1クラウン100円換算でも、高くて4000クラウンぐらいが適当の様な気がしてくる。
……いやしかし、それは技術が揃ってる現代だからこそなワケで、そうでなければもっと高いか……?
一応設定としては妥当だったのか……?
入学費はどう設定しようかな。
軽く調べたら『中世ヨーロッパの大学費用は無料、もしくは実質無料だったと考えられる』なんて記述を見つけてしまったけど流石にあのアバロン大学の設備で無料は辛いだろうし、かといって大学設立の理由には頭脳働きできる人員を急募する為って側面もあるから高過ぎてもダメだし……
入学費用は掛けるが、最初はパトロン募って奨学金という形で貸し出し、その後はその返納金で奨学金を回して支援するのが適切か。
金を返させる名目でアバロンから離れづらくも出来る。
大学で培った頭を持って士官も出来るなら、嫌と思う奴は少ないだろう。
奨学金……今にして思えばなかなか優れたシステムですな。
みんなちゃんと返してくれるならだけど。
再びマスターの所で厄介になる事になった。
挨拶に行ったら「またウチで働くんでしょ?」と既定路線の様に言われた。
とてもありがたい事なのだが、妙に釈然としない物を感じるのはなんでなんだろう。
リーブラで仕入れた海鮮干物はアバロンにもチラチラ出回っていたが、それでも結構喜ばれた。
というか、知らん間に新メニューが追加されていた。タコのカルパッチョだ。
実はアバロン港付近でもタコが獲れるらしく、ロンギットの風を受けてにわかに食卓に上がるようになって来たらしい。
アバロンでも生ダコにありつけるのは結構嬉しい。
ハオラーンだが、今2か月くらい前にまた旅に出たという。
東を雑に回ったから、今度は南を回るという話だった。
……なんと言うか、タイミングが凄いな。
ルドンの宝石を掘り出すのが1か月遅かったらバッティングしていたかもしれない。
いや別にバッティングしても良いんだけども。
ていうかもしかして、時期的にナゼールから戻った時のリーブラ辺りで会っててもおかしくなかったのか?
……いや、でも普通にニーベル辺りに滞在しててもおかしくないしな。
あそこは何だっけ、竜の巣とか言う格闘家がモンスター退治やってるんだっけ?
英雄譚大好きなアイツがニーベルに滞在してても別に不思議はないな。
――そして、必然的にヘクターの話もした。
マスターは俺がヘクターの訃報を知らなかったと思っていたようで、既に墓参りも済ませた事を語ると軽く驚いていた。
何処で聞いたのかと聞かれると、運河要塞の顛末は有名になっていると答えたら納得したようだ。
運河要塞は、ロンギット海の流通が成熟するまで国家が介入出来ないようにする『蓋』だった。
ボクオーンとしてはもう少し成熟させたかった部分はあったらしいが、それでも情報商材を扱い始めた事で、蓋を解放しても許容出来るフェーズになっていたらしい。
それはつまり、ヴァイカーは最後まで役目を果たしきり、バトンを繋いで見せたという事なのだろう。
ボクオーンに陶酔して剣幕が怖い奴だったけど、命を賭してやり遂げてみせたのは普通に尊敬する。
再度の侵攻は完全に放棄し、今あそこは『ミラマー』という名でロンギット通商連合のオリオン海への進出窓口となっている。
町の発展にはシレっとリーブラも嚙んでいたりするから抜け目がない。
ソーモンとの海路交易再開と同時にコンテナ船がやって来て物価がスゴイ安くなっただろうから、バレンヌとしては凄いビックリしただろうな。
……いや、情報ぐらいは仕入れてたか?
経済的な問題によるデフレではなく流通量増加によるものなので一気に好景気突入だ。
オレオン海の物品もロンギットによく流れるようになったらしい。
……しかも規格はロンギットのそれに合わせる形で、だ。
ボクオーンの計画通りである。
――ボクオーンの『完全律』の流れは、着実に育っていた。
@ @ @
アバロン大学入学費用は7500クラウンだそうだ。
奨学金制度が出回ってるようだけど、ルドン・ナゼールの情報レポートで稼げた俺は自前で払う事に決めた。
――そう、金は問題ない。
問題は、入試の方だ。
今期の入試はもう終わってしまったと聞く。
つまり、来季の受験日が来るまで猛勉強する時間が出来たという事だ。
入学費は7500クラウンだが受験料は50クラウン、身分の優劣なしとの事。
なお、過去問とかは特に出回っていない模様。
そしてここでアバロンが神対応。
大学内に設置されている図書室は、学習室と合わせ一般の人間でも1ヶ月10クラウンでいつでも利用OKだそうだ。しかもたまに無償で講義が開かれたりする事もあるらしい。
ヤベーよこれもう殆ど入学じゃん。
来期までの動き方はこれでもう決まったようなものだ。
……後は、ほぼ学が無い俺が本を読むのとたまにの講義だけで受験を突破できるか否か。
解らない所はノートとかにメモって後でまとめてボクオーンに聞いてみるとか許されるかしら……?
