――教授が、初めてのクジンシーの近くに居るレギュラー人間女キャラだという事実にッッ!!
はい、みなさんごたいぼうのおんなキャラですよ(目逸らし)
――化学反応という奴は、何がきっかけでどう起こるのか分からない事象こそが一番怖い。
管理下にあるからこそ、はじめて人間は『技術』としてそれを利用できるのだ。
……そしてコイツは、この化学反応は、誰にも管理できない。
誰にもだ。
「レースに出るわよ!!」
考古学の講義のハズである。
少なくともそのつもりで準備していたし、そのつもりで開始時間を待っていた。
しかし、教室の扉をギロチンでもやりたいのかという勢いで開け放った上での第一声がコレである。
(考古学……また人が少なくなりそうだな)
最初は今いる3倍は人居たのにね。
もう悟っちゃったもんだよね。
つか、なんでまだ俺はここに居るんだろうね。
『教授』という肩書を持っているのが不思議でならないこの女は、自分の行動に何の疑問も持っていない様相で、ババンと一枚の紙を掲げて見せた。
《Steel Boots Run レース》*1
ただ直訳するなら『鉄の靴で走る』レースか。
『鉄の靴』……つまり、機械技術による陸路の長距離レースである。
北バレンヌ北方山脈街道をから始まり、ルドンまで下ってリーブラで折り返し、南バレンヌのミラマー(ヴィクトール運河)を抜け、マイルズ東のステップを走りカンバーランド長城手前でゴール。
全9か所のチェックポイントを通り、『レースの順位』、『走行タイム』、『不正行為』を確認。
馬でもキャラバンでも
与えられた荷物を的確に素早くゴールへ運ぶことが求められる。
優勝賞金なんと500万クラウン也。
降って2位が10万、3位が5万、4位が2万5000、5位が1万2000クラウンの賞金が用意されている。
陸路の輸送技術の開拓を目的とした大規模レースだ。
主催は、リーブラのテミウスである。
つまりはボクオーン。
……うん、陸路輸送でめっちゃ悩んでたのは知ってる。
(こういう手段で来たかあ……)
流石ロンギット通商連合立役者の一人にして、常に邁進し続けるリーブラのトップ。
地上戦艦を作っておいてなおこれだけのレースを開ける金があるのはもの凄い。
ロンギット通商連合自体は絡んでるのかな?それともリーブラとしてのみの開催か?
発想自体は何かボクオーンっぽくないんだよなぁ……どっかから知恵でも借りたのかね。
――で、よりによって教授という劇薬がこれに目をつけてしまったと。
「安心しなさい!ちゃんと単位はあげるわ!!」
「ちゃんと授業やった上で単位くれよ。こちとら学びに来てんだぞ。せめて考古学にカスらせろよ」
「私の助手が出来る以上の学びがあるの?しかも今回はずっと前から温めていた技術の放出よ!!なんておあつらえ向きの展開かしら!!これこそ運命!」
「何で運命って嘆くしか出来ないようなのばっかやって来るんだろう」
「おやご存じなかったのですかジークさん。運命は決まって『やってくるもの』ではなく『牙を剥くもの』だからですよ……(遠い目)」
「悲しいけどそれスゲえ解るわぁ」
教授のヒートアップは止まらない。
「巷では術力とカラクリで出力を増幅した人力機関が幅を利かせてるけど、あれは高耐久でそれなりの出力を得られてもスペースが必要だし何より稼働に人数がいる!でも私の開発した魔導エンジンは違うわ!!火術と水術の力を使って、人力機関を凌駕するほどの高出力と安定性、省スペース性を実現してるのよ!!
――そして、そう!この教室には卓越した水術と火術の使い手が揃っている!!」
「見て下さいよこの牙の剥きっぷり。思わず目の前が暗くなります」
「回復術と『霧隠れ』がせいぜいの術師捕まえて『卓越した』は無いだろうがよ……」
見ろよ後を。そそくさと出て行くやつが続出しているぞ。
悲しい事にいつもの光景なんだよなコレ。
むしろちゃんとした授業を期待して、一応来るだけ来てる時点でお前ら偉いと思うわ。
「ジークさんは逃げないんですか。逃げきれるかは別として」
「なんか前にも似たようなこと聞かれたっけ?
