私のお気に入り小説もいくつか追加されました。大変に嬉しい。
……で、何でリベサガでも同じ現象が起きないんだ……???
拙作を見て、ロマサガ知らない人でもお楽しみ頂けているようです。ありがとうございます。
中には「これを見てロマサガやってみたくなりました」という声も。
……ありがたいんだけどそうじゃない、そうじゃないんだ……!
自給自足状態をどうにかしたいんだよ私は……!!
しんじゅくは
ウイスキーは、リーブラで仕入れた。
飲めはするけど未だに味の良し悪しは分からないから、評判が良いと聞くものを無造作に一本選んだ。
未だにこれをストレートで行って何が楽しいのか理解に苦しむ。ティファールの酒場のマスターが作ってくれた果実水割りで何とか飲めたが、正直言うと俺は普通に果実水を飲みたい。薄めで良いから冷たい奴を。
それでもまあ、美味しいと思えないだけであって飲めはするのだ。ストレートだって。
何ならイッキだってもう出来る。咽ずに飲み下せる。
どうやらアルコールには強かったようで、未だに何杯あおっても前後不覚になったりした事ないし。
酒に強くても味を楽しめないなんて、すごい残念な体質だと人は言うだろう。
地面に並べたグラスにウイスキーを注ぎ、胡坐をかいて座り込んだ。
月明かりに照らされるウイスキーは琥珀のように輝いて奇麗だが、あおってもやはり味は好きになれなかった。
「――飲み方が違うんだよそりゃあ。勿体ない事しやがって」
これ、結構良いヤツだろう?
もう一つのグラスに口をつけて、ヘクターが言った。
月明かりにグラスを照らして、色を吟味して笑ってる。
そしてボトルに視線を滑らせて、続けるのだ。
「カンバーランドの上モノじゃねえか」
「……カンバーランドのなのか」
「知っとけよお前。高いぞコレ?」
「それは知ってる……ボトルで4800クラウンした。輸送費ある程度まけてくれた上でそれだって」
「わかっててイッキとか馬鹿かお前は。
ウイスキーってのはな、舐めるようにして楽しむんだよ。物にもよるが、色を見て、香りを見て、少し舐めてピリッとした痺れの中にある甘さと豊潤さを味わうんだ。だから注ぐ量は少なめにな」
――せっかく良い樽なんだからちゃんと味わえ。
そう促されて、怪訝に思いながらも琥珀の水に少しだけ口をつける。
「……。味は良くわかんないけど、香りは、好きだ」
「そーだろ!!ウイスキーは香りを楽しむのも重要なんだよ。
キャラメルみたいに、甘い物とかと一緒に食べれるなら最高だな。なかなか味わい深いんだぞ?」
「……でも、俺の周りのやつはみんなウイスキーをイッキして飲んでた……」
「そいつら全員そのボトルで後頭部カチ割れ。バカじゃねえのか!?」
お前もしてただろ。初めて会った時に。覚えてんだぞ。
どの口で言ってんだとジト目で睨んでみるが、本人は気付いてすらいない。
「……そーいやお前、頑なにウイスキーには手ぇ出さなかったよな。なに、なんかトラウマあったの?」
……ああ、そうだ。
ウイスキー奢るって言われて、絶対飲まないからなと声をあげて、そしたらしぶしぶワインで乾杯したんだったっけ。
「……決戦前夜だったんだよ」
「おん?」
ぶすくれながらも、しょうがないから話してやる。
「ワグナスとダンターグが両方ウイスキー頼んで。その二人に挟まれてたから俺もウイスキー頼んで。あんまりキツかったから後悔したけど、それでもちびちび飲んだんだよ」
「はあ、その時から苦手意識が?」
「バーで酒入れながら作戦会議だよ。諸事情あって王城の会議室使えなかったもんだから。
……そうさ、あのターム襲撃は独断専行だった。民を見捨て、籠城決め込む上の連中を無視して、俺達は攻め入る事を選んだんだ。
引き返すなら今のうちだって言われたけど、俺は王城に迎合する方が何万倍も辛かったから、置いてかないでくれって懇願したよ。
他の仲間も、引き返す奴は誰も居なかった」
「はは、血沸く話だ。大好きだぜそう言うの」
「――だから俺達は、その決意を胸に乾杯したんだ。
勝利のために。王城ではなく、俺達の切り開く未来のために。
――そしてみんな、その乾杯でイッキしてグラスを干しやがったんだ!!俺以外の奴ら!!みんな!!
