新宿はがんばる   作:のーばでぃ

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 ただいま。でも、また行かなきゃいけないんだ。
――ところで金冠出現確率設定した奴ちょっと表出ろや?(半ギレ)

 竜谷の跡地には大変お世話になっております。
お世話になり過ぎて、自分が金冠を見つけたら救難信号を出すようにしています。
少しでも世に恩を返せるように。
ぜひそんな風潮広がって欲しい。


皇帝陛下はご機嫌ナナメ

 ロンギット運輸から世界に広がった『新聞』という文化は、こぞってレースのネタを書き立てていた。

 

 1位でゴールしたチームが出ていても、他のチームがゴールラインを通過するまでは勝負の行方は分からない。このレースはポイント制だからだ。

それも相まって、チェックポイントに指定された町やその付近にある町は、計算式とポイント順位が発表される表彰式までその興奮を維持し続けていた。

 

 歴史上類を見ない超長距離輸送レースはその道のりから苛烈を極めた。

ゴールできたチームが全体のほぼ1/8という数字であり、コンテナの放棄も多く見られた有様ではあったが、山岳地帯やモンスターの居る道程を1/8ものチームが完走して見せた事実はそれだけで偉業と言えた。

 

 そして、表彰式。

 

 それまで秘匿されていた計算式が明らかにされ、判定されたすべてのデータと共にランキングが一挙公開されたその瞬間は、まるで予約されていたかのように各新聞の1面を飾ったのだ。

 

 

 ――優勝は、チーム『チカパの風』!!

 

 

 最小チームにして最速。

そして伝説のイーリス族と、人語を解する希少で善性のモンスターという組み合わせはそれだけでも強烈な話題性を持ち、彼女らはゴールを通過してから突撃が続くインタビューに目をグルグルさせていた一幕もあった。

 

「――非常に、非常に有意義なレースでした。

予想を大きく上回る反響に好景気はもちろん、陸路輸送というテーマに対して大きく開拓された実感を感じます。

私自身も、大いにインスピレーションを受ける事が出来たレースでした。

優勝した『チカパの風』の方々はもちろん、ご参加いただいたチームの方々に最大の感謝と称賛を申し上げたい。

今日という日を境に、世界はまた一つ新たなステージへと進んで行く事でしょう」

 

「ありがとうございます!

……ちなみにテミウスさん、公表された計算式ですけども。

見るからに複雑で私は匙投げたんですが、うちの人間に数字解かるものが居ましてね……その者に指摘されたんですが。

なんでも今回、時間さえ伴っていればコンテナなしの一騎駆けで優勝狙えた可能性もあったとか言うのですが、把握されてました?」

 

 会場がどよめきに包まれる。

 

「おや、気づかれてましたか。そうです、計算式設計上の不備ではなく意図的にいれたイースターエッグでした」

 

「なんと!?コンセプトに反していた抜け道を用意されてたんですか!?……しかし、リーブラ含めそう言うチームは現れませんでしたね」

 

「うちの企画担当がね、元々考えてたのは馬での長距離レースが見たいと言う事でして……出してきた計算式に仕込んでやがってたんですね。

まあ一応私も気付いてたんですが……コンセプトを明確にした上でそう言うマネしてくる奴が居たなら、もう『そう言う時世なんだな』と市場を見切るつもりで許可しました。

皆さんそんな姑息な真似はせず、真っ向から向き合ってくれて大変感動しております。やはり世の中捨てた物じゃなかったな、と」

 

 テミウスが視線を向けた(なにがし)が、ひや汗かきながらそっぽを向いた。

 

「ははは、別の所で試されててたんですねこのレースは」

 

「開始前に『失敗』がどうの言ってましたが、私にとってはそれが失敗でしたね。

そうなったら確実に、ロンギット海に誰かの死体が浮いてたと思いますね。誰とは言いませんけども」

 

「は、ハハハ……」

 

 テミウスが視線を向けた(なにがし)が、ひや汗通り越して青くなっていた。

――記事には後に、『本気の目だった』という所感を描いた新聞社がいくつか出現する事となる。

 

「ともあれ、その一騎駆けが沸いて出たとしても、ボーナスポイントの総取りと大幅に差をつけた1位ゴールが大前提だった筈ですから。

前半暴れ回った『大大大天才教授』や今回総合一位となった『チカパの風』、M(ミディアム)コンテナ12個を運びきった『キャラバン・クライン*1』などには及ばなかったでしょう」