……逃げたいけど、誰かに押し付けるような人間にはなりたくないんだよ俺は。
コウメイこそ、逃げないのか」
「いやあ……その言葉に感銘を受けてしまったものですからねえ」
運命に牙を剥かれたら、人は諦めて受け入れるしかないのだと悟った。
知らずに火付け役となったボクオーンを責めるような事はしない。
むしろ、レースに
――もう確信しているのだが、絶対なんか酷い事が起こる。
つーか起こす。この女が。
「……ところでジークさん、それはそれとして考古学の自習はしておきたいので、その時はお手伝い願えますか」
「それめっちゃ助かる」
@ @ @
そして、受難は始まった。
……違うか。もう受難は始まってたもんな。考古学を取った時点で。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああッッッッ!?!?!?!?!?!?」
握りしめたハンドルではもはやコントロールがどうにもならず、俺とコウメイを乗せたマシンが馬を置き去りにする速さでかっ飛んで行く。
「ジークさん!?止まって!?止まってえええええ!?!?!?」
「ブレーキが言うごど聞いでぐんないんだよおおおおおおおお!!!!」
「出力がッッ!?下がらないっっ!?!?もう術力供給してないのに何でえええええ!?!?!?」
「イヤあ嗚呼あああ崖が!?崖があああああああああああ!?!?!?!?」
そして車体は俺たちを乗せたまま、猛スピードで空を飛んだ。*2
@ @ @
「――いやあ失敗失敗。
どうやらネジを一本閉め忘れた影響で、《スーパーウルトラデラックスファイナルロマンシングドラゴンマシーン》
が《ハイパーゴールドラグジュアリーフルオートマチック真ファイナルヴァーチャルロマンシングときめきドラゴンマシーン》に変わってしまったようね」
「ッッッッざけんなああああああああ!?
ネジ一本締め忘れたとか言うレベルじゃなかっただろうが目ん玉ついてんのかテメエはあああああああ!?!?
死んでたぞ!?崖の下が海じゃなかったら今頃死んでたんだぞ俺達は!?!?!?」
「こまかいわねー、生きてたんだからいーじゃない」
「ほんとマジで腹パンするぞアンタッッッ!?」
「お、覚えなければ……なんとかして……防御術を……ッ!」
@ @ @
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああッッッッ!?!?!?!?!?!?」
握りしめたハンドルではもはやコントロールがどうにもならず、俺とコウメイを乗せたマシンが馬を置き去りにする速さでかっ飛んで行く(2回目)
「待って待って待って待ってなんでなおってないの!?なんでブレーキなおってないのおおおおおお!?!?!?」
「ダメです止まりませんっっ!出力がぁ!?上がり続けてぇっ!?!?出力があぁっっ!?!?」
「いやあああアアア壁ッッ!!壁ぇッッ!?!?壁えええええええええッッッ!?!?!?」
「こ、『金剛盾』ー――ッッッ!!」
――そして俺は車体を何とか曲げる事に成功し、岩壁に側面を思い切り擦らせてやっと停止した。
孔明の覚えたての防御術も大活躍してくれた。
大活躍してはならなかった術ではあったが。
@ @ @
「なんてこと……大変な事が発覚したわ。
――ネジを1本締め忘れただけでは無かったのよ!!」
「改善を何もしてない車体に乗せたのかテメエはあああああああ!?!?!?
頭のネジの方を締めてくれよ頼むからよおおお!?!?
死んでたぞ!?コウメイが防御術覚えてくれてなかったら今度こそ死んでたんだぞ俺達は!?!?!?」
「でも生きてるじゃない。ヨシッ!!」
「ヨシッじゃねえんだよテメエはよおおおおお!?!?!?」
「生命力回復薬っていくらしましたっけ……?」
@ @ @
――教授も一緒に乗せれば良いのではないだろうか。
そう提案したし、教授もその時は「もちろん構わないわ!!」と即答していたのだが、出来上がった次の機体はやはり二人乗りだった。
「メンゴ、忘れてたわ☆……でもほら、今度は大丈夫よ!ブレーキの油圧もしっかり効いてるし緊急停止ボタンも付けたわ!!」
「ホントだな?ホントだろうな??……まあ、確かに踏んだ感じ、ちゃんと制動しそうな感触はあるけども」
「当たり前じゃない。欠陥を知りながら理由もなく放っておく人間は科学者じゃないわ!!」
「今、理由があれば欠陥を放って置くって言いませんでした……?」
@ @ @
技術力がスゴければ、必ず出来上がるものもスゴくなる。
そんなロジックは幻想だと、俺もコウメイも嫌というほど思い知らされた。
本当に。
何回『嫌』と俺は叫んだのだろう。
「ねえ待って待って待って待ってブレーキが変っっ!!効かなくなってきたんだけどコレねえっ!?!?!?」
「魔導エンジンの出力が上がり続けるのなおってないんですけどおおおおおおおおおお!?!?!?」
「あかんあかんあかんあかんこのままじゃアバロンに突っ込むぞ!?!?突っ込んじまうぞコレえっっ!?」
「『金剛盾』!!『光の壁』!!――こうなったらジークさん、もうそのスイッチを信じるしかありません!!」
「ええい嫌な予感がしてくるけどもうやるしかねえ!!止まれええええええええええっっっっ!!」
――ポチっ!