俺もイッキするしか選択肢が無かった……!!」
思わぬ話の方向に、ヘクターが噴き出した。
「ぶはっ、ちょっ、おま、それで後悔するぐらい強かった酒をそのままあおったのか!?くっは、そりゃあ苦手意識できるよな」
「俺だけ盛大に噴き出した」
「ブッはハハハハハハハクソッ、あっは、あはははははははは腹いてえっっ!!」
派手に想像してしまったのか、ドゴドゴ地面を殴りながらヘクターが腹を抱えた。
賢しくも、右手のグラスは既に地面に退避済みだ。
ますますもってぶすくれる。
「……ちぇっ。好きなだけ笑うが良いさ」
「ひはっ、っく、あは、す、すまんって、あっは、いやお前をバカにする意図はねえんだけどさ、クク、ズル過ぎるだろそれ!エピソードがズル過ぎるっっっ!!」
無敵の鉄板ネタじゃねえかと笑うヘクターだが、こいつは俺が自分から笑いものになるネタを他にも披露するとでも思っているのだろうか。
「はひー、はひー……クック、七英雄ってな思ってたよりずっと気安い奴らだったんだな。これハオラーンにバレたらスゲエ事になるなホント」
「……あいつまだいんの?」
「旅には出てるぜ。主に東を回ったらしい……お前が東に行ったと思ってたようで、アテが外れたと言ってたよ。……で、最終的にアバロンに戻ってくる訳だ。謎の巨大な人面鳥の噂を仕入れて唄ってたよ」
沈黙する。
はーん……東に巨大な人面鳥、ね。
もしかしたら、もしかするかもね。
南に赤い髪の巨象だった訳だし。
「お前さ、この2年何処に行ってたんだ?東じゃないなら、南か?」
「うん。ルドンの方でちょっと……ナゼールにも行ってたけど」
「こりゃまた厳しそうなところに……どーせアレだろ?またモンスター間引いたり、なんとなしに誰か助けたりしてたんだろ」
「……。さあね」
「はは、拗ねるな拗ねるな」
……どうもこいつは、俺を肴にして酒を飲むフシがある気がする。
「……俺はさ。正直随分安心したんだ。
相対するのはお前だと思ってたから。だから、真っ先に剣を向けるのも、真っ先に切り殺すのも……あるいは真っ先に切り殺されるのも、俺の役目だと思ってた」
「……」
……何を返せば良いのか、解らない。
「お前を相手にする事ばっか考えてたからかね……予想もしなかった所で足元を掬われた。
……いや、実際掬われたのか?俺は一体何をされたんだ?未だに解からねえ。
ただこの、訳の分からない凶悪な一手……お前がかつて、海の中に居たモンスターを手も触れずに殺した時の事を想い出した。
……あいつが、あのメイスを持った男が、ボクオーンだったんだな」
「ちがうけど」
「え」
悟ったような表情をするヘクターを訂正してやると、固まって動かなくなってしまった。
……本当に、何を返せば良いのか分からない。
「……え、違うの?あいつ無関係?」
「いや、無関係ってか……隣にモンスター居なかった?緑の衣を着た枯れ木みたいな」
「あ、うん、居たけど」
「それがボクオーン」
「え」
「それがボクオーン」
大事な事なので2度言ってあげた。
……ボクオーンは初手で自分の事を弱く見せて、油断させたまま即殺する手段を好むからな。
ボクオーンに詳しく聞いた訳じゃないけど、たぶんヴァイカーを押し出して自分は付き従うモンスターの一人ですみたいなムーブしてたんだろうな。ありありと想像できる。
キャサリン*1とかもいた筈だし、そりゃあ違和感なかっただろうよ。
運河要塞を攻め落としたのにモンスターを使ってたみたいだから、ボクオーンに対するイメージなんて『モンスター使いの知将』止まりだっただろうし。