 

「今回の事で、長距離運送に用いる事が出来る大変有用なデータが手に入ったと思います。

次回以降があるならぜひとも改善して今度こそ、というチームもあると思いますが、その辺り如何でしょうか?」

 

「個人的には数年空けて定期開催したい気持ちはありますねえ……ただ、計算式を公開した以上、ルールの精査や準備期間などしっかり考える必要がありますから、全く同じ形でとは行かないでしょう。

金額も……今回大半がリーブラ出資で、半ば破産覚悟みたいな所があったので、まあ結果的に大きな黒字になりましたけど、金額とか次やるなら変わるかもしれませんね。大人しめな方向に」

 

「なんと、破産覚悟だったんですか。ある意味一番フロンティアしていたのはリーブラだったとは……いや、しかしここまで反響があったのなら出資者も集まる筈ですから。逆にもっと大規模になるかもでは?」

 

「うーん、出資者増えすぎると逆に好き勝手出来なくなるからイヤなんですよね……変な利権入れて足引っ張って来るし*2

仕事への誇りと他者への誠実さを持たない人からの金は、アテには出来ませんので」

 

「……なるほど、今を邁進するリーブラの強さの根幹が少し見えた気がします ――」

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 ジェラール帝は表情にこそ出さないが、非常にご機嫌ナナメだった。

 

 すべてはサイフリートとか言う身の程を弁えなかったどこかの文官が悪い。

カンバーランドでクーデター起こそうとしていた野心溢れる若い男だったのだが、その手法が陰湿だった。

 

 カンバーランドは王政で、王のハロルドは現在中々の高齢。

しかし優秀な子には恵まれ、武とカリスマに優れる長男ゲオルグ、知と機微に明るい長女ソフィア、そして幼いながらもそれらの才能を感じさせる末弟トーマと、まさしくかつての『アバロンのヴィクトールとジェラール』を彷彿とさせる布陣である。

 

 ここにクーデターを起こそうと言うのだからやり方も手が込んでいる。

 

 まず、高齢のハロルド王に少しずつ毒を盛って病死に見せかける形で殺害、その後遺言を偽造してトーマを王に仕立て上げ、それを不服としたゲオルグを王命で処分し、返す刀でソフィアを失脚させると言う手筈である。

 

 ……彼にとって、カンバーランドの王兵や文官たちは物の数ではないつもりだったらしい。

そちらは王城に紛れ込ませた私兵を使って何とかする腹積もりだったようだ。

カンバーランドの兵たちの質はアバロンにも劣らない剛健さで有名だった訳だが。

 

 遺言の偽造もどうするつもりだったのだろう。

なんてったって王の遺言だ。弁護士だのなんだの、確たる手続きを以て証明が必要になる筈なのだが。

 

 最終的にどこかで破綻して結局力押しになり、返り討ちに合うか国として成り立たなくなったカンバーランドしか残らなくなりクーデターの意味がなくなる未来しか見えない。

 

 ――とはいえ、実行されれば被害は甚大である。

事前に発覚できたのは僥倖と呼んで良い。

影の組織(シャドウワーカー)』が設立されていなかったらと思うとゾッとする。

 

 事の発端は『カンバーランドに内紛の兆しアリ』と、影の組織(シャドウワーカー)が情報を拾ってきた所から始まった。

 

 巷では『SBR(Steel Boots Run)レース』というとてもワクワクする催しが進んでいる最中、めっちゃ見に行きたい衝動を抑えつつ、ハロルド王が別件で皇帝を招待していたのもあってカンバーランドに足を運んだワケである。

 

 行ってみたら親バカが極まったのか耄碌したのか、「次の王誰にしたら良いだろうか?みんな優秀で決められない。もうホント皆優秀で」とガチめに相談を持ち掛けられたりした。

 

 いや、腹割って話してくれるのは良いんだけど、他の国のトップに自国のトップ決めさせるんじゃないよ。

というか悩むな。長男のゲオルグ一択だろうが。国を割る気か貴様。

 

 ――まあ子供たちへの顔合わせと、死ぬ前に単純な子供自慢したかった感強かった気はするので戯言と受け取って置いたけども。

 