でももう十分迷惑かけちゃってるのに、あんまり粉かける事になるのツラいんだよなぁ……
そんなわけで、朝は大学の学習室で勉強、夕方からは酒場で丁稚、たまにアバロン周辺の調査というローテーションが続く事になった。
働ける時間が半分になったので、その分給料も半分だ。
入学費には手を付けられないからその分は切り詰めてヤリクリしないといけない。
――任せろ、得意分野だ。
そも、生きるだけなら裸一貫でその辺に放り出されてもやって行ける自信はある……いや、やっぱ服は欲しいが。
『吸収の法』というカロリー摂取法がある俺は、他の苦学生よりも随分恵まれたポジションに座っているのだ。
それでも客商売だし、身嗜みだけはキチンと気を遣わなきゃだけどね。
「……ジーク君さあ、ちゃんと食べてる?」
ある日、木のジョッキを片付けてる俺にマスターが怪訝そうに声を掛けてきた。
なお、その前の日は水しか口にしておらず、さらにその前の日は周辺探索による吸収でゲットーを丸っとおいしく頂いただけだったりする。
「……タベテルヨ?」
「ホントにぃ?」
「タベテルッテバ」
いや、その、うん、『吸収の法』は食事に入るよな……よし、大丈夫だ食べてる食べてる。
あれモンスター1体で4日間は元気ハツラツに動けますんでね。
つまり吸収してから4日は食べてる事と実質同じだものね。
ヨシッ!オレウソツイテナイヨ!
別に頬がコケるとか体形が変わるとかも無い筈だ。
……そも、この体は幻体だからそう言う事は無いけども。
「じゃあ、昨日は何を食べたんだい?」
なおも深掘りしてくるマスターである。
少し詰まってから、答えた。
「……ウサギさんを」
「まさかの狩り!?」
まあウサギではなくウサギの亜人ではあったが誤差だよ誤差。
「まさか自給自足しているとは……通りで買い物の気配がない訳だ」
買い物の気配て。
……あーでも、俺が買い物に出るとしたら時間帯がどうしても限られるものな。
お客さんとかの会話で「ジークが買い物に行ったトコ見ないよね」みたいな流れが出たりしたのかもしれない。
「でもさ、狩りだけだと栄養偏るし何より安定しないでしょ。モンスターも出るし……いやモンスターはどうにか出来るんだろうけども」
むしろそのモンスターがご飯なんですけどね。
「私も先日知ったんだけどね。大学が出来てから学生需要を見込んで下宿施設が値上がりしてるんだって?奨学金で学費は何とかなるからって、まあアコギな話だと思ったよ。
ジェラール帝としてもこの問題を危惧してて、叶うなら学生や浪人生の為に格安下宿施設を運用したくはあるらしいんだけど、今の帝国の予算事情で赤確定の施設を作るのと、学生を偽って利用したがる奴が絶対出るってんでルールとか色々考えなきゃいけない事が随分多くて、どうもまだ手が回らないらしくてね」
「おお……値段上がったのってヴィクトール運河封鎖による景気のあおり食ってたからじゃないんだ……」
「古い古い!いや、2年離れてたんだから仕方が無いけども!」
確かに、戻って来てから値段上がってたの見て「あー……」ってなりはした。
しょうがないので素直に支払っているが、少なくとも俺みたいな裏技が使える人間じゃなかったら、勉強して働いて少しずつお金を貯めるって言うのはかなり無理がある金額だとは思ってた。
「しかも奨学金制度のパトロンの一部にその下宿運営している人間が名を連ねてるってんだから辛い話だよねぇ……学生から絞って、卒業した後も絞るってんだから」
うわあ……よく考えるよなあそう言う隙間に差し込むような手管。
せっかく頑張って大学建てる予算確保して、頭脳働きが出来る人材を増やす土壌を作れたぞって思ったら、実状は勉強しに来た人間を搾り取る仕組みになってましたは流石にジェラール帝も憤ってんじゃないか?
