新宿はがんばる   作:のーばでぃ

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新宿はさとりをひらいた

 

――ノエルが「ああ」だったから期待していた。

ただそれだけの話だった訳だな。

 

当然のことを当然のように飲み込むのにずいぶん時間が掛かってしまった。

 

そもそも自分でわかっていた筈だった。

上も下もウンコしか出さないシステムの中で、優越感と盾を得るしか考えない人間のような何かがはびこる社会の中で、会社から王城に生きる場所が変わったとしても何かが変わる訳がない。

というか、王城の中ほど澱んでいるのだと判り切っていた筈じゃあないか。

その中でノエルやワグナスがびっくりするほど『人間』だったものだから、「あるいはここは」とか思ってしまったのがいけない。

ウンコの作ったウンコの巣窟に居るのは基本的にウンコなのである。

至極当然じゃないか。

 

つまり、システムから抜け出すために足掻く()()()、討伐隊に入って『吸収の法』を受けただけで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()俺が悪い。

もちょっと色々考えなきゃいけなかった訳だ。

当初の目標、『平民のまま同化の法を受けて力をつける』という部分は驚くほど順調に進んでいるのだから、もっと前向きに考えるべきだ。

王城での、討伐隊での地位向上は()()()()()()()()()のである。

 

悟ってしまえば、精神的な何かがスコンと収まるとこに収まった気がした。

 

やり方はノエルが教えてくれてた。

とりあえず俺は、テキトーに挨拶敬語を返して置けば良いのである。

沸騰した奴が実力行使に出る事もしばしばあるが、『吸収の法』と訓練で力を増しつつあった俺は、やられた事だけを機械的に返すだけでそれを訓練時間にすり替える事が出来るようになっていた。

つまり、面倒くさく突っかかってくるやつは喧嘩両成敗に持ち込んでしまえば、あとは基礎訓練やるだけの時間に早変わりするの術だ。

罰として課される腕立て腹筋ランニングが力になっている実感を感じ始めると、ちょっと楽しくなってきたりする。

力で見下せないと判った奴らは、以降は無視したり陰口を叩いたりしかやってこなくなるしね。

最初は何の力も無いとか見下してた奴がだんだん力をつけて自分に迫ってきたら、今度は知恵だの血筋が足りないだのしか言わなくなる辺りが分かりやすいよね。

これで言い返せる部分が無くなったら掌返して最初から同僚でしたみたいに振舞い始めるんだろ? 知ってるよ。

ばっちいから近づかんとこ。

 

 

それにつけても『吸収の法』である。

 

最近、モンスターの図鑑を読む機会が増えた。

ノエルやワグナスのおかげでこう言う資料も読み放題。本を丁寧に扱ってれば文句を言われる()()()()()()

彼らには本当に感謝しきりだ。

なんかそれを気に入らずに嫌味を言ってくる奴がちらほらいるが、図書室ではお静かに願えませんかね?

流石にここでは実力行使もしてこないので、対応は耳栓だけで十分というのは楽で良いけども。

 

で、モンスターの図鑑だけれども、ここに書かれている奴らが『対応すべき危険な敵』というより『おいしいご飯』に見えて仕方がない。

取り込んだらどうなるのだろうとか、どんな力を得られるだろうとか、そういう空想が止まらない。

 

一度は殺されかけたタームだってそうだ。

俺が出会ったのは斥候か何かだったのか、何も持っていないやつだったが。

タームにも兵科があるようで、剣と盾持ってたり術杖(スタッフ)持ってたりする奴がちゃんといるらしい。何なら羽が生えている奴も。

ああ言うのを取り込めば、俺も剣術を身につけられたりするのだろうか。

そもそもタームって剣術訓練をやったりするのだろうか。

俺が殺したアイツを取り込んでたら、どういう力を得られたのだろう。

 

ああ、やはりモンスターをおやつとして考え始めているな。

 

ただアイツらは、皿の上にただ座して待ってるワケじゃない。

吸収するにはある程度の隙を作らねばならず、その為には弱らせる必要もある。

だから「こう言うやり方だったら処理しやすそうだ」とか、「こいつ、これやれば完封出来るんじゃないか?」とかよく考えるようになった。

おかげでそれをイメトレできる訓練もちょっと楽しい。

 

こういう所は、会社員やっていた頃とは明確に変わった部分だ。

『吸収の法』は吸収対象から受ける経験や考え方によって意思が影響される可能性が強いから、こういう所はちゃんと報告している。

そしてとてもすっぱい顔をされる。

理由は良く分かる。

吸収対象の影響なのか、力を付けた事による変化なのか、全然区別がつかないからだ。

 

ワグナスらも並行して吸収の法を行っているのは知っているので、聞いてみた事はある。

 

「ワグナスも、やはりタームがおやつに見える事はあるのか?」

「…………

…………ノーコメントだ」

 

答えたワグナスの目は逸らされていた。

なお、風の噂で聞くところによれば、近ごろ総司令官殿も隊長殿もモンスターの情報を見返している姿が良く散見され、我が国の防衛基盤はより盤石だと実感するそうな。

 

……まあ、深掘りはしないでおこうと思う。

相手が人間であるならば、俺だって気は使うのだ。

 