 ……そう言えば、この件以前でハロルド王と顔を合わせたのも随分と前だった。

バレンヌはバレンヌで急激な皇帝交代が続いたから、現皇帝である自分を見極めたかったというのもあったのかもしれない。

実は処理の仕方で器を図られていたか。

 

 まあ、それはともかくとして。

 

 影の組織(シャドウワーカー)が得た不穏さの確認とすり合わせをする最中で、王の症状を聞いたキャットが常飲されている薬の確認を進言したのだ。

――曰く、「裏の世界には、人を病死に見せかけて殺す薬も出回っている」と。

知っている物としては心臓が痛み、指が腫れ、咳が止まらなくなって、次第に衰弱していくそうだ。

ちなみに見事に合致していた。

 

 ――そして始まる、王城に入り込んだ蛆虫探しである。

 

 おもくそ内政干渉になるためカンバーランド内でやれよと言う話ではあったのだが、朧気であっても情報を掴んでいたのが影の組織(シャドウワーカー)であった事からノウハウありと判断されてハロルド王にゲザられ、しかも衰弱が進んでいた事からそのまま本当にブッ倒られたのである。

 

 3兄妹を至急集めて事情を話し、王の医師が信用出来なくなるも蔑ろにすることも出来ないのでアバロンからも医師を呼び寄せ、到着までの間は次女ソフィアの紹介した医師を絡ませて互いに勝手な真似ができない体制を作って得体のしれないクスリが入り込む余地を無くす。

そしてその間、下手人を探るために妙な動きをする連中をあぶり出した。

 

 なお、この時のソフィアの動きは非常に見事だった。

正直部下に欲しいと思ったぐらいである。

とは言え、この時点では黒幕が誰かは解かっておらず、攻性な真似をすると即座に逃げられる可能性もあり、どうしても時間は掛かってしまった。

 

 なんとか不審な動きをする者たちから辿ってサイフリートに繋がる事が出来たものの、その時には当人の用心深さも手伝って王城からの逃亡を許してしまう。

 

 そこから先は追走劇と大立ち回りだ。もう散々だったのである。

 

 荒らくれを率いて攻撃してくる程度ならいざ知らず、モンスター使ってくるわ長城にトンネル作って大攻勢しかけてくるわトーマを誘拐して人質にしようとするわ(つい)にはハロルド王を物理的に殺しに掛かろうとするわともうホント散々だったのである。

 

 しかも事が事だけに、簡単に討ち取る訳にはいかないのである。

色々吐かせないとサイフリート以外の蛆虫を国内に抱えたままと言う事になってしまうため、手足は詰めようと胴と頭は残しておかねばならないのである。

何度流し斬りからの2段斬りをぶっかまそうかと思った事か*3

 

 最終的にどことも知らない砦から海に出ようとしていた所をすんでの所で捕縛に成功。

この際、「カンバーランドを手土産にボクオーンに取り入って永遠の命を得ようと思ったのに!!」とかほざいてくれたものだからもうひと仕事が確定。

『尋問』にもかかわる必要が出てきてしまった訳だ。

バレンヌにとって『ボクオーン』の名は軽く無いのである。

 

 世は大レースで盛り上がってる最中、こっちはクーデターかまそうとした身の程知らずを追っかけて何日も残業。しかも余所の国案件。

 

 ほんと、機嫌もナナメになろうものである。表には出さないけども。

 

「よしよし。あともうちょっとだもの、私も手伝うから一緒にがんばりましょう?皇帝さん」

 

 ……

 

 ……まあ、キャットにはバレてしまっている訳ではあるが。

そしてこう笑いかけられるだけで、機嫌が少し上方回復する辺りも終わってるなあと思うワケで。

 

 そして、あともうちょっと頑張ったのだ。

結局機嫌が降下する事態になったが。

 

 ――こいつ、別にボクオーンへのツテを持ってた訳じゃあ無かったのである。

 

 むしろカンバーランドを支配した後に王城の目と耳を使ってボクオーンを探すつもりだったそうで。

骨折り損も良い所だ。

最終的に足掛かりにしようとしていたのが運河要塞だったと言うあたりがホント終わっていた。

あそこから辿れるんだったらもうバレンヌが見つけてるよドアホウ。

 

