ――そしてクジンシーが、友と呼んだ男。

 

 

……後味の悪い殺しをさせおって……ッッッ!!!

 

 吐き捨てるボクオーンの声が苦渋に染まっていた。

確かに、警告はした。2年間、その間に死んでしまうかもしれないぞと。

この光景だって、全く想像していなかった訳では無かった。

 

 だが。

 

「ボクオーン様……申し上げ難いのですが」

 

 俯くボクオーンに、ヴァイカーが躊躇いがちに声を掛けた。

その右手が、パイロレクスのキャサリンとリザードのモートンを制止させていた。

彼らは今でこそ『待て』に従っているが、香しい血の香りに舌なめずりをしていた。

 

 ヴァイカーだって、クジンシーが溢したヘクターの名前は憶えていた。

 

「――侵入者たちの遺体の処遇を。うちの子たちが興奮しておりますれば」

 

 差し支えなければ、餌にしてしまいたい。

そう言う話である。

……それは、クジンシーの友であるヘクターも、例外無くだ。

 

 ボクオーンは目を閉じた。

 

「……軽く清め、棺に入れてアバロンへ送還せよ。全員だ」

 

「送還‥‥‥ですか?このまま情報遮断した方が、時間稼ぎに有効ではありますが」

 

 ボクオーンが力なく首を振る。

 

「ヴァイカー、貴様は私に憤って良い。これは実利からの指示ではない……私個人の、私情だ」

 

「ボクオーン様……」

 

「その方らの肉は、私が大至急手配しよう」

 

「い、いえ!?そんな滅相も無い!?!?」

 

 踵を返すボクオーンをヴァイカーが慌てて制止したが、ボクオーンはわずかに立ち止まって俯きながらポツリと答えた。

 

「……すまんな。苦労を掛ける」

 

 クジンシーに伝える事を考えたら、足取りがとてつもなく重く感じた。

ヴァイカーはその痛々しさに、もはや声も出なかった。

 

 そして、ふと思い出したようにボクオーンが顔を上げる。

 

「……そうだ。送還と同時に、この運河要塞は捨て駒だけ残して一時引き払うぞ。

そうさな……1か月ほどで良いか。1か月、この要塞を帝国にくれてやろう」

 

「――()()()()()()()()()

 

「そうだ。()()()()()()()()()()()()()()な。残す物資などの選定は任せる。最悪、すべて残して構わん。しかし、「完全律」の資料だけは……私はあまり作らなかった筈だが、もしあるならしっかり退避させておくように」

 

「は。承知いたしました」

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ガタンッ!!とヴィクトールが立ち上がった。

驚愕にまみれ、見開かれたその眼が虚空を睨みつけている。

 

「……兄上?」

 

「バカな……そんな、バカな……ッッ!!」

 

 ジェラールの問いにしかし、震えた声しか返せない。

 

 信じたくない事態だった。

だが、それでも。確かに『実感』としてあるこの感覚は――

 

「父上……!!」

 

 ヴィクトールの脳裏に、父、レオン帝の最後の姿が浮かび上がる。

首を刈られ、しかし確かに見たモンスターの手から伸びる術の糸。

 

「真実だった……あの女の言っていた事は!『伝承法』は!真実だった……!!」

 

 兄の流す涙を見て、ジェラールは何が起こっているのかを察した。

そして同時に、それでも信じられない父の訃報を。

 

 ヴィクトールが右手を掲げる。

そこには、武門一辺倒で全く出来もしなかった天術の光が、父レオンの得意とした天術の光が、確かに握られていた。

 

 ――証明としては、十分過ぎた。

 

「父上は……レオン帝は殺されたのだ。だが、ここに居る!確かに父上は今、ここに居るのだ!!

継いで行かなくてはならん。父上が残してくれた力を、想いを……!

そしてこのアバロンをだ!!

 

 

――俺が、先帝の無念を晴らす!!

 

 

――『伝承法』

魔物蔓延る乱れた世の中で、今後もバレンヌを永く支え続けた秘法が根付いた最初の出来事であった。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ヴィクトールの決意は哀しく、そして雄々しかった。

しかして、それが結果に伴う事は無かったのである。

 

 この後、運河要塞から5つの棺がアバロンに送り届けられた。

首を切断されたレオン帝の亡骸に、アバロンの民たちは、そして王城の高官たちは、否応にもその死を認めるしかなかった。

 

 その後、ヴィクトールより『伝承法』について高官たちに説明がなされ、レオン帝が死ぬ要因となったモンスターとその恐るべき能力について共有された。

モンスターについての仔細は終ぞ分からなかったが、その能力への対策はいくつか生み出される事になる。

 