「……まあ、
そうなったとして学生たちの環境が改善される訳で無し。
だからさ、我々民間でも何かできる事は無いかって、最近部屋が余ってたりシェアハウスが出来そうなとこに1ヶ月って期限を決めて学生さんを受け入れる運動がポツポツ出来てたりするんだよ」
「へえ……民間が自主的にそう言う運動するの凄いなあ……うん?痛い目って言うのは?」
「知らない人間を下宿させるって言うのは結構勇気居るけどさ、1ヶ月ごとに更新させることで人となり見て、折り合い付かなかったら自然に契約打ち切れるだろう?
それでも問題は何かしら起こるかもしれないけれどね」
……流されてしまった。
「給料上げてあげても良いんだけどね。でもそれだと、ジーク君が前みたいなシフトになった上でハオラーンが戻ってきたら多分、赤ギリギリになっちゃいそうでね。
かと言って余ってる部屋もある訳じゃないんで、どうしようかなって思ってたんだけどさ」
あれ、俺を下宿させてくれるって話になってる……?
てか、俺が前のシフトになるってどういう状況想定してるんだ?
俺、アバロンに永住するつもりないぞ??
「いや、俺は別に大丈夫だぞ?実際なんとかなってるし、お金もちまちま溜まるレベルには支出抑えてるし……入学金の方はもう確保済みだし」
「そのやりくりの秘訣が狩りとか、流石にゴリ押しかつワイルドすぎでしょうよ。大体、栄養だって取れなくないかい?」
「いや、フツーにどうとでもなってるんで……」
幻体はカロリーだけなんとかなってれば維持だけはできるし、本体であっても『吸収の法』があればどうとでも出来るし。
今更ながらノエルは本当に凄い術を開発したものだよ。サバイバル能力がめっちゃ高いもん。
この術が無ければ皆して異界に追放された時点で詰んでたからね。食糧不足で。
それに、毎回それだけに頼ってた訳でも無いから生存術は自然に身に付いていく訳で。
七英雄全員そんなんだぞ。それに比べれば今の生活は全然ストレスにもなってない。
「……で、物は相談なんだけども。
最近、簡易住宅建築キット*1って言うのが出回ってるらしいんだよ」
「ああ……知ってるよ。リーブラで発明された奴。コンテナ船で輸送も出来るから土地開発に便利なんだよな」
逆に言えばコンテナ船に積む為に大きさとかも制限がある訳だけど、普通に拠点にするには十分過ぎるんだよな。
コンテナに車輪パーツ付ければ人の手で押せなくも無いから、考えようによっては豪華な携帯テントとも言える。
……まあ、そのスタイルで長距離移動は無理があるから流石に言い過ぎか。
組み立て解体も時間掛かるし……
「それでさ。費用半分出すから、それ買って部屋作っちゃわないかい?ウチの隣に併設しちゃっていいからさ。使える空間狭いけど、Sサイズの奴ならギリギリ行けそうなんだよ。
4ヶ月くらいで元が取れるよ?」
……うわあお。
「それつまり、下宿運動の1ヶ月契約を抜いたバージョンって事だろ。破棄がし難くなる。普通にリスクじゃんか」
「はっはっは、ぬかしおる」
……普通に流されてしまった。
4ヶ月で元が取れる、か。
つまり8ヶ月やれば半額出してもらう必要もなくなるし、何ならその分はプール金から出しても良い。8ヶ月で回収できる見込みがあるし。
非常にありがたい話ではあるんだけど……
「……やめとく」
流石に断った。
「えー、なんで?学生から金絞ってる下宿施設に金貢がなくても良くなるんだよ?」
「考えるとこソコ??