ヘクターが頭を抱えていた。
「……戦う前から負けてたんじゃねえか……!」
「そうじゃなきゃ、ボクオーンは戦わないよ?」
「クッソ怖えよ。レオン帝の警戒も流石だったけど、実際は認識を3段ぐらい上げなきゃいけなかった訳か」
「それ出来る材料がバレンヌに揃ってたら、ボクオーンは戦わないよ?」
「だから怖過ぎんだってお前の仲間はよ!?」
そーなのよ。
みんな何かしら吹っ飛んだところ歩いてんだもん。
ホント良く分かるわその気持ち。
肩を落としていたヘクターが一息ついて顔を上げる。
何もかももうイイヤと投げ捨てたような諦めの表情だった。
「……まあ不本意な形だったとは言え、俺達はもうバトンは渡したんだ。後はもう、流れに任せるしかないからな。考えたってしょうがねえ。
……そうさ、こうしている時間が特大の奇跡の産物なんだ」
ヘクターが立ち上がる。
いつの間にか持っていた大剣を担いで、真剣な顔で。
「だからさ、ジーク……ちょっと顔を貸しちゃくれないか」
@ @ @
――そこは、ヘクターと最後に歩いた人気のない林道だった。
以前とは違い林が切り開かれ、新品のタイル歩道が整備されている。
そしてその道は、いつ建ったのか大きな建物へと続いていた。
……たぶんアレが、新設されたというアバロン帝国大学なのだろう。
「前に来た時はただの林だった。あれから2年が過ぎて景色もガラッと変わった。
……時代は移り変わる。『大剣のヘクター』の名も、きっと飲み込まれて消えてくんだろうと思う」
そう語るヘクターの背中は、少し寂しそうに見えた。
「ヘクター……」
「前もって言っておくけどな。この状況はお前のせいでも何でもないし、俺はちゃんと覚悟していたんだ。その結果として今がある。
今更それも混ぜ返して、俺の誇りを踏みにじるような真似するならお前でも許さないぞ」
「……」
――誇りを、踏みにじる。
それは、
俯く俺の目の前に、ビッとその大剣が付きつけられた。
「――尋常に、手合わせ願いたい」
顔を上げる。
「『大剣のヘクター』が時代の中に溶けて消えるのは、良い。仕方ない。
でも最後にその機会が与えられたんなら……せめて、せめてお前に覚えていて欲しい。
俺の技を、俺の剣を。お前に覚えていて欲しいんだ」
見上げたそこにあったのは、負の感情など欠片もないヘクターの顔だった。
「お前の本質が、騎士でも戦士でも兵士でも無いのは解かってて言ってる。
何なら例の良く分からん技だって存分に使ってくれて良いさ。それでやられるなら、『大剣のヘクター』はその程度のやつだったってだけだ。
https://www.youtube.com/watch?v=OzWs8hmykd4
俺が、俺の生きてきた道が、七英雄の足元にも及ばない脆弱な物だったのかどうか……
――しっかりと測らせて貰うぜ、クジンシー!!」
……本気か。本気なんだな、ヘクター。
運命を恨むでもなく、俺を恨むでもなく。
ただひたすらに、俺の事を友達だと思ってくれていたんだな。
一瞬瞠目し、ヘクターを見据えた。
「……後悔するなよ。俺は、七英雄の中でも末席も良いトコだ。
だから――」
弾いたコインにヒビが入る。
開放体で見たヘクターの魂は、眩い程に青々と輝いていた。
「――最初から全力で!!行かせて貰うぞヘクター!!」
@ @ @
――ヘクターの剣を最後に見たのは、共に北バレンヌを歩いた時だっただろうか。
高次元に速く、鋭い。
一言で言えばそう言う剣だった。
こうして剣を合わせてみて、それだけでは表現が足りないのが良く分かる。
(――的確で、重い――ッッ!!)