 ――相手の体を無理やりに操る事が出来る力。

複数人を一度に相手に出来るのであれば、最初の一手で全員自殺させれば良い筈なので、対象は一人、ないしは二人のみと考えて良いだろう。

 

 ならばある程度は陣形で対処可能だ。

相手を囲う様にして広く展開すれば、仲間を攻撃するまで距離があるため反応も出来るだろう。

そして体を操る力なのであれば、術を主体に戦えば良いのである。

 

 要塞道中を攻略する隊と術の練度が高い者で構成した隊を作り、前者を軸に突入して消耗を抑え、後者を仇にぶつける。

 

 そう言った策を用意して運河要塞に突入した第2次攻略隊はしかし、思いの外あっさりと運河要塞の制圧に成功してしまった。

 

 ――居なかったのである。

あのモンスターと、メイスの男が。

そして戦力も最初の頃より随分と落ちているように見受けられた。

 

 実は最初の突入によって、随分すぎるほど戦力を削る事に成功して居たのではないかと考察され、釈然としないものはあっても概ね受け入れられた。

これはレオン帝の死んだタイミングの関係で、全滅に至る決定的な場面だった最後の前後同時攻撃をレオン帝が把握できて居なかった事による弊害だった。

 

 だが、それでもあの時屋上に居た敵のメンツが揃って消えているのが不気味だった。

 

 それでも仕方ないので運河要塞を奪還し、幾つか人員を割って要塞を防衛させ、この地をどう運用していくかの検討を行う。

ヴィクトールは運河要塞の視察と周辺の平定、そしてアバロンにて政務を行うというアバロンと運河を何回か往復する様な忙しない状況に置かれた。

 

 

 ――そして1か月後。

 

 

 

 強固であった筈の運河要塞が強襲され、ヴィクトール含む守備兵が鏖殺された。

 

 

 

 ――夜間の奇襲。

それもあったのだが、何よりの要因は運河要塞内部に続く秘密の抜け穴という、全く想定外の場所から戦力を投入されたからである。

そしてヴィクトールはそれを把握しておらず、全滅を強いられたその戦闘の要因を伝承する事が出来なかった。

 

 バレンヌ帝国第31代目皇帝ヴィクトール。

わずか1か月という、バレンヌ帝国が始まって以来最も短い任期でその命を散らす事になった皇帝。

結果だけを見るならば、彼が後世に伝えられるような功績が何も無いまま死ぬと言う、後世の人間から見れば無能の烙印を押されたような最後だった。

 

 いや、唯一『伝承法』の証明を身を以て行ったと言う点は功績と言っても良いのかもしれない。

 

 ――かくして、バレンヌ帝国は第32代目ジェラール帝へとその(たすき)が渡された。

後世の歴史家はこれを指し、帝国史上最も困難な状態での帝位継承であったと指摘する声もある。

 




 これでアバロン側には七英雄の情報は何一つもたらせる事なく、しかして『マリオネット』の情報だけは手にして原作と同じ状態になりました。
ジェラールは泣いて良い。クジンシーも泣くしかないけど。

 ヴィクトールとテレーズがデキてるって話、活用できなかったね……こう言う事もある。
無理くり入れようとすると蛇足にしかなんないんだもの、仕方ないね。

 原作の『マリオネット』の効果は『行動未完了の対象一名の攻撃対象を敵味方反転させる』と云うものです。
だからラピットストリームでボコれた訳だけど、コレ人形遣いを前面に出されてるボクオーンの技としては違和感持ってたんですよね。

 だってこれ、人を操る技なのよ?いうなればレガート・ブルーサマーズなのよ?
『行動状況関係なく、対象一名の物理最強技を選択し対象の陣営を攻撃させる』くらい出来ても良くないですか??
……まあそれをやるとボクオーンが七英雄最強レベルに強くなるからやらなかったのだろうけど。なんか開発の人はボクオーンを最弱にさせたかった様にも見えるし。
しかしそれをやってもまだレガートの方が上位互換なのホントヒドイなあの漫画。

 ヴィクトールの死因となった秘密の通路ですが、アレはキャットが見つけた奴です。
そもそもあの通路、だれが何の目的で作ったのよって話ですね。
ボクオーンが、こう言う事が出来るように、あるいは逆に脱出出来るように扉も偽装して作らせた物でした。
キャット超有能。

 そして原作では運河要塞攻略後、要塞が奇麗さっぱり解体されますがその理由が今回の一件になります。
敵が作った迷路みたいに入り組んだ要塞なんてなにがあるか分かったモンじゃないので、全解体に踏み切ったんですね。少なくともこの小説では。
原作の方では何で跡形もなく消しちゃったんだろうね……解体めっちゃ大変だったろうに。もしかしてリベサガでは跡地とか残ってたりするのかな?
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