 

@ @ @

 

 

「最近、クジンシーが増長していると言う噂が散見してな。私の方にも陳情が届いている。……ノエルに預ける機会が多いからあまり強く言えないのだが、実際はどうなのだ?」

 

まあ、その話題来るよなとノエルは苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 

「……すまん、ワグナス。俺は……クジンシーに強く言えん。この件はむしろ、割を食い続けてるのがクジンシーの方なんだ」

「――つまり、()()()()()()か」

「ああ、()()()()()()だとも」

 

王城(こんな場所)に異物を入れたらこうもなる。わかっていた話だった。

幸い、直接的なトラブルになる件数は減ってきている。

減ってきているのだが、残念な事に改善には向かないだろうなとノエルは独り言ちる。

 

クジンシーも努力はしている。力は付けてきている。

そう言う状況だと大抵、苦労を見ている奴が一人二人出てきて次第に打ち解けてくるようになる訳だが、残念な事にクジンシーはそれを跳ね除けてしまった。

早々にどう云う場所なのか、どう云う人間なのか見切って『見下した目』になるのだ。

 

そうかそうか、つまり君はそういう奴なんだな――という感じに。

 

力で劣っていた頃からずっとそうだった。

人間は、自分が正義でないことを突き付けられたら反発しようとするものだ。

平民に『力に関係なく、ただ人間として見下されている』という実感は、反発を呼ぶには十分過ぎた。

 

『吸収の法』は続けているから、単純な力での反発は減って行く事になるだろう。

そして行きつくのは無視と孤立。

しかも本人、それを全く苦としていない。

 

「根本的な解決にはならんが……何か理由をつけて、兵たちと接触する機会を減らして遠ざけるのが良いのだろうな」

 

ノエルの吐いた息は憂鬱に満ちていた。

郷に入っては郷に従え――本来は王城に来たクジンシーの方が改めるべきという事になるのかもしれないが、なんと言ったってここは王城である。

自分らもうんざりする様な事が溢れているのである。

郷に倣って泥にまみれろと口にするのは、流石に憚られるのだ。

 

故に、考えるのを棚上げしてしまう。

 

「……『吸収の法』による性格改編の影響についてはどうだ?」

「さすがに判断がつかないな。俺自身を顧みたとしてもだ。……とはいえ、影響無しと判断するのはまだ早計だが」

「ああ、私も同意見だ」

 

力が付けば、増長もしよう。増長は意識浸食とはまた別の問題だ。

……クジンシーのそれを増長というべきかどうかは多少疑問の余地があるが。

 

さて、だからと言って浸食度高そうなモンスター相手に実験、という発想は無いのである。

そういう奴は得てして手ごわく、リスクがある。

それに、本当に侵食されて性格がガラッと変わってしまって制御出来なくなったら貴重な実験戦力がパアである。

実験データは確かに欲しいが、目的はあくまで『ターム撃滅のための戦力確保』だ。

検体消費無しでそれを達成できるならそれが一番良いに決まってる。

ワグナスもノエルも、別にマッドサイエンティストではないしクジンシーをただの捨て駒と見ている訳でもなかった。

 

そう、マッドサイエンティストでも捨て駒として見ている訳でもない。

ないのだが……

 

ふと、二人の目線がモンスターの情報をまとめた整理中の資料に滑ってしまう。

 

――でも、アレ(おやつ)がね。

――そうなんですよ。

 

二人の意識にも芽生えてしまった、ある意味で危険な兆候。

言葉を交わさずとも通じ合ってしまうのである。

 

しかも有用なのだ。めちゃくちゃ。

『吸収の法』を使うほどに対象への理解が深まっていき、それは共有情報としてアウトプットされて行く。

そしてその分戦術はブラッシュアップされて行く。

司令官として、隊長として、この辺の向上はものすごくありがたいのだ。

吸収した対象の情報を書いて提出させるだけでちょっとした功績になるってなんだそれ。

しかも自らの力として加える事を考えると、資料を読むのがちょっとわくわくしてしまうのである。

あ、この能力はこの戦い方とシナジーあるなとか。あ、こいつのこの力は欲しいなとか。

今のところ意識汚染が顕著に出ていないように見えるのがさらに拍車をかけた。

 

おやつと呼んだクジンシーのセンスが的を射すぎていてツライ。

そしてその呼び方を許容してしまったら、なんか踏み止まらなければならないラインを踏み越えてしまう気がする。

 

そんな時、ノックとともにスービエが扉を開けて入ってきた。

ワグナスのいとこであり、力があって奔放で、こいつも軍規となじむ性質(タチ)ではない。

そもそもノックに対して「入って良い」と返した覚えもない。

――だが、ワグナスが最も信頼する人間の一人であり、『吸収の法』を試している人間の一人でもあった。

スービエの手には、数枚の紙の束が乱雑に握られている。

 

 

「おう、今回のおやつ情報持って来たぞ」

「……」

 

 

――身内から刺される刃は、切なかった。

 




良く、書き溜めを1日ごとに予約投稿して出すやり方あるだろう?

コイツは違う。

――溜めたら一挙放出して、後は放っておくスタイルだ。
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