切り込んでくる重い太刀筋を必死になって弾きながら、開放体になってなお手にしびれを覚えさせるその腕前に戦慄した。
確かに俺は才能がない。ノエルに仕込んで貰った剣術だが、どちらかというと剣より冥術の方が得意だったりする。
だが、それでも数千年振るってきた剣術なのだ。
いくら才能が無かったとしても、流石にそれなり以上の物にはなってる自負はあった。
あった、が――ヘクター相手では足りないらしい。
「おおおおおおおおああああああッッッ!!!!」
裂ぱくの気合と共に次々と繰り出されるその斬撃に、フェイントなどという小賢しいものは何もなかった。
ただひたすら最短で最大の攻撃を適切な角度で打ち続ける、そう言う剣だった。
躱されたら躱した先に、弾かれたら弾かれた先に、ガードされたガードのされたその先に。
致命攻撃連続捌きチャレンジエンドレス。
――冗談じゃない!!
「――くっ!」
こちとら、才能が無いから小細工が前提の剣だと言うのに!!
袈裟斬りを受け止めた瞬間に合わせて尾による薙ぎ払いでスタンを狙う。
とにもかくにも一息付けたかったが為の奇策だったが。
「うぉらあっ!!」
ヘクターはその薙ぎ払いを踏みしめて高らかに舞うと、体を一回転させて痛烈な強撃を落としてきた。
――ガギギギッッ!!!
防御の腕力をわずかに上回り、その大剣の刃先が頭蓋に食い込んだ。
――なんとか、食い込んだ程度で止めれたが。
そのまま何とか掴んでアドバンテージをと左手を伸ばすが、ヘクターはその手を蹴って体を離すと一瞬で体勢を整えた。
「――へっ!!転ぶ心配が無さそうなのは便利だが、デカいから死角が増えてるし小回りが利いてないぜ!!人のままの方が良かったんじゃねえかい!?」
「こかされて瞬殺される未来しか見えんわ!!何でその大剣で片手剣の俺に追いつけるんだ天才め!!」
「秘訣は毎日続ける愚直な訓練だぜってなァッ!!」
――ガガガガガガガガッッッッ!!!
アバロンの夜に凄まじい剣戟の応酬する音が木霊した。
見ようによっては互角に見えるのかもしれないが、俺の行動リソースがことごとくヘクターへの対応で潰されている。防戦一方だ。
攻撃力に必要な『捻り』や『溜め』、『体重移動』。
それは確かな隙になる筈なのに、そこに確かに隙がある筈なのに、ヘクターの動きに差し込む余裕が全くない。
というかこんなに剣をぶつけていればさすがに得物がダメになる筈なんだが。
俺のは術力で修復できる魔剣だから良いとして、あの大剣は絶対におかしくないか。
ズルいぞコイツ。そもそも呼吸はどうした。なぜスタミナが続くんだ。
「ッ、ハアッッ!!」
体重を使って何とか押し込み、ノエル直伝の二段斬り。
しかしそれを弧を描くように一太刀で撃ち落とすと、お返しと言わんばかりに2筋の閃光が奔る*2。
「ガ、ハアッッ!?」
捌ききれなかった。
特大の太刀筋を二つまともに入れられた。
ヘクターが叫ぶ。
「――かっっっったいカラダだなオイ!?そこらのモンスターなら難なく3分割出来るんだぞ今のは!?」
「クッソ痛いわフザけた体幹しやがって!!鬼と呼ばれる悪魔のカラダだぞそう簡単に両断されたら溜まったモンじゃないわ!?!?」
「はっ、流石に鬼とはやった事ないなぁッ!!」
「あったら指差して3日くらい笑ってやるわフザけんなこの非常識が!!」
「そのナリで常識語るたぁヘソが茶を沸かすぜジークゥッ!!」
――ガガガガガガガガッッッッ!!!