……いや、そう言う話なら全額出しても別に良いんだけどさ。金半分出すのも全額出すのも、何か拗れた時にマスターが「出てけ」って言いづらくなるだろ」
「考えるとこソコ??君相手ならそう拗れるなんて事ないでしょうよ」
何でそこが最初から除外されてるのか理解に苦しむんですが。
「……本当にどうにかなってるってのもある。あと、金が掛かる約束事は両方が得する形じゃないならやめとけって聞いた」
具体的には、ボクオーンがそう言ってた。
マスターが「あー……」ってなっている。
今回の話は、マスターの得が無さ過ぎるしな。
「そもそもアバロンに永住するつもり無いしな。ある意味身軽な今の状態はやり易くもあるんだ。とてもありがたい話だけど、気持ちだけ受け取っておくよ」
そう言ってきっぱりと断ると、マスターは苦笑して肩を竦めた。
「そっか、残念。……でもまあ、そう言う選択肢もあるのは覚えといてよ。
君は両方に得が無いというけれど、私はジーク君には世話になっていると思っているし、だからこそ君を応援したい気持ちもあるんだ」
「大丈夫、その分の給料はちゃんと貰ってる。応援、ありがとうな」
――本当に、感謝しかない。
この上でさらに負担を書けるなんて俺の胃が死ぬしな。
でもせめて、その応援の為にも、カッコよく一発合格と行きたいものだ。
@ @ @
『
アバロンの影で活動する実験機関である。
発足してまだ間もなく、実験的な意味合いが強くてまだ任務内容もハッキリしていない。
更にその存在は極秘となっており、王城でも知る者はほとんどいないと言って良い。
具体的にはジェラールと宰相のみ。しかも活動資金はジェラールのポケットマネーであり予算にも組み込まれない徹底さだ。
……逆に言えば実質予算はないと言ってるようなものだが。
それでも今の所はそれほど影響は出ていない。
現状ではまだ『組織』よりも『計画会議』とでも言うべき状態だからだ。
とはいえ、いくつか実働が行われている案件はある。
「……失敗しちゃったかぁ……」
墓地下にあるシーフギルドの酒場で、ジェラールは苦笑しつつ溜息をついた。
――ひとつ、種明かしがある。
実は酒場のマスター、『
とはいえ、スパイだのなんだのをやって居る訳ではない。
元々シーフギルドと酒場のマスターは繋がりがあり、さらにアバロンの内情も把握して居る情報通の為、『耳』として迎え入れられたのだ。
命令系統や拘束力、給料も存在しない現時点でのこの組織。
そのため、大体マスターが情報を上げるだけで『
目的は、『
だからこそ『下宿先』は国の施設ではなく個人であるマスターの所轄である必要があった。
国が万人の為に用意した施設よりも、個人がその人の為に用意した場所の方が何となく離れにくいものだ。
なお、金についてはマスターから言い出したものだ。
ジェラールは費用負担を申し出ていたが、この提案はマスターとしても嬉しい物だったのと、流石に個人の下宿先の建築費に皇帝陛下の財布を使わせるのは恐れ多すぎた為このような形になった。
マスターとしては全額出しても良かったが、それだと彼はしり込みするだろうと言う配慮で半額になったのだが……今回はそれもダメだったらしい。
キャットづてに報告を受け取ったジェラールは、失敗してもなお感銘を受けてうんうん頷いていた。
「金が掛かる約束事は両方が得する形じゃないならやめとけ、か。すごい金言だなあ。誰の言葉だろう」
「マスターとしても嬉しい話だったみたいだけど、こういうのって『両方が』両方得すると考えてないとダメなのね。……それとも稀有な一例かしら?」
「いやいや、それでもそれは心がけて行きたいものだ」
「……一国の皇帝陛下が商売の話してやがる」
「何言ってるの、皇帝だからこそ商売の感覚大事だよ。最近凄くそう思ってる。
だって国を富ませて税収増やすなら産業を豊かにして経済を回すのが一番強いんだから。
……しかしそうか、身軽なのが気楽で良いというのも理由にされちゃあ、この方向の考えはやめといた方が良さそうだね」
この話が出た時、スパローは「まるで真綿の綱で繋ぐような話だ」と表現した。
彼は「それじゃあ繋いでも逃げ出されるぞ」という意味で言ったのだが、それを理解した上で「本当に欲しい人材は真綿でこそ繋ぐべきだと思うよ。君たちのようにね」とジェラールは返した。
苦笑しながら『降参』のポーズをするしかリアクションが出来なかった。
「大学入学に向けて勉強中、か。きっと彼が仕官してくれる事は無いのだろうけど、それでも応援したくなるな。
――なんならゆくゆくは『偶然』大学内で会えるかもしれないしね。なんて言ったって私もしっかり『大学生』だ」
客寄せの為だと無茶ぶりで受けさせられた入学試験だったが、そう言う可能性があるなら籍を置いて正解だったとケラケラ笑う。
キャットが苦笑しながら言った。
「皇帝さんの入学は大学建設した年だったと思うけれど、卒業っていつになるのかしらね?」
「え?さあ。
「こいつ……」
とてもさわやかに自身の留年を語るジェラールに、だんだん性格悪くなって行ってる気がする、とスパローは思った。
そも、公務で忙しい皇帝陛下が普通に単位を取って卒業は出来なさそうですけどね。
それでも客寄せの為に、たまに普通に大学に来て授業を受ける時もあるそうですよ。
来ることは前もって周知される訳では無いので、皇帝陛下とお話してみたい人は普通に毎日通って授業を受けるし、教師もいつ皇帝が来ても良いように毎回ちゃんと授業の準備をするから、適度にいい刺激になっているとか。
大学としても、ジェラールを卒業させる訳には行かなくなったよね。
万年留年生の皇帝陛下か……そういや授業料はどうなってんだ。