@ @ @
「なるほどねー。油圧ブレーキは使い過ぎるとその熱でオイルの中に気泡が出来て、ブレーキが効かなくなっちゃうのねー。これは良いデータが得られたわ!!」
「それ以前に緊急停止ボタンと偽って自爆ボタン作った事に申し開きはねえのかコラァッッッ!!!!
死んでたぞ!?お前を信じてコウメイが防御術重ね掛けしないままだったら確実に死んでたんだぞ俺達は!?!?!?」
「うっさいわねー、実際ちゃんと止まったでしょ?」
「そうなッッ!?俺らの心臓ごと止めに来たけどなッッ!?」
「く、食い込まなくては……頑張って構造を覚えて、設計段階から食いこまなくては……!」
@ @ @
――そんな、聞くも涙、語るも涙な努力があったのである。
俺とコウメイは本当に頑張ったのである。
設計に食い込んでからは、悪夢の様だったテスト走行は随分マシになった。
流石に命が掛かるとあっては考古学の自習もそっちのけで、二人して必死に機械工学を習得したのである。
幸い、というか見た目通り教授は自己顕示欲旺盛で、仕組みを聞けばウザいぐらいのハイテンションで仕組みを教えてくれた。
教えるのもムカつくぐらいに上手かったと言うのもイライラするが重要なファクターだった。
それでもほとんどはコウメイの頭脳に寄りかかってしまった部分が大きくなってしまったように思う。理解力はコウメイが圧倒的に高かったし。
魔導エンジンに出力安定化リミッターを付け、シートベルトやボディの剛性計算、事故った時の
皇帝陛下は俺を気に掛けるよりコウメイに勲章をあげなさい。
教授は自分の思い通りに出来ない当たりにブー垂れていたが、欠陥を述べれば一応納得はしてくれた。
「欠陥を放置する奴は科学者じゃない」という自らの言は、一応貫いているようで大変によろしい。
――そして気づけば、苦労の結晶が出来上がっていた。
初期のフォルムとはだいぶかけ離れた、四角くてゴツいボディ。
安全を考慮したサスペンションとパワフルで大きなタイヤはどんな悪路でも走破してくれるだろう。
そして荷物を載せてもなお、馬よりも余裕で早いそのスピード。
モンスターと会敵したらそのスピードで振り切ってみせるのがコンセプトだ。
まあ、どうしようもない奴は俺らが普通に撃ち落とすけど。
嫌々ながら付き合った車体製作だったが、ここまで来ると流石に愛着も沸いてくるし「勝つぞぉっ!!」って気にもなってくる。
ボクオーンもさぞかし驚いてくれるだろう。
《スーパーウルトラデラックスファイナルロマンシングドラゴンマシーン》などという、教授がつけた頭が狂ったこのマシンは今、《ナハトズィーガー》という名に変わり、俺達の目の前に佇んでいた。
「やっと、やっとここまで来ましたね、ジークさん……!」
「ああ、死にそうになった日々がもはや良い思い……思い出……思い出には、ならなかったけども!」
「良いんです、良いんです!血が滲むような苦労と努力の果てに、我々はやっと辿り着いたんですから……!」
ガッシ!と硬く手を握り合って、俺とコウメイは互いの健闘を称えあった。
「――ここまで来たら、勝とうぜコウメイ!」
「ええ!優勝賞金500万を、この手で奪い取ってやりましょう!!」
「ねー、私はー?そのガッシ!ってやつ、私はー??」
来たる
俺達の知らぬ間に『大大大天才教授チーム』とか言う名前でエントリーされてひと悶着あったものの、それでも士気高く当日を迎える事が出来たのだ。
――そしてその日、俺達は思い出した。
やはり教授は、何処まで行っても教授だったという事を……
お前ら、学園生活しろよ。
なんで行き成りスティール・ボール・ランが始まってるんですかね????
孔明は静かに人を振り回すタイプなのに、教授と組まれたらどうしたって振り回されてしまうのが個人的に不満な所。
でも仕方ないのかもと諦めてる自分がいる。だって教授だし。
ちなみにこの展開、開催準備期間を考えると違和感が出るし、優勝賞金が高過ぎるって部分もあるんですけど、これについてはご都合主義って事でスルーして頂きたく。
たぶんまじめに考えたら賞金は1/2以下が妥当だし、準備期間も技術開発考えるなら3年は取りたい。でもその間に学生生活終わりかねないんだよね。
レースにロンギット通商連合が絡んでいるかどうかは設定してないので、ご想像にお任せします。
もし絡んでたら、きっとこんなんなってる↓
ボクオーン「ロンギット海を知るもの来たれ!!」
エンリケ「パァンッッ!!」