悪態つきながらもなお続く剣戟の応酬だが、だんだん入れられる太刀筋が多くなってきた。
――ダメだ。無理だ、もう限界だ。
剣だけじゃあもうとても、ヘクターの相手は出来ない。
嗚呼、認めよう……俺の数千年培ってきた剣術は、ヘクターのそれを前にしたら控え目に言ってカスだった。
薙ぎ払った『冥』の爪が、ヘクターの死角から襲い掛かる。
いつだって苦しい戦況を切り開く一手になっていたそれは、すんでの所で大剣を差し込まれてその威力を大きく減衰した。
「ぐッ……ようやく色々使う気になったかよ!」
「なんで今ので反応出来るんだよ!?」
「勘ッッ!!」
「お前マジいい加減にしろよ!?」
『冥』と『水』。
瘴気に浸食されて澱んだ水が、毒気を帯びた砲弾となって撃ち放たれた。
合成術『ポイゾナスブロウ』だ。
同時に、大きく距離を離すように、円を描くように旋回。
ヘクターの後ろに回り込む。
「クソッ、その図体でアウトレンジかよ!」
「近距離やったら負けるのが良く分かったからな!!剣の腕は間違いなくお前の方が上だよ!!」
「そりゃ光栄な事だなァッッ!!」
アウトレンジから近づかせないように『爪』と術で弾幕を張るが、それでもヘクターはうまかった。
毒を避け、爪をさばき、そしてやはり最短経路で俺に向かって突っ込んでくる。
つい最近見た光景だ。ダンターグに詰められる氷海の
アレの気持ちが本当に良く分かる。
もはや恐怖しかないぞこんなのと相対したら。
「シャアアアアアアッッッ!!!」
叫びをあげて切り込んでくるヘクター。
踏み込まれた分だけ下がろうとするが、しかし地形がヘクターに味方した。
下がって戦えるだけのスペースがない。
ここはまあまあ広く整備されているとは言え、あくまでただの歩道なのだ。広場ほどのスペースは無く、そして開放体となっている俺にとってアウトレンジに徹するには狭すぎた。
瞬く間に先ほどの距離に詰められて、再び防戦を強いられるのである。
「クッッ、グウウゥッッッ……!!」
――ガガガガガガガガッッッッ!!!
「オラオラどうしたぁ七英雄殿!?使える手ぇ全部使わねえと喰っちまうぞぉっ!?」
『ソウルスティール』の事を言ってるのだろう。
ヘクターが猛って挑発するが、あいにく簒奪する余裕すらない。
――こんな時、俺が取る手は、取れる手は、いつだってひとつしかなかった。
迫りくる剣閃。
対応を間違え、俺の放った逆袈裟が地を打つ間に胴を流し斬られた。
「グガッッ、ガアアアアアッッッ!!!」
吹き出る青い血を視界に入れつつ、強引に体勢を引き戻す。
被弾覚悟で身を固め、巨体をそのまま砲弾にするかの如く突進した。
タンターグの『ぶちかまし』。あそこまでの威力は望めなくとも。
――しかしヘクターは対応する。
まるで闘牛士の様にひらりと身を躱すと、すれ違い様に背中に一閃入れて行った。
「雑になってるぜジーク!!」
「うるさい!!こうなればもはや骨のひとつふたつくれてやる!!重い一撃がお前だけのものと思うな!!」
左手を構えてさらに突進。
今までになかった形に多少警戒したのか、ヘクターは剣を柔らかく握りスタンスを広げ、カカトを上げて身躱しの構え。
俺は突進からの左手による一閃から続く剣閃の狙い――
そう思わせて視線を誘導させた上で、ヘクターの後ろから『冥』のラインを繋げた。
先ほど地面を打った時に、そこに『冥』のラインを待機させておいたのだ。
剣から地面へ。そして今――地面から、ヘクターへ。
繋げたラインを通して送り込む!!