 ……ロンギット通商連合に絡んでいる事は解かっているのだが、辿れそうな線が経済的な大物になっちゃってるからそう簡単に突撃出来ないのが辛い。

コイツがその線を持っていれば早かったのに、それ以前の問題だったのがもうね。

 

 

 

「――皇帝さん。気分転換に、レースの表彰式を見てみるのはどうかしら?と言っても、遠目からになってしまうけれど……」

 

「うん?……そうか、あっちももう終わってしまったか。

そうだね、長城西門から眺めるくらいバチは当たらないよね。

――トーマを誘ってみようか。芋づるで許可も取れるだろう」

 

「ふふふ、この期に及んで皇帝さんにダメと言う人なんていないと思うけれどね」

 

「一応外様だからね僕らは。こういう確認は大事さ」

 

 

 

 カンバーランドの防壁となっている長城からは、レースの表彰式が良く見えた。

……と言っても、流石に表彰されている面々やその言っている内容何かは遠すぎて見えないし聞こえないが、交通の便が不自由なはずのステップに熱気を伴って集まる人々と、長い道のりを踏破してきた歴戦の風格を漂わせる台車やキャラバンなどはしかと目に収める事が出来た。

 

 ひと際目についたのが、巨大な蝶の様な風体をしたモンスターだ*4

人々が恐れおののくでもなく普通に表彰されている様子が見える。

 

「わあ……皇帝陛下!あの蝶のようなモンスターは一体なんでしょうか?」

 

 案の定ついて来たトーマが、年相応に目を輝かせてそれを指さすが。

 

「うーん……残念ながら私も知らないモンスターだ。しかし、どうやらあれがコンテナを引いて来たみたいだね。人を襲うような凶暴さはないらしい」

 

「モンスターを調教する……そう言えば、サイフリートも似たような事をやっていました。そんな事、出来るものなのですね」

 

「出来るものなんだねえ……」

 

 つい先ほどまでその『人に調教されたモンスター』やらなんやらに煩わされていた身としては、長城の向こうに広がる光景に驚きと羨望を感じずにはいられなかった。

 

 悪意なく振るえば、あそこに広がる光景の様に熱狂と技術の発展を示す事が出来る。

それのなんて平和で素晴らしい事だろう。

STARTかGOALの瞬間、あるいは第1STAGEのせめぎあい。

どれかひとつでも良いからこの目で拝んでみたかった。

 

 

 

 ――後日、あのモンスターは『チカパの風』と言う優勝チームで、伝説のイーリス族と人面モンスターという異例の組み合わせだった事を知る。

優勝賞金500万の半分は、レース中に台車を譲り受けたチームにポンと提供した話なんかが新聞に記載されていた。

 

 そして、何よりも目に付いた情報があった。

 

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……サイフリートではなく、こっちから線がやって来るとはね」

 

 もちろん、七英雄にあやかったと言う可能性の方が高いだろう。

だがこの話を聞いて脳裏に浮かんだのは、運河要塞にて倒れた父、レオン帝の網膜に焼き付いた正体不明のモンスターだった。

――これは現実的かどうかという話では無く、『発想(インスピレーション)』の話である。

 

 ……『ワグナス』がモンスターだとするならば。

あるいは、『ボクオーン』はどうだ……?

 

 ……5年前から動かなかった扉が、ギギギと微かに動いたような気がした。

 

 

 

@ @ @

 

 

 

 バレンヌに、『そこ』へ辿り着くための材料が集まりつつあることを、ボクオーンはまだ知る由もなかった。

 

*1
『Dr.クライン』を名乗る人物がまとめている大規模チーム。確かな技術力もさることながら、最初から大容量運送を想定して勝負に来ていた。

……ブラッククロス?そんな組織は知らないな。

……現実の下着メーカーに名前が似ている??ただの偶然だよきっと。

*2
王城時代のトラウマ。クィーン戦では物資などが確保できていればもっと楽に事が運べた辺り、とても根に持っている

*3
清流剣に目覚めかけている

*4
遠目だとワグナスって鳥と言うより蝶って感じの印象受けると思うの




 クジンシーたちの状況書けなかった……次回に持ち越しです。

 次回がいつかだって?
そうだな……金冠が見つかったらわかるかもな(目逸らし)
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