「――ぎ、があああああああああッッッ!?!?!?!?!?」
ヘクターの不意の悲鳴が木霊する。
神経を直接、抓くり回された痛みが迸っている筈である。
そしてその直前には、勢いをたっぷり付けた俺がすぐそこまで迫っていて。
「お前は受けるの初めてだったな……食らっとけ!!」
――数千年の人生で最も力を入れた渾身の腹パンを、隙だらけになったヘクターのボディに叩き込んだ。
『肉を切らせて骨を断つ』――今も昔もどうやら俺は、最後にやる事はちっとも変っていないらしい。
破城槌に激突したかのように吹っ飛び、ゴロゴロ大地を転がって動かなくなったヘクターを見て、俺の頭にそんな考えがよぎった。
@ @ @
「……へっ……届かなかった、か」
「お前俺のこのナリみてもそう言う口叩くワケ??」
人間体になってもなお、全身傷だらけである。
いちおう一発『生命の水』を被ったが、まだ治り切っていない。
満足そうに、それでいて悔しそうに呟くヘクターの言は随分以上に的外れだと、声を大にして抗議したい。
ズタボロにされた方が勝者ってそれ、何処の三流フィクションだろうか。
大の字になって笑うヘクターが力なく言うのだ。
「お前に奥の手があるのは解かってた……それを使わせたくて足掻いてみたんだが……ハハッ、決まり手が『腹パン』かよ。こりゃもう納得するしかねーや」
俺だって腹パンで決める事になるとは思わなかったよ。
「……俺の剣、刻んでくれたか?」
ヘクターのその言葉に瞠目する。
「ああ、イヤって程にな。もうやりたくないぞホントに……」
「ははは……そっか。刻んでくれたか」
その体から、淡い光が立ち上り始めた。
指が、足が、頬が――まるで布から糸を抜くように、柔らかくほどけ始める。
ああ……ああ、これが最後か。これで最後なのか。
思わず掛けたい言葉が一気にあふれ出して……それがノドで渋滞を起こして、結局何も言えなくなってしまった。
口を開いたのは、ヘクターの方だった。
「――満足だ。この奇跡に、心の底から感謝してる。
ありがとうな。
ジークが友達で……ジークの友達でいれて、本当に良かった」
「……ッ、ヘクター!!!」
気づけば俺は、あぐらを組んだまま叫んでいた。
そこは、さっきの大学への歩道では無かった。
地面にはウイスキーが注がれた、口のついてないグラスが二つ。
俺の叫びはむなしく、夜の墓地に溶け消えて行った。
どくどくと、耳元で鳴っているかのような心臓の音を自覚する。
首筋にじっとりと汗をかいていた。
目の前には、墓石。
ヘクターの名前が刻まれた、墓石。
――帝国歴1001年。その比類なき大剣はいつまでも皇帝陛下と共に。
ぽたり、ぽたりと。
頬を伝って零れたそれが、ウイスキーのグラスに落ちて小さな波紋を作った。
「……おぼえてるよ。お前の剣は、俺がずっと。
おぼえてるよ……ヘクター……ッッ!」
それはきっと鮮明に。
俺の中に残り続けて行くのだろう。
さようなら。
俺のはじめての友達――
ロマサガ2名物亡霊イベントでした。
本当にあった事なのか、それともクジンシーの妄想だったのか。
それは皆様のご想像にお任せします。
感想は追ってまとめて返します。
ちとちかれた……(´・